Life 71 Distance between parents and children 子離れは親離れより難しい
「ああああ、案外暇だぁあああああああ。」
娘が突然叫びだした。そりゃ、暇になる日もある。
「あーはいはい、暇だね。」
「オトーサンは暇でいいの?夏休みなんだよ。」
今日は無視して、お盆の帰省の話を彼女とする。
「そう言えば、お盆ってどうする?やっぱり帰省する?」
「あなた次第かな。私は、去年も言ったけど、墓参りするお墓がないのよね。」
「あなたのご家族、本当に失踪して、それっきりなんだよな。なんか、もう少し弔って上げてもいいような気がするけど。」
「そうなると、やっぱり本当に亡くなったような感じがして、嫌なんだって。すごく揉めたらしいよ。」
「どっかの時代に飛ばされてても、仲良くやってくれてると嬉しいけどね。」
「仕事人間だったから、案外組織の中でやるには問題ないんじゃないかな。」
「なんかさ、聞いちゃいけないことを聞くようで、気分を悪くしたら申し訳ないんだけど、」
「ん、なに?」
「あなたって、自分の親の話を極端にしないし、あまり悲しんでるようには見えないんだよね。どうしてなのかなって?」
「う~ん、なんというか、ふたりとも好きだったけど、私はあの人達の道具にしか見られてなかったのよ。だから、なんとなくね。」
「感謝はしてるけど、生活には不満だったんだっけ?一人っ子のあるあるな感じだったのを覚えてるけど。」
「でも、処世術として、良い娘でいるのが正しかった時代。やっぱり、親に文句は言えなかった。そして、言えないままこの歳まで来ちゃったのかな。」
「それに、悲しんだとしても、か。」
「あの人達がひょこっと現れてくれるなら別だけど、少なくとも、私はもう半生を親なしで生きてきてる。だから、薄れてしまっているというのが、正しいのかな。」
「...僕はそれでも、君の両親には感謝してるんだけどな。」
「あなたの場合、二人分感謝してるってことになるのかな。私とこの娘。」
「そうだね。君が生きててくれるのにも感謝、娘を育てる経験をさせてもらってることに感謝。」
「ともあれ、私達が今、健やかに生きていけてるのも、あなたが支えてくれてるからじゃない?」
「僕?いやいや、僕は適当に生きてるだけで、二人がしっかりしてるからだよ。まあ、でもそう言ってもらえるのは、嬉しいかな。」
「で、その話はともかくとして、お盆に帰省するかどうかの話だよ。」
今まで黙って話を聞いていた娘が入ってきた。やっぱり、この娘は立ち位置を正確に把握できる娘なんだろう。
「うん...そうだなぁ。あ、じゃあ、君だけ先に帰ってたら?妹いるけど、僕の部屋で寝れば、君は寝床に困らないだろ?」
「二人は?」
「今日が11日で、妹夫婦がいるのが確か13日までだった。僕らは15、16ぐらいしか休みを取れないから、そのまま後半に夏休みを取って、向かうよ。」
「う~ん、なんか、厄介払いみたいな感じの空気を感じる。」
「そんなことないし、大群で押し寄せても、僕の親が気疲れしてしまうだろ。甥っ子と同じで、君も大切な孫、いや、娘なのかな。ともかく僕らより小回りも聞くし、色々日本のお盆の文化を学んでおくというのも、君の課題にならないかな?」
「確かに。詳しく知らないかもしれない。というより、おねえちゃん。私達ってお墓参りってしたことなかったよね。」
「そうだったっけ?なんか小さいときに、私も知らない親戚のお墓に連れてってもらった覚えはあるけど、本当にそんなぐらいよね。」
「君が行くって言うなら、ちょいと今から電話するけど?」
「行く行く。甥っ子ちゃんと遊ぶんだもん。」
「あ、もしもし、......うん、そう。でさ、僕らは15日にしか帰れないんだけど、娘だけ今日帰るようにしようと思うんだ。...うん、いや、僕の部屋で寝ればいいじゃない。......ま、しっかりお盆の文化を知りたいそうだから。え、大学でそういう専攻取ってるんだよ。だから、こき使ってもらっていいから。それじゃ、よろしくね。」
