Append Life EX3 And the parting is sudden 君にはまだ早い
「...えてる?」
う~ん、なんだろう。私に話しかけてくる声が聞こえる。
「聞こえてるよね?」
「は、はい、聞こえてますけど?」
白い空間の中。多分、夢の中だと思う。こんな夢、前にも見た気がする。
「よかった、聞こえてた。」
う~ん、相変わらず、聞き覚えのある声なんだけど、誰だかわからない。
「誰なんですか?」
「僕だよ。分からないかな?」
「...あれ、これ何回かやり取りしてる気がする。」
「あ、分かった。こっちの世界のオトーサンでしょ?」
「バレちゃったか。でも、君は知ってるもんね。」
「というわけで、何しに出てきたの?」
「そうだなぁ。僕も一人で観測しているのはつまらないから、話相手になってもらおうと思って。」
「そんなぼんやりとしたことで呼んでほしくないんですけど。」
「でも、夢から覚めると、少しいいことがあるでしょ?僕との雑談も、無駄じゃないってことだよ。」
「そういうものなんですかね。ま、いいや。」
「やっぱり、一人は寂しいんだ。」
「僕の役割は、ただ観測をするだけで、そこに介入するようなことは出来ないんだ。だから、話相手が欲しくなるんだよ。悪趣味だけど、人間の行き方を観測するだけだから、それを誰かと分かち合うことができればいいなと思ったりしてる。だから、君の出番なんだよ。」
「う~ん、そう言われると、時間という枠がこの世界にはないもんね。」
「だけど、無数に存在はしている。そして、この世界自体が、様々に分岐された世界を集約して、観測出来る世界。でも、介入は出来ない。だから、難しいんだ。」
「見てるだけだもんね。自分の仕事がそれじゃ、やっぱり面白くはないんだろうね。」
「多分これが最後になると思う。やっぱり、僕には色々な世界線の観測をしなければいけない。たまたま、君がこの世界線にいたことで、僕も話し相手を見つけた。だから、色々な世界線を君に見せることが出来た。でも、僕は、あらゆる世界線の観測者だから、別の世界線に行かなくてはいけない。そこに、君のような存在がいれば、ありがたいんだけど。」
「私が生きてる世界線だけでも、人は無数にいる。それをただ見続ける。つらい仕事かも。」
「介入すること自体が禁忌だし、僕が使えるのは、その人に別の世界線の自分を見せることぐらいしか出来ない。」
「ねぇ、それって、自分のこの先を見ることって出来るの?」
「残念だけど、そこまで器用なことは出来ない。だから、君がどうなっていくかは、僕にもわからない。ただ、君は僕と接触出来たように、世界線の超越者になれる要素はあるんだ。でも、生きている人間には、その立場に来ることは出来ない。」
「え、じゃあ、今私と話してるあなたは、死んでるってこと?」
「う~ん、簡単に言ってしまうと、僕らには肉体はない。精神体として存在する。夢の中でしか会話出来ない。そして、歳を取ることもなく、消えることも出来ない。世界線の観測者は万能ではないけど、だからといって、役割が明確に決まっているわけでもない。だから、明確な役割は、無数に広がる世界線を見続けることしかないんだ。」
「つらいなぁ。介入出来ないで、悪い方向に行くこともあるってことでしょ?それも傍観しなきゃいけないのか。」
「そう、観測者だからね。」
「で、なんで最後なの?」
「いや、これもしょうもない理由だけどさ。君に別の世界線の君を見せたことがあったけど、それがバレちゃってね。本来は、君は観測者じゃないから、見ちゃいけない世界なんだよね。それが見られるのが夢の中だけど、僕が意識的に見せてしまったからね。もちろん、君の記憶には残ってないと思うんだけど、そんな甘いものじゃないらしいよ。」
「え、じゃあ、今後はハッキリとした夢みたいなものは見られなくなるってこと?」
「それは個人によって異なる。無論、君みたいに、自力で別の世界線の夢を見ることが出来る人もいる。だから、君の夢の中で、違う世界線の自分を体験することは、出来なくはないと思う。ただ、意図的に見せることは、もう出来ないかな。」
「じゃあ、私が意識して見ることは?」
「その要素はあるんだけどね。君にはその力があるけど、さすがに意識して見るってことは難しいんじゃないかな。」
