Life 54 Be strong for the spoiled ones. 本音と、贖罪と
娘が僕の実家に行ってから4日。火曜日の夜。定例会の時間だ。
「...って感じ。意外とおとーさんも優しいんだよ。」
「そう。お義父さんも大変かな。あんまり迷惑かけない程度に、ワガママ言うのはいいけど。」
「でも、なんか、私のことは娘みたいな感覚って言ってたよ。」
「う~ん、妹と君が若干似てる感じあるのかもね。まあ、君のほうが素直だから、色々やってあげたくなるんだろう。」
「明日は私の食べたいものを夕飯で作ってくれるって。オススメは何?」
「そうだなぁ。大体、カレーか餃子なのかな。それは、他の家とは違うかもね。僕もコピーできないしね。」
「わかった。頼んでみるね。」
「本当に迷惑かけないでよ。あなたのことは信用してるけど、お願いだから、無茶は言わないでね。」
スピーカーで電話をしてたけど、馴染んでるようでなにより。
「しかし、DNAが君と100%一緒なんだよなぁ。それなのに、なんでウチの家庭で馴染んで、娘のポジションにいるのか。」
「不思議なものよね。あの娘の処世術なのかしらね。懐に飛び込んで懐柔されて、仲良くなるって感じ。」
「言われてみれば、コンビニバイトでも、あの娘はすぐ馴染んだし、大学の話は聞かないけど、休みのたびに友達と遊んでるところを見ると、可愛がられるんだろうな。」
「そっかぁ。私も、大学デビューが上手く行ってたら、今頃別の生活になってたのかな。」
「だとしたら、僕は嫌だよ。君と一緒に生活出来なくなってしまいそうだもの。」
彼女は小さなため息をついて、僕と目線を合わせるように姿勢を変えた。
「私は、今の生活で幸せ。あなたが毎日褒めてくれるし、この4日は、ずっと甘えん坊な面を見せてくれる。」
「これが僕の本性だよ。頼りない、本当は寂しがり屋な男なんだよ。」
「何を言ってるのよ。そういうあなたが愛おしいと思うようになってきちゃったんだから。まったく。」
「母性ってやつなのかな。きっと、あなたに出来の悪い息子がいたら、こうしてくれるのかな。」
「ちがう。何より、あなただからこうやって甘やかしたくなる。不思議な魅力というか、母性が働くというか。」
「ダメな旦那でごめん。でも、ダメはダメなりにやってる。それで許してくれるから、僕は救われてる気がする。」
「ううん、あなたがダメ人間だから、私にも責任感が生まれる。お互い、相乗効果があるならいいかな。」
「しかし、一週間ってのは、案外長いって感じるね。」
「どうしたの?やっぱり愛娘に会えないのが、寂しい?」
「う~ん。ある意味、毎日の猛アタックをかわせるだけで、それほどは思っていないんだけどさ。」
「自分でしっかりとした大人になりきれないのかな。」
「そうかも。あの娘がいると、やっぱり親としてのスイッチが入って、それなりの責任感が出るものなんだなって思う。」
「恋人としては?」
「それは、案外ドライな感じ。もちろん、あの娘は、僕のダメな一面を知ってるし、恋人だからと言っても、やっぱり親の感覚が抜けきれない。」
「誤解しちゃうといけないと思うんだけど、私は、実は今の二人の生活、気にいってたりする。それぐらい、あなたと二人だけの生活に憧れてたのかもしれない。」
「お互い、あの娘に隠さなきゃいけない思いを解放してるってことなのかもね。」
「でも、一方で、やっぱりあの娘が生活のメリハリをしっかり付けてくれてるし、何より第三者としての目が最近はついてきて、頼もしくなってる。」
「子供じゃないんだよ。本当に、あの娘は自慢の娘から、一人の立派な女性になってくれた証拠だよ。」
「私は、心配を掛けてしまう人が多い。けど、今は心配を掛けても、仕方ないのかなと思っちゃうところがあるんだよね。」
「それが家族の形なのかもね。もう、他人じゃいられない。だからこそ、あの娘を恋人目線で見てあげる必要が出てくるのかな。」
「...難しいね。家族の形は無数にあるとしても、私達は本当に誰とも悩みを共有出来ない。特に私は、今でもあの娘が私であることに、戸惑うことはあるかな。」
「でも、着実に家族になってる。ま、親としては、本当に僕の変わりになるような恋人を作ってくれることが、どうであれ、あの娘の幸せになると思うけどね。」
「なんか、真面目な話ばかりになっちゃうね。ここのところ、あの娘をどうするべきなのか。やっぱり心配。」
「私は、あの娘とあなたが子供を授かっても、もういいかなって思ってるのよね。でも、本心は、やっぱり私も、人の親になってみたいと思うかな。」
