表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
67/102

Append Life 69 Linking our way of life 指輪では図り切れない関係

「そういえば、二人って、なんで結婚指輪をしてないの?」

いつもの定例会。娘に言われた何気ない一言だった。

「なんでだろうね。僕は買った覚えはないし、ないものを付けることは出来ないよ。」

「ふ~ん、結婚指輪、買ってないんだ。」

「ああ、そういえば、あなたにははっきりと話したことないかな。私達は、結婚指輪をしないことにしてるの。多分、買ってもしないわよ。」

「なんか、意味あるの、それ?」

意外に食いついてくるな。まあ、それもそうか。

「意味というか、ねぇ。相談してたときに、無くなったときのことばかり二人で話してたから。なんとなくね。」

「え~、結婚指輪って基本外さないんじゃないの?」

「本当はそうなんだけど...」



それは、同居して、籍を入れたときだったかな。

「紙1枚で戸籍上は結婚したことになるのかぁ。なんか、盛り上がりに欠けるというか。」

「もっと嬉しそうにするものじゃないんだ。」

「う~ん、ほら、僕らって、なんかなんとなく結婚しちゃったじゃない。それでいいのかなって。」

「歳を考えなさいよ。私達、もう40歳なのよ。ここでキャッキャしてたら、なんか変な人みたいじゃない。」

「それもそうか。まあ、あんまりペースを崩さず、静かに生きていきたいよね。」

「そこまで歳を取ってない。極端なのよ、あなたは。」


僕は東京には住んでるけど、住民票を移してないので、婚姻届は野木の役場に提出した。

彼女は戸籍上、東京に籍があったので、形としては、栃木の人に戻ったということになる。

まあ、コンプライアンスがうるさい世の中だけど、移す必要がなければ、特にいいかなとも思っている。


「さてと、留守番している連中に、昼飯でも買って帰ろうか。」

「あ、さっき電話しておいたけど、私達はちょっとココスで話し合いしましょ。」

「話し合い?そんな必要あるんだっけ?」

「大有りよ。というか、あなたが今まで気づいてないのもすごく不思議かな。」

そういうことらしい。う~ん、忘れてること、なんかあったっけかな。


ココス。野木にあるファミレスって実はここしかないんだよね。だから、いつも混んでるイメージがある。

一通り注文をして、とりあえず話をすることにした。

「で、そんなに重要な話し合いって?」

「いや、本来男の人のほうが、気づくと思うんだけど、婚約指輪をもらってないし、結婚指輪もないじゃない。」

「おお、そう言われてみれば、そうだった。でも、突発的に買えるものでもないんだよなあ。」

「まあね、婚約指輪云々は、この際だから無視でもいいの。でも、結婚指輪ぐらい欲しいと思わない?」

「ごめん。考えたこともなかった。正直、アクセサリーをつけたこともないし、指輪って発想がなかったんだよ。」

「まあ、そんなもんよね。あなたにそんな気遣いがあれば、とっくにしてるはずだもんね。」

「いや、本当にごめん。え、そういうのはちゃんとするよ。え~と、給料3ヶ月分だっけ?え、じゃあ100万近いじゃん。ムリムリ。」

「金額じゃなくて、誓いの証みたいなものだから、別に夜店のパチもんでもいいのよ。でも、せっかく結婚したことになったし、ウェディングフォトも撮りにいくから、ちょっと欲しいかなと思ったの。」

