Life 48 What is the difference between a child and an adult? 隠し事とお酒と
3月中旬、僕は娘と二人で桜並木の下を歩いていました。帰り道、娘のバイト先に立ち寄ると、娘のバイト先のおばさんから、彼女が最近頻繁にお酒を買いに来ていることを聞かされます。
彼女の隠し事
帰宅後、僕は彼女に、お酒を飲んでから帰宅していたことを指摘します。彼女は、昇進して「人事部長」になることが決まったものの、その重圧に押しつぶされそうで、誰にも相談できず、お酒でごまかしていたことを打ち明けます。
家族の約束
娘は、以前もお酒の飲みすぎを注意したにもかかわらず、また同じことを繰り返していた彼女に怒りを覚えます。しかし、彼女が不安な気持ちを抱えていたことを知ると、厳しくも優しい言葉で、一日の飲酒量を350ml缶1本に制限し、事前に報告することを約束させます。
大人と子供
彼女は娘の厳しさに打ちひしがれて涙を流し、娘はそんな彼女を抱きしめて「ごめんね、心配だから」と伝えます。この出来事を通して、僕たちは、大人になることの難しさを再認識します。そして、大人も子供も、互いに支え合いながら成長していくのだと、家族の絆を深めていくのでした。
「今年も桜の時期だね。」
「そうだね。今年は随分早く咲いてる。狂い咲き?」
「いやいや、もう三月も中旬だよ。」
田端にも桜並木みたいなところがある。田端駅の南口から階段を上がるとそれが見えてくる。
今日は、たまたま娘が大学に行ってた日だった。聞けば、来季からの講義の説明会があったんだとか。
「そうか。やっぱり毎日が早いよなぁ。特に歳を取ると、加速度的に早く感じる。」
「私は大学が休みだから、割とバイトぐらいしかやることないけど、社会人になるとそういうもの?」
「まあ、そうかな。案外、早く感じる時は、上手く行っている時。死ぬほど遅い時もあるけど、そういう時は上手く行ってない時。」
短い桜並木の下を歩いていく、と言っても、別に家に帰ってるわけじゃなくて、なんとなく気分でつい寄り道してる。
「オトーサンは、今上手く行ってるんだ。」
「僕が上手く行ってなかったら、世の中の大半の人は上手く行ってないよ。それに幸せ。」
「そっちのほうが大事かもね。幸せじゃなかったら、上手く行くことも、上手く行かないかもしれないよね。」
「影響は出るんじゃないかな。僕が上手く言ってるのは、幸せだからなのかもね。」
桜並木はすぐに終わり、田端駅の北口にある橋まで来てしまった。ちょっと方向修正をせねば。
「あ!」
「ん、どうしたの?」
「なんにも考えてなかったけど、夕飯、どうしよう。」
「それじゃ、バイト先に寄って、たまにはコンビニのお惣菜とかどうでしょう。」
「また彼女に怒られるかな。どう思う?」
「おねえちゃん?お酒のアテがあれば何でもいいんでしょ。最近、1日1本は開けるようになっちゃったもんね。」
「何か抱えてるんでしょ。それに、君が2本目を止めるから、適量になってる。体調を崩すようなことにはなってないしね。」
しかし、この娘のバイト先か。しばらく顔を出してなかったけど、相変わらずなんだろうな。
「バイト、楽しい?」
「楽しいって言うほどじゃないけど、働くのは楽しいよ。」
「そっか。おばさんも元気?」
「今から会えるんだから、直接話したら。」
「あら珍しい。今日はお父さんと来たんだ。」
「ご無沙汰しています。おばさん。」
「最近、全然来ないから、どうしたのか心配してたんだよ。なんか、倒れたんだって?」
「ああ、もう2ヶ月前の話ですよ。それに、大したことじゃないから。ちょっと失神しちゃって。」
「失神でも、後から後遺症なんか出る病気があるみたいだし、気をつけたほうがいいわよ。」
この娘、おばさんに、僕が倒れたことを話してたんだな。人に話すなって言ったのに。
「あ、そうそう。そう言えば、アンタの奥様、結構なペースでお酒を買いに来るけど、なんかあったの?」
「え、おねえちゃんが寄ってるの?」
