Life 52 Let the cute little monster play. 三人で歩んだ1年
「え、妹さんの家族と遊びに行くの?」
「うん、呼ばれたから、なんとなくね。」
本心を言えば、あんまり行きたくないけど、妹の家族にはもれなく英語しか喋れない旦那と、言う事をほとんど聞かない子供がいる。
子供の面倒は僕でも見られるし、旦那の相手は娘にやってもらおうということなんだろう。
「どうする?行く?」
「どうしよう。あの子、あんまり私に懐いてなかった感じだし。」
「妹の相手をしてくれるだけでいいよ。それに、多分、僕らも普通に行ったことないところだし、まあ、少しは楽しめるでしょ。」
「行ったことない?どこに行くの?」
「舎人公園だって。僕も未知の世界だね。」
「分かった。遊んだりするのはいいけど、走ったりはしないからね。」
「それは親と若い人の役割だよ。」
娘を見てみる。
「きっと、あの子も私と遊びたがってるよ。いやあ、モテる女はつらいねぇ。」
「多分忘れてるよ。僕も何回も顔合わせしたって、まだおっかなびっくりだからね。あ、でも女性は別なのかな。あいつ。」
「...良く分からない子なのね。まあ、周りも大人ばかりだし、子供の本音とすれば、正直構ってくれれば誰でもいいのかもね。」
当日
「わざわざ家族で来なくても大丈夫だったのに。」
「そういうな妹よ。なんだかんだで、うちにも娘がいるんだから。」
「そういうことですよ、お姉さん。今日は私が面倒見ちゃいますよ。」
「だって。そういうことだから、まあ、ちょいちょい危ないところを見ておいて。
「娘って...もう大きい娘だもんね。頼りにしてる。」
西日暮里駅から舎人公園までは、日暮里・舎人ライナーを使う。
ただですら狭い車内にベビーカー、さらに乗車率も高いせいか、結構混んでいる。
「ベビーカー、タタミマスカ?」
カタコトで聞いてくる旦那さん。妹は
「畳んで。」
案外普通に日本語で喋ってるな。
「オニイサン、ジサクPCハツクリマスカ?」
「うん、昔は作ってた。」
「Yes, I used to make it.」
娘が僕の翻訳をしてくれている。あってるのか?
「でも10年前に辞めちゃった。メンテナンス値段が高くて。」
「But I quit 10 years ago. Maintenance prices were too high.」
「Oh.It's hard to make it on a budget.」
「なかなか予算がなくて作れないって。」
「すごい。いつの間にこんなにネイティブスピーカーになったの?」
「いつの間にか?元々英語は苦手じゃなかったし。あとは、コンビニの影響が大きいかな。」
「一度聞いてみたかったんだけど、あのコンビニって何カ国の人が働いてるの?」
「6カ国かな。中国や韓国の方はもちろん、インドとかベトナムとかタイの人もいる。あ、だからだね。英語はある程度みんな喋れるし。」
「それでカタコトの日本語まで喋れるんだから、やっぱり好きで来てるんだろうかな。」
ふと、横を見ると、彼女が固まっている。
「どうしたの?高いところがダメ?」
「うん、なんとなく乗っちゃえば大丈夫かなって思ってたけど、なんか電車って感じじゃないからなのかな。」
「そんなに心配しなくていいよ。まあ、帰りも乗るけどね。」
「なんか他に帰る手段、ないの?」
「バスがあるけど、西日暮里まで行かないんじゃないかな。」
「...我慢する。手を握ってて。」
「はいはい。困ったお嬢様だこと。」
そんな感じで着いた。舎人公園。意外と大きな公園で驚いた。
「で、おにいたちはどうする?」
「う~ん、うちの娘を差し出すから、ちょっと売店で話でもしてる。飽きたら、戻ってくるといいよ。」
「オニイサン、コナインデスカ?」
「さすがにちょっと子供の相手はもう無理かな。そういうのは、若い人の役目。」
「おにい、こない?」
「そうだね。変わりに、お姉ちゃんが遊んでくれるから。お腹が空いたら、戻っておいで。」
「うん、おなかへったら、もどる。」
頭を撫でてあげる。
「いい子だね。周りには気をつけてね。」
「さ、じゃあ、お姉ちゃんと行こうか。」
「やだ、ママがいい。」
「そこは、やっぱり育ての親よね。」
「それじゃあ、なんかあったらLINEでもしてきて。」
