Life 58 Holiday with your lover 恋人モード
その日は、なんか不思議な日だった。
奥様は恒例となった、東北への再会旅。珍しく有給を使っていたので、2泊3日だった。ま、あの人が浮気するようなこともないし、ましてこの娘がいるしね。多分色々疲れてたのだと思う。
で、今日は土曜日。娘はバイトが休み。ゆっくり起きて、適当にゲームでもするんだろうなあって思った。
「...て、起きて?」
ううん、もう少し寝かせて欲しいけどなぁ。少し目を開ける。
「うん?」
あれ、娘...だよな。なんか、同じシチュエーションに遭遇したことがある。娘が裸で布団に包まって、こっちを見てる。
「やっと起きた。こんなにいい女が横で寝てるのに、のんきすぎるんだよ。」
「おはよう...う~ん、君さ、なんで裸なの?」
顔が赤くなってるのは分かってるけど、どうも良く分からない。朝から発情してる?
「おねえちゃんに、こうしてあげると、君が喜ぶって。」
「さては、なにか吹き込まれた?」
「う~ん、君との近づき方?」
ああ、そういうこと。つまり、父親ではない、恋人の僕と恋人ごっこしたいってことなのか。
「ところで、恋人ごっこしたいってことは、普通にじゃれ合うだけじゃないけど、それでいいの?」
「今更そこにこだわる?あ、でも、オトーサンだからその辺は合意の上でってことなのか。」
「そ。まあ、一応聞いておくけど。」
「大好きなんだぞ。もちろん合意の上だよ。さ、君と色々やりたい。」
と言ってもなあ、別にやりたいことなんてないんだよなあ。この前、奥様にしたことでもやってやろうか。
「それじゃあ、僕の安定剤になって。」
「へ?」
「簡単。君のぬくもりを感じながら、ただ昼寝するだけ。この前、君がいなかったときに、あの人はやってくれたよ?」
さて、どうするかな?そんなの甘くないって、強引に上に乗って来るだろうか。なんか発情すると、ふたりとも我慢できないみたいだからなあ。
「...しかった?」
「うん?」
「楽しかったって聞いてるの?」
「僕は嬉しかったよ。ほら、大体、こんな朝から裸になっちゃってるとか、一緒に昼寝するために決まってるでしょ?」
「...本当にそんなことしてたの?」
「うん、僕も実際やってみたら気持ちよく眠れたよ。」
「なんか考え方が変態というか...分かった。まったく。君がそんなことをしてたの、やっぱり私にはわからないよ。」
そういうわけで、僕も裸になって、もう一度布団に入った。
「どんな感じで一緒に寝てたの?」
「う~ん、ただ、裸で抱き合ってるだけ。あ、あの時は、なんか、僕泣きつかれて寝ちゃったんだよね。」
「???シチュエーションが全くわからないよ。」
「ごめんね。恋人モードになると、急に甘える感じになっちゃって。」
「うん、私も少し戸惑ってるけど、もういいよ。」
そうして、彼女を抱きしめて、目を瞑る。
「君は、あの人と違って、やっぱり弾力があるよね。瑞々しいというか。」
「そういう比べ方とか、マジで最低なんだけど。でも、君なりの感想だもんね。褒めてくれてるんでしょ?」
「母親に嫉妬?可愛いよ。君は娘にしておくのが、本当はもったいない。」
「ちょっと、息が肌にかかって、ちょっとくすぐったいんだけど。」
「それぐらい近い状態で寝てるんだよ。幸せじゃない?」
「...幸せ。」
「ね。幸せの楽しみ方は色々ある。君はまだダイレクトなことしか知らないんだよ。僕が甘えるついでに、教えてあげるからね。」
「うん。でも、君とだから、起きたらまたゲームでもやろう。君としか出来ないことは、何も体の関係だけじゃないんだよ?」
「じゃあ、夕飯、外食にしてもいい?」
「いいよ。他にリクエストは?」
「外に行くときに手を繋いでくれる?」
「それはいつもだろ。」
「うん、じゃ、私も少し寝るね。起きたほうが、起こすってことでいい?」
「出来れば見守ってて、自然に起きるのが嬉しいんだけどね。」
「分かった。私も、少し落ち着くね。あ、君の匂い、やっぱり好き。すごく安心出来る。」
「だろ。僕も同じだよ。」
