Append Life 67 A deceitful and cunning way of life ズル賢い大人になるために
オトーサンも、おねえちゃんもそうなんだけど、よくズルい大人になれという。
ズルいことで得はあるのだろうか?まあ、あるからズルい大人って言うんだろうけど。でもズルい大人というのが良くわからない。
「ねぇねぇ、オトーサンさ、よく、私にズルい大人になれっていうじゃん。ズルい必要ってあるのかな?」
「それはいつもの禅問答かな。ま、たしかに、人間正直に生きてたほうが、胸を張って生きていけるなって思うよ。」
「でも、ズルい大人になれっていうじゃん。」
「正確には、ずる賢い女になって欲しいんだよ。ま、一番対極にいそうな娘だからね。君は。」
「え、やっぱり真面目で素直な娘は騙されやすいとか?」
「そういうことじゃない。騙されるのは、知的でないからであって、知恵比べに負けてるってことになるよね。」
「知恵比べ?」
「そう、知恵比べ。あるいは読み合いかな。難しい言葉で説明すると分からなくなりそうだから、少し簡単にしていこうか。」
そうして、iPadにメモしていく。
「例えば、君はりんごが2個欲しい。ところが、りんごは3人に対して3個しか用意できなかった。さて、君の回答は?」
「当然、1個で我慢する。」
「本当なら正解だ。だけど、君は2個持ち帰らなければいけないミッションがあるとする。その場合はどうする?」
「事情を話して、どちらかに我慢してもらうしかないのかな。」
「正直、向いてないな。素直過ぎて、なんだか悪いことをしている気分。」
「だって、他にないじゃん。まさか、1つを2つにするテクニックがあるとか?」
「う~ん、ちょっと違う。まず、りんごを分配するためには、1個単位である必要があるのか?それを確認すべきだよね。」
「ん?だって、1個ずつくれるって言ってるんでしょ?」
「くれるって言ったかな?君は、その時点で情報を素直に受け取りすぎたわけだ。3個しか用意できなかったと言ったんだよ。僕は。」
「つまり、私が2個をもらってもいい状況にあるってこと。」
「ここで、一人一つずつです、って制限が付いた場合は、その通り1個貰えばいいけど、別に個数は言ってない。」
「そんなの、屁理屈じゃん。」
「でも、考えて欲しい。りんごはどうしても2つ必要だという状況になったとき、君は素直に、私に2個分けて欲しいというんじゃないかってね。」
「う~ん、確かに。」
「それは不正解。答えとしては、自分で2個を持ち帰る方法を考えなければいけない。」
「ん......え、なにそれ?」
「そういうことなんだよ。ずる賢い大人になるってこと。例えばの話、このりんごに対して、メタデータ、つまり付随情報を予め知っておく。実はアレは台風で落ちたりんごだからくれるんだ、とかね。」
「それって本当の話?」
「まさにその反応が、疑念を生むわけ。例えば落ちたりんごを3個用意してくれたとして、そのまま食べるにはちと嫌な気がすると。そういう、欺き方もあるってこと。」
「欺くって言ったらいいのかな?だって、良くわからない情報を前情報として用意しておくってことだよ。」
「でも、君のミッションはなんだ?ってことになったら、必ず2個入手しなければならない、できなければ死ねって言われたとする。君は、それでもお人好しを続けるつもりかい?」
「できればそのミッションで死なない方法を考えるよ。」
「そう、死なない方法。それは簡単にりんごを2個入手できればいい。目的のためには手段を選ばないし、常に代替え案を持つ、これで完璧だよ。さあ、自分で答えを考えてみようか。」
「そうなると、まず前情報として、りんごのイメージを落とさなければいけない、そのうえで、りんごを私が2つ確保するには、残り1個を分けてもらうか、3つすべてを私のものにする。」
「ま、実はもっと簡単な方法がある。そもそもりんごを遠慮させる口実を作るということだ。落ちたりんご云々でなく、そもそもりんごは3個ないという前提で話を作っていくということも事実上は可能じゃないかなって思ってる。難しく考えるより、ずる賢くなるには、シンプルな考え方が要求されるんだ。」
「それって、人間の感情にもよるってことだよね。」
「その通り。例えば他の二人の気分を良くさせた上で、りんごを3つもらう方法なんかもあるよね。」
「ずる賢さって、人の感情をミスリードさせろってことなのかな?」
「う~ん、正解とは言えないけど、少なくとも理屈で言いくるめられる大人は、ズルい大人だよ。性善説の中で性悪な性悪説が生きる。正直だった国が、今は嘘ばかりの国になっているからね。君も自衛のために、ある程度そういうことを考えてみるのもいいよ。ま、君にはとっておきの相手がいるじゃない。」
「え、おねえちゃん?」
「そ、あの人は、お酒がかかると冷静な感情がストップする。おねだりしたりするんだったら、そういうときに交換条件ってね。」
「オトーサンは?あ、まあ、自分の弱点なんて教えてくれないか。」
「君には駆け引きできるほど引き出しがあるわけないし、何より、僕の娘はやっぱり素直で真面目なのがいいのかもね。その意味で、ずる賢くなれってね。それが、僕の弱点。」
う~ん、やっぱり、大人になるのは難しい。性格的に、もう少しひねくれてたらなぁ。でも、いつか分かるよね。
読んでいただいてありがとうございました。また今度ね。