Life 28 Marine Date, Part 1 マリンデート、その1
彼女(奥様)が気仙沼の知人に会いに行き、僕と娘は二人きりで休日を過ごすことになりました。
久しぶりの二人デート
娘からの「海が見たい」というリクエストで、僕は電車での日帰り旅行を提案します。お昼過ぎからの出発なので、遠出はせずに、行きはグリーン車に乗って少し贅沢な旅を楽しみます。
根府川駅での海
僕たちが降りたのは、神奈川県の根府川駅。駅の目の前に広がる海に、娘は驚きと感動を覚えます。この場所は、かつて僕がストレス解消で訪れた思い出の場所でもありました。コンビニでお昼を買い、ごつごつした岩場に座って海を眺めながら、二人きりの時間を満喫します。
夕暮れの帰り道
帰りの電車に乗る頃には、根府川の海に美しい夕日が沈んでいました。僕が「日の入りを見ると物悲しくなる」と話すと、娘は「もっと今日を満喫したいんだよ。終わってほしくないんだよ」と答えます。帰り道、僕は娘が僕の肩にもたれて眠る姿に、いつまでこうしていられるだろうかと考えます。
ファザコン、それでいい
家に帰ると、娘は彼女に電話でデートの報告をします。娘は大学の友人から「ファザコン」と言われていることを明かし、「お父さんが好きなんだからしょうがない」と笑顔で話します。彼女もまた、僕たちのデートを羨ましがっている様子でした。
このデートを通じて、僕と娘は互いの絆を再確認し、彼女も含めた3人の関係が、それぞれの愛の形を認め合う特別なものであることを改めて実感するのでした。
今週末は珍しく彼女がいない。なんでも、気仙沼にいる知り合いに会いに行くそうだ。
世間からみたら晩婚みたいな感じになってしまったけど、それを報告しに行くみたい。ただ、お披露目とかはしたくないんだって。
「オトーサン。久々にどこかへデートに行きませんか?」
「うん、別にいいけど。どうせやることもないし。」
「珍しいね。休みの日は家に籠もってアニメやらゲームやらが日課のような感じなのに。」
「いやね、彼女から、週末は君に尽くしてあげなさいって。」
頬を膨らませて、なんとなく怒ってるアピールをしている娘。
「なんだ、おねえちゃんの差し金かぁ。」
「でも、二人でどこかに行くとか、久しぶりだろ。たまには、どこか連れて行ってあげるよ。」
「唐突なリクエスト、いいですか?」
「いいよ。出来ることならなんでも。」
「海が見たいなぁ。」
「それじゃあ、海を見に行こうか。」
時間はかかるかもしれないけど、どうせ二人旅。現地で1時間も散策すれば、キレイな夕暮れになるだろう。
「え、もしかして、結構簡単にプランを作っちゃった?」
「別の知識があるからね。まあ、詳細に詰める感じじゃないし、行ったもん勝ちみたいなところもある。それに、時間。」
時計を見ると、もうすぐ正午である。彼女はいつも咎めないが、僕と娘の起きる時間は、休日だとそんなもん。だから、どちらにしろ遠出は出来ない。
「泊まりとかも考えてないし、ちょっとしたお出かけかな。荷物は少ないほうがいいかもね。あとスニーカー。」
「うん、じゃ、ちょっと準備するね。」
ベッドルームで準備している娘。出てくると、割と珍しいパンツスタイルだった。
「歩きやすいほうがいいんでしょ?こんなもんじゃない?」
「相変わらず、服の組み合わせのセンスがいいというか。あの人の持ってないセンスだよなあ。」
「え、おねえちゃんもそんなに変わらないでしょ。おねえちゃんは暖色系が好きなんだよね。」
とはいえ、青いブラウスにベージュのようなパンツ。おそらく自分で買って、なんとなく着こなしてるんだよなぁ。
「さ、オトーサン。じゃなくて、今日は君でいいか。早く出かけよう?」
「そうだね。僕もこのままでいいや。どうせそんなに遠くじゃないしね。」
「あ、忘れるところだった。」
白いジャンプマンのキャップ、の最近見てないなあと思ったら、君が持ってたのか。
君のお気に入りだもんね。色々試していたけど、なんかしっくり来る。君のセンスのおかげなのかな。
「これこれ、君とデートする時は、だいたいかぶってたもんね。」
「しかし、だんだんと年季が入ってきてるよなあ。買い替える?」
