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Life 66 Another fairy tale for two tonight. 二人でも楽しく暮らせる

「なんか、沼津に行ったのがはるか昔のような気がするわね。」

「え、そう?まだ3日前だよ。今日が月曜日だからじゃない?」

日帰りで弾丸旅行をしてから3日経った。相変わらず、釜揚げしらすは全然減らず、当然アイスは残したままだ。


娘がオーストラリアに行ってから15日。半月が過ぎた。彼女は彼女で、現地を楽しんでいるらしい。休みの日にエアーズロックを見に行ったとか。なんでも、近くに空港があって、そこまで飛行機で行ったらしい。果たして、クレカの残高はクリア出来るのだろうか。でも、親として楽しんでるみたいで、何より。


いつもの時間、定例会である。

僕は、どうもソワソワするという理由で、毎日奥様の髪の毛を乾かしていた。手持ち無沙汰というのもあるんだろうけど、日課として娘の髪の毛を乾かすのに慣れてしまっていたので、今はそれを奥様にやっているというわけ。奥様は今までもたまにやっていたので、それが毎日やってもらえてるのが、すごく助かるという。

「あなたに髪の毛を乾かしてもらってる時って、なんか気分が嬉しくなってくるのよね。」

「そんなに?僕はなんかやらないと、寝る前の仕事ができなくて辛いと言うか。」

「そうね。あなたは、あの娘に甘いから、毎日乾かしてあげてるもんね。今頃、オーストラリアで髪の毛爆発してればいいのに。」

「珍しいね。あの娘を敵視するような発言。」

「だって、私も緩みっぱなしだけど、あなたと二人で暮らすって、こんなに気楽なのかってね。」

「気楽なんだ。まあ、お互い、責任が取れる同士だしね。気楽ってのが少し分かるかも。」

「でしょ?あ、ちょっと、右側の内側が、乾いてない気がする。」

「はいはい。じっとしててね。それにしても、あの娘がいなくなって寂しいと思ってたら、自然と二人で暮らすことに慣れてしまっているというのは。」

「あの娘が帰ってきたときに、居場所があると思うなよってね。」

「別に怒らないけどさ、あんまり聞かれちゃまずいことを喋らないほうがいいよ。帰ってきてから、ボロが出る。あなたは特にね。」

「え、完璧に隠すわよ。そんな心配してるの?」

「違う違う。あなたが緩んでる時ってのは、本能が直結してるというか、ストレートな物言いになる。あの娘も、僕も、割とえぐられたりしてることがあるんだよ。」

「それは気づかなかった。失礼しました。」

「はい、こんなもんかな。相変わらず、今日も僕好み。」

「えへへへ。あなたの好みの奥様ですよ。」

そうやって、左側に寄りかかってくるようになった。娘が帰ってきたら、両方から寄りかかられるのだろうか。


「あっという間って思ってたけど、もう半分なのよね。」

「見方を変えれば、まだ半分。そう言えば、声をしばらく聞いてないね。」

「あっちで楽しくやってるのよね。危険なことは寮暮らしだからできないだろうし、同居人にも気を使ってるのかもね。」

「それならそれでいいんだけどね。まあ、写真を見る限りは、楽しそうだし、ホームシックにはかかってない感じかな。」

「あの娘、あんな感じでホームシックにかかったら、結構面白いわよね。すごく落ち込むのかしら。」

「そう言われてみると、僕と暮らし始めた時から、ホームシックってことにはなったことがない気がする。寂しいって言ってても、あれは僕の気を引くための口上だったんだろうから、本当に寂しい時ってのを体験したことがなかったか、あるいは出張で家を開けてるときに、彼女一人で生活してた時に...それってホームシックなのかな。」