「はい。それじゃ、行くよ。」
「いくよ!」
「イッテキマス。」
「一応ちゃんと見ておいて欲しい。どこに行くか分からないし、水辺もあるから、とにかく連れて行かないようにしてね。」
「分かってる。見られなかったら、私が付いていく意味ないよ。」
「そうだね。若さと体力は頼りにしてる。」
「なんかバカにされた気分。じゃ、行ってくるね。」
そうやって、4人は公園の方へ行った。
「ずるいんだな。そうやって、実は娘だけ働かせるなんて。」
「そう?僕にとって、妹の子供は、僕の子みたいなものだからね。それに、あの娘も疑似とはいえ、子供の相手ができる。」
「でも、自分は動かないって。体力がないわけじゃないのに、なにかダメなことでもあるの?」
「あなたの相手。あなたは一人でもなんとなく過ごせるんだろうけど、たまには、二人で外で話すのもいいかなって。」
「喫茶店でも、家でもいいけど、屋外っていうのも、たまにはいいのかもね。」
レストハウスみたいなところがあった。二人でファミリー席を占領するのもどうかと思ったけど、まあ、どうせあとで4人帰ってくるし、別にいいだろう。
「はい。この時期だから、まだホットのほうがいいかな。」
「うん、ありがとう。でも、暖かくなってきたから、アイスのほうが良かったかな、なんて。」
「まだこの時期だと、アイスは冷えるよ。それに、暖かいものは、気分も暖かくしてくれる。たぶんね。」
「それにしても、1年があっという間だった気がする。」
「君もそう思う?僕もそう思った。なんか、誕生日で泣いてたのが、この前のような気がするよ。」
「色々あったものねぇ。私にも、あの娘にも。当然、あなたにも。」
「まさか、倒れちゃうとはね。本当にごめんなさい。あのときは迷惑を掛けました。」
「ううん、無事だったし、何よりあの娘があんなに頼もしく感じられたのも嬉しかった。」
「最近、あの娘にやられてばっかりというか、普通の良い娘じゃなくなってきたのが嬉しいよ。」
「私達のダメなところをしっかり注意してくれるし、仲裁もしてくれるようになった。やっぱり、あの娘が生活の中心になってきてるかな。私達。」
「まあ、親はなかなか変わらないもんなぁ。しょうがないとは言うけどね。」
「私達、案外衝突はしないけど、ふたりともズボラなところがあるからね。そこを押さえてくれるようになって、嬉しいかな。」
「そう。あの娘がしっかりしていれば、僕らの生活も安泰。でも、数年と持たないだろうなあ。」
「朝が弱いぐらい?しかし、大本は私なのに、朝が弱かったり、行動が似てきたり、やっぱり育ての親の方に似るのかしらね。」
「そこは僕が自由に育てたせいかもね。ハレンチな格好でウロウロしたりするのも、僕が注意しなかったせいだし。」
「あ、それは訂正。私も、一緒に暮らすようになって、パジャマにしたの。それまでは、やっぱり、あなたのいうハレンチな格好だったかな。」
「あんまり人のこと言えないけど、君のハレンチな姿って、やっぱり生々しいよね。誰にも見せられないというか。」
「私は、君に見せるぐらいなら全然いいんだけどね。たまにそういう日、作ろうかしらね。面白そうかな。」
「夜の生活も、これで安泰って。まあ、そう上手く行くといいんだけどね。」
「しかし、それを聞いてると思うんだけど、僕はちゃんとあなたの旦那さんとしてる?」
「何、自信がないって?いつものことなのかもしれないけど。」
「僕の一方的な思い込みだったら申し訳ないんだけどさ、不安はあるのよ。毎日と行かないまでも、今、こうしてるときも、僕はちゃんと並び立っているのかなってね。」
「私の旦那様は、不器用で、何を考えてるか良く分からないし、いうなれば社会不適合者に近いと思ってる。」
「結構えぐられるような言葉を言ってくるなあ。」
「でもね、そんなことは知ってる。知ってる上で、横にいて欲しい人かな。他の人に言われようとも、あなたの良さは、優しすぎるところ、甘すぎるところなのよ。」
「そんなものなんですか。」
「そう。逆に、私のことはどう思ってるの?」
「器量もいいし、しっかりしてる。まあ、多少家事が出来ないことがあったり、酒浸りになったりすることはあるけど、君の横にいられることが、僕には光栄だと思うよ。」
