Append Life 64 My company is always so noisy. 女子かしまし物語 弐
「あれ、先輩。3回目は本編じゃないんですね。」
「誰に話してるのよ。全く。」
私は今、人事部長見習いをやっている。待遇は部長なのだが、部長は別にいて、実務はその人がやっている。
で、私は人事とはなんぞやという勉強に始まり、現場を見たり、実務を行ってみたり、いわゆる人事部の職員とあんまり変わらない。ただ、これは時限制であり、1年後には、私が正式に人事部長となる。ちなみに今の部長はというと、早期退職でがっぽり退職金をもらい、憧れの田舎暮らしをしたいらしい。田舎で暮らしてた人間からしたら、憧れでもなんでもないけど、隣の芝生は青く見えるのだろうと思ってる。
で、備品係がどうなったかというと、なんと総務部の枠に戻り、いつもの彼女と、新卒の子が担当している。待望の、塩対応が出来る新卒の子。また、この子が普通に見た目が清楚系で、可愛いのよね。いわば、自分で言うのも何だけど、私の系譜の人間が引き継いでくれたわけで、安心している。
でも、結局いつものメンバーでお昼は食べに行くのよね。
備品係の二人。それと私と同時に人事に移動した、去年まで備品係の後輩。こっちも可愛い。私の娘にしたいぐらい可愛い。
「ふたりとも、厄介な仕事から抜けられてよかったと思ってません?」
「あ、私は思ってます。大好きな先輩と一緒に人事に来られて、まだまだ勉強中ですけど。」
「アンタもよかったじゃない。この子、逸材よ。あなたとコンビを組ませておけば、備品係はもう雑談係にはならないわよ。」
「買いかぶり過ぎです、先輩。私は話したくない人と話さないだけなので。」
「結構怖いこと言ってると思いません?ニコニコしながらこんなこと言うんですよ?」
「う~ん、でも、言いたいことは分かるし、それを最初から実践できちゃうってなかなかよ。もしかして、本当に過去に塩対応してたとか?」
「そんなことないです。でも、お客さんを捌くには、そういう輩には付き合ってられなかったというのが本音でして。」
「強いねぇ。いやあ、去年の人事部、大手柄じゃないですか。」
「そうね。まさか、こんな子が入ってくれるなんて、もう、備品係との関係は切っても大丈夫そうね。」
「先輩。そういう言い方よくないですよ。たまたま運良くあてがわれたんですから。ね。」
「でも、私も君が人事部に引っ張られるところまでは予想してなかったんだよね。てっきり、私の下で不慣れな作業をしてもらうと思ってたから。」
「先輩、話してもいいですか?」
「そうね。隠してもしょうがない。実は、私が早速人事権を行使したというわけよ。無理にあの部署においておくと潰れちゃうってね。」
「先輩、私は?」
「アンタは別にいいわよ。絶対に潰れないでしょ?」
「いやいや、もしかしたら簡単に潰れてしまうかも知れないですよ。」
「先輩が潰れたら、備品係がなくなるんじゃないですか。まあ、私はそれでいいですけど。」
「君も備品係でしょうが。あ、実は総務部所属だから安心してるでしょ。私も総務部所属だからね。」
「いえ、そうじゃなくて、そもそも備品係がシステム化されるんじゃないかって話ですよ。」
「あり得る話だわ。このタイミングで総務部とまたくっついた。しかも総務の仕事も兼任になった。場合によっては、備品準備はせずに、完全受注になるのかも。」
「ま、事実、今年から備品配布に関しては、めちゃくちゃ厳しくなりましたからね。ボールペンレベルなら、コンビニで買ったほうが手間がないですよ。」
「全体的な対応数も、去年から減ってます。だから、私と先輩だけでなんとかなっちゃうんでしょうね。」
「だってさ。良かったじゃない。念願の復職よ。」
