Life 26.5 Adventures into my little past. 私が昔に戻ってみたら
お姉ちゃんと私(娘)は、20年間お姉ちゃんが通っている美容院に行くことになりました。お父さんは、女性二人で楽しんでくるようにと、家で留守番をすることに。私は、お父さんが意外と東京の地理に詳しくないことや、お姉さんも同じように彼に任せきりなことに気づきます。
「私の恋人が好きな髪型」
美容院の「店長さん」
代々木公園駅から歩いて5分の場所にある美容院に到着すると、お姉ちゃんは「店長さん」という女性美容師さんと親しげに話していました。店長さんは、私を見て「昔のアンタを思い出す」と言い、私とお姉ちゃんがそっくりなことに驚きます。店長さんに「もっと派手な髪型にしたら?」と提案されますが、私は「私の恋人が好きな髪型なので」と、お姉ちゃんと同じミディアムボブをオーダーします。
小さなイメチェン
店長さんは、私の髪を「肩につかない程度に、丸く」カットしてくれました。私は、高校時代を思い出すような少し短めの髪型に満足します。お姉ちゃんは、変わらない自分の髪型について「結婚したから、一生この髪型でいく」と話します。店長さんは、そんなお姉ちゃんを「馬鹿正直」だとからかいつつも、二人の仲の良さに微笑んでいました。
お父さんの反応
家に帰ると、お父さんは一瞬、私の髪型の変化に気づきませんでした。しかし、私が「私の恋人が好きな髪型」だと伝えると、「君を何年見てると思ってるの?」と、少し短くなった髪型に気づいてくれました。お姉ちゃんは、「この娘の感想は?思わずときめいちゃった?」とお父さんに尋ねます。お父さんは「あの時の君を完全に思い出したよ」と照れながら答え、私はその反応に満足するのでした。
今日は、この前予約していた通り、おねえちゃんの専属の美容師さんのところに行って、毛先を揃えてもらうことになった。
せっかくだからオトーサンも誘ったんだけど、
「せっかくだから、女性二人で楽しんでおいでよ。僕は、プライムビデオで、アニメイッキ見するから。」
相変わらず、おねえちゃんがいるというのに、横着なところは治らない。まあ、おねえちゃんもそれを知ってるから誘わなかったのかな。大人だな。
「しかし、未だに東京の地理がよくわからないって、案外東京初心者?」
「おねえちゃんほどいろいろ行ったことないもん。渋谷とか、新宿とか、池袋とか。」
「う~ん、あの人と一緒に行ったんでしょ。まあ、そんなに説明しないものね。」
「説明しない?オトーサンが?」
「そう。彼って、案外何でも知ってる風で、割と知らないことが多いの。知らないというより、興味がないのかもね。」
「言えてるかも。あれだけ髪の毛も肌も、爪まで綺麗なのに、そんなことどうでもいいって思ってるもんね。」
「まあ、でも彼がついてきたら、お姉さんに罵倒されそうな感じだし、ちょうど良かったのかもしれない。」
代々木公園駅から歩いて5分ぐらい。ここが、おねえちゃんがもう20年通っているという美容院。
カットサロンとか言うんだって。私も初めてくるから、なんかワクワクする。
カランカランと扉を開ける。
「いらっしゃいませ。ご予約の方ですね。」
「店長さんをお願いします。」
スタッフさんが、店長さんを呼びに行った。ちょうどお昼ご飯を食べてたらしい。
「ごめんね~。ちょっと時間空いたから、ご飯食べてたの。」
「なら食べたあとでいいですよ。今日は2倍時間がかかるだろうし。」
「それじゃあ、お言葉に甘えて。ご予約のお客様にお茶をお出ししておいて。」
「了解です。」
意外とシートは少ないけど、十分な広さ。そしてあのお姉さん。いやあ、一国一城の主って感じがする。
オトーサンにはそんな雰囲気ないんだよなあ。でも、それがオトーサンの魅力かも。
「姉妹なんですか?おふたりともそっくりで。」
「姉妹だって。あはは。ちょっと嬉しい。」
おねえちゃんはスタッフさんとも仲がいいみたい。なんか積もる話をしているようだった。
「おまたせしましたっと。で、今日は二人分って聞いてるけど、連れ子も髪の毛カットでいいのかな。」
私はとっさに顔を上げてみた。いつもの半分、ちょっと違った反応が半分。
「...なんか昔のアンタを思い出す。いや、アンタはもっと世捨て人みたいな風貌だったっけ。」
「あの頃のわたしと違って、この娘は前向きに生きてるんですよ。だからかな。」
「って言っても、どうせ二人揃って同じ感じにしたいんだろ。もう20年も付き合ってるんだから、さすがに分かってる。」
「お願いします。」
「で、娘ちゃん。あれ、娘ちゃんでいいんだよね。」
「はい、おねえちゃんって呼んでますけど、あちらが私の母親です。」
「あなたもあなたで、こんな地味な感じにしないで、もっと派手な髪型にしたほうが、見栄えするんじゃない。例えばベリーショートとか似合うよ。」
「いや、私もミディアムボブでお願いします。できればおねえちゃんと同じ感じで。」
「?何か事情でもある?それとも?」
「えーと、私の恋人が、その髪型が好きなんです。だから、それでお願いします。」
ごめんオトーサン、ダシに使っちゃった。でもオトーサンもこの髪型好きだったよね。
「いいの?娘ちゃん、あんなこと言ってるよ。」
「ああ、いいんですよ。恋人がその髪型好きなの、私も知ってるし。」
女性の美容室の場合、イメチェンしたい人はともかくとして、おねえちゃんみたいに社会で完璧を演じてる人にとって、毛先を揃えて、ほぼ同じ状態を保つようにしているらしい。