「しかし、いつも義母様に悪い気がするわね。なんかいつも急で。」
「妹の家族は基本、あっちに帰ったら何もしない。対して僕らは多少なりとも働くしね。そういう意味で、僕らはいつでもウェルカムなんだよ。まあ、あとは妹が言う事聞かないけど、この娘は言うことも聞くし、基本的には手もかからない。自分のことは自分でやる。だから、孫という扱いだけど、自分の娘だと思ってるんだよ。」
「確かに、明らかにあっちの歓迎っぷりで分かるわ。この娘はどういうわけか、私達より歓迎されてるものね。」
「じゃあ、私、今から準備するね。と言っても、服ぐらいだけど。」
そうして、ベッドルームへ入っていく娘。
「あなたは一週間休暇なんだっけ?」
「会社が昭和よね。でも、私は帰っても、寝るところがないんだっけ?」
「妹一行が帰ったら、妹の部屋に君らが寝るといい。僕は自分の部屋で寝るから。そうやって、ちょっとずつ節約していこう。」
と、言うのは、正月に帰省したときに、えらいホテル代を払ってしまったからだ。6桁に届きそうだったから、二人で固まったよ。
「僕はなんだかんだで、14日からしか休みは取れない。まあ、そこまでゆっくりできないってのが本音かな。」
「私はたまの休みだから、部屋掃除でもして、あなたと一緒に行こうかな。」
「部屋掃除?え?あなたが?」
「そりゃあ、私も部屋掃除ぐらいしますよ。あ、でも掃除機掛けても丸くなっちゃうかもね。」
「ははは......はぁ。...まあ、僕は見て見ぬふりするから、大丈夫だよ。あとでオカンに掃除も教えてもらったほうがいいかもね。」
「んじゃ、オトーサン、おねえちゃん、先に行ってるね。」
「うん。楽しんでおいで。僕らも15日に追いかけるから。」
「あんまり羽目を外して、迷惑かけちゃ駄目よ。」
そうして、割と大きなトランクケースを持って、彼女は出発していった。
「で、あの娘だけ先に行かせるということは、なんか話があるってことかな?」
「いんや、特に理由はない。けど、あの娘が暇そうだから、暇同士楽しくやるんじゃないかと思ってね。」
「それなら、別にこっちにいても良かったんじゃない?」
「気づいた?オーストラリアから帰ってきたあの娘。なんか、急に孤独な感じになってるんだよ。もちろん、バイトの時とかはちゃんとやってるんだと思うんだけど、あれだけ行ってた友人と遊びに行かなくなった。それが偶然なのか、僕はあえて聞かなかったんだけど。」
「そう言えば、2週間か。先週も私達と買い物に行ったものね。今までじゃ、考えられなかったような感じはするわね。」
「あの娘らしいと言えばそうなんだけど、ちょっと子供っぽくない?」
「本当は戸惑ってるでしょ。」
「僕がちょっと心配したのは、そのまま、僕の病気のような感じになってる気がするんだよ。先週もだけど、今日も同じく、突然騒ぎ出した。先週はそういうテンションなのかなって思ってたんだけど、今日も同じ感じだった。最近、普段は大人しくなってる。だからなおさら、悩みじゃなくて、病気を疑ってしまう。」
「躁状態ってことかな。う~ん、無理して元気にしてるって感じでもないけど、まあ、うつ状態にはなっていないから、テンションがみなぎってる感じなんじゃないかな。」
「それならそれでいいんだ。」
「ちゃんと、親をやってるよね。だから、子煩悩過ぎて、過保護にもなる。親としてはあんまり心配することじゃないよ。」
「君にそう見えるなら、僕の取り越し苦労なんだろう。苦しんでほしくないからね。」
「とは言え、あなたはやっぱりネガティブ思考というか。あの娘が安定剤代わりになるって言うのは、あの娘がしっかり生活してることを見ているなんだよね。」
「そうなのかもね。いや、やっぱり君の存在が大きいよ。まあ、でも、ようやく三権分立みたいな生活になってきたんだから、もう少し楽しみたいじゃない。」
「トライアングラー?」
「え、なんかマニアックな言葉を知ってるね。もしかして、隠れオタク?」
「前にあなたの音楽プレーヤーで聞いてたときに、AKBの子が歌ってて、いい歌だなって思ったのよ。」
