Life 67 Another fairy tale for two tonight Ver.2 二人でも楽しく暮らせる その2
定例会の時間だけど、なんか今日は自由にしている。僕は、珍しくヘッドホンで音楽を聞いていた。
「ねぇ、あなた、聞こえてる?」
ぼんやりと呼ばれた気がしたので、ヘッドホンを外した。
「ごめん、全然聞いてなかった。なに?」
「なにっていうほどのことじゃないんだけど...。う~ん。」
あら、珍しく我が奥様がなんか喋りにくいことを話そうとしてるな。
「遠慮しなくていいよ。別に、あなたの言う事のほうが、正しいことだって多いんだし。」
「そう?じゃあ、ちょっとだけ。あの娘のことなんだけど。」
「うん、どうかした?」
あ、その娘ですけど、まだオーストラリアの地で何かを学んでいるらしい。
「その、私もアレだから今まであんまり言わなかったけど、そろそろ家の中でも、少しはまともな服を来て欲しいかなって。」
「簡単に言っちゃうと、ノーブラでTシャツ1枚、ショーツ1枚でウロウロするなってことだよね。」
「そうそう。なんで、あんな感じになってるのか、自分でわかる分、そろそろ年齢的にも注意すべきかなって思ってるのよね。」
「いいんじゃないかな。馴れてるとは言え、僕も男だし、やっぱり目のやり場に困ることも多いしね。」
「ふぅ、もしかして、あなたが反発してきたらどうしようって思っちゃってた。」
「そうだなぁ、あまりにも生活に馴染みすぎて、別にどうでもいいような気がするけど、普通はおかしいって親が注意すべきなんだよね。その点では、僕にも責任があるよ。だけど、そもそも、なんでそういうカッコでウロウロしてるのかが、僕もよく分からないんだよね。」
「う~ん、そこよね。今まで許しちゃってた分、どう言ったらいいのかなって思うのよ。きっと、最初はあなたの気を引くためとかだったと思うんだけど、思ったより締め付けがなくて楽だったりするのよね。独身時代は、やっぱりノーブラ派だったから、あんまり人のこと言えないんだけどね。」
「僕は、別にノーブラでもいいですけどね。特に、あなたが恥じらいながら、ノーブラで服着てるなんて、ちょっとおもしろいし。」
「もう、バカにして。私だって、あなたを悩殺するぐらいのスタイルは保っています。だけど、そういうことじゃないのよ。」
「冗談だよ。わかってる。もうちょっと、身の回りに気遣いを持って欲しいってことだよね。いや、オーストラリアで怖い目にでもあってれば、そうなって帰ってくるかもしれないけど、自宅じゃ、油断しかしないからね。」
「そう言えば、この前、あなたがあの娘のムダ毛を注意したらしいじゃない。」
「あ、知ってるんだ。いやさ、僕もさすがにちょいちょい昔から知ってはいたんだけど、デリケートな問題だしさ、気づくかなってずっと思ってたんだよ。」
「でも、気づかずに、この歳まで育ってしまったって?」
「男性の絶対的な基準が、僕なのが問題なんだと思う。だけどさ、ショーツ1枚で恥じらいもなく足を広げるってことは、やっぱり見えちゃうってことだよね。」
「今まで言ってこなかったのはなんで?やっぱり、優しさ?」
「そうじゃなくて、自分で気づくと思ってたんだよ。でも、なんか、変におおらかなところがあの娘はあるから、気が付いてなかったんじゃないかな。」
「で、二人きりの時に言ってみたんだ。」
「そ。あんな真っ赤になったあの娘は、初夜の時以来だったかな。本当に気づいてなかったのに、僕も正直驚いた。」
「優しいというか、まあ、私のいる前で話せる内容でもないか。」
「もしくは、僕としては、あなたが助言してくれるのかなと思ったりしてたんだけどね。」
「二人でお風呂に入ることはないから、あんまり気にしないところなのよ。それに、私だってムダ毛処理はしてるんだから。」
「その発言は聞きたくなかったなぁ。」
「脱毛なんかしてないわよ。まったく。」
「でも、ご苦労はしているんでしょ?僕は女に生まれなくて、本当に良かったって思えるのって、そういう細かいところのケアだったりだよね。」
「あなたはいいじゃない。何もしなくてもツヤツヤの黒髪、爪も磨いたようにピカピカ、おまけに手入れなしで、きれいな肌なんだから。」
「ね。どうして、こんなに不公平なんだってね。」
「ま、それはともかくとして、あの娘が羞恥心を持ってないのは、ちょっと怖いわよね。」
「...もしかして、僕と一緒に生活してるから?恋人の前じゃ、別に恥も外聞もないってことなのかな?」
「でも、そうなると、私には見栄を張るんじゃない?あ、そうか、自分自身だと思ってるのか。」
「やっぱり僕らがちゃんと言ってあげないと、ダメなのかもしれないね。一般常識というか、それなりにマナーと言うか。」
「そうねぇ。確かに、私達と暮らしてれば、油断しかないわけだもんね。親として、ちょっと反省。」
