Life 51 Still, the world is turning. やりたくない仕事
新年度。
去年は娘の入学式というイベントがあったけど、今年も無事娘は進級できたみたい。
そして、奥様はというと、なぜか会社で人事部長になった。人事部長見習いなのだそうで、待遇面では改善されつつも、一から人事部の仕事を覚えているらしい。ちなみに、そのめちゃくちゃ人事の結果、備品係は総務部に統合となったらしい。
僕は、相変わらずというか、なんか良く分からない仕事をしている。
「PCがフリーズしてるんだけど、これなんとかならない?」
「フリーズする前になにをやってました?それによって対処が変わりますけど。」
「ええっ、もしかして、フリーズしたままになっちゃうとかありえる?」
大体、今の時代のPCでフリーズすることなんてあるのかよって思う。Windows10でフリーズなんて、ここ数年僕は見たことないんだけど。
「まあ、あるんじゃないですかね。なに作ってたか知りませんけど、保存はマメにしておいたほうがいいですよ。」
30人ぐらいの零細企業の専属社内SEなんていう仕事、普通にラッキーだったと思う。PCパーツの問屋といえばいいんだろうか。まあ、カタコト系もいる。
SEというが、実質的なIT事務みたいなもので、PCを使えない人の変わりに僕らが書類を作り、ある時はネットが遅いと言われてルーターを再起動したと思ったら、Netflixを見てるやつがいて文句を言われたり、挙げ句、PC購入の斡旋なんかをしたり。
大体、PC購入の斡旋なんて、僕が某社の法人向け価格や、プレミアム会員だからできるだけで、僕はまったく美味しくない。そしてその個人的に購入されたPCは、会社の経費から落ちている。
さすがに俺も腹が立ち、社長にブラックな経費の流れを告発しない変わりに、好きなPCを要求した。なので、自宅のPCとほぼ変わらないスペックのノートPCを使って色々している。やっぱり4Kディスプレイは便利よ。
「で、その無茶ぶりのせいで、今日もご飯抜きって話か。」
「まあ、僕はこの体型だから、少しはご飯抜いても大丈夫なんだよ。君らもあんまり僕とつるんでても、いい事ないだろ?」
「いい事はないですけど、悪いこともないですよ。じゃ、俺がエナドリでも買ってきて、英気を養わせてあげましょうか。」
「買ってくるならカロリーオフね。」
「分かってますよ。可愛い奥様と娘さんがいるもんね。」
同僚とはからかいあいながら仕事をしてる。こいつのおかげで、僕が何度この会社を辞めようと、辞められなかったことか。
「で、そのExcelって、どうしたの?まさか、適当に表を載せて資料にしちゃったわけ?」
「出来ないことを頼むあっちが悪い。俺がなんでもできるって言うなら、なんでもできるような資料の元が欲しいね。」
「そんなもん、見込みでいいんだよ。どうせバレないんだから。」
「見込みって、それこそ危ない橋を渡るようなもんですよ。100%下方修正でしょ。」
奥様の会社も大概ブラックなホワイト企業なのだが、ウチは正真正銘のブラック企業。営業が10人いて、まともに仕事を取れるようなやつがいない。いや、そもそも相手にされない。日本のニーズなぞ汲み取れる人間がいない。
まあ、PCパーツの問屋なんてもんは薄利多売だし、仕入れルートを拡大するにも、どうしても直輸入品を扱う必要もあり、そういう製品は、日本にはニーズがない。だからいい商品があっても、受注にはならないのだ。
幸いにして、落ち着いてはいるものの、今はゲーミング需要もあり、組み込み向けのパーツにウチの独自の保証を付けて売っている。不良率も半端ないが、それを片付けてもまだ利益が出てるのだから、吹っかけてるとしか思えない。
「こりゃ、真面目に社長を脅して、海外スマホの輸入部門でも立ち上げたほうがいいんじゃない?」
「例のゲーミング的なやつ?大体、保証はどうするんよ?」