「ある意味原曲が入ってる中で、カバー曲を引き当てたのはすごいよね。原曲は坂本真綾が歌ってる。」
「カバーなんだ。なんか、すごく合ってるなって。私達の状況に。」
「まあ、マクロス自体がダブルヒロインだから、必然的に三角関係になるんだけどね。でも、今はちょうど三角関係に近いのかな。年齢も21だし。」
「流石に負けないわよ。あんな小娘。でも、あの娘が自分の魅力を武器にできれば、私は勝てないだろうなぁ。」
「僕はそう思ってないからね。それに、あなたとの穏やかな生活も、癖になってきてるのかもね。どこか厄介払いをしたかったのかもな。」
「ふふ、正直。あの娘が聞いたら、説教されるよね。」
「説教で済むかな。まあ、でも今は自宅の棚に飾るより、色々なところで経験をすることが、彼女の存在をより強くすると思う。」
「そうね。あの娘は大人らしくならないでいい。対外的には大人であれと思うけど、私達は両親なんだもんね。」
「両親か。そんな強い存在じゃないよ。彼女がオトーサンと呼んでくれるから、親をしているだけ。結局、親として嬉しいことはあるけど、成長はしてないのかもね。」
「そんなことないかな。だって、あなたはすごく良くしてくれるもの。そして、君は、自分が考えている以上に出来る子。君は成長して、親になってるよ。」
そうして、僕の頭を撫でてくれる彼女。やっぱり、僕は幸せ者だと思った。
「ごめん。弱気になっちゃったね。」
「知ってるよ。あなたは本当なら穏やかな人間じゃない。でも、結果的に穏やかに生きていられるなら、いいじゃない。病気でもいいんだよ。」
「そうだね。うん、ごめん、どうも最近は弱気になるな。自覚はないけど、一応一家の大黒柱だしね。」
「ぶぶ~、残念。大黒柱は私だよ。あなたは、その分プレッシャーを感じず、自由に生きて、私達を色々喜ばせて欲しいよね。」
「...情けないけど、うん、ありがとう。僕はもう大丈夫だ。」
「そ、大丈夫よ。さて、夕飯でも食べましょうか。二人だし、出前でもいいかな。」
「ま、いいか。いいよ。君が好きなのを注文してよ。一緒に食べよう。」
定例会
いつものように...あ、いつもじゃなかった。娘が帰ってきてから娘しかやってなかったけど、今日は奥様のヘアブローをやってる。
「毎日やってくれると嬉しいけど、これって、たまにやってもらうから有り難みが分かるのよね。」
「不思議なんだよね。あなたも同じことをやってて、同じ髪型になるのに、たまに僕がやったときに寝癖が付くよね。」
「内ハネだったらいいんだけど、外ハネだとね。私のイメージと違うじゃない。」
...う~ん、外ハネか。まあ、年齢を考えるとだけど、案外この人はそれが大丈夫なんだと思う。可愛く映るだろう。
「え、想像しちゃった?」
「うん。君の外ハネって、なんかかわいいなって思って。」
「示しがつかないよね。私もそうだけど、変に色気づいたとか言われたら、なんか嫌じゃない。」
「その前に、既婚者が人事部で色気づいたとか言われるの?」
「あなたのせいで、チャラくなってるって思われたくないのよ。まあ、あなたはキレイとかよりも、可愛いが好きだもんね。」
「十分かわいいじゃない。それに、あの娘ぐらいあどけないと、ちょっと怖いんだよ。だから、君ぐらいが好きなんだよ。」
「褒めてる?」
「褒めてるよ。だけど、あまりに変わらないじゃない。場合によっては、あの娘のほうが大人っぽい顔つきになるよ。」
「そうかな。ま、でも、それはそれで嬉しいかも。私が可愛く見えて、そしてあの娘が大人になる、立場的にはいいのかもね。」
あんまり髪の毛がサラサラになっても、寝癖になるから駄目なんだよな。最近はちょうどいい感じがわかってきた気がする。
「ありがとう。毎日、ご苦労さま。」
「気にしなくていいよ。日課みたいなものだから。」
「しかし、あなたはちょっと水気を取っただけでこんな感じなんだもんね。羨ましい。」
「年齢によるものなのかな。やっぱり歳を取ってくると、どうも色々乾いてくる感じなのかな。その割に手は脂が出てくるしね。」