私もミディアムボブが好きでこうしてるけど、少し変化があってもいいのかな。
「あ、じゃあ、肩につかない程度に、丸くしてもらえますか?」
「どういうの?ちょっと教えて。」
店長さんが髪型の見本誌みたいなのを見せてくれた。あ、この髪型がそんなに変わらないけど、ちょっと短いかな。
「こういうのにして欲しいです。ちょっとだけ短くしてみたいです。」
「承知致しました。それじゃあ、整えていくから、ちょっとだけ待っててね。」
店長さんはチャッチャと髪を揃えていく。案外バッサリ行くところもあって、内心大丈夫かなあと心配しながらじっとしてた。
30分後。
「同じように、フロントから後ろまで肩につかない程度。長さが変わらないけど、伸びてくるとちょっと髪型が崩れちゃうから、そのときはまた整えてあげる。」
ちょっと違う私。思えば、もう数年トレードマークみたいにしてたけど、ちょっとおねえちゃんと変化を付けてもいいよね。
「うん、これでいいです。バッチリです。ありがとうございます。」
「気に入った?」
「はい、これで恋人が気づいてくれるか、試してみちゃいますね。」
「若いっていいねえ。恋人君も、きっと気に入ってくれると思うよ。あとは自信を持てば、大丈夫。」
「はい、ありがとうございます。」
それからおねえちゃんが、店長さんにカット、というか、本当に単に毛先を揃えるだけしか頼んでないみたい。
パーソナルイメージってものなんだろうか。おねえちゃんのイメージを形作る上で、そういう精密な部分が、実は大切なのかもしれない。
「アンタさあ、もう40になるんだっけ。いつまでも若いままってわけに行かないと思うけど、いつまで続けるつもり?」
「この髪型ですか。そうだなあ。結婚しちゃったから、一生続けるつもり。」
「そこまで旦那さん、こだわってほしいの?違う髪型も似合うと思うから、試してみればいいのに。」
「駄目なんです。私はもう死ぬまでこの髪型って決めてます。」
「それがアンタのアイデンティティってやつね。ま、しょっちゅう来てくれるから、うちにとっては上客だし。」
「ふふ、ありがとうございます。」
二人で結構な額のカット料金を払ったけど、今日はおねえちゃんが出してくれた。
「次も予約、お待ちしていますよ。娘ちゃんも、気に入ったらまた予約してね。」
「はい、また髪型で迷ったら、相談させてください。お願いします。」
「素直ないい子だね。」
「なんですか?私も素直。知ってるじゃないですか。」
「アンタのは素直っていうんじゃないんだよ。馬鹿正直。」
「そうやって、すぐからかうんだから。もう大丈夫ですから、そんなに心配させないように生きてますから。」
「だね。旦那さんと仲良くやりなさいよ。さすがに今の歳だと、致命傷になるからなw」
「ありがとうございました。またお越しください。」
そうやって、店長さんと、スタッフの方々がお見送りをしてくれた。やっぱり、1000円カットとは違うなあ。ちょっとお金貯めて、またこよう。
「なんか、知ってるんだけど、妙に懐かしい気がする。若いあなたには、そっちのほうが似合うね。」
「おねえちゃんも覚えてるでしょ。高校時代はこれぐらいの長さで止めてたこと。」
「そうそう。それで、肩についたら、ローのツインテールにしたりね。」
「今まで髪型変えようとも思わなかったんだけど、これぐらいにしたら、オトーサンがちょっと驚いてくれるかもしれないかなって。」
「気づくかな?基本的な感じが変わらないから、案外スルーされるかもよ。」
「その時はおねえちゃんが慰めてよね。」
「もちろん。私が悲しいときは、私が励まして上げなきゃね。」
「ただいまぁ。」
「ん、おかえりなさい。」
変化には気づいてないみたい。やっぱりそんな感じなのかな。
「ただいま。お昼どうしたの?」
「え、レトルトカレー食べた。」
「ここんところ毎日カレー食べて。少しは別のものでも買ってくればいいじゃない。」
「だって、出前は注文するなって...あ、髪型変わってるじゃん。」
「あ、オトーサン、気づいた?すごい、ほんのちょっとだけなのにね。」
「君を何年見てると思ってるの?そこまで短くしたら、さすがに気づくよ。」
内心ホッとした。さすがに気づかれなかったらどうしようかとドキドキしてたけど。
「なんかさ、色々恥ずかしいこと思い出しちゃったな。」
「この髪型、やっぱりオトーサンも特別?」
「特別だよ。まさにその顔、その雰囲気...は変わっちゃったけど、僕が最初に好きだった君。」
「男の人ってノスタルジーに生きてるわよねえ。私もそんなに変わらないんだけど。」
「あなたの髪型は、もうあなたのオリジナルだよ。今まで二人共意図的に揃えてたんだとずっと思ってたからさ。」
私の肩に手を乗せて、オトーサンの前に出してきたおねえちゃん。
「で、この娘の感想は?思わずときめいちゃった?また好きになっちゃった?」
「うん、あんまり想い出で生きてたくないけど、あの時の君。完全に思い出したよ。僕も、あの頃は若かったなあって。」
「しばらくこの髪型で生活します。いいんだぞオトーサン。あの時の想いをぶつけてくれて。」
「その時は...うーん、やっぱり三人で仲良くしようか。」
「あー、誤魔化したでしょ。そんなに恥ずかしい?」
「そうじゃなくてさ。その、なんかさ、照れくさい。」
「なんか、日頃のお返しが出来たかな。オトーサンは、もう少し素直なほうが可愛いのにね。」
私の小さな冒険ってほどでもないけど、恋人はちゃんと恥ずかしがってくれたので、よしとしようかな。
今日も聞いてもらって、ありがとうございます。また今度ね。