「僕に、あんまり考えるなって言うけど、あなたも、やっぱりあの娘が可愛いんだね。」
「そりゃ可愛いわよ。私だよ。私。」
「うん、いや、知ってるけど、もう別人だからなぁ。色んな意味で。」
「何?ボリュームが足りないってこと?」
「言ってないけど、自覚あるのね。旦那としては、そういうことは言ってほしくなかったかな。」
「恐ろしいわよね。食べるものが変わるだけで、体型が変わって行くのよ。私も大学時代に、もっと食べておくべきだったのかしら。」
「そう言えば、実は身長も、ほんのちょっとだけあの娘のほうが高くなってるのは知ってる?」
「ええ?そうなの?まあ、でも女盛りとはよく言うものよね。20代は羨ましい。」
「そんなことないでしょ。今の君だって、僕にはあの娘以上に魅力的に見えるんだけど。」
「好みの問題でしょ。例えば...ああ、もう、恥ずかしいことでいいわよ。私の体型、本当に、あなたの好み?」
「大きすぎず小さすぎず、きれいな形の胸、鍛えてるだけあって絞れてるくびれ、薄いと思われがちだけど、十分な弾力のお尻。言ってて、なんか僕も恥ずかしいよ。」
「好みなの?」
「大好きだから、そういうことを言いました。」
「よろしい。あなた、そういうところが大好き。」
「なんかよくわからないけど、うん、ありがとう。」
「...ごめん。なんか、恥ずかしくなっちゃったね。」
「うん。なんか、別にエッチしたわけじゃないのに、ちょっと気まずい。」
「...ふぅ、じゃ、しょうがない。私が言ったんだもんね。今日は、私が甘やかす日にするわ。」
「また、一緒に裸で寝てくれる?」
「そんなお願いする旦那がいる?普通なら、夜のお誘いとかじゃないの?」
「なんというか、僕はエッチするより、素肌で寝ているほうが、気持ちいいんだよね。これも悲しいかな。歳なのかな。」
「ま、あなたは甘えん坊さんだしね。いいわよ。どうせ明日は休みだし、裸で抱き合うだけにしておきましょう。」
「一応、抱くって言っても、本当に抱き合うだけだからね。」
「そんなに発情してるように見えるの?もう。この変態め。」
「変態...う~ん、それ以上を求めてるような気がするのは、僕じゃないんだけどなぁ。」
「そんなこと言っても、体は正直なのよ。あなたは、そういうところが可愛くないし、男だって感じるところよ。あまり好きじゃないところ。」
「そっか、ごめんね。なんか、ワガママでやらせちゃって。」
「私に二言はない。あなたがそう望むのなら、もちろん、やってあげるわよ。その、捨てられたようなネコみたいな目で見るの、本当に愛おしいんだからね。」
「う~ん、自分で自覚がないんだよなぁ。でも、説得力があるなら、ずるくても使おうかな。」
「そう来られたら...敵わないわねぇ。あなたって、つくづく不器用というか、自分の魅力がわからない人なのね。」
あ、この後、無事に裸で抱き合って寝ること出来ましたよ。
下の方は...なんか大人しかったみたい。多分、自覚がないだけで、相当疲れてるか、減退してるかなんだろうなぁ。
別の日。娘が帰ってくるまで、あと2日となった。
今日も定例会は、娘の話題になってしまう。僕らは完全に、親になってしまっているのだろう。
「あ~あ、あと2日でお酒半分かぁ。なんか、惜しい感じね。」
「僕が怒られているうちはいいけど、あの娘が直接君に言い始めたら、もう庇い切れないからね。」
「分かってます。お酒は1日350ml1本。健康面ではいいのかもしれないけど、やっぱり行き場のないものは残るわね。」
「案外ストレス溜まるんだ。なんか、そういう感じに見えないんだけどね。」
「失礼しちゃうわ。さすがに、私だってストレスぐらい溜まりますとも。でも、家に帰れば、あなたが甘やかしてくれるもん。」
「ははは、そうですか...。でも、さすがにストレスが溜まってるって分かるかも。語尾に「もん」って。」
悔しいが、少し笑ってしまった。
「私、女の子。女の子は、永遠に少女の気持ちが持てるの。」
「あははははは...いや、ごめん。散々人のこと、少年みたいな目をしてるとか言うのに、自分も少女がいるって言うんだ。」
「え、何?もしかして、キモい?」
「いやぁ、あなた、やっぱり見た目以上に若いんだなって思ってさ。」
「あー、そうやってなんかバカにしてるでしょ?」
「してないよ。でも、あの娘もそんな感じで、子供扱いされるのを嫌がってたなって。」
「同じに見ないでよ。そうしたら、私、あの娘と同じで、精神年齢が20歳そこそこってことじゃない。」
「いやいや、それはないよ。君は立派に、円熟味のある女性になってますよ。」
「でも、バカにするじゃん。そういうところ、どうして達観した見方になるのよ。」
「そういうところだよ。まるであの娘そっくり。やっぱり、本当に同じ人なんだなって思うよ。」