「私は気にしてないんだけど、あなたも加齢臭とかあったりするのかな。」
「長く生きてると臭いが出てくるとか、人間って本当に不便な生物だなって思うよ。ちゃんと加齢臭対策もしてるし。」
「あなたの匂いってのは特にないから、大丈夫よ。でも、こういうのって人によるものね。」
「人間社会って不便だな。真面目にこれはどうにもならないからね。」
「そっか。私も臭いは良く分からないのよね。ねえ、どうかな?」
「う~ん、僕には薄いボディソープの匂いって感じがするけど。あ、まあ、行為中に舐めたりしたら、たしかにしょっぱい感じするときはある。」
「汗ってことでいいのかな。まあ、あなたがそんないやらしい答えをしてくるとは思わなかったけど。」
「本来、40代ぐらいになると、性行為自体しない夫婦も多いから、その分、僕らはなんか気持ちだけ若いというか。」
「言われてみればそうよね。私もあなたも、15歳から40手前まで、お互いのことをほぼ知らないんだものね。でも、別に衝突もしなければ、盛り上がりもしない。」
「まあ、気心は知れてるじゃない。中学の同級生で、両想いで有ることをひた隠しながら生活してたわけで。」
「若気の至りを知ってるってこと?」
「というけど、実のところ、僕は君の中学時代をほぼ知らない。君とは、好きだけど、上辺の関係だった気がするんだよね。」
「そうか、あなたにとって、私との生活の基盤は、あの娘との生活なわけだ。」
「あ、そう考えれば、まあ、たしかにそういう感じなのかも。だから、同じ歩調の二人が一緒に暮らしているのに対して、歩調を崩さず出来るのか。」
「あの娘、やっぱり私達が褒めすぎなのかな。」
「いや、あの娘は、君が言うように、どこか大人の立ち位置を理解している。常に冷静で、自分を鳥瞰出来る。そして、優しすぎる。どうやら、冷静さと優しすぎる性格は、だんだんと僕譲りになってきているみたいだ。」
「ホンネを言うと、私、実はあの娘が怖いのよね。あの娘には、得体の知れないなにかが隠れているような気がするの。」
「それは僕も感じるところだね。僕らが親だから、と言ってはいけないのかも知れないけど、本来、なにかもっとすごいことが出来るだけの素質なのかも知れない。」
「あなたが期待を背負わせてはいけないとは言うけど、あの娘が私達から離れていく、それって、そういうことなのよね。」
「親としては、やっぱりどうだろうと思うけど、今でも十分誇りに思う娘だよ。だけど、優しすぎるのは弱点になる。僕らから離れたときに、その優しさは多分不要になると思う。」
「決断力が情に流されるというやつね。あの娘が一番苦手にしていることかもしれない。でも、重要な局面で、あの娘は自分で決断できていると思う。」
「そこに僕が関わってくるんだよ。彼女の原動力の一つが、僕との生活だ。僕から見放されるとも思ってそうで、そういう決断をしているとも考えられる気がしてるんだよ。だから、自分でオーストラリアに行きたいと行った時には、ちょっと意外だなって思ったんだ。」
「結果、いい刺激を持って帰ってきた。そしてもっと成長してくれれば、あなたはそれでいいと思っている。」
「僕は、どう頑張っても、あの娘の本当の親になることはできない。あの娘との将来を考えてるのも、いつか、この関係が断ち切られることに、安堵しつつ、不安に思っているのかなって思ってるんだよね。幸い、僕には、あなたがいるから、これから先を憂うことはない。だけど、愛着のある娘の旅立ちを、ちゃんと見送れるか、心配なんだよ。」
「ほんと、私より親してるよね。私があの娘に出来るのは、女として行きていく術を教えることぐらいしかない。ある意味、あなたの理屈より、薄い関係になってしまいそうなのよ。でも、本人は母親だって言ってくれる。私が不安に思うのは、それぐらいよね。本当に母親できてるのかどうか。」
「それは、よくあなたに聞く、僕は、あなたにふさわしい男かどうか、ってのと似てるよね。でもあなたは僕しかいないと言ってくれる。あの娘もそれは心強いんじゃないかな。」