「やだよ。君のキャップだから、かぶってるんだぞ。」
そうだったっけ。君の不安を和らげるとか、そういう理由だったね。
「ん。」
彼女が手を出してきた。
「うん。」
彼女と手を繋いだ。今だけ、恋人繋ぎ。
「しかし、僕みたいなおじさんと恋人繋ぎって、それでいいの?」
「いいに決まってるじゃん。君だから、いいんだよ。」
田端駅から電車に乗り、まずは上野。ここまでは君でも...多分来られるよね。
ここから、久々に乗り鉄の旅と行こう。ま、行きはちょっと豪華に、グリーン車でも乗ってみるか。休みだし。
「Suicaグリーン券、先に買っておこう。」
彼女のiPhoneもそろそろ年季が入ってきた。けど、本人が不自由じゃないというので、今も使っている。クレカでチャージ出来るようにしてあるから、チャージしてもらった。
「グリーン車って、乗ったことないけど、なんか特別だったりする?」
「そういえば、乗ったことなかったっけ。まあ、座席が豪華かな。とりあえず、ここで乗れば目的地まで一本だから。」
「え、意外と近い?」
「あったりまえだろ。もう13時過ぎだよ。そんなに遠出するわけじゃないって言ってるだろ。」
グリーン車乗車位置で待つ。手は繋いだまま。
「え、これ普通列車だけど、なんか二階建てだよ。すごいね。」
「あれ、普段見てない?栃木に帰る時にも使わないだけで、付いてるよ。グリーン車。」
「そうなんだ。あ、せっかくだから、やっぱり二階ね。」
個人的には平屋の部分が好きだけど、今日の主役は君だから、君のお気に召すままに。
車窓は目まぐるしく変わる。
高層ビル群を、さらに高い高度で駆け抜け、住宅地を疾走する。比較的平地を走る電車だから、グリーン車の二階でも、眺めがいい。
じーっと車窓を見つめている彼女。見たことない景色、行ったことない土地へ行くというワクワクが伝わってくる。
やがて、小田原を過ぎると、列車は山間部に入っていく、小田原から二駅、目的地は、根府川駅だ。
「降りるよ。」
「え、着いたの。」
予想外に小さい駅で降りることに驚いたのか、意外そうな顔をしてる。
「はい、到着。目の前には、何がある?」
「うわぁ。本当に海がある。すごい。なんでこんなところ知ってるの?」
「昔ね。ストレス解消で、なんとなく電車に乗って、行ったことないところへ行くのがブームだった時があってさ。たまたま降りたの。この駅。」
「そうなんだ。君の想い出の場所でもあるんだね。」
「言うほどでもない。ここでぼーっと海を眺めて、なんかつまらないことを考えてた。それで、駅を降りたら自販機しかなくてさw」
「ご飯を食べそこねたんだ。え、じゃあ、ご飯抜きってこと?」
もうすぐ15時ぐらいだろうか。
「せっかくだから、ちょっと下に降りて、海岸線を見に行ってみようか。確か漁港みたいなのがあったはず。」
「食堂とかあったらいいね。」
「まあ、最悪は、ごめん。」
とりあえず、ちょっと文明の利器を使って調べてみよう。あ、海水浴場ってのがある。今の時期でも、海を見るぐらいならいいだろう。
二人で手を繋いで、順路を確認しながら海岸沿いへ。
途中、交通量の多い国道を通って行く。コンビニが目に入った。
「雰囲気なくて悪いんだけどさ、お昼、買っていかない?」
一人なら別に気にしないところだけど、やっぱりその辺、気にしちゃうかな。
「時間も時間だしねぇ。お店がやってないかもしれないから、いいよ。」
二人でコンビニに入って、軽食程度をとりあえず買った。
「もう少しらしいけど、頑張れる?」
「全然大丈夫。君こそ平気?」
「まあ、大丈夫。」
国道から更に下りた場所に、その漁港?なのか海水浴場?なのか、ともかくあった。
ゴツゴツとした石と、港の岸壁には無造作においてあるのように見えるテトラポット。
海水浴場かというと、ちょっと想像とは違った。でも、座ってお昼を食べて、のんびり海を眺めるぐらいは余裕だ。
「海かぁ。私、海水浴って行ったことなかったんだよね。でも、想像してたのは、砂浜のある海水浴場。」
「ま、確かに。海水浴場といえばそうかもだけど、一般のイメージとはちょっと違うかもね。」
「でも、静かですごくいい。」