「でも、なおさら難しいし、大体、どういうのを買えばいいのか。僕には良くわからないよ。」

「そんなことだろうと思ってたし、本音を言うと、期待してなかったの。もらえるものなのかなと疑問に思ってたぐらいだから。」

「いやいや、そんなことを言われると、やっぱり男としては、なにかプレゼントしたいと思うよ。でも、好みも知らないし、給料3ヶ月分だし。」

「給料3ヶ月分ってのは、古い言い伝えみたいなものだから、あんまり気にしなくていいのよ。それに、あなたには悪いけど、期待してなかったから。」

「そういう感じなの?」

「そういう感じよ。あなたは。」

「本当にごめんなさい。そう言われると、そういう準備は一切してなかったし、考えもしなかったから。」

「せめて、少しは覚えておいてもらいたかったというのが本音。でも、あなたらしいわよ。それでこそって感じ。」


「じゃあ、本当に結婚指輪はいらないの?」

「もちろんもらえるなら大歓迎だけど、正直、あなたもそうだけど、指輪を毎日どこかのタイミングで外さない?」

「うん。多分指輪自体に耐えられないで、指輪のケースにしまい込みそう。あと、キーボードを打つときになんとなくイヤかな。」

「私も考えたんだけどね。仕事してるときに、というか、会社ではしないと思うのよ。毎朝外して、帰ってきて付けるってなんかおかしいわよね。」

「なんで?会社にバレたくないの?」

「どうあがいても総務にはバレる。で、私がいるのは総務部に限りなく近いところ。だけど、会社でのパプリックイメージを壊したくないの。」

「なるほど。お局様とは行かないまでも、会社のアイドル的存在なんだっけか。さぞかし、モテる人生だったんでしょうな。」

「ちょっと、嫌味?モテるって感じではなかったわよ。ただ、私を見に来る輩が多いだけで。」

「チヤホヤされてるんだ。でも、なんかわかるもんね。同じ職場だったら、確かにお近づきになりたいかも。」

「あなたのそういうところ、正直好きじゃないけど、やっぱりそういうものなのね。」

「君の美貌というか、愛らしさというか、なんか人を引き付けるものがあるんだよ。あの頃だって、なんかそういう雰囲気があったからさ。」

「あれはあれで大変だったのよ。学校には大っぴらに出来ないし、嫉妬の目で見られるし、まして自宅凸されるし。」

「懐かしいな。本当に、目の前の君が、僕の奥様っていう事実が、やっぱり信じられないよ。」

「あなたは、あの頃とは変わってないけど、より不器用で、人たらしになったと感じるわ。あなたって、本当にもてない理由がわからないわよ。」

「いやあ、中肉中背にモテる要素はないと思うよ。あとは、僕の人生に、そこまで女性と関わるときがなかったからね。」


「で、話を戻すけど、私達、結婚指輪で縛られるっていうのもどうかと思うのよね。」

「まあ、大体理由はわかるけど、あの娘がいるからなんでしょ?」

「そう。本来いないはずの、もう一人の私。あの娘との浮気を許しちゃってる親としては、結婚指輪をもらう資格はないのかなって思うのよね。」

「あの娘も僕のことをずっと好いてくれて、そして3年近くも暮らしてるから、あの娘への情もあるし、何より、あの娘の親であり、恋人らしいからなぁ。」

「例えば、私達が結婚指輪をしてるとするじゃない。その時に、あの娘が離れていくのは、やっぱり嫌なのよ。」

「言いたいことはわかるし、あの娘を傷つけるんじゃないかと思ったりしちゃうよね。」

「私は、まだ親にもなれていない。あの娘の親の立場になる人間としては、まず親になった上で、あなたとようやく結婚したことになるのかなって思う。私達があの娘を送り出すまでは、まだ子育て中って感じなのかなと思う。」