「そう思ってくれると嬉しいんだけどね。まあ、今更生きてきたことをどうこう言えることもないし、委ねるしかないのよね。」
「そうだね。僕らはあの娘の決断には、関与しない。そして自分で決めていってもらうしかできないと思っている。そうして、生きていって欲しいところだね。」
「寂しい?」
「まあね。でも、そうやって親を超えていってくれれば。ん、親が大したことない場合、超えていくってのはどうなんだろうか?」
「でも、あなたはそういいながら、色々知ってるじゃない。あの娘に与えた影響は大きいし、何より私にあなたのいいところをプラスした娘なんだから。」
「まあ、いいか。僕は、それでも人生の終末まであの娘の親を勤め上げることが、今の人生にいくつか残った目的かな。」
「寂しいこと言うよね。あなたと一緒にもっと色々なことをしたいと思ってる。だから、一緒に付いてきて欲しいかな。」
「う~ん、なんか、そのセリフって、僕が本当は言えないと駄目な感じがする。」
「そんな風に思ってないから。頼りにしてるんだぞ。私の旦那様。」
「旦那様...もなんか違う想像しちゃうから、う~ん、何がいいのかな。まあ、でも旦那だもんな。」
「色々趣味がある人は、なんかそういうところ細かいよね。」
「主にいかがわしい感じの知識だよ。これで、料理ができて、オムライスにハートでも書いて、おまじないでもすれば、別の旦那様になっちゃうしね。」
「あなたって、ほんと変なところを想像出来るというか。一度中身を捌いてどういう思考が行われているのかを知りたくなるかな。
「大したことは考えてないつもりだけど、そんなに変?」
「変。というか、振り幅よね。ほんの数十秒前に、あんなにあの娘の話をしてたのに、急にメイドカフェみたいな発想はできないわよ。」
「そう?浮かんだことを言ってるだけなんだけどなぁ。そんなに変かな。」
「...まあ、いいや。あなたが変でも、間違ったことはしない。それを知ってるだけで、私はあなたの伴侶になれるから、大丈夫かな。」
「そう言えばさ、語尾に「かな」って良くつける時あるけど、それって無意識?」
「え、そう?だとしたら、無意識に使っちゃってるのかな。前にも文脈にそぐわないとか言われたことがあったかも。」
「なんだ。じゃあ、あんまり僕のことばっかり、変って言えないよね。あなたも、十分変だもんね。」
「そうなのか...なんか、自分のことだと、ちょっと凹むかな。」
「いや、いいと思うよ。それがあなたの特徴でしょ?色々あっていいと思うし、なにより、二人でバランスが取れそうでしょ?」
「キレイにまとめようとしてくるわね。まあ、でもその通りかもね。バランスの取り方は人それぞれ。私達には私達なりのバランスの取り方があると。」
「僕の持論だけど、バランスっていうのは、両方が支え合うよりも、両方が引っ張り合うことが、より整ったバランスになると思うんだよ。」
「個性が遠ければ遠いほどバランスが取れるって感じ?」
「それもあるけど、引っ張ってる、つまり、たるみがない分、しっかりとしたバランスの取れた状態になるってことかな。」
「でも、それって一種の緊張状態ってこととはまた違うの?」
「引っ張るって言葉から連想した感じだと思うけど、人間同士の会話や行動って、どうしても別々の個性を持った人の集まりだから、よい緊張感と、バランサーとなる人間が必要になってくる。どんな形であれ、左右に動かして、さらにその左右に行ったバランスを戻していく必要がある。僕とあなただけなら、それは実は簡単で、お互いにバランサーの自覚なしにバランスが取れるけど、複数人集まると、流石にそれは難しいだろ?それが集団となる人間社会では、もっと難しくなるってことだよね。」
「少なくとも、私達には、そういう気遣いもそんなに要らないし、何より私がある程度心持ちしておけば、変なことでも相槌は打てるものね。」
「そんなに、僕との会話でバランスが取れる人っていないと思うんだよ。だからね、そういう仕組みを知っておけば、まあ、悪いことにはならないかなって。」
