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Life's margins EX1 That person you loved, now. 好きだったあの人は、今。

私は、それから、1年掛けて高校を卒業し、専門学校で、栄養士の勉強をした。漫画やアニメが好きだからといって、それを仕事にするのは、私には無理だと思った。

栄養士の勉強をしていたものの、就職は、とある町の喫茶店だった。パートだけど、実家に住んでるから、とにかくお金を貯めないとと思った。

はずかしがりやの私に接客業が出来るものか?と思ってたら、意外に出来ていた。マスターからは、初々しさがいいのだそう。

やってるうちに、自然と話す声も大きくなってきた。もう、不安だった、あの頃のことは、払拭出来たと思ってた。


そんな時、一人のお客様と親しくなった。なんでも、とちぎテレビで、映像関係の仕事をしているらしい。夢は、映画監督。

当時は、カッコいいなとしか思わなかった。でも、話をしているうちに、彼に近い感じを受けた。

初恋は実らないとは言うけど、私にとって、あの人は初恋の人だった。でも、彼はもう東京に行ってしまった。でも、そんな彼とどこか面影が似ている人だった。

色々質問されるたび、赤くなってた。私にとって、異性の友人は、彼以来だった。そして、彼の話を聞いていくうちに、彼の夢を見てみたくなった。

「私みたいなどんくさい女に告白されるのも嫌かもしれないけど、私は、あなたのことが好きです。」

「うん、ありがとう。でも、将来有望とは言えないと思うけど、それでも君は付いてきてくれる?」

「もちろんです。私は、あなたが撮った映画を見てみたい。その時に隣にいたいって思った。」

「今は売れないテレビマンだけど、こんな私で良ければ、こちらこそよろしくお願いします。」

交際は1年ぐらい。でも、お客さんとして接してたことも合わせると、3年ぐらいのお付き合いがあった。


そして結婚。私は25歳、旦那様は28歳。旦那様は、その頃、番組のディレクターをやらせてもらえるようになっていた。

二人でコツコツとお金を貯めて、自主制作映画を作ろうと頑張った。そんな時、子供が出来た。嬉しかった。

貯めていた映画資金から、子供の養育費を捻出しつつ、育児とパートを掛け持ち。旦那は週に4日帰ってくればいいレベルだった。

その頃、一時的に実家に里帰りして、育児をしつつ、パートもやっていた、母親が色々助けてくれた。

一人目が4歳になった時、二人目を授かった。でも、決していいことでもなかった。彼の夢がどんどん遠くなってしまう。

でも、旦那様は、言ってくれた。

「映画の夢は生きてる限り、叶えられる。それより、今は子供たちをしっかり育てて行こう。」

すごく嬉しかった。私は、それからも、二人の育児をしながら、やっぱりパートは辞められなかった。


一人目の息子が10歳、下の妹が7歳。ようやく、育児からも離れられた。そのタイミングだった。

ある時、マスターに話をされた。それは、宇都宮駅の支店を、私に任せるという話だった。

「マスター。私には無理です。パートで頑張ってきたけど、それはこのお店が好きだったからです。」

「君が最初に入ってきた時、本当は断ろうかと思った。でも、将来のことを考えた時、この人は必ずお店のことを考えて、好きでいてくれると思ったんだ。子供たちも、もう小学生になったんだし、君もステップアップしたら、どうかな?って思って。そうそう、その場合、パートじゃなくて、正社員登用になる。お給与も倍ぐらいに出来るし、生活は少し楽になるかもしれない。僕の最大限のオファーだよ。」

そして、私はこの話を受けることにした。最初は、マスターも一緒に従業員研修をしてくれたけど、それ以外のお店の業務は、私に任された。

不安もあったけど、私は頼りになる従業員を得て、お店を全力で回していた。そして、あっという間に7年の年月が流れてた。気づけば、私も42歳、息子は17歳、娘は14歳。

旦那様は、念願の自主制作映画を撮ることが出来、宇都宮の映画館で単館上映させてもらった。旦那様は45歳にして、映画監督の夢を叶えた。幸い、単館上映分しかフィルムがないので、自主制作映画を専門に取り扱うシアターで、1週間ごとにフィルムが貸し出され、上映されているようだ。

