Life 70 A fleeting double date 久々に三人でお出かけ
「ああああ、暇だぁあああああああ。」
娘が突然叫びだした。そりゃ、暇になる日もある。
「あーはいはい、暇だね。」
「オトーサンは暇でいいの?夏休みなんだよ。」
「そりゃあ、君は夏休みだけどさ。僕らは普通の土日なんだよ。」
8月もお盆前の休み。なんか山の日とか言うのがあるんだっけ?まあ、どうでもいいんだけど。
「あんまり困らせても良くないわよ。こう見えて、この人は虚弱体質だから。」
「虚弱体質ねぇ...。ま、いいか。」
「そこは突っ込むところでしょ?なんで受け入れちゃうかな。」
「いや、もうそういうイメージを持ってくれたほうが、受け入れられやすいかなと思ってたりしてるんだよね。」
「でも、確かに今年は1回入院してるし、大きく体調も崩した。」
「え、体調悪くなったの?オトーサン。」
「あなたがいないときよ。まあ、3日ぐらいで治ったけどね。」
「流行り病?」
「いや、そうじゃないみたいよ。単なる疲労だって。」
「で、その虚弱体質な人は相変わらずスマホゲーですか?」
「ほら、君がFFのピクセルリマスター版買ってるからさ。なんかやりたくなってやってる。」
「飽きないもの?」
「じゃあ、単純に、もしKinki Kidsのスマホゲーが出たら、どういうジャンルであれ、やるでしょ?」
「ああ、なるほど。好きが強いのね。」
「ねね、じゃあ、しぶりんコスでもしてあげるから、今日1日は女子高生とデートってのはどう?」
「あんな糞暑い衣装着るの?まあ、痛い大人がはしゃいでる図が目に浮かぶよ。」
「現役に見えないかな。ねぇ、そんなに変わりないって言ってよ。」
「元々童顔だから見える見える。でも、別に女子高生とデートするような趣味はあいにく持ち合わせてないよ。」
「今のオトーサン、相当数を敵に回したからね。」
「でも、そうはいっても、まさか20年前の夏服とか着るわけ?ある意味、原点回帰みたいな感じだけど。」
「おねえちゃんは入るんじゃない。でも、私が着るとなんとなく、アレじゃない。」
「ああ、そういうふうにバカにするんだ。しょうがないじゃん。育たなかっただけだし。」
海外に行くと性格が凶暴になるというか、本能なのかな。ちょいちょい小競り合いをしてる感じ。
「...仕方ない。あんまりうるさくされてもしょうがないし、僕と秋葉原でも行くか。あ、ゲームは買ってやらんよ。」
「うれしい、オトーサンとデート。おねえちゃんはどうする?」
「そうねぇ。私は、アトレでスイーツでも食べようかしら。」
「あ、来るんだ。」
「いい加減、おいていかれるのもなんかね。寂しくなったような。」
「そうかもね。いつも一緒がいいかも...いや、アトレでスイーツ食べてていいよ。」
「なんか引っかかる言い方ね。また、隠れてローンでなにか買ってくるとかじゃないの?」
「オトーサンは自分に有益なものにしかお金を出さないからね。っても、スマホとPCをローンで買うとかちょっとすごいよね。」
「でも、見てると欲しくなるだろ。ま、そろそろゲーミングPCでも買ってみればいいんじゃない。」
「ああいうのって高いんじゃないの?30万とか。」
「30万じゃ安いんじゃないかな。」
「オトーサンのノートPCってThinkPadだけどゲーミング性能だって言ってたけど、それでもエントリーなのね。」
「いや、普段のノートPCをゲーミングノートPCにするって選択肢もあるよ。それなら30万でお釣りがくるしね。」
「とは言えなぁ、ポンとお金を出せるぐらいのノートPCは買えないよね。」
「いっそ、ローンでも通してみるか。僕がショッピングローンで買って、毎月君から請求すると。」
「はいはい、バカなこと言ってないで、買うなら買うで、まずはどのぐらいの価格帯か調査しないとね。」
「...あれ、反対しないの?」