「悪いどころか、変なのよ。だけど、それが許せちゃうのが、あなたの人徳というかね。」
「自覚ないんだけどなあ。ま、でも、話を聞いてくれる相手がいるだけで、人間ってのは、生活に張りが出る。これも、あの娘に教わったことか。」
「色々大変ね。あなたは。まあ、そこんところはゆっくり話せるときに、いくらでも理解できるわよ。」
「そうだね。まだまだ先は長い。でも、あなたとは、本当にずっと会話していたい心地よさがあるよ。10回の性行為よりも、10分の会話のほうが、気分がいいかも。」
「またそうやって男性特有の問題を引っ張り出してくるんだから。健康でとは言わないけど、元気で生きてよね。まったく。」
「なんか、不思議なものよね。私達、25年離れて暮らしてて、一緒に暮らし始めてから1年半ぐらい経つけど、もう、お互いがいないと駄目な感じがしちゃうのよね。」
「そうだね。やっぱり、お互い、燃え上がるほどの恋愛って感じの歳じゃないからなのかもね。落ち着いて、静かに暮らしていく。それが心地よいと感じる歳なんじゃない。」
「もしかしたら、会話すら要らないのかも。でも、まだツーカーってほどじゃないか。」
「日々、知らないことだらけだよ。そんなに色々知ってるわけないって。」
「そっか。単純じゃないんだ。私達の生活って。」
「まあ、あまりシンプルにしすぎると、喧嘩の元になるし、またあの娘に怒られたくないしね。」
「そうよね。ほんと、なんであんなくだらないことで喧嘩したんだろうね。」
「でも、くだらないことで喧嘩した甲斐はあったでしょ?...っと、またあの娘のことを考えてしまった。」
「ふふふ、やっぱり、可愛い我が娘なのね。自分のことより、他人のことを優先するの、あなたらしいかな。」
「そういう君は?」
「う~ん、...やっぱりあの娘のことを考えてた。」
「人のこと言えないね。」
「ほんと、生活の中心にあの娘がいる。でも、子育てってそういうものだって聞いた時あるしね。」
「いなくても、生活の中心か。本当に、あの娘は僕らにとって、いい潤滑剤になってるのかもね。」
「ところで、聞きましたけど、あの娘とよろしくやってるらしいじゃない。私じゃやっぱり役不足?」
「そうじゃないよ。それに、段々と僕が役不足になってるみたいだ。あの娘には可哀想な思いをさせてる。」
「ま、二人で頑張りましょ。モラルはちょっとアレだけど、あの娘が楽しくなるように、私達も、努力しましょ。」
「やっぱり、マムシとかなのかな。なんか、自分に負けた気がして、ちょっと悔しい。」
「歳を考えなさい。当然、若い頃より体力なんて落ちてるに決まってるんだから。」
「うう、なんか、僕は落ち着いた生活がしたいだけなのになぁ。マジ、夜の生活は女同士でやればいいのに。」
「それこそ変態じゃない。あの娘も、私も、レズプレイするほどマニアックじゃないのよ。」
「それを眺めながらなんとなく一人でしてる僕の図。十分過ぎると思うんだけどなぁ。」
「そうしたら素直に3人でやればいいの。まったく、ホントマニアックなのよ。あなたは。」
「そういうところは新たな扉をどんどん開いていこうよ。」
「この歳でそんなことするか。親の威厳も保てないでしょ。」
「大丈夫、あの娘はもっと喜んでくれるよ。君とのスキンシップで興奮しちゃうような娘だし。」
「それは私固有の体質だから。まあ、ちょっと悔しいけど、あなたは本当にうまく頑張ってくれてるかな。」
「それだと体力的につらいんだよ。分かって欲しいなぁ。」
「オジさんよね。私もオバさんの会話。」
「同い年でしょ?そりゃ、そんなもんだよ。」
こんな感じで、本当にどうでもいい話をしているけど、やっぱり安心出来る。
どうでもいいことを言える仲...娘がいないほうが、なぜか盛り上がるけど、それはお互いの状況が似ているからだと思う。
娘がもっと強くなって、親離れしてくれたら、こんな毎日が来るんだろうか。でも、僕たちもいい歳なんだろうな。
今日はこの辺で、