「復職って言われても、私は総務部の仕事の経験なんてほとんどないですよ。知ってるでしょ?」
「でも、そう言われてると、私も人事部の仕事は知らなかったですから。一緒ですよ。先輩。」
「くそ~。私も弱いフリをしていれば、今頃3人仲良く人事部だったかも。」
「それはないわね。あなたは備品係の係長なんでしょ?いやあ、役職付きよ。嬉しいでしょ。」
「何にも変わってないけど、給料が増えるのはいいですけどね。それだけですよ。」
「いいじゃない、備品係の仕事も減って、在庫管理と補充さえ行っていれば、お金がもらえるなんて、戻りたいレベルだわ。」
「そういうこと言っていいんですか?人事部長にいいつけてやりますよ。」
「なんか、毎回こんな感じですけど、この二人はこんな感じで大丈夫なんですか?」
「もう10年以上の付き合いだから、じゃれ合いみたいなものらしいよ。大丈夫。私達は聞いてるだけで面白いでしょ。」
「先輩もこうやって2年間話を聞いてたんですか?」
「そうかな。でも私はもっとオドオドしてて、二人には迷惑かけっぱなしだったから。あなたは堂々としてて、すごいなあって思うよ。」
「そうですか?備品を渡すのに、時間をかける必要性が全くわからないですから。渡して、あとは帰ってもらうだけですよ。」
「うらやましいな。そういう考え方とか、態度とか、私には出来ないもんなぁ。」
「羨ましいですか?そういう先輩のほうが、私は女の子らしくて、羨ましいです。」
「色々みんな持ってないものがあるもんね。憧れてばっかりじゃ、あんまり意味がないのかもね。」
「そうですよ。自分は自分です。なら、自然体でそっちに流れていったほうが、個性にもなりますしね。」
「ちゃんと考えてるんだね。私はこんな感じだから、個性と言われても。」
「でも、女の子らしいって、個性ですし、大きな武器にもなりますよね。隠し刀はたくさん仕込んでおいたほうがいいじゃないですか。」
「あなたって面白い。そう言われるの、初めてかも。もっと自信を持っていいのかな。」
「先輩は可愛いですから、もっと自信を持ってください。みんなから可愛がられるのも、分かりますよ。」
「だって。アンタの後輩、なかなか良い子じゃない。」
「いや、備品係待望にして、少しもったいない人材ではありますけどね。」
「でも、この子と簡単に打ち解けるって、結構な才能よ。人たらしなところあるんじゃない?」
「私、そんなに誰にも打ち解けてなかったですか?」
「最初はそうだったわよ。でも、色々話してきたから、心を開いてくれたじゃない。」
「そんな感じに捉えられてたんですね。なんか、ごめんなさい。」
「謝らなくてもいいよ。君はそれでも最後には戦力になったし。でも、人事部に行ったのは、ちょっと許せないけどね。」
「それは、ごめんなさい。私もどうすることも出来ないので。」
「どう、コイツと上手くやって行けそう?」
「コイツって、先輩。扱い酷い。」
「問題ないですよ。無駄が嫌いなだけで、先輩は頼りになると思ってますから。」
「聞きましたか先輩。頼りになるですよ。私は頼りになるみたいですよ。」
「アンタが頼りになるの知ってるわよ。ただ、無駄が多いだけで。」
「そうです先輩。無駄が多いんです。私が塩対応をご教授致しましょうか?」
「先輩。私も病みそうです。どっか部署異動頼んでいいですか?」
「ダメよ。あなたは総務部の備品係長だから。重要なお仕事。ね。」
頼もしい後輩が入ってくれたし、私の元には可愛い部下がいる。一時はどうしようかと思ったけど、私達はかしましくやっている。
私はそれで十分。あとは、1年後を見据えて、色々勉強していくしかない。弱気になってもしょうがない。弱気になるなら、ここで話せばいい。
「ところで先輩。私達はまた出番あるんですよね?」
「出番?何の話?」
今日はこんなところかな