確かに、岸壁には釣り人が何人かいるぐらい。海岸と呼ばれてるこの場所には、人はほとんどいない。
穏やかな波打ち際。相模湾を一望とまでは行かないけど、海を見て、潮の香りを感じるには、十分過ぎる。
ロマンチックな感じでもないし、ましてコンビニ飯を食べてたし、その辺が雰囲気を壊してる気もするけど。
「海に来た感想は?」
「うん、想像とは違ったけど、来てみるもんだね。これはこれで、すごく新鮮。」
「あまりロマンチックじゃないか。どっちかというと、サスペンスドラマみたいな場所だよね。」
「あ、確かに。でも、海の香がする。本当に、海に来てるんだなって思う。」
本当は日の入りまでいたかったけど、ちょっとさっきの道を戻るとなると、足元が怪しい。
「どうする?できれば明るいうちに、駅まで戻って、帰路に着きたいと思うけど。」
「名残惜しいけど、時間も時間だし、駅に戻ろう。」
そうして、二人で駅に戻って行くことにした。
駅に着くころには、日の入りの時間になっていた。
「綺麗。日の入りも、場所によってはこんなに綺麗に見えるんだね。」
「なんか、僕、日の入りってさ、ちょっと物悲しくなってしまうんだよね。なんでだろうね。」
「君は欲張りなのかも。もっと今日を満喫したいんだよ。終わってほしくないだよ。」
「なるほど。確かに、もう少し、今日を満喫したかったかもね。ちょっと早く起きればよかったかな?」
「でも、東京からそんなに離れてないし、今度は三人で遊びに来たいよね。」
「三人で来るときは、こんなに行き当たりばったりで行動しない。僕らが遅く起きたから、来られた場所だよ。」
「そう考えると、ちょっと複雑な気持ちになるね。でも、来られてよかった。」
いつもの嬉しそうな笑顔。僕からしたら、君が笑ってくれるだけで、どこでも最高の場所になるかな。」
帰りの電車。いつものことだけど、やっぱり寝てしまった。
肩にもたれかかったままだけど、君とこうするのも、いつまで出来るかな。
「着いたよ。乗り換えするよ。」
あっという間に上野駅。どうも、僕も少し寝ていたらしい。まあ、たまのことだからね。
ガチャ
「ただいま~」
「誰かいたら嫌だよなあ。ま、心配はないか。」
「いやぁ、なんか家に帰ってきたら、急に疲れた感じするね。」
「おじさんの言う事だよそれ。相変わらず、君は...もしかして、僕のが移った?」
「そんなことないよ。遠出するなんて、栃木以外ではそんなにないし、今日は結構歩いたしね。」
ニコニコしながら、娘がいつもの位置にもたれかかる。
「ねー。なんか、ちょっと前を思い出せて、嬉しかった。しかも小旅行だったし。」
「そうだね。いままで、旅行とかに行くこともなかったしねぇ。」
「デートで海に行ってきたって、大学の友達に自慢しちゃおう。」
ふと、大学の友人への、僕の立場はどうなっているのか気になった。
「自慢って。友人には、なんて説明してるの?」
「うん、オトーサンと行ってきたって言ってる。おかげで、ファザコン扱いだけどね。」
「恋人とか言ってたらどうしようと思ってたけど、それはそれでどうしたものかな。」
「オトーサンが好きなんだからしょうがないよ。別に、ファザコンは私には褒め言葉かな。」
「...ってことがあったの。楽しかったよ。」
「どうせ部屋でダラダラしてるのかなって思ってたけど、意外とあの人、リクエストには答えるのね。」
「オトーサン、ちょっと前のオトーサンみたいで、またあらためて惚れ直しちゃった。やっぱり大人だね。」
「羨ましいなあ。私も好きで来ている旅行だけど、話聞いてると、あなた達のところへ帰りたくなっちゃうなあ。」
「まあそう言わずに、ゆっくりとしてくるといいよ。また明日もオトーサン借りるね。」
「無茶は言わないようにしてね。あの人、無茶を頑張って聞こうとするタイプだから。そこが心配だわ。」
「大丈夫、私も昔ほど子供じゃないです。それじゃあ、おやすみ。おねえちゃん。」
「電話報告か。なんか言ってた?」
「羨ましがってたかな。それぐらいだった。」
やっぱり羨ましいのか。今度はあの人と、どこか他の場所に行ってみようかな。
ともあれ、今日は僕も楽しかった。機会は減ったけど、色々なところへ行って、想い出を作ってあげたいね。
今日はこの辺で。