私もその映画は見たけど......夢を叶えたってすごいと思った。理解できなかったのは秘密。


その日は、8月15日だった。現代でこそ、平和になった日とは言うが、40を過ぎても、あまり意味は考えなかった。接客業だし、特別な日ではないから。


昼下がり、それはそっくりな外見の親子?姉妹?が来店した。

「いらっしゃいませ。2名様ですね。こちらの席にどうぞ。」

二人席に案内した。近くで見ると、髪の毛の長さ以外、見分けられるか心配になるほど、同じ顔だった。

そして、フルーツサンドとフルーツパフェを2つずつ頼んだ

程なくして、話し声が聞こえてくる。



「ところでおねえちゃん。せっかく宇都宮まで来たのに、私達はこのカフェにずっといていいの?」

「あ~、うん、理由はなかったのよ。昨日、なんとなくスマホでこのお店を見てて、フルーツサンド食べたいなぁって思ったから来たのよ。」

うれしい。なんか込み入った話をしてたけど、フルーツサンドを目当てに来てくれたお客様なんだ。


「え、じゃあ、わざわざ電車賃を掛けて、駅ビルから出ないってこと?」

「うん、そうだけど。あれ、なんか見たいところある?」

「じゃあ、近くだから、ロビンソンに行きたい。」

「今はロビンソン百貨店じゃないのよね。でも、専門店街みたいなものらしいから、ちょっと行ってみようか。」


多分、姉妹なのだろう。二人が楽しそうに会話して、うらやましかった。

「すみません、お会計お願いします。」

「ハイ、只今伺います。」

私はレジに向かった。普段は恥ずかしいから、お客様の顔は見ないようにしてるけど、好奇心で見てしまった。

おしとやかな姉と元気な妹って感じだった。見れば見るほど、顔はそっくり。双子だったりするのかな?

お姉さんは、財布から1万円を取り出し、

「これでお願いします。」

と、お会計を始めた。レジ打ちして、お釣りを渡す。

「ありがとうございました。またお越しください。」

「美味しかったです。ごちそうさまでした。」

妹さんはしっかりしてる。そして、お姉さんは、持ち帰りのフルーツサンドを見てる。

「すみません、フルーツサンドをテイクアウトで、12切れほどください。」

よほど気に入ったのかな。それとも、家族と食べるために買っていくのかな。

「保冷剤はどうなさいますか?」

「一つ、付けていただいていいですか?」

「ありがとうございます。今並んでる在庫では足りませんので、10分ほど待って頂ければ、作りたてのフルーツサンド、12切れ用意出来ます。」

「あら、運がいい。じゃあ、お願いします。」

「すみません、お先にお支払いをお願い出来ますか。」

「ごめんなさい。じゃあ、また大きくて申し訳ないですけど。」

と、1万円。すぐにお釣りを渡す。

「申し訳ありませんが、もう少し店内でお待ちいただいてよろしいでしょうか。」

「ご迷惑でなければ、待たせていただきます。ほら、アンタもこっちに来なさい。」


フルーツサンドは人気の商品だから、ほぼ毎日ずっと作っているようなもの。お待たせしているお客様に早く届けられるように、でも、丁寧に。

そして約10分後、

「おまたせして申し訳ありません。フルーツサンド、12切れと保冷剤は2個入れておきました。一箱に6切れ入っていますので、消費期限は必ず守ってください。」

「助かります。ありがとうございます。」

「また、いらしてください。ありがとうございました。」



家に帰ると、娘がご飯を作って待ってくれていた。私は食べながら、娘に今日あったことを話した。

「へぇ~、そんなに似てたんだ。双子じゃないの?」

「姉妹みたいだった。わざわざフルーツサンドを食べるために来てくれたんだって。」

「ところで、お母さん。なんか嬉しそうだね。」

「なんて言えばいいのかな。なんか、エンパシーを感じちゃった。その姉妹と。」

「もちろん、会ったことなんてないよね。」

「ないし、お客様は宇都宮で暮らしてないみたい。」

「不思議だね。もしかして、お母さんと縁のある人かもよ。」

「あったら嬉しい。でも、まったく知らない人だったから、イマイチわからない。」


そう言っているけど、私にはある程度想像がつく。きっとあの人に関係した人なんだろう。

今の君は、どうしてるのかな?再会出来ると、嬉しい。




つづく?

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