「そんなウサギみたいな性格?案外、本当に寂しいと思ったことは、もう学生の頃に起こってるのよ。」

「一人っ子だけど、鍵っ子だったの?」

「中学まではそうだったわよ。両親とも、会社は小山にあったから、私は高校のときは、小山駅から新幹線で...って、話したっけ?」

「あなたの話としては、初めて聞くかな。」

「そう、だから、実は登校時も下校時も、小山駅からは親と帰ってたの。それが、両親が失踪してからは、やっぱり小山駅まで送ってもらってたけど、宇都宮の予備校に入ってたから、親戚に送り迎えをお願いしてた。純粋に一人になる時って、電車に乗る時だけだったのよね。」

「そうすると、本当に寂しい時代は、中学生の時代かな。」

「まだ働き方がどうとかじゃなくて、残業が美徳な時代だったでしょ?だから、夜は何時に帰ってくるかわからない。そんな中で、一人で待つというのは、正直堪えたわね。ほら、部活も、いいとこ18時ぐらいまでだったじゃない。帰って、2時間ぐらいが、やっぱり一人の時間で辛かったな。」

「僕は、まだ祖母が健在だった時代だし、母親が専業主婦だったから、一人でいる時間がほしかったぐらいだったんだよね。」

「でも、あなたはそんな家庭で育ってきたから、今は自宅で迎える側にちゃんとなってるのよね。私達を寂しくさせたくないってのもあるでしょ?」

「会社が適当に終わってくれるからってのもあるけど、僕は家が好きな引きこもりだからさ。大抵のことは家じゃないと落ち着かないんだよ。あ、でもどっちかと言うと逆閉所恐怖症みたいな感じ?狭くて暗いところにいるのが好きかもしれない。」

「なにそれ。なんとなく、あなたっぽい感じするけど。でも、そういいながら、私達をちゃんと迎えてくれる準備をしているのよね。」

「そんなに嬉しい感じじゃないよ。ただ、みんなで食卓を囲んで、その日あったことを話す。昭和じゃ当たり前だった風景が、僕は一番家族らしいかなって思ってる。」

「サザエさんの食卓みたいなやつね。え、あなたの家って、父親は残業とかはなかったわけ?」

「オトンは一人で夕飯?晩酌?してたよ。大体、巨人戦がTVでかかってる感じ。祖父と祖母はお風呂に入ってるぐらいかな。家事は母親が全てやってるし、今でもおそらくそう。もう令和だってのに、流石に70代後半のオトンは、何もかもが億劫な感じなんだろうね。だから、母親は常に元気。だから、たまに風邪を引いたり、体調不良になったら、もう一大事だったんだよ。」

「素敵な生活だと思うよ。私は、そこのところ、帰ってきても、自分の部屋で本を読んだり、TVを見たり。宿題をしたりしてたかな。まだ、可愛げがあった時代だから、両親が帰ってきて、自分の話が出来ると嬉しい時代よ。可愛い性格よね。」