「そういうことだぞ。自信を常に持てとは言わないけど、あなたはあなたなりに、私に寄り添ってくれてる。だから、私もあなたに寄り添うようにしてる。お互い、支え合って、生活出来てるのかな。」
「僕は、あなたを支えられる存在になってる?」
「もちろん。あなたなしでは、もうどうやって生活してたかも忘れてしまったぐらい、共依存しちゃってる。それに、あなたが出来る子だって言うのも私が一番...か2番めに知ってるしね。
「あの娘への配慮?」
「やっぱり、あの娘のストレートな愛情表現には、負けちゃうかなって同じ女性目線では思ってしまう。若さもあるけど、素直なのは、大きな武器かな。私が一番であって欲しいけど、あの娘なら、しょうがないかなと思うところもあるのよね。」
「ちょっと複雑に思ってることがある。」
「どうしたの?急にあらたまって。」
「うん、ずっと前から、どうするべきなのかなと思ってるんだけど、あの娘をどうするべきなのかなって。」
「私もね。それはちょっと考えてた。私達の娘でもないけど、私自身なのがすごく複雑なのよね。」
「彼女が一番幸せなのは、多分僕と結婚して、子供を産んで、家庭を作ることなんだと思うんだ。夢に見てるぐらいだしね。」
「そうね。本当は、なのよね。でも、私という存在が、それをすべて阻んでいると。」
「でも、僕にとって、あなたじゃないとダメなのは分かってる。あの娘とは、やっぱり感性の違いとか、若さに対してね。僕が気後れしてしまうんだ。」
「あの娘は本当に明るい。眩しいくらい若さが溢れてるのよね。だから、私達が隠している必要がないと思うのよね。共学校だったら、あの娘には男が寄ってくるレベルよ。」
「まさか、親父に言われたことが本当になりそう。」
「なにそれ?」
「いや、娘をやるから殴らせてくれ的な?」
「度胸ないでしょ。優しいくせに。」
「そうかな。まあ、でも、あの娘がいつか離れていくっていう想像がどうしても出来ないんだよね。」
「あなたの本音。本当は離れていかないと思ってるでしょ。」
「親としての僕は一人立ちをして欲しい。けど、あの娘の恋人としては、やっぱりね。」
「離れて欲しくないって?」
「そう思っちゃうよね。やっぱり子供なんだけどさ、恋人に見えちゃうんだよね。その辺が良くない。」
「あなたって、昔からそうなのかもしれないけど、意外と愛着と未練を持っちゃうタイプかな。」
「うん、それはあるね。僕が変なところにこだわりがあるのって、おそらくは愛着があるものばかりなんだよね。当然、手放したくない。でも、手放さないといけないと、やっぱり未練が残る。」
「でも、あの娘は人なのよね。愛情が湧いて、あの娘のことが好きであっても、あの娘にはあの娘の意思がある。ま、でも、それが一番厄介だったりするかなって気がするわ。」
「いっそ、社会人になったら、一人暮らしでもさせてみる?」
「すると思う?毎日押しかけて、ご飯食べて帰るわよ。それこそ、あのマンションの別の部屋にでも部屋借りるかもよ。」
「僕らのことが好きなのは知ってるし、僕らしか事情がわからない。だけど、僕らがいなくなったあと、あの娘はどうなるのだろうと。」
「まだ早いとは思うけど、あなたはそうも言ってられないし、私もどうなるかわからないのよね。」
「お互い、40代だってよ。年齢じゃないなと思うけど、君は本当に歳を取ってるのかな?」
「自覚はしてますけど、私だって戸籍上は41歳。あなたの同級生です。あなたがおじさんになってるけど、私だって、中身はおばさんなんだからね。」
「やっぱり、お酒は美味しい?」
「そりゃあ、楽しんで飲むお酒はね。この前みたいにお酒で忘れたいっていうことよりは、全然美味しいかな。」
「そうだよね。僕は、君が大切だと言ってる反面、自己責任で色々やって欲しいからさ。お酒を止めることが出来なかったんだよ。」
「知ってる。でも、あの娘がそこをしっかり心配してくれた。実は厳しいよね。あの娘。」
「好きだから、なのかもね。僕は男だけど、あの娘がしっかり怒ってくれることに、嬉しかったんだよね。僕は弱いから。」
「あなたが優しいことも知ってるし、押しに弱いのも知ってる。普段はちょっと頼りないものね。だから、あの娘がそこをカバーできる。やっぱり、あなた達は上手いことカバーしあえる関係なんだよね。」
「君とは、同じ時を歩んで欲しい伴侶だとずっと思ってるんだけど、どっちがいいのか、僕も分からなくなってしまっているんだよ。君の旦那がこんなことを考えるって、やっぱりおかしいと思うんだよね。」