「でも、こういう馬鹿話してるぐらいが、家族はちょうどいいのかな。」
「そうそう。安心出来るでしょ。自分の居場所がきちんとあって、こうやって向かい合って...あ、そうか。僕は寄りかかられるのか。」
「いい加減、そういうのも卒業させなさいよ。あの娘も、もう今年で22になるんだから。」
「22歳。全然関係ないけど、安倍なつみがモーニング娘。を卒業したのって、確か22歳だった気がするな。」
「卒業ねぇ。あ、そうか、モーヲタやってたんだっけ。」
「在宅だけどね。PVのリッピングとか、10分番組の保存とか、色々やってたな。」
「私は卒業出来ないのよねぇ。やっぱり、radikoで、どんなもんヤは聞いちゃうかな。」
「いいんじゃない。僕も、キンキは好きだしね。面白いじゃん。あのゆるい空気感と、ライブのかっこよさのギャップがいいよ。」
「しまったなぁ。もう、結構前にバレてたのに、あなたは意外と嫌な人よね。」
「え、なんで?」
「いちいち、忘れた頃に色々ぶっ込んでくるところよ。キンキ好きなんて、一生隠れてやってたかったのに。」
「まあまあ、僕みたいに、好きなアーティストを絞らせないように、色々聞いたらいいんじゃない。」
「そうねぇ。あなたの音楽プレイヤー、アレはちょっとカオスすぎて言いようがない。雑多すぎるのよね。」
「雑多というか、好きな曲を入れていくと、そんな感じにならない?まあ、僕は整理が出来ないから、カモフラージュされてるのかもね。」
「にしても、Yesだったり、Earth,Wind & Fireが入ってて、嵐が入ってて、アイドルマスターが入ってるなんて、一体どんな聞き方してるの?」
「そうだなぁ、一期一会みたいなもんだよ。なんかいい曲だなってポケットから取り出したら、全然覚えのない曲だったりするしね。」
「よく、あの娘が貪るように音楽を聞いてるじゃない。あなたの高いっていうイヤホンで。」
「あれなぁ。本音を言うと、あんまり触ってほしくないんだよね。特殊なモノだし。でも、あの娘が最初に聞いたときに、面白い感想だったんだよ。」
「へぇー。どんな感じだったの?」
「出てくる音に、個性があるんだって。これも、あの娘にしかわからない感覚。僕はそこを理屈で説明できちゃうから、感じ方はあの娘のほうが純粋なんだよね。」
「確かに、いい音で一括りにしなかったのはすごいわね。吹奏楽部の財産かしらね。」
「吹奏楽部か。あんまり、いい思い出のない?」
「そうそう。それよ。だから、音出しだって、嫌な作業だとずっと思ってたんだから。」
「これは僕の持論なんだけど、聞いてる音楽に個性があるとすれば、それは聞いてる自分の気持ちがシンクロしてるんじゃないかって思うんだ。例えば、楽しいときに聞く音楽とつらいときに聞く音楽、意味合いが違ってくる。前者は楽しいし、リズムにも乗れる。でも後者は、気持ちを入れ替えようとして、どこか早く聞こえてしまう。そういうことを、僕らは感じてるんじゃないかって思うんだ。」
「それは楽器を奏でるときも一緒だよね。当たり散らすような気持ちだと、音は乱れてしまう。気持ちよく奏でられるときは、リズムに乗った、いい音が出てくる。なるほどなぁ。」
「ね。聞くってことは、色々な意味合いを持つけど、意外と僕らの感情の一部とリンクして、言葉の意味さえ変えてしまう。僕も気をつけないといけない。」
「おっしゃるとおりね。やっぱり、どこかイライラすると、暴言は出やすくなるし、リラックスしていれば、面白い言葉も出てくる。」
「そう、そして、強く思うことで、いい言葉が出る。人間の持っている情報は、全て気持ちにリンクしてる。それが脳からの指令だったりという人もいるけど、僕は、それが気持ちの力なんじゃないかって思ってる。」
「あなたっぽい解説だけど、本当にそういうことなのかもね。的を得てると私は思う。」
「だから、あなたの、「もん」って言葉。アレは本当に、あなたの中の少女の部分が発言したんだろうね。ま、お酒の話を少女がしちゃいけないけどね。」
「...はぁ、一言多いのよね。いい話で終わらせておけばいいのに。」
「そう?なんか、話のオチ的に弱くない?」
「そんなこと考えなくていいのよ。私達が楽しく会話してるだけ。それでいいじゃない。」
「ま、それもそうだね。さて、あの娘はどんな感じで、僕らの前に戻ってくるのやら。」
「楽しみ?」
「そうだね。ほら、会えない時間が、愛育てるとか、そんな歌があったけど、あの娘は100%でぶつかってくるよ。こっちも、気を引き締めないとね。」
「おっかしい。家族が帰ってくるのに、気を引き締めるとか、どんな迎え方よ。」
こんな感じで、夜のおしゃべりは続く。取り留めのないけど、たまに刺さる言葉もある。
でも、これは二人での会話。やっぱりウチは、3人揃ってウダウダと話をしないと、面白くないのかもね。
今日はこの辺で