「で、どんなもんヤ聞いて寝ると。」

「詳しいわね。今はラジコで好きな時間に聞けるけど、あの当時はリアルタイムの10分間だったのよね。」

「だって、多分僕も聞いてたから。知ってるだろ、僕が深夜ラジオをずっと聞いてたこと。そのピークは高校生ぐらいまでだったから。」

「深夜なのかしらね、22時台。」

「子供からしたら深夜だよ。22時は。」

「でも、あなたは基本27時ぐらいまで起きてたんでしょ?」

「よくもまあ、あんな1日4時間の睡眠時間で生きていられたと思うよね。これだから、人間は信じられない生き物だと思うよ。」

「今は、もう無理?」

「体が受け付けないかな。確かに短時間睡眠を繰り返すことで、同じような状況を作り出すことは可能なんだけど、8時間ごとに2時間寝てたら効率が悪いんだよ。」

「でも、あなたはそっちのほうがパフォーマンスは上がりそうよね。短時間睡眠で、うまく仕事の時間と深夜の二重生活できそうじゃない?」

「ありかもしれないね。でも、無理してまでやるものじゃないよ。」


左側の圧が、より強くなった。もっとより掛かってるのかな。

「もしかして、深夜ラジオを聞いてなかったら、私は、あなたに惹かれなかった?」

「どうだろう。僕が意識し始めたのは、中学の塾の時代。その前だと、...やっぱり君に起こされたイメージしかないな。」

「人の縁って、奇妙なものよね。あなたが深夜ラジオを聞いてなかったら、私が寄りかかってる人が違う人だったかもしれないんだもんね。」

「そうなのかな?それより、君が塾に入ってきたからじゃない。」

「それを言うなら、京都で助けてくれた時かも。」

「...すごく不思議なのよね。あなたが好きで好きでたまらないってことはなかったのよ。私。」

「僕はそういう思いをしてましたけど。あの頃は。」

「でも、あなたは結果的に私と一緒にいることを選択してくれた。本当は、もっとふさわしい相手がいたのかもしれないのにね。」

「ふさわしい相手か...まあ、オーストラリアにいるあの娘になるのかな。」

「あなたは、やっぱりどこかクラゲみたいに漂ってる感じがあるものね。私はあまり文句を言えないけど、家族のカタチとして、この形を選んだだけで、本当は、あの娘が、あなたの隣にいるのがふさわしいのかもしれない。でも、あなたのことだから、私の横にも来てしまうのよね。」

「でも、今のあなたとの生活、僕は好きだよ。どこか、気分も若くなるし。」

「そうなのね。私は、てっきりローペースなおしゃべりが好きなのかなと思ってたけど。」

「僕があなたを選んだ理由、前にも話したけど、僕と同じ時代を生きてきたことにある。だから、その時のことを思い出せば、二人とも気分が若くなる。これがいいと思ってる。」

「万能なあなたでも、あの娘が体験しなかった20年を同じ目線で語ることができないって?」

「そういうこと。だから、僕はあの娘にふさわしい相手が現れるのを、ずっと待ってたりするんだけどね。」

「やっぱり、父親以上であって、父親ではないんだ。」

「別に、本人がいいと言うなら、それはそれでいいと思ってるんだけど、流石に僕が先に死んじゃうのが、自然の摂理だ。」

「仮に私達が60歳だとしても、あの娘は40歳だもんね。」

「僕らは20年、あの娘より先を生きてる。この前の話になるんだけど、一緒に歳を取るということは、あの娘も歳を取るということなんだよ。」

「まあ、私みたいな生き方もアリだけどね。問題は、あの娘が本当に愛してる人がそばにいるということ。」

「あまり考えたくないけど、あの娘がある程度の年齢になった時、僕と結婚するってなったら、君はどうする?」

「私はそれでもいいと思ってる。でも本心を言えば、あなたの相手は、私のほうがふさわしいと思う。理由は、あなたと一緒よ。」

「僕もそれでいいと思ってる。何より、僕の気持ちがあなたに向いている。ただ、それが娘を不幸にしちゃうかなって思ってしまう。これは同情だ。」

「私も、あなたも、あの娘が可愛くてしょうがないのよね。だから、あなたはものすごく悩んでる。幸せな悩み。」

「幸せな悩み...う~ん、そんなに優しい言葉で括るのは、やっぱりおかしいよね。歳を取るたびに、僕はどうすれば正解なのか、わからないのが正しい。」

「難しいね。私達だけならって思ったけど、あの娘が私達を再会させたんだもんね。そういう意味で、あの娘に最大限喜んでもらえるのは、どうすればいいんだろうね。」


「でも、あの娘が羨ましいこともあるのよ。あなたにそれほど愛されてるんだなって。」

「そうかな。僕は、あなたのほうがフィーリングが合うよ。」

「そりゃ同世代だからよ。あの娘は、多分オーストラリアでも可愛がられてると思う。そういう娘なのよ。」

「まあ、本来はいない存在だったわけで、もしかしたら、そのおかげで可愛がられる運命にあるのかもしれないよね。」

「それよりも、あなたからの寵愛を得たいわけよ。最近、あの娘よりも、私自身がそう思うようになってしまった。エゴが強くなってきたり、あの娘が羨ましくなったりしたのかな。」