「普通はね。だって、浮気だもの。だけど、あの娘との関係は私達3人でも難しい問題。不問にしてるとはいえ、やっぱり私が選ばれないのは、ちょっとさみしいかなって思うかな。でも不思議と許せちゃう。この感情をどう処理すればいいのか、私も良く分かってないのよね。だから、我慢しつつ、二人の時間も作ってもらって、なんとかバランスを保ってると思うの。」
「ごめんなさい。だけど、僕はそんなに器用に立ち回れないんだよね。だから、君を待たせてしまうこともあるし、君にだけ甘いときもある。君は本当にそれで幸せなのかな?」
「ふふっ、いじめ過ぎたかな。大丈夫。私も、あの娘に自分を重ねて見ちゃうのよね。あの娘の幸せが、私の幸せでもあると思ってる。それに、私だけの幸せもちゃんと与えてくれる。それで私は幸せかな。確かに、あなたを愛してると思っているけど、不思議と、あの娘と3人でいるのが、居心地がいいのよね。あなたと二人だったら、もう少しギスギスしてると思うのよ。だから、ね。」
「お互い、依存関係にあるんだよなあ。子離れってどうやったらいいんだろうね。」
「もう少し、この関係を楽しむのがいいんじゃない。それで、あの娘が家を出たいと言い出したら、その時は考えよう。」
「おにぃ~~!」
大きな声でちびっこがやってきた。本当にウロウロして遊んだんだろう。僕を呼ぶぐらいだから、本当にお腹が減ってるんだろう。
「お帰り。楽しかったかい?」
「おなかへった。なんかかって。」
「お行儀は良くないけど、おなかへったなら、お母さんと少し待っててね。」
妹と娘、それとベビーカーを推しながら旦那さんが帰ってきた。
「お姉さん、良く体力続きますよね。」
「子育てって大変でしょ?体力付けといたほうがいいよ。」
また仲良くなっとる。まあ、この娘は人懐っこいんだろう。色々相手にさせる気になる。
「お帰り。ぼっちゃんはもう座席に座ってるよ。」
「おにい、悪いんだけど、なんか適当な食べ物を買ってきて。お菓子でもいいよ。」
「あと、飲み物な。ごめん。あなた、ちょっと手伝って。」
「分かった。もう少し、良い子で待ってるんだよ。」
妹の子の頭を撫でてた。こいつ、多分女性に褒められるならなんでもいいんだな。
とりあえず、おやつの時間だし、フライドポテトを2つ、それとアイスコーヒーをいくつか買っていった。
「ほれ、君の大好きなフライドポテトだよ。」
「たべていい?」
「いいよ。最初になんて言うんだっけ?」
「いただきます。」
「はい、それじゃ、好きなだけ食べていいよ。」
「アイスコーヒーで良かった?」
「あ、おにい、ごめん。あとで払うね。」
「オニイサン、アリガトウゴザイマス。」
「君も、お疲れさん。」
「あ、ありがとう。お、ポテトもあるじゃん。」
「君も子供か。まあ、いいよ。2パックあるから、もう1パック食べてもいいよ。」
「じゃあ、いただきます。ありがとね。」
「元気でなにより。やっぱり、この娘は元気じゃないとね。」
「え、元気だよ。元気じゃないと、この子とやってられないよ。」
「ふふっ、少しは、母親の苦労が分かった?」
「3歳でこれでしょ?生まれたばかりってどうなるんだろうね。」
「生まれたばかりは、寝不足で大変だったよ。ずっと見張ってるような感じ。」
「そうなんですね。私も本格的に子育てしたことなかったから、参考になります。」
「ん、連れ子じゃないけど、子育てしてない?どういうこと?」
「ごめん、ちょっと複雑な事情があって、今、この娘を育ててるみたいな感じなのかな。」
「逆に、二十歳ぐらいで出産とか経験すると、後が怖くなさそうだよね。」
「そういうものなの?」
「私は30半ばで出産したから、その時点で結構ハンデじゃない。体力的な部分。もし、20歳に出産出来たら、少しは楽だったかなあって。」
「私、21歳ですけど、すごく憧れる。」
「憧れるだけじゃ、やっぱり出産って厳しいかもね。授かりものとは言えど、それ相応の覚悟もいるし、思い通りに生まれるわけでもないしね。」
「君の場合、相手を探さないとダメだろ。そこから考えないと。」
すると、妹の旦那さんに、
「Are there cooler guys in England?」
