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Life 46 Life is a never-ending study 娘も親の背中を見て育つ?

僕は、発作で入院した日から一日が経ち、念のため会社を休んで自宅で休養していました。彼女も有給休暇を取り、僕の側にいてくれます。


病気と過去

僕がうつ病を患っていることを知った彼女は、その理由を尋ねます。僕は、かつて電車に轢かれそうになった事故から、死への恐怖と自律神経失調症を患い、それがうつ病へと繋がった経緯を話します。彼女は、辛かっただろうと僕を気遣いながらも、どう接すればいいか迷っているようでした。


娘の成長

彼女は、僕が倒れた時に娘が冷静で的確な指示を出していたことを話します。まるで僕にそっくりだったと驚き、「親としては頼もしいが、どこか不思議だ」と語ります。僕は、娘が僕の背中を見て育ったことを感じ、嬉しく思います。


帰宅後の安堵

授業を終えて帰宅した娘は、僕が無事なのを見て安堵し、僕に抱きつきます。彼女は、僕と娘の絆を微笑ましく見守りながらも、「この娘はどちらの背中を見て育っているのだろう」と少し複雑な心境を覗かせます。僕たちは、それぞれの役割を再確認しながら、お互いを支え合っていくことを誓い合うのでした。

「う~ん。」

「どうしたの。急に伸びなんかして。」

「いや、退屈だなあと思って。」


意識を失って、入院した日から、1日経った。

会社は、念のため有給休暇で休むことにした。幸い、倒れたのが水曜日の夜だったので、2日休みをもらった。

僕は特に変なところはないんだけど、とりあえず平日はじっとしようと思った。珍しく彼女も有給を使って、側にいてくれた。

本当は娘も一緒にいたかったらしいんだけど、大学の授業を優先して欲しかったので、今日は大学に行った。最後まで寄り添ってくれるつもりだったらしいけど、そこは親の権限で行かせた。


「退屈と言われてもねぇ。」

「精神的にはダメージを負ってるかも知れないけど、特に身体に問題はないからさ。」

「いやいや、一応、入院までしたんだから、本当ならこうやって起きてるのも、おかしいと思うわよ。」

「う~ん。あ、いて、つった、攣った。」

「なにやってるのよ。まったく。」


リビングの座椅子に座ってるけど、普段こんなに長く座ってることもないから、なんとなく調子が狂う。

その上、休みでもない、平日の昼間から、奥様と二人きり。もちろん、僕が悪いのだけど、出来れば元気に仕事に行って欲しいなあと。


「なんで、うつ病を隠してたの?」

「まあ、見て分かる通り、普通の人はうつ病だと思われないらしいから、言う必要もないかなって思ってた。」

「睡眠導入剤を飲んでるだけでも、健康ではないというのに、加えて心の病というのもね。まあ、大体の人がそうなるんだっけ。」

「そう、最初のきっかけは自律神経失調。そのまま、やっぱりおかしな感じが続くんだよ。で、気づけばうつ病になってたと。」

「あなたが妙に落ち着いてたり、冷静だったりするのは、生まれつきの天性かと思ってたけど、現在の状態は違うってこと?」

「そうだね。僕は本来、ここまで穏やかではないのは知ってるだろ。感情が強く出る時も多いって。」

「私はあなたの涙を見て、あなたを好きになったんだもの。あなたが感情を押し出してくる時は、特別なのかと思ってたけど、違ってた?」

「昔は、でも、あなたの知ってる昔じゃないか。高校時代、大学時代とか。あの時は感情が前に出てた時代だったんだよね。だけど、昨日も話した通り、社会人になって、一回死にかけたことがあったんだ。」

「...。」


「ごめん。面白くない話だよ。駅のホームで、誰かに押されて、ホーム下に転落したんだ。ホームの下だったから助かったとも言えるんだけど、その数秒後に、電車が通ってさ。当然急ブレーキを掛けて電車は止まるんだけど、僕の持っていたカバンを轢いてしまったらしく、どうも人身事故を起こしてしまったんじゃないかと思われてた。でも、その時のショックがすごくて、逆になんで助かったのか、よく分からなかったんだよ。本当に紙一重とは言うけど、それがあとからどんどん恐怖へと変わってきて、一時的に塞ぎ込んでしまったんだ。外に出るのが怖くなってしまった。」