「いつもレジ打ちがてら、ちょっと話をしてるけど、毎回機嫌悪そうな感じでさ。落ち着きなさいって言ってるんだけどね。」
「あちゃー。おばちゃんにも迷惑かけてたんだ。ごめんなさい。」
「謝る必要はないよ。ただ、結構気になることが多くてね。毎日あの量を飲んでたら、将来アル中になるんじゃないかって。」
「それって、まさか店出たらすぐに開けて飲んでたりします?」
「たまに、そういう事があるよ。まあ、お客さんだし、私も言ってあげられないから。」
なるほどなあ。どうりで、最近、帰ってきたら変に機嫌がいい時があるわけだ。
「すみません。ウチの奥さんが心配かけちゃって。」
「全然。それはいいけど、あんまり年頃の女性...あ、そうか、アンタと同級生だから年頃でもないか。まあ、ともかく注意しておいたほうがいいよ。」
「ありがとうございます。それが知れただけでも、今日は寄った甲斐があった。」
「今日はオトーサンがお惣菜2割増しで買うって。売上にも貢献だね。」
「いや、それは言ってない。」
「おばちゃん、お疲れ様です。」
久々にコンビニで大人買いしたなあ。お菓子とか、置いておくと食べてしまうものを買いすぎたかな。
「なんとなく見えてきた。あの人、僕らに何か隠してるな。」
「だね。私達が見てないところでお酒飲んでるなんて、ちょっと異常だよね。」
ガチャ
「ただいま~。頑張りました。褒めてください。」
「はいはい、今日も良く頑張りました。えらいえらい。」
向かい合って、頭を撫でてあげた。今日もご苦労さま。
「ありがとう。着替えてくる。」
横をスルスルっと抜けていきそうだったので、
「おおっと、僕らに言う事、何かない?」
「...疲れた。ご飯食べたいです。」
「う~ん、あなた、ちょっとお酒臭いよね。」
急にピンっと背筋が伸びた。人間ってこんなにわかりやすく反応する?
「いや、今に始まったことじゃないし、ご機嫌に帰ってくる事はいい事だから、別に黙ってたんだけどさ。」
「はははは、バレちった。」
「可愛く言ってもしょうがないよ。」
「はい。とりあえず、着替えてきます。」
「うん、とりあえず、ご飯食べてから聞くよ。」
「え、昇進?」
「おねえちゃん偉くなるんだ。すごいじゃん、出来るオンナだね。」
「うん、でもさ、なんにも出来ないよ。今まで備品の管理と、受け渡しだけしてたような部署の人が、突然人事部長なんてありえる?」
「いや普通はありえないけどさあ。あなたの会社、正直変な会社だから、厳しい君の出番なんじゃないの。」
「ムリムリムリムリ。なんで出来るって思ったのか分からない。でも、総務部を通り越して、社長からの直接人事ってことだから、逆らうわけにも行かないしさぁ。」
見ると、手にまたお酒の缶を持ってる。もしや、反省ゼロ?
「それで、相談も出来ないから、お酒で誤魔化してた?」
「だって、話しても、私の会社へ影響力があるわけないし、ずっと不安だって言ってるだけだし、言えなかったんだもん。」
「不安なことぐらい、家族に相談出来ないものかな。私達じゃ、おねえちゃんの相談相手になれないのかな?」
「そんな事はないけど、私だってどうしたらいいか分からない時があるんだもん。許してよぉ。」
とりあえず、両肩にポンと手を乗せて、目を見て話そう。
「別に起こってないし、あなたが逃げたい気持ちだって分かる。でもさ、それでお酒の量が増えて、健康に問題が出ることのほうが、僕らは心配なんだよ。」
「許してくれる?ダメ人間だけど、許してくれる?」
「...のさぁ。ダメ人間は僕のほうでしょ。それは許すに決まってる。でも、問題はそっちじゃない。お酒浸りは、絶対に許さないよ。」
「そうそう。おねえちゃんが大黒柱なんでしょ?だったら、ドーンと立っててもらわないと、私達だって心配しちゃうよ。」
肩から手を話し、そぉーっと、今まさに開けようとしていたお酒を、取り返した。
「まあ、とにかく、君が昇進するのが不安なのは分かった。不安なら、会社の人にも、君の場合は社長本人に相談すればいいじゃない。」
「うん、相談相手を考えたこともなかった。その通りよね。色々パニック起こしてた。私もきちんと聞いてみる。」