「生まれてくる子供と、娘の年齢差もあるけど、やっぱり子供を授かるには、ふたりとも未熟だと思ってる。でも、未熟だと思っても、時の流れには逆らえない。」
「そうねぇ。私達、今年で42歳だもんね。おまけに私生活も三人で手一杯なところを考えると、どうしてもって決心がつかないの。」
「僕もそれは同じ気持ち。自分で思うけど、あの娘を奇跡的に良い娘に育てられたのは、ひとえにあの娘の努力の賜物だから、僕はなにもすることがなかった。それが悪いわけではないけど、17歳から育てたから、成功したとしか思えないんだよ。」
「ねぇ、一つ、抜け駆けみたいだけど、お願いしていい?」
「僕に出来ることならやるよ。」
「一度だけ、ゴム無しでエッチしてみたいの。もちろん、アフターピルも飲むし、幸い、今の私は安全日の周期に当たっている。」
「それで、あわよくば授かりたいってこと?」
「私の女としてのワガママかな。でも、二人でいるときにしか頼めないのも本当なの。あの娘との約束もある。」
「...最悪、出来た子供は堕ろしてもらうことになるけど、それでもいい?」
「私の負担が大きいのも分かってる。それでも、いい加減、過去とは決別したいの。あなたとの行為で、満足出来れば私はそれで十分なの。」
彼女が夜の生活をねだってきたことは今までなかった。というのも、我が家では、原則3Pが基本で、自宅以外ではそれぞれと二人で行為をすることにはなっているけど、彼女は寄り添ってくれるだけで良かったので、自分自身では、考えていなかった。
「過去との決別というのは、捨てられたってやつのこと?」
「あなたとの行為中に、やっぱり思い出してしまうのよね。あなたがダメというわけではなく、単純に若さがあった時代に、嫌な思い出として持っていることが本当に辛くて。」
「それを僕は払拭出来るのかな?あなたを愛してる以上、あなたの願い事は叶えたいけど、理由がそれなのは、やっぱり嫉妬する。」
それから、しばらく沈黙が続く。性行為というものは、それだけで人生を豊かにする一方で、人を破滅に追い込むことを考えた場合、ネガティブ思考の僕には、どうしても即答することは出来なかった。
心配はしていないが、彼女の前の彼氏という人への、自分の嫉妬心が、彼女を不幸にすることなど、僕には出来ないと思っている。けど、本当に恥ずかしい思いをして、彼女が申し出てくれたことを考えると、応えてあげたい気持ちもある。整理がつかない。
「やっぱり、都合が良すぎるよね。この話は忘れてくれていいよ。」
「僕としては、そうはいかない。今、独占欲と気遣いが必死で戦っているんだ。でも、独占欲とともに、願望が現れているのも確か。だから、君を思いっきり抱いてあげたい気持ちには変わりはないんだよ。だから、本当にそれだけで、君の気持ちの負い目を消せるなら、僕はしてあげたいと思う。」
「...ごめんなさい。贖罪だけで、性行為を求めるなんて、最低かもしれないけど、私が前に進むには、それしかないと思ってる。お願いだから、今、君は思っている気持ちを、そのままぶつけてください。そして、あなただけの伴侶としてください。」
「うん。」
そうして、軽くキスを交わし、僕らはベッドルームに入っていった。明日が仕事だろうが、君の気持ちに素直に応えてあげることにした。
そのころ、僕の実家では、
「心配なんだよなぁ。おねえちゃんも気分の浮き沈みが激しい人だから、私はあの二人が本当に心配。」
「娘なんだから、そういう気遣いはいらないよ。子供にとって、親を信用して、信じてあげることが、二人の幸せになるのよ。」
「おかーさんって、そういうところに言葉の重みがあるね。」
「当然。世話ばかり掛けてた息子が、結婚したわけでしょ。ちゃんと責任感を持ってくれてる。そういう子だから。」
「オトーサンとおねえちゃん、仲良くやってくれてるといいんだけどなぁ。」
「う~ん、心配する気持ちは偉いと思うけど、もっと娘なんだから、心配はしなくていいはず。気楽に考えなさいな。」
「うん。そういうなら、きっと大丈夫だよね。分かった。もっと信用してみるよ。」
「ところで、わたしのことをおかーさんと呼ぶのに、自分の母親をおねえちゃんと呼ぶのが、私は気になるわ。」
「あ、これは本人の希望なんです。いつまでも若く見られたい、意地みたいなものじゃないですか?」
「そうねぇ。あの人は、本当にあなたと変わらない顔をしてるものね。おねえちゃんでもしっくり来るのかもね。」
オトーサン、おねえちゃん、私は心配し過ぎでしょうか。
今日はこの辺で。
聞いてもらって、ありがとうございます。また今度ね。