「そっかぁ。こうやって、ただ抱き合うだけで、気持ちが落ち着くって、知らなかった。」
「そうそう。君は発情しっぱなしなんだよ。ま、若いからしょうがないよね。」
「もぅ。ずっとエッチなこと考えてるみたいな娘じゃない。私。」
「好きなんだろ。好きの形は色々ある。あの人がそれを持っているように、君も知っていかないとね。」
こうやってなだめてあげた。しかし、朝から全裸になって、運動しようってならないことをわかってほしいよね。
「...う~ん。」
何時だろう?まあ、別に今日は考えなくてもいいんだけど。
横を向いた。可愛い寝顔。あの人は凛々しさがあっても可愛いけど、この娘は可愛さの純度が高いから、見てるだけで甘やかしたくなる。
こりゃ、起きなそうだし、僕ももうひと寝入りしようかな。
そうやって、また彼女を抱きしめなおして、また目を瞑った。
「...起きろ?」
よく聞く声が聞こえてくる。そりゃ、そうだよね。
「ん...?」
「あ、やっと起きた。なんで起こしてくれなかったの?」
はて?と、時計に目をやった。う~ん、16時か。
「僕も寝てたんだよ。すごく安心して、眠れてたんでしょ。」
「そういうもの?」
「そういうものだよ。君もそうだったでしょ?」
「確かに、君に包まれてるって思うと、すごく安心出来たかも。」
「まあ、ほら、俗に言うバブみというやつだよ。」
「え、君って赤ちゃんプレイとかしてるの?」
「バブみについて言ってる?まあ、安心感の強さみたいなものだと思えばいいんじゃない。」
「そんなに、私から安心感って出てた?」
「君も、あの人と同じ。同じって言うとちょっと違うのかもしれないけど、本当に心地よい体温で安心する。」
「そう言われると...やっぱりそうなのかなってぐらいにしか思えないよ。」
「包容力の違いかな?君はまだまだ若い。まだ、僕のほうが包容力が大きいと思う。だから、君は安心してこの時間まで眠れたんだろ?」
「あ、そういうことなのか。」
「理解が早くていいね。君も、僕を包むぐらいには包容力があるよ。」
「なんか、褒められるのがうれしいのか、恥ずかしいのかわからないんだけど。」
「喜んでいいでしょ。別に悪いことじゃない。あとは、誰にでもそれを向けられるようになると、いい女になるよ。」
「う~ん、いい女になるつもりはないんだけどね。君に似合う女の人になりたい。」
「それは...もう十分でしょ。君は、もう僕を置いて行くぐらいに、いい女の人。」
「え、じゃあ、私、もう恋人?」
「今日はそうなんでしょ?だから、そろそろ外食に出かけようか。君の好物を食べに行こう。」
「うんうん、それじゃ、着替える。」
そそくさとベッドから出る彼女。まだまだ明るい日差しが入る時間だ。
「自分の娘に言うのもなんか変かもしれないけど、君の裸は魅力があって、誰にも見せたくない感じがするぐらい、綺麗だね。」
「そうなのかな?でも、おねえちゃんに出るところだけ出てきたって言われる。」
あながち錯覚ではなかったんだな。道理でなんとなく抱き心地が良かったわけだ。
「本当に、君なんだよね。僕が錯覚を見てるわけではないんだよね?」
そうすると、彼女が僕に抱きついて来た。
「これが、私。信じてもらえた?」
「良かった。一瞬、ちょっと怖かったんだよ。ごめん。」
たぶん、この娘がいなくなって、一番ダメになってしまうのは僕だと思う。いくら安心していても、この娘が目の前から消えてしまうのではないかと思ってしまうんだ。
「ねぇ、とんかつでしょ?今日はどこへ連れて行ってくれるのかな。早く行こう。」
「そうだね。着替えて、行くとしようか。」
着替えた僕らは家を出て、田端駅に向かうことに。
「ん?」
彼女が左手を出してきた。
「うん。」
僕は右手を出して繋いであげた。
「だけど、君がそんなに私のこと、好きだって思ってるとは思わなかった。」
「そう?まあ、君は僕の娘じゃなければ、今頃僕と家庭を築いてるかもしれないからね。」
「やっぱり、おねえちゃん?」
「君が恋敵にしてるあの人は、正直君には追いつけないかもしれない。でも、君にしかない良さがあるしね。」