「そうだよ。おねえちゃんなら、会社でもある程度の内情も理解してるんだし、もっと自信を持ちなよ。」
「あと、このお酒は今日はもうダメ。僕は自己管理でいいと思ってるけど、この娘があなたをずっと心配してるんだから。子供に心配をかけない。分かった?」
「はい。もうちょっとお酒に頼らない生活を送ってみます。」
「約束だよ。おねえちゃんが荒れてると、私もモヤモヤするんだから。私であることを自覚して。」
定例会
「と、言ったもののねえ。いつからお酒のこと、気づいてたの?」
彼女が僕に聞いてきた。
「う~ん、テンションの違い?かな。お酒が入ってる時には、ちょっと高かったんだよ。あと、甘え方。」
「あなたには見抜かれちゃうのか。アルコール度数低いお酒を煽ってたのにね。」
「お酒臭さに気づいたのは、今日が初めて。いつも向かいあって褒めるってことはせずに、玄関からリビングに一緒に入る時に褒めてたから、息まで分からなかったんだ。」
「でも、そういうことはどうでもいいんですけど...。」
僕の右側から珍しく怒りの感情が溢れてる娘の一言。続けて、
「おねえちゃんさ、年末にも注意したよね。あれだけお酒を控えるって言って、知らないうちに何本も飲んでるとか、どういうことなのかな?」
「ごめんなさい。大人になると、何かから逃げたくなる時もあるの。そういうときには、私にはお酒しかないの。」
「...疲れてるんだよ。ごめんね、気づいてあげられなくて。気晴らしに、どこか行こう。」
「うん。じゃあ、またカラオケ行きたい。」
「お安い御用だよ。君も、カラオケ行くよね?」
「じゃあ、おねえちゃんが、私と約束守ってくれるなら、一緒に行くよ。」
「禁酒?それだけは無理。後生ですから。」
「ふ~~~。私も鬼じゃないから、禁酒とまでは言わない。けど、350ml1本。1日に飲んでいいのは、どんなときでもそれだけ。守れる?」
「守ります。今度は嘘じゃないです。」
「前の約束が嘘?それはそれで問題だなあ。どう思う、オトーサン。」
「ま、まあ、ね。僕の顔に免じて許してあげてよ。反省してるみたいだしさ。」
「それじゃあ、おねえちゃんには、お酒を飲む時は事前報告とします。飲む時は、必ず、私に言ってから飲むこと。例外は会社の飲み会だけど、週一しか認めない。守れる?」
「守ります。私の言いつけじゃあ、守るしかないです。」
「...本当に出来るのかなあ。私は、これだけ言ってもまだ心配しかないよ。」
「本人が守るって言ってるんだから、僕らはそれをしばらく見守って、ダメなら厳しくすればいいよ。」
「そだね。案外、禁酒になっちゃうかもね。そんな姿は見たくないぞ。私。」
「うん、ごめんなさい。私。」
よほど娘に言われたことに打ちひしがれたのか、頭を上げないで、泣いてしまっている。申し訳ないが、ちょっと反省してね。
そして、興奮している娘を落ち着かせるために、いつものクセで頭を撫でてしまう。
「家族のことを一番に考えてくれる。君は優しい娘だね。本当に偉かったのは、君だよ。」
「...複雑な気分なんですけど。」
「まあまあ、この人も立派な大人だし、僕も前に倒れちゃったからなんともいい難いんだけど、やっぱり、人間は弱いところが出るからね。」
「オトーサンも?」
「そうだよ。発作のたびに、君たちに助けられてる。彼女も、僕らが見放さず、助けてあげないと。」
「そうか。そうだよね。」
そうして、彼女に近づいて、抱き締めてる娘。なんか、変な構図だけど。
「厳しいこと言ってごめんね。でも、私はおねえちゃんが心配だから。」
「うん、いいの。当たり前だよね。私ももう少し、大人になるよ。」
大人になるか。普段から子供な僕はともかく、大人の女性だと思っていた彼女。そしてまだ子供だと思っていた娘。思った以上に、大人になるというのは、難しいのかもしれないね。
で、結局のところ、彼女は人事部長になることを決めたみたい。会社の人の説得が何度もあったらしく、折れたみたい。
不安不安とずっと言ってるけど、会社から評価されているし、多分やってのけるんだろうなと思ってる。
今日はこの辺で