「...もしかして、あなたが引きこもりになりがちなのは、それが理由?」

「随分治ってると思ってるんだけど、その名残なのかも。まあ、そんなことがあって、そこから心療内科を受診してる。最初は安定剤だけだったけど、そのうち自律神経をやられたらしく、夜眠れなくなってしまった。寝ることが、死ぬことだという認識に変わってきたんだ。その心理がよくわからないんだけど、極端な話、あの頃はそれでも起きていられる体力があったから、そういう感覚だったのかも知れない。でも、薬を飲むことで、とりあえずそこから解放されるようになった。」

彼女が伏せ目がちになっていた。

「それからかな。僕は、薬によって、感情を制限されたような感じになってる。それとともに歳を取ってたから、周りには落ち着いたのだと勘違いされるようになった。まあ、それもいいかと思って、誰にも言わないまま。」

「...そうなんだ。辛かったねとは簡単に言えないよね。私にはあなたに起こったことがわからないから、何も言ってあげられないもの。」

「いいんだ。いつものように接してくれてれば、僕はそれだけで安心出来る。逆に、気を使われると、僕も気を使うことになりそうだしね。」


「そういえば、あの娘が冷静に対応してたんだって?」

「私がオロオロしてる間に的確な指示をしてて、あなたみたいに落ち着いて。なんだか怖いぐらいだったかな。」

「あの娘は慣れているというのもあるんだけど、発作が起きた時の対応を知らないうちに覚えてたのかもね。」

「私じゃなければ、親子だなって思うだろうなあ。そっくりだったのよね。何かあった時のあなたも冷静で的確。それをまんま、非常事態でやれる。親としては頼もしい限りだけど、どうにも不思議だなって。」

「いつも見てて、しっかりそういう場面で実践出来る。本当の意味で、いい娘に育ってくれた。親としては、やっぱり嬉しいよ。」

「そう。いつもあなただけ見てたから出来たんだよね。あの娘はあなたのことになると、最善を尽くすようになる。女としては、やっぱり嫉妬するなあ。」

「そんなに嫉妬することはないよ。あなたにはあなたの役割があるよ。今回みたいに外部との連絡を冷静にやって欲しいかな。」

「うん。ほんと、私も子供だなあ。その時が起きたら、あの娘に嫉妬してないで、ベストを尽くすね。」


「それにしても、暇だなあ。せっかく花金だし、どっかへ繰り出してみる?」

「2日前に入院した人が言うことじゃない。それに、繰り出したところで、どうせファミレスにでも逃げるんでしょ。」

「ははは、さすがに分かってる。僕の奥様はそうでなくちゃ。」

「でも、まあ、久々に出前でも注文しようかしら。まさか病人にご飯を作らせるわけにもいかないし。」

「いや、やれと言われればやるよ。僕もそういう男だよ。」

「自分は病人って自覚が...いや、あるわけないもんね。私達の気も知らず、気を失ってたんだし。」

なんとなく飲み物ついでに冷蔵庫を開けてみる。

「あ、でも食材がないか。レトルトぐらいしか作れないな。こりゃ。」

「だから。...もういいわ。今のほうが、普段より厄介。もう、言うことを聞いてほしいかな。」



ガチャ

「オトーサン、帰ってきたよ。」

ダダダッと走ってリビングに入ってくる音。

「あ、オトーサン。良かった。元気だ。」

「いやいや、別に朝も元気だったよ。別になんともないからさ。」

そのまま座ってる僕に抱きついてきた。

「うん、でも心配だったの。また倒れてたらどうしようって思って。」

娘の荷物を回収しながら、玄関からリビングに戻ってくる彼女が、

「なんで私まで倒れてるって話になるのよ。どっちかが倒れても、どっちかが通報して、あなたに連絡が行くわよ。」

娘が目を丸くした。

「あ、そうか。確かに。」

「まったく。恋人がいたら何も視界に入らなくなるあたり、やっぱり私なのね。安心したわ。」

「え、当たり前じゃんおねえちゃん。そうじゃなくても、私はおねえちゃんだよ。」

「う~ん、この娘、どっちの背中を見て育ってるんだろうね。」

「僕にもわからなくなってきた。ま、頼りにしてるよ。」

娘の頭を撫でてあげた。何度も言うけど、彼女を落ち着かせるには、これが一番効果がある。

「えへへへ、頼りにされちゃった。」



娘が頼もしくなることは嬉しいし、あなたに似ていくことも嬉しい。あまり自慢の親らしくないかも知れないけど、僕が伝えられること、教えられることは教えてあげたい。...あ、料理以外で。



今日はこの辺で

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