「アンタのノートPC、私が使おうかなって思ったのよ。1キロぐらいで軽そうだし。」
「X1 Carbonか。暇なときにウォッチしておこうか?」
「う~ん、それもどうかなって思うのよね。それに、親子揃って同じPC使ってるって、なんかね。」
「まあ、大まかなデザインは変わらないしね。それはそれでしょうがない感じはするけど。どちらにしろ、僕とはお揃いになっちゃうよね。」
「オトーサンのPCはオトーサン専用なんでしょ。例えばThinkPadじゃなければ、案外安いの?」
「おそらく15万ぐらいじゃないかな。まあ、メモリとかストレージとかの容量によるけど、君ならまだデフォルトで十分だ。」
「でふぉると?」
「ああ、標準内蔵のメモリ容量とかで大丈夫ってこと。まあ、でも大学の講義でゲーミングキーボードをカチカチ鳴らすのはどうなのかって話はあるな。」
「オトーサンは、どうしてたの?」
「う~ん、3年ぐらいからは講義の内容は全部Excelで取ってた気がする。図とかも使えるし。」
「そういう発想が良くも出てくるものよね。私は家でネットを見るのに使ってた。でも、昔のPCは重かったわよね。」
「今は光学ドライブがなくなっただけで500gぐらい違うからね。薄いし、あまりに遅いPCはなくなったからね。アマゾンで適当に中華PC買っても大丈夫なレベルだよ。」
「ゲーミングPCってなんか重そう。」
「そりゃあ、それ相応の装備が入ってますからね。僕のPCは薄い分、高いんだよ。普通はそれなりに大きくて、冷却機構ももっと派手だよね。」
「冷却...う~ん、なんか良くわからないけど。」
「ゲーミングPCってのは、常時100%力を発揮するものだろ。そのためには、常時筐体を冷やす必要がある。まあ、なかなかゴツいのがついてるよね。」
「でも、う~ん、私は私で、ThinkPad。気に入ってるんだよなぁ。」
「ほとんど使わない、あの古いThinkPadでいいじゃない。アンタならそれでも十分じゃない?」
「いやいや、自分の道具には、快適性を求めないといけないから、アレを使うなら、僕がもう一台探すから。」
「...ふぅ、分かった。まあ、あなたには似合ってるしね。若い人が使うには、こういう薄型軽量のノートPCがいいと思う。」
「おねえちゃんは、新しいの自腹で買えばいいんじゃない。」
「確かにそうだね。最新のThinkPadなら僕が会員価格で買えるし、悪くないんじゃない?」
「...う~ん、なんで、私がパソコンを買うって話になってるんだろう。どうする?秋葉原行くの?」
「私はオトーサンといろいろ見て回りたいから、行くよ。」
「だってさ。お姫様のエスコート、私で良ければお付き合いしましょう。」
「じゃあ、私は涼しいところでアイスコーヒーでも飲んでるわ。帰りもなにか食べて帰りましょ。」
「いいの?じゃあ、とんかつね。」
「はいはい、まったく、なんでこんなにとんかつ好きになったんだろう。」
「私もわからないけど、とんかつってなんか幸せな食べ物っぽくない?」
そうなのか。ま、確かに程よい肉汁と衣が合わさって、唯一無二の食べ物っぽくなる感じは分からなくもない。
「ねえねえ、前にオトーサンと行ったお店、行こうよ。」
「御徒町?別にいいけど...」
「...私?う~ん、それじゃ、御徒町の喫茶店でも探してみようかしら。」
「ごめんね。わざわざ電車で戻ってきてもらうのも悪いしね。」
「いいわよ。もしかしたら隠れ家的スイーツとか見つかるかな?」
「あんまり浮かばないけど、ま、最悪ガストで適当に時間つぶししてて。」
家族3人で出かけるとき、大体娘と手を繋いでいる。
もう21にもなったんだから、そろそろいいんじゃないかと思ってるが、この娘はそういう娘なんだろうな。
無邪気過ぎる。僕の前だからだろうか。
「アンタ達、やっぱり仲のいいカップルにしか見えないわよね。」
奥様にもそう見えるのか。ま、そういう気分になってる子供だからしょうがないよね。