「良さ?」
「なに、大抵の男は、そっちのほうに魅力を感じる。君も、気をつけたほうがいい。」
「私の魅力?あ、またエロいこと考えてたでしょ?」
「でも、それが君の魅力の一つ。自覚しておきなよ。」
御徒町駅
「御徒町駅ってあんまり降りたことない駅かな。」
「君と何処かへ行く時って、大抵秋葉原になりつつあるからね。親としては、嬉しいやら、悲しいやら。」
二木の菓子を横に抜け、その先の大きな通りをわたり、右側にあるのが、とんかつ山家。
「さすがに人気店か。今日は3人待ってる。」
「なんか、シブい感じの外観だね。というか、君はこういう感じが好きなの?」
「え、たまたまじゃない?」
待機列に並ぶ。すぐに店員さんが近づいてくる。
「お二人様ですか。」
「はい、上ロース2つでお願いします。」
店員さんが店内に入っていった。
「さて、カウンターになるか、対面になるか。」
「上ロースかつ?でいいの?」
「恋人に普通の料理を食べさせるわけないだろ。さすがに、そこは僕も分かってるよ。」
ま、恋人の前に、親として美味しいものを食べさせてあげたいって気持ちも強いけどね。
「上ロースかつじゃなくても良かったのに。」
「じゃあ、一つ君に教えてあげよう。初めて来るお店では、一番高いメシを頼むこと。ここは僕が知ってるし、上ロースかつが一番美味しいと感じたんだ。でも、他のお店でも、初めて入ったときには、大体一番高いメニューを頼むと、そのお店がどういうお店かわかる。あ、客を騙してるな、とか、あ、満腹にさせたいんだな、とかね。」
「二名様、御二階にどうぞ。」
「さ、入ろうか。」
実際に店内はこじんまりとしてるが、それにしても良くこれだけ詰めるよなというぐらい、人がいる。
お茶が麦茶に変わっていた。もうすぐ夏になるんだな。
「君も良く来るの?」
「僕は友人がこの近くに住んでるからね。今もだけど、かつやでとんかつ食うならこっちで食うね。」
「え、かつやも十分美味しいじゃん。」
「そうなんだよなぁ。かつやも十分美味しい。だから、たまにかつやに入りたくなるんだよね。」
「でも、敢えてここを選んだということは、それぐらい美味しいってことなんでしょ?」
「ここの上ロースかつ定食は胃もたれしない。それが判断基準だよ。」
「君ってさ、なんかそういうところが年寄りくさいというか。」
「事実を言ったまでだよ。最近、マックですら胃もたれするんだもん。」
そして上ロースかつ定食。
そうそう、この肉厚感。他のとんかつ屋にはない感じ。脂身が少ないのも魅力。
「あ、すみません。塩いただけますか?」
「今お持ちしますね。少々お待ち下さい。」
「塩?」
「僕、ソースが苦手で、塩か醤油でとんかつを食べるんだ。」
「知らなかった。あ、でも言われてみると、なんでも醤油かけて食べてるかも。」
そして一口。
サクっとした衣とあっさり切れていく肉厚の肉。でも、なぜか肉汁というか、油というかそれがしっかりと入っている。
一見すると不思議な感じなんだけど、鉄板焼の分厚いステーキを食べているような感覚に近いだろうか。そこに、塩のアクセントがまたいい。
「ん~~、うまい。」
「んん~~、美味しいね。オトーサン。」
思わず娘が素に戻る美味さ。ちょっと他のとんかつ屋では食べられない気がする。
これにアサリの味噌汁とちょっとした漬物がついている。あ、もちろんとんかつにはキャベツね。
うまいものを出されたら、一心不乱に目の前のうまいものを食べる。これが重要。
「ふ~。完食。」
「美味しかったぁ。こんどは三人で来ようよ。オトーサン。」
「そうだなぁ。でも、君たちはまた上ロースかつなんだろ。僕はさすがにヒレかつにするけどね。」
「そこは三人で...はっ、今日は二人きりだったんだ。」
「気にすることはない。美味しいものをみんなで食べたいって気持ちは、常に持ち続けたほうがいいよ。」
「家庭円満ってやつ?」
「いや、美味しいものをひとりじめしてるおばさんが身近にいるからさ。反面教師ってやつだ。」
あの人はデザートとお酒にだけ卑しいんだよな。それであのスタイルは、やっぱりおかしいと思う。