「そっか。せっかく、色々な私が見られたりしたのにね。」
「でも、君には未来がある。だから、悲観することはないよ。そして、君にはまだ肉体がある。現世で楽しい時間を過ごせる。まだこっちの世界に来るには、早いってことだよ。」
「じゃあ、あなたは?どこかの世界線で死んじゃったってことなの?」
「それもわからない。気づけばここにいて、なんにも聞かなくても、その役割を果たすだけになってたから。よく分かってないんだ。自分自身のこともね。」
「じゃあ、最後にいいことを教えてあげるよ。」
「私に関するいいこと?」
「そうだね。君のいる世界線では、君はもうタイムスリップをすることはない。今の時代を生きていけることが決まってる。」
「今まで通りの生活が、ずっと続くってこと?」
「そういうこと。これで、少しは安心したでしょ?君の潜在意識の中には、まだタイムスリップするんじゃないかと心配する恐怖があった。それを意識しなくていいから、随分楽になれると思うよ。」
「うん、分かった。教えてくれて、ありがとね。」
「あとは、本当に君次第。君の世界線は、更に無数に分岐していく。どこに行くのかはまだ決まっていない。僕も、ここから、僭越ながら観測させてもらうよ。」
「なんか、上から目線なのが、ちょっと気になるけど。でも、そういう役割なんだもんね。しょうがないよね。」
「君と遭遇出来たことが、僕にとっての幸せだった。次に目を覚ますときには、多分覚えてないと思うけど、君の人生だから。」
「ごめんなさい。私、なんにもしてあげられなかった。最後だと思うと、心惜しくなるもんだね。」
「君が悲観することはないよ。それに、君と遭遇出来たことが、幸せだったって言ったでしょ。それだけで、僕は十分だよ。」
「それじゃあ、残念だけど、ここでの記憶は消させてもらうよ。」
そして、白い空間に立っていた私に、四方八方からピーマンが襲いかかってくる。
「記憶を消されても、私、覚えてるから。君は、一人じゃないから。」
「ありがとう。僕も覚えてるよ。君に、幸せな日々が訪れるように、祈ってるよ。」
ピーマンで見えなくなってしまった。
「うわああああああああ。」
「え、どうした?」
「大丈夫?落ち着いて。」
悪夢だった。私はピーマンに溺れてしまっていた。そんな変な夢をみるんだろうか。
あれ、なんか、私、泣いてる?
「どうしたの?怖い夢でも見たの?」
「ううん、違う。悲しい夢だった気がする。」
オトーサンが私を抱き寄せてくれる。
「きっと、どうにもならないことを知ったんだね。だから、泣いてしまったんだろう。」
そして、頭を撫でてくれる。それだけで、落ち着く。
「驚き方に焦ったけど、そういう夢を見ることもあるものね。きっと、悲しい夢を見てたんでしょ。」
おねえちゃんもそばに寄ってきてくれた。
「それじゃ、僕らの娘なんだから、いつものように二人で包んであげようか。」
「そうね。悲しい夢を引きずらないように、真ん中に来なさいね。」
「ごめん。でも、ありがとう。ふたりとも大好き。」
そうして、二人に挟まれるように、ベッドでの並びが変わる。
「幸せって、こういうことを言うのかな?」
「どうしたの?そんなに悲しい夢だったの?」
「良く覚えてないけど、もう会えないみたい。あれ、誰と会えないんだろう?」
「夢なんだから、そこまで詳しく考える必要はないわよ。落ち着いて、ね。」
「君は、君たちは、三人で様々な困難も、幸せも、乗り越えていけるよ。僕はそれを知ってるから。さ、じゃあ、お役目に戻ろうか。」
「あなたは優しすぎ。せっかくだから、私の存在も教えてあげればよかったのに。」
「それは、まだまだ先の話だよ。だって、忘れるとはいえ、彼女と対になる存在がいるとは言えないでしょ?大目玉食うのは、できれば避けたいよ。」
「そうかもね。でも、私も話しておけばよかったかな。ちょっと心残り。」
「いや、君が出てくるとさ、色々大変になるから、会わなくて正解だったよ。しかし、本当に観測者になれたんだから、期待を裏切らないよね。君は。」
「えへへへ。そういうつながりなんだよ。君と、私。」
「「みんなが、日々幸せであるように。」」
今日も読んでくれてありがとうございます。また今度ね。