「えへへへ、おねえちゃん、ごめんね。1ヶ月分取り戻したいの。」
奥様は呆れたような顔をしつつ、優しい眼差しで娘をみているようだった。
「じゃあ、私はここで降りるから。あとで連絡してね。」
「うん、一人にしてごめん。ちゃんと埋め合わせするから。」
「毎日の生活で十分よ。じゃあ、行ってらっしゃい。」
御徒町の駅でこんなやり取り。奥様は勝手に調べて、多分スイーツでも食べるんだろう。
「久々、二人きりだね。」
「そう言えばそうだね。楽しい?」
「楽しいに決まってるじゃん。君と二人でデート、いつでも楽しいよ。」
「デートねぇ。僕は、そういう感じじゃないんだよなぁ。」
「そうなの?」
「う~ん、ほら、娘に振り回される父親って感じ。」
「ひどくない?そんなに振り回してないもん。」
「そうだね。ま、こんなクソ暑い日に僕を外に連れ出すだけでも、振り回されてる。」
「もう。本当に出不精なんだから。引きこもりさん。」
秋葉原。流石にもう毎週行くようなことはなんかしてないなぁ。
「どこ行こうか?本当にゲーミングPC買っちゃう?」
「欲しいの?PS5あるんだから、あんまり必要ない気もするんだけど。」
「違うよ。自分専用のノートPCが欲しいんだよ。ほら、今使ってるのもオトーサンのやつでしょ。」
「分からなくもない。最初のPCって割と特別だよね。そういうの、わかるよ。」
「さっすがオトーサン。おねえちゃんとは反応が違うよね。」
「自分のものって、愛着が湧くもんだよね。君が僕のノートPCを大切に使ってるのも知ってるけど、自分のものを買うと、やっぱり違うんだよね。」
「欲しくなってきちゃったなぁ。」
「でも、重いかもしれないし、外見も派手だよ。」
「まあ、それは見てから考えるよ。君は良し悪しをしっかりわかるだろうし。」
「と言ってもねぇ。スペックに振るか、軽さに振るか、どっちがいいのだろうね。う~ん、君は大事に使ってるから、カーボンやアルミとかじゃなくてもいいかもね。」
「カーボン?あ、私の使ってるノートPCって、カーボン製なんだ。」
「軽くていいだろ。見てくれより、ああいうほうが、やっぱり僕の趣味に合うんだよ。」
「いや、君の趣味だと、やっぱり派手さが足りない感じする。少しキラキラしててもいい気がするけどね。」
「大学で広げるの?それ?」
「普段はイルミネーション消せばいいんじゃない。」
「消えるのかな?アレ?」
「制御できるんだから消せるよ。なんで君のほうがわからないわけ?」
「通ったことがない道だからさ。ここ10数年はThinkPadしか使ってないって言ってるでしょ?」
「じゃあ、店員さんのほうが詳しいかもね。」
「僕も勉強しよう。こういう選択肢もちゃんと用意しておかないとね。」
「私しか聞かないじゃん?」
「そんなことない。知ってることで違うこともある。考え方や見方もたくさん知見を持つのがいいよね。」
「貪欲だね。知ってて欲しいことをいつでもくれる。こういうところで積み重ねて行くんだね。」
「いや、単なる興味だよ。僕が知りたいだけ。」
「それを自分のものにできてるのが、君の凄さなんだよ。だから、おねえちゃんも信頼できる。」
「そんなもんかね。あんまり思ったことないや。」
「でもさ、あっさりと送り出されてもさ、ちょっとさみしいじゃない。」
私は御徒町駅で降りて、ラブラブカップルのお留守番。デレデレしちゃって、ねぇ。
「娘に嫉妬か。君は、私が強い女だと思ってるもんね。」
とりあえずどうしようかな。あ、ルノアールあるんだ。チーズケーキないのがちょっと惜しいんだよね。
「でも、あの人がガチガチのとき以来か。意外来るの最近だったんだな。」
改札を出て、直接ルノアールに行くことにした。ケーキ、何にしようかな。
「だから、多分ちょっとゲームやるだけだったら、RTX4050クラスでも十分だと思いますよ。」