「Of course there are. But not if you like it or not.」
「好みかどうかは別だってさ。」
「イギリスなんかに行ってみたら、君はまだまだ少女だよ。日本人は元々幼く見えるらしいしね。」
「確かに、オトーサン以外なら、外国人ってカッコいいかも。」
「あら、珍しいわね。でも彼氏が外国人だと、親は少しコミュニケーションに困っちゃうのよねえ。」
「あ~、うちの人は、本当に日本語が上達しないんだよね。なんでなんだろう。」
そりゃ、妹の君が通訳しちゃうからだと言ってやりたい。いや、今は娘も行けてしまうのか。
「静かだね。」
「ひとりで黙々と食べてるからね。」
妹の子は、両手でフライドポテトを手づかみしながらどんどん口に運んでいる。大人5人で1パック、子供が一人で1パック。本当に、メシを食わしてもらってるのだろうか。
「手がかからない時はかわいいんだよね。」
大人がニコニコしながら見てる先が、子供の食べてるシーンというのもなんだかなあって思うけど、自分の子じゃなくても、やっぱり可愛いもんなんだな。
「おにい、たべる?」
「いいの?んじゃ食べる。」
そんなに食べたそうに見てたかな。まあ、俺のお金で買ったポテトだし、別にいいだろう。
「おいち~?」
「美味しいなこれ。あれ、僕こんなの一人で食べさせてたの。」
今更ながらに気づいたが、久々にジャンクフード食べたから、すごく美味しく感じる。
と、大人組のポテトはもうなくなっとる。これはこれで美味しい証拠だな。
「ごめんな。ちょっとポテトもらうね。」
「あげる。たべる。」
ついに3歳に慰められることになってしまうとはなあ。でも、ポテト美味しいんだからしょうがない。
3歳児がポテトを食べ尽くし、ぐったりとした大人が3人、時刻は16時を過ぎたあたり。春とはいえ、20度ぐらいになると、やっぱり暑いと感じる。
「どうする?」
「もう、どうせ寝るだけだし、そろそろ帰ろうか。」
妹が帰ると言ったので、全員その意見に賛成ということにした。
日暮里舎人ライナーに乗って帰ろうということになったが、3歳児はここでもやってくれた。
自動運転システムで運行しているので、車両の前面にも座席がついているのだが、先に乗っていた初老の女性の方の隣の席に、ちゃっかり座っているのである。
焦る妹。やや遠目にみて度胸があるなと感心する僕。だけど、女性の方に妹が謝りに行くと、席を譲って、別の席に移動してくれた。あとは、妹と子供がノリノリで前面展望を楽しむような感じになっていた。
「やっぱり、こんな高いところを、こんな小さい乗り物が動いてるのがおかしいのよ。」
と、ビビってしまっている奥様。そんなに高いところか?と思ったけど、たしかに扇大橋あたりは高いところを、曲がりながら上がっていく感じなので、それも分からなくもない。
ともすれば、時刻は17時前ぐらい。日暮里駅に到着。
「今日は色々ありがとうね。」
「いや、まあ、こっちも色々面白かった。元気に遊んで、元気に食べてるのを見て、安心したよ。」
「オニイサン、マタアイマショウ。」
「うん、そっちも元気で。お金ためておけよ。」
そして娘は妹の子とお別れの挨拶。
「また遊ぼうね。バイバイ。」
「うん、バイバイ。」
多分、彼の記憶の中から、また娘は消されてしまうだろう。僕だって怪しいところだ。
「それじゃあ、またそのうち。」
「誕生日のお祝いには来てよね。せっかくなんだから。」
「考えとくよ。」
そうやって、別れた。そういえば、3歳でもずっとベビーカーに乗ってるのが、意外と不思議なんだが、そんなものなのだろうか。
「さ、じゃあ、僕は喫茶店にでも寄って、ご飯でも食べようかな。結局ポテトもそんなに食べられなかったし。」
「そうね。夕飯には少し早いけど、いつものところでしょ?あそこ、ケーキがあれば完璧なのよね。」
「おねえちゃんにはビールがあるじゃん。ま、と言っても、この時間にお酒は良くないね。」
「後生ですから~、1杯だけ、ね。お願い。」
「1杯だけだからね。飲んだら、家で飲むのはダメだよ。」
「はーい、分かりましたよ。」
考えてみたら、彼女は今日僕と座って話してただけなのに、なにかストレスをかけることをしたんだろうか。まあいいや。
「それじゃあ、行きましょうか。」
僕がそう言うと、三人でお店に向かった。
今日はこの辺で