「んなもん、優秀な本国の人達がEMSでやり取りすればいい。レスポンス悪いけど、常に3台ぐらい抱えとけば、1台不良が出ても、十分問題ないレベルだろ。」
「まあ、そういうのもイオシスとかやってるけど、あれも一週間保証なんでしょ。ウチも逃げ切っちゃえばいいんじゃない。」
「...逃げ切るって発想が出た時点でダメだな。真面目に資料作ってけしかけてやるほうが、よほど僕ららしいよな。」
「同感。せっかく本国の人達がいるんだから、旅行者向けにプリペイドSIMサービスでもやったほうが儲かるんじゃない?」
「その回線はどこから仕入れるんだよ?法人格があるとはいえ、うちに1000枚単位で回線を買い取る力があるのか?」
「いや、ないな。」
「夢はあるけど、予算はないよ。」
「だったら、中古PC事業は?」
「それこそシェアだけで何%取れる?もう、今頃は流通ルートも確立した業者ばかりで、日本じゃ廃棄PCですら、家庭用のゴミぐらいでしか見ないレベルだよ。」
「法人向けって美味しいんじゃないの?」
「そういうところは、もうとっくの昔から処理してるルートがあるの。まさか、そういうところから仕入れでもするのか?」
「...八方塞がりだね。俺も次を考えるほうがいいのかな?」
「お前が次を考えるなら、僕も連れて行ってくれ。副社長のポストでいい。」
「独立ですか?そんな資金あったら、こんなところで働いてないわ。」
「同感だね。ま、そういうレベルで雑談してるってことは、先は長くないよ。」
「はい、例のパワポの資料。これ本当にスペック合ってる?ヤバいと思うけど、それ以上ネットで検索しても資料出てこなかったから、ウチにメーカーから来てる資料からでっちあげたけど。」
「それでいいんじゃないですか?これだけ書いてあれば、売るほうとしてはやれると思うよ。」
まあ、どうせ惨敗だろう。あるあるだけど、この業界において、実物ですら信用が出来ないものも多数ある。リネームはする、ファームは書き換える、印字すら間違っている。それを、紙ぺら一枚のPPの資料で行けると思うあたり、ウチの営業は有能としか言いようがない。あ、皮肉だよ。
とはいえ、こんなブラック企業でも、本国の人が時間までしか働かないこともあり、僕らも定時を要求されているので、適当に終わらせたら、役所の終了5分前みたいな状態でただ雑誌やスマホをいじってるだけである。
「で、今はアイプラがブームだと。」
「いやあ、アイプラはいいよ。僕もなにがいいのか良く分からんけど、アニメからゲームへの落とし込みがうまかったと思う。」
「プロデューサー業は辞めたわけ?」
「兼任という感じ。まあ、やると面白いんよ。こっちはこっちで。」
「またまたぁ、あれだけ、しぶりんだ、冬優子だと言ってるようなプロデューサーが、アイプラでマネージャーやってていいわけ?」
「まあ、ブームはあるよ。色々じっくりやっていけばいいだけだから。」
「そういうもんかね。俺は俺で、じっくりウマ娘やっていくよ。」
「しかし、結婚して、娘さんいるんだもんな。分からんもんだよね。」
「そうねぇ。別に諦めてたわけでもないけど、転がり込んできたチャンスだし。」
「とはいえ、見分けつかなかったけど、あれは本物なんだよね。」
「本物。あれで僕はたっぷり絞られた。普段の見分け方なんて、その人の空気でしか判断出来ないよ。」
「愛の力ってやつ?まあ、いいんじゃない。俺はそろそろ帰るけど、行く?」
「そうだね。長居は無用だ。とっとと帰る。取り柄がこれしかないって、結構だよなあ。」
「いやいや、気楽にできるだけまだいいよ。それにPC業界にまだいられるだけでもありがたいと思わなくちゃな。」
「その通りかもね。ま、その分家庭の時間も持てるし、僕にはありがたいよ。」
ガチャ
「ただいまっと。やっぱり僕が1番か。」
さてと、今日は夕飯、なにか作ろうかな。
今日はこの辺で