「そうなんですね。というか、いつの間に4000シリーズ出てたんですか?」
「最近です。でもMSI辺りは、すぐに新型をどんどん出して来ますからね。私達も分からなくなるぐらいですよ。」
しかし、ゴテゴテしてて、やっぱりゲーミングPCってのは好きじゃないな。お、MSIでもなんかまともなのあるじゃん。
「これいいんじゃない、Prestige-15。1.7キロだと、僕が使ってるThinkPadとほぼ同じスペックだ。」
「でもオトーサンのは、メモリ64GB、SSD4TBなんでしょ?」
「君にはそこまで要らないと思うよ。いや、僕も本職じゃないから、別にいるわけではないけどね。」
「しかし、オンボードで16GBもメモリ搭載してるんですね。確かに、ちょいとしたゲーミング用途には十分だな。」
「いかがですか、159,800円ですよ。ポイントでSSD追加してもいいですよね。」
「オトーサンのPCの半分でしょ。これぐらいだったらローンで払えそうだよ。」
「学生ローンねぇ。あんまり好きじゃないけど。でも、君はこれを2年は使える?」
「う~ん、どうだろう。それにPS5もあるからさ。別にいるって必要はないよね。」
「あ、PS5持ってるなら、PS5でゲームやるのが一番ですよ。ノートPCをゲーム機にするならって思いましたけど、だったら、軽さに振り切ったほうがいいんじゃないですかね。」
「だってさ。」
「そっか。PS5あるから、別にゲームを外でやろうと思ったのが、間違いだった。」
「さて、X1 Carbonを超えるモバイルノートはあるのかな?アレも最高峰に近いからね。」
「オトーサン、やっぱり逸品ばっかり買うのね。流石というか。」
「な、こういうときはヨドバシ。なんでもあるからね。」
「オトーサンさ、単純に自分で良し悪しがわからない?」
「うん。」
「あっさり認めるんだね。なんで?」
「ほら、だって、そもそもに君と僕の想定する使い方。これだけですでに違うよね。僕のPCは限られた時間で最大限パフォーマンスを発揮できるように、フル装備にしている。けど、2キロあるから、そんなに持ち運ぶことがない。一方、君のX1 Carbonは、どこでも作業ができて、持ち運びに優れているという判断で、僕が使っていた。それをどこか目で追いかけてたから、君が使うようになったんだろう。あの人もそっち側の人間だと思う。やっぱり同じ人なんだね。」
「そういうもんなのか。じゃあ、もっと軽いやつのほうがいいの?」
「そういうわけでもない。当然、薄いなりの犠牲...そうだな、キーボードの打ち心地とか、傷の付きやすさとか。逆にモバイル通信ができるようになったりするかな。」
「え、どこでもインターネット?」
「そう。大学内ぐらいでは、流石にWiFiがあってもおかしくないが、日本では、思った以上に公衆無線LANが少ない。そこで、モバイル通信もできるようにしてるんだ。」
「そんなもんなのかね?ま、でもファミレスで電源入れてネットできるって、かなり便利かも?」
「君ってなんか良くわからないけど、タブレットはあんまり使わないじゃん。あ、あんまりスペックが高くないから?」
「う~ん、不便なんだよね。キーボードも、ちゃんとしたものを使ったほうが速く打てるし、画面をタッチするのもなんかスマホと違って合わないというか。」
「ま、未だにSimplyを使ってる君だし、なんかその辺は僕と通じるものはあるよね。」
「うんうん、やっぱり親子だから?」
「親子?...こういうときは親子?」
「だって、オトーサンじゃん。オトーサンと好みが似てるのは、オトーサン譲りなんだよ。」
う~ん、恋人色に染まるというか、そういうレベルの話だろうか。でも僕は君の父親だから、ま、正しいのかな。
「そうか。...うれしいね。僕が考えるようなことが、君にも理解できる。マニアックな話だからね。理解者が増えるのは嬉しい。」