お会計を済ませ、山家を出た。
「どっか、行きたい場所は?」
「それじゃ、ABAB行っていい?」
「はいはい、100円ショップな。待ってるから、好きに買ってきていいよ。」
とはいえ、100円ショップにあるタブレット台座。これ、iPad Pro 12.9でも倒れないかな。ちょっと欲しいけど、330円なんだよな。
330円に悩むのが情けないところだな。
「意外に悩んでるね?」
「あ、うん。なんか330円になると、人間慎重になるもんだなって。」
すると、彼女が一つ商品を手に取った。
「今日のお礼。色々教えてもらったから、これ、買ってあげる。」
「え、いいよ。だったら、君の分のなにかを買ったほうがいい。」
「じゃあ、私が欲しいから買うよ。で、飽きたら君にあげる。」
「う~ん、ま、それならいいか。」
納得させられてしまうのもアレだけど、ま、この娘が買ってくれたプレゼントだと思えば、それは嬉しい。親としても、恋人としても、大きくなったと感じてしまった。
「楽しかった。ただご飯食べて、買い物しただけなのにね。」
「好きな人と一緒にやることってだけで、楽しいものなんだよ。」
「そうなのかな?でも、君がいうなら、そうなのかもね。」
「分かった?君が考える以上に、いろんなことを一緒にやるのは面白いし、楽しいし、安心するものなんだよ。」
「ま、だからと言って、もちろん、家に帰ったら、いっぱい遊ぶんだもんね。」
「それもそうだね。夜更かししても怒る人もいないし、君は明日バイトは?」
「明日も休みだよ。昼まで寝てられるよね。」
「それじゃあ、たまには夜の部も頑張ってみようかな。」
「と言っても、まずはモンハンだからね。素材集めが先だよ。」
「はいはい。ま、やってみようかね。」
それから、夜中までゲームをした僕らは、その後も二人で仲良くじゃれ合った。
論より証拠というけど、確かにこの娘、出るところが大きくなってるのは、見てくれだけではなかったみたい。
僕もそういうところを見て喜ぶなんて、まだ若いんだなって思っちゃった。
「ハァハァ。意外と、一人だと辛いんだね。私も息が上がってる。」
「普段は二人を相手にしてるから、その点がやっぱり違う。全力で君を相手に出来る。」
「ねぇ、もちろん、シャワー浴びてから寝るよね?」
「シャワーの前に...うーん、ベッド、どうしようか。」
「とりあえずシーツ外して、布団にかかってるところは...ドライヤーで乾かしとく?」
「仕方ない。明日は早起きして、布団を干そう。そうすればバレない...と思う。」
「ま、でもベッドで寝るのは寝るんだ。」
「なに、最悪、こたつがある。まあ、こたつで裸は...さすがになんか違う気がするけど。」
「んふふ、まだ、私の恋人だもんね。ニシシ、シャワー浴びたら、何してもらおうかな。」
「どうせシャワー浴びたら、そのまま寝るだけだよ。そんなに期待しないでよ。」
「じゃ、シャワーも一緒に浴びよう。延長戦ということで。」
「元気だね。水分だけは補給しておいたほうがいいよ。健康があって、楽しく遊ぶんだからね。」
夜明け前、開放された僕は、さすがに眠ることにした。
「アイテテ、さすがに腰が痛い。」
「やりすぎたんじゃないの。若いから何でも出来ると思いすぎだよ。
「そうかもしれない。でも、また一緒に寝るんだから、きっとすぐに回復しちゃうよね。」
「あ...その...べつのほうが元気になったら、それはごめんね。」
「私を見てそうなってくれるなら嬉しいよ。ようやく私の魅力が分かってきた?」
「いやいや、知ってるから。そのうえでの話。ね。」
今日は親子じゃなくて、恋人同士。でも、若い恋人には、まだまだ知らないことがある。
君は素敵な女性になったけど、無邪気な子供みたいなものだ。出来れば知ってほしくないけど、大人のズルさとか上手さみたいなものを分かってくれるといいね。
ひとまず、今日は、一緒にいて、安心出来ることを知ってくれた。それだけ知っていれば十分だろう。もっと、素敵な女性になるといいね。
今日はこの辺で