「難しいね。僕は、無理して祝ってくれると思うんだ。あの娘はそういうときに空気を読むことがなぜか出来てしまう。だけど、内心傷つくんだろうなって。」

「お互い、若い子には、あんまり傷ついて生きてほしくない思いなのかもね。」

「そりゃ当然だよ。まして、あの娘は特別。純粋にこの世界で頼れる存在は、僕らだけだから、余計に心配しちゃうんだよ。」

「ふふふ、親って顔してる。あなたは十分、親としての努めを果たしてる。だから、余計に私が気になっちゃう。」

「でも、ちゃんと親をやってるじゃない。僕はそれだけで十分だと思うよ。まあ、だからって見せつけるように指輪をしちゃうのはね。」

「親としての優しさというか、あの娘が本当に子離れしたら、指輪をしてもいいのかなって思うわ。」

「その時までお預けでもいいし。だけど、結婚指輪しないまま、僕らは終わりそうだけどね。」

「私もそれでいいと思ってる。指輪をつけて、仕事をするなんて考えられないもの。」

「だよなぁ。僕に至っては、そもそも指輪を付ける文化がないからさ。」

「ま、でも、何かのために、結婚指輪はそのうち買いましょう。ペアリングで、安くてもいいじゃない。持ってるだけ。とりあえず、結婚した証としてね。」

「う~ん。まあ、努力はしますけど、指輪ってなんか高いイメージがあるからさ。良くわからないんだよね。」

「じゃあ、それぐらい、私がなんとかしてあげます。ペアリングの安いやつでいいじゃない。それに、やっぱりあなたが指輪に縛られるような姿を見たくないのよね。」

「それこそ、買う意味あるの?ってなってしまうけどね。ま、それならそれで、僕はいいよ。あなたに合わせる。」

「一番いいのは、あの娘を送り出すときに、指輪の交換が出来るといいわね。あの娘が自立すれば、しがらみ...っていうとアレだけど、あの娘に祝って欲しい。」

「決まりかな。それじゃ、その時まで結婚指輪はお預けってことで。でも、本当に買えるぐらいの余裕が出来るかなぁ。」

「あんまり気にしなくていいわよ。あなたはそのままで生きて欲しいかな。それに、気づかないぐらいが、あなたらしいものね。」

「本当にごめんなさい。素で忘れてた。」

「いいの。本音を言うと、私も、指輪を無くしちゃうんじゃないかって思ってたし、指輪があるから、幸せじゃないでしょ?」

「そうだね。本当の幸せは、僕ら自身が感じること。指輪みたいなものでは、やっぱりはかれないと思う。」



「...ってことがあったの。」

「私のために、二人は結婚指輪をしてないってことなのか。なんか、ごめんなさい。」

「謝る必要もないし、君が気になるなら、指輪をするけど...。」

「ね、肝心の指輪がないのよ。実は、その話をしてから、指輪の件に関して、今まで本当に忘れたままだったのよね。これは私も誤算だったかな。」

「え、じゃあ、二人は、指輪の交換もしてないわけ?」

「そういうことになるかな。今、君に指輪の話をされて、ようやく思い出した感じ。」

「どうする?指輪、買いに行こうか。」

「そんなこと言われると、う~ん、指輪買うような予算はないんだよなぁ。」

「オトーサンにはその予算がないと。」

「だって、全然考えてなかったからさ。指輪買うにしたって、サイズも知らないしさ。」

「それは私も一緒。だから、別にしてもしなくてもって感じなのよね。」

「いやいや、二人はちゃんと夫婦なんだから、それぐらい身につけてもいいと思うんだけどな。私は。」

「君の気持ちはありがたいけど、僕らは3人で家族だからね。それに、君の恋人も、君に指輪をプレゼントしたことはないだろ?」

「オトーサンが指輪を買ってくれない理由って、そういうことだったんだね。」

「ま、今のはただの思いつきだから。」

「あれ、うまい解釈させておいて、本音がダダ漏れしてるぞ。私の恋人は、そんな人じゃないはずなんだけどなぁ。」

「娘に心配されるのは親失格かもしれないけど、あなたが自立した生活になったら、また考えるつもりよ。」

「そうだね。まあ、それが火種になって、二人に喧嘩されても、僕もイヤだしね。」

「喧嘩するわけないでしょ。そういうところが、オトーサンの変なところなんだよね。」

「でもね、この人なりの気遣いなのよ。あなたを見捨てないって意思表示。出来るようになっただけ、マシになったと思うわ。」

「なんか、ごめんなさい。」

「オトーサンも謝らなくていいから。そういうことなら、私ももう気にしないから。」



結婚指輪ねぇ。別に否定はしないけど、結婚するのにお金がかかるっていうのは、やっぱり納得行かないんだよなぁ。

でも、証と言われると、確かに必要かなとも思ったりする。まあ、僕の場合、思うだけなんだけどね。



今日はこの辺で。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