「理解してるのかな?でも、オトーサンが伝えようとしていることを、理解したいって思うよ。オトーサンでもあるし、人生の先輩でもあるしね。」
「オヤジ殺しだな。いやあ、なかなか父親としても、恋人としても、ちょっとびっくりしちゃった。」
「あー、そうか。恋人って思いはなかった。本当に尊敬できる大人の話。でも、頼りないかな?」
「頼りない?ま、でも、頼りないぐらいが、自分で決めるってこともできるし、アドバイスとしては正解かな。」
「そうやって責任の所存を隠すつもりだな。君が勧めたら、7割は君の責任だよ。」
「責任重大だな。ま、んじゃ、せっかくローンを通すなら、現行のX1 Carbonでも見てみようか。」
「...ローン、通すの?」
「え、買わないの?」
ルノアールは、ある意味どこに言っても、同水準のサービスを提供してくれる。コメダ珈琲など比べると、静かでいい。
ガストはガストで、他人の話の聞き耳を立てるとか、結構面白かったりするんだけど、特に何も考えず、Kindleで本を読みながら、ちょっとケーキをつまみつつ、コーヒーを飲むのも、やっぱり幸せなことなのかな。
でも、本音を言えば、ジョッキに枝豆や刺し身をつまみながら、読書も悪くない。違いは、本の内容が入ってこないだけ。その代わりいい気分になっていく。まるで、天にも登る感覚。これが昼飲みのいいところなんだけどなぁ。うちの人たちは、お酒をあまり飲まないから、しょうがないよね。
「にしても、私も大人になってるのかな?自分の旦那と娘が楽しくショッピングしてるのを許容しちゃってるぐらいだもんね。」
でもね、ふと、あなたがいないと、なんか不安になるときがある。あなたが良く言ってる、自信の無くし方みたいな感じなのかな。こういう感じなんだ。また、これも新鮮。
「良かったね。」
「う~ん、私、大学が卒業するとしてさ、あと30ヶ月ぐらいだけど、24回で無理に組む必要なかったんじゃないかな。」
「36回で買うとなると、やっぱりタイミングが悪いよね。新入社員で働く時まで、ローンを続けるのは、やっぱりつらいと思うよ。」
「ローンの鬼というか、さすがPCやスマホをローンで買ってないよね。」
「ま、でもそのおかげでモバイルモニターをタダでもらえたんだから、いいじゃない。」
「そっちのはオトーサンに上げるよ。好きでしょ?」
「好き好き。もらうよ。嬉しいね。」
そういう手元には、ショッピングローンの締結書と、カタログ。かくして彼女はX1 Carbonの最新世代を手に入れ、お下がりが奥様に行くことになったのかな。
正確には、新品に今使ってるSSDを差して、奥様には新品のSSDを入れて、渡してあげようかな。家族みんなでX1シリーズ使うのか。なんだかなぁ。
「あ、ごめんね。待たせた?」
「大丈夫よ。あなた達は、時間には正確だもんね。」
「さ、オトーサン、あそこへ連れてってよ。もう、上ロースカツ、すごく美味しいんだよ。」
「本当に美味しいのね。あなたがこんなに一生懸命なのも珍しい。」
「そ、少ないけど、僕のごちそうだね。大丈夫。君も僕より胃が強いから大丈夫だよ。」
時刻は4時45分ぐらいだっただろうか。まあ、店にも4組ぐらい並んでいた。
「5時からだからね。少し待とうか。」
ふと、奥様が箱を持っていないことに気づいた。
「買わなかったんだ?」
「いや、これ。」
ショッピングローンの締結書を見せてる。
「ああ、そういうことなんだ。え、本当にX1 Carbonが好きなのね。」
「なんかモバイル回線が入れられて、どこでもネットが使えるらしいよ。オトーサンがセットしてくれるって。」
「そしたら、あなたのお下がりを私が使えばいいのね。」
「あれもキレイなんだから、別に文句はないんだけどね。」
「この人にやられた?」
「というより、自分の愛着のあるものが欲しかった気持ちが強いかな。愛着はあるけど、オトーサンから借りたものはやっぱりそこまでなんだよね。」