「そうなのか...。あなたも苦しい立場だよね。今はいいけど、あの娘が帰ってきたら、それを争うことになるわけだからね。」

「浮気するなって言わないけど、私もあなたにとって、唯一の存在であってほしいのよ。」

「浮気すると思ってるの。可愛いね。でも、僕はあなた一筋だってわかってるでしょ?」

「そのことを崩すとすれば、やっぱりあの娘なのよ。あなたを、あの娘に取られたくないのも事実なのよ。」

「う~ん、そうなのか。どうしたもんかな。僕は、最大限、あなたに向いているつもりなんだよね。」

「...ごめんなさい。どうかしてた。あの娘と張り合っても、やっぱりあなたは私の元に戻ってくる。知ってて、そう思ってしまった。本当にごめんなさい。」

「いいんだ。心配なんだよね。君が心配になるのがよく分かるし、あの娘は別の意味で、また特別だから。そこは理解してるよね。」

「わかってる。だから、私もなんか必死になってしまった。本当に恥ずかしい。あなたを試すようなことばかりしちゃうなんて、ズルいよね。」

「ただ、僕は意識して接しているわけじゃないんだ。あなたにはあなた。あの娘にはあの娘。そういうスタイルでずっと接してきてるからね。」

「あの娘は、娘でいいのよね。あなたは恋人だけど、娘としての比重が強いのよね。」

「落ち着いて。僕は、君の伴侶だから。落ち着いて欲しい。」

「...ごめんなさい。私、なんかあの娘にあなたを取られたような気がしちゃったの。」

「僕はここにいるでしょ。だから、ね。」

「うん、ごめんなさい。何言ってるんだろうね。私。」

「そういう時もあるよ。君だって、素敵な女性だけど、嫉妬したり、独占欲が生まれたりするのは当たり前だよ。」

「うん、本当にごめんなさい。あなたになぐさめられちゃうなんて、奥様失格ね。」

「何言ってるの。なぐさめるのも僕の役割。君だって、甘えたかったんだよ。」



落ち着いた彼女。でも、こんなことを言ってきた。

「なんか、あなたって、最近本当にあの娘の将来の心配ばっかりよね。たまには離れたほうがいいかもしれないよ。」

「そうかもしれないね。いや、最近、本当に父親の悩みってこういうことなんだなって思ってて、意外と自分でも驚いてるんだ。」

「でも、いいことじゃない。自分の娘のために、どうしたらいいのかを悩んでくれる父親がいる。あの娘が、あなたの娘ってことになってて、私は本当に良かったと思ってる。あなたが父親じゃなかったら、もし、私の本当の父親が生きてたら、娘の将来をどう考えてくれたのかなって思う。」

「僕じゃ返り討ちにあうってやつね。」

「そう。私が今幸せなのは、案外本当の親を亡くしてて、一人で歩いてきて、君を見つけ出したからなのかも。だから、あなたはやっぱり、私達の運命を握った人なのよ。」

「その自覚が出てきたのかな。う~ん、やっぱり、余裕がある程度あると、こう、いらない悩みを見つけて悩んじゃうのは、僕の悪い癖だね。」

「悪い癖じゃないのよ。あなたの優しさが、考える余地を与えてるの。それで、答えを一緒に探していくの。私にも、その役目、少し分けて欲しいな。」

「ま、当面は、あの娘の将来の心配かな。一緒に考えていくしかないけど、結論がある程度本人の中で決まっているのが、やっぱり厄介かな。」

「私達は答えを知ってる。でも、それは絶対に選んではいけない選択肢。あの娘がどう思おうとも、その答えじゃない幸せを掴んでほしいのよね。」

「そうなんだよね。どこまで、あの娘が知らずに違う相手を選んでくれるのか。それとも、一生僕と一緒に生きていくのか。」



答えはとっくに出ている。でも、それは絶対に出来ないこと。禅問答の繰り返しをしていてもしょうがないのはわかっているけど、はっきり言って、娘の心変わりがない限り、僕には答えを出すことが出来ない。だからこそ、考えてしまう。あの娘の幸せを崩すことが、あの娘の幸せになるかもしれないことに、なんとかならないものだろうか。



今回はこの辺で

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