「そうか、あなたは携帯電話も、スマホも、この人が買ってくれたものを使ってるものね。大きな買い物だけど、自分専用になるわけだ。」
「オトーサンじゃない、私が買った、私専用のパソコン。愛着が違うと思うんだよね。」
まあ、データの取り出しがあるから、結局SSDをいじるんだけど。それは僕の作業ということでいいのか。
「ご注文は?」
「上ロースかつ定食、3つでお願いします。」
「オープンしたらお二階にご案内しますね。」
「お願いします。」
「しかし、やっぱりこういう時には度胸あるなって思ったよ。これは、君のほうの性格かな?」
「そうねぇ。いや、私も高いものを買うときは、清水の舞台から降りるような感じだから、正直ローンを組んだって聞いたときには、ちょっと驚いたの。」
「え、なんで?」
「もともと物欲がないからよ。それに、なにかあった時には、仕方なく買う感じだからね。別にパソコンを借りてるのも、そういう理由だったりするの。」
「能動的にPCを買って、自分のツールとする。それで、わかることがあるってオトーサンが言うんだよ。」
「あなたの言う事、サマになってる。やっぱり、自分で知りたいことは、自分の相棒で調べて、自分で消化していけるといいね。」
「きっと大丈夫。オトーサンが選んでくれたんだから、使いこなしてみせるよ。」
「頑張れ、応援しかできないけど、あなたがもっと聡明になることを願うわよ。」
「ねぇ、あなた。本当に教えてあげたかたったのはこういうこと?」
「ま、大体はできた。彼女が理想とした、今のX1 Carbonを与えることが、今の僕にはできなかったけど、それを自分で背負うことまでは、ちょっとやりすぎかなって思ってる。」
「買ってあげられるぐらいお金があって、買ってあげても、やっぱり僕の所有物だ。だから、結果的には彼女が払える料金で、彼女が支払っていく。これでいいんだ。」
「で、パソコンは?」
「BTOだよ。あの娘用にカスタムしてもらってる。1週間もすれば、本物が来るよ。」
「世界でただ一台の、この娘のPCになるのね。最初から贅沢ねぇ。」
「でも、それが結果的に、あなたにもX1 Carbonを渡せるね。」
「そうか。なんか娘のお下がり、もっと言えばあなたのお下がりだけど、それは大きい。」
「飾り気ないけど、ごめんね。」
「何言ってるのよ。私も、あなたたちと一緒で、合理的で軽いPCが好きなのよ」
そうしたところで、3人分の上ロースかつ定食が来た。
いつものように塩を頼んだ上で、黙々と3人で美味しい食べ物を食べる。最後のしじみ汁まで飲み干す。
「はぁ~。完食。」
「今日も美味しかった。」
「本当に美味しかった。やっぱり、あなたは間違いないわね。」
「そう?あんまりバリエーションはないんだけどね。」
「どうする?」
「ねぇねぇ、ABAB、行っていいでしょ?」
「本当に好きねぇ。来年閉店するのに。」
娘はABABの100円ショップが好きなので、今となってはOIOIのセリアでも、西日暮里の駅前にできたキャンドゥでもいいんだろう。
「なんか、独特で好きなんだよな。老朽化には勝てないのか。」
氷河期世代の僕らにとって、このエスカレーターは、やっぱりデパートって感じがあって、ワクワクするものだ。でも、もうすぐなくなると思うと、なんとなく残念。
「私達はこういうエスカレーターがデパートとかしかないと思ってたかな。だから、気持ちはわかるよ。」
100円ショップ。二人はウロウロしながら、色々カートに入れている。僕は、というと、相変わらずコードクリップを買ってる。たくさんあって困らないけど、これを再利用したことがあんまりなかったりするな。うーん。探そうかな。
「で、君たちは、なんでそんなに大きい袋で帰るわけ?」
「流行りのDIYってやつ?私も40過ぎて、なんかそういうのをしようかなって。」
「私はちょっとトイレに棚を設置しようと思いまして。」
「...そういうことは、僕の仕事だから、言ってくれればいいよ。」
「でも、ウチじゃ気づいた人がやるものだと思ってたのですが。」
「あのね、家を出ていくときに、跡が付いてたり、原状復帰をするのが難しい場合、敷金から引かれることがあるんだよ。」
「ほら、だから、なんとでもなるようなものを使ってるじゃない。」
「...想像つかない。なんとでもなるかな?」
「ふふふ、まったく、買っちゃったものだから、もう仕方ないじゃないの。使うしかないんじゃないかな。」
「おねえちゃん、わかってるね。流石だよ。」
「いや、私もなんとなくDIYするラック、どこに置こうか迷ってるんだけど。」
「もしかして、いらないものを増やそうとしてる?」
「そんなことない、えーと、うーん、スマホの充電スタンドとか?」
「う~ん、そういうサイズじゃないようなラックが見えるんですけど。どう考えても100円じゃないよねそれ?」
「あれだ、寝床で、洗濯物をおいておくラックにでもしようかな。」
「ふ~ん、ま、それならそれでいいんじゃない。」
「じゃ、オトーサン、私もトイレに棚作っていいよね。」
「トイレの壁紙に跡が残らない?」
「うーんと、トイレットペーパーホルダーの上に、スマホ置き場を付けようと思ってたんだけど。」
「ま、大丈夫か。そんぐらいなら、確認してからやろうか。」
「しかし、トイレにまでスマホを持ち込むの?汚いんじゃない?」
「その汚い状況を回避するための棚だから。」
「う~ん、用を足して、拭いて、流して、手を洗うまでおいておくってこと?」
「そんぐらい我慢できないかな。」
「ま、なんとなく長居することもあるから、特にその辺は突っ込まないようにしておくよ。」
ガチャ
「たっだいま~。」
「なんだかんだで、今日も結構出かけてたね。」
「結局3人でABABの100円ショップ行って、喜んでるんじゃ世話ないわね。」
「まあ、そういうなって。今日は、この娘が初めて自腹で自分のノートPCを買った記念日だよ。」
「あ、ノートPC台ってのはどうかな?サイズ的に。」
「お断りします。いいじゃん。私達の洗濯物置きで。」
「そんなこと言わないでよ。なんとか使い道考えてるんだから。」
「ノートPC台なんて100円ショップで完成品が売ってるよ。作る必要なんかないんだってw」
「くそう、なんか二人に馬鹿にされた気分かな。珍しいわね、二人で馬鹿にしてくるって。」
「当たり前じゃん。何がDIYよ。メタルラック見て、ちょっと欲しくなっちゃったんでしょ。どうせ使い道なんて考えてなかったくせに。」
「まあ、小物入れとかならいいよ。流石に、メタルラックを組み立てたいだけなら、別に買う必要はなかったと思う。」
「憎たらしいわね。そういうところまで似てこなくていいのに。」
「そういえば、同じようなこと言ってるね。」
「それぐらい、おねえちゃんの買い物がわけわからないってことだよ。また勉強になってよかったね。」
「覚えてなさいよ。全く。」
ま、今日も日常は流れていく。大きな買い物もしたけど、彼女の成長を助けてくれる、情報の四次元ポケットになってくれるかな?
そう言えば、我が家のスマホとPC事情を説明したことなかった。
僕はPCはThinkPad X1 Extremeを使ってる。スマホは、通話用にSimply、iPhone12と、XPERIA 1 Vを使ってる。
彼女はPCを僕からX1 Carbonを借りるんだって。スマホはいつだか作ってあげた、真っ赤なiPhone SE2を使ってる。不自由してないんだって。
娘はPCは自分で買ったX1 Carbon。未だに携帯電話はSimply。僕とおそろいの色違い。それと、iPhone12 miniを使ってる。miniの画面サイズに嫌気が差して、僕が上げたやつ。
3人共なんとなく違ってるけど、文句があれば、僕に来る。そんなものだけど、僕は好きだからね。相談なら、いつでも乗るよ。
今日はこの辺で、