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Life 45 The prince is in the dark. 夢から醒めない王子様

ある夜、僕はいつもの発作で気を失い、病院のベッドの上で目を覚まします。隣には彼女と娘の姿がありました。


突然の発作

前夜、僕は発作的に叫び、呼吸困難に陥り、意識を失いました。彼女と娘は冷静に対応し、救急車を呼び、病院へ運んでくれます。


知られざる病

病院での検査の結果、身体に異常は見られませんでしたが、僕が長年うつ病を患っていたことが彼女たちに知られてしまいます。僕は、自分の精神状態を家族に話すことができず、迷惑をかけてしまったことを謝ります。


家族の支え

彼女と娘は、僕の病気を受け入れ、自分たちも一緒にいることで僕が安定していたことを知ります。家族として僕を支えていくことを決意し、再び発作が起きても、二人で助けるから心配しないで、と僕に伝えます。


退院

一晩入院した後、僕は無事に退院します。多大な迷惑と心配をかけたことを改めて謝る僕に、彼女たちは「大丈夫、また力になる」と温かく応え、僕の心の支えとなってくれるのでした。


この出来事を通して、僕たちは互いの弱さを知り、それでも支え合うことのできる真の家族としての絆を深めていくのでした。

「...?どこだろ?」

見知らぬ天井とはよく言ったものだが、大体想像が付く。これはどこかの病院なのだろう。ただ、思い当たりがまったくない。

参ったな、どっかで倒れたんだろうな。で、念のため病院ってことなのかな。

右側に視線を移した。ああ、いつも見慣れてる顔が2つ。相変わらずそっくりなんだな。もしかして、迷惑掛けちゃったか。

「お目覚めになりましたか?」

「あ、はい。多分。」

「先生呼びますから、ちょっと待っててくださいね。」



前日、記憶が曖昧だけど、なんとなく起こったことは分かっている。

「あ、うわあああああああああああ。」

いつもの発作だった。僕の中で、何か死を感じた瞬間、発作的に叫び、呼吸が乱れ、そして生物的な動作で、トイレに駆け込んでいた。

「う、うううう、あああああああ。」

違う、何かと違って、息苦しさと、変な擬音が聞こえてきた。反射的に耳を塞ぎ、何キロも走ったかのように、ずっと息を切らせた状態だった。

ドンドンドン

トイレの扉を叩く音がする。彼女か、娘か、あるいは両方か。

「あな...。あ...。」

「オト...。だ...。」

そこで意識が途切れる。そうして、次に目覚めたのが、病院のベッドの上だった。





オトーサンが救急搬送された。

昨日の夜は、特におかしな様子はなかったから、いつもの発作だと思った。けど、いつもと違っていた。

「あ、うわあああああああああああ。」

オトーサンの叫び声。あまり聞きたくないけど、もう聞き覚えになってしまっている。

「う、うううう、あああああああ。」

目を開けると、もうすでにオトーサンの姿はベッドの上にはなかった。

「まずいことになったわね。トイレにいるんだっけ。」

飛び起きたおねえちゃんが聞いてくる。

「そう。おねえちゃん。外から扉開けるから、マイナスドライバー用意して。」

「え、どこにあるの?」

「オトーサンの工具箱開けていいよ。中に入ってるから。」

そうして私もトイレに走る。

ドンドンドン

トイレの扉を叩く。いつもなら返ってくる声が聞こえない。

「あなた。あなた。」

「オトーサン、大丈夫?」

ダメだ。呼びかけに返事がない。こんなこと、今までの発作ではなかった。

トイレが開くか確認した。鍵が開いてる。

「ごめん、オトーサン、入るよ。」

目の前には、気を失ってるオトーサンがいた。トイレの壁に寄りかかっているような状態だった。

「あなた、大丈夫?聞こえてる?」

おねえちゃんが頬を軽く叩きながら、意識を確認している。

「ダメ。全然起きない。」

「息はありそう?」

鼻から呼吸してる。多少不安だけど、命に別状はなさそう。

「息してる。大丈夫。」

でも、気絶したことは今までなかった。

「119に電話しよう。今まで起きてた発作とちょっと違うよ。私達だけでどうにか出来ることじゃないよ。」

おねえちゃんが119に電話している。二人だから、ある程度冷静になっているけど、私一人だったらちゃんと出来るだろうか。

「15分ぐらいで来るって。とりあえず、救急搬送されるから、外に出る恰好に着替えてくるね。」

「うん、私はオトーサンの側にいる。」

とりあえず、今は息ができている。すぐさま死んでしまうような状態ではない。

「起きてくれればいいんだけど。」

そうやって、右手を両手で握っていた。お願いだから、目を覚まして。


「変わるわ。あなたも着替えて来て。」

おねえちゃんが着替えて戻ってきた。私も急いで着替えることにした。

いつもの発作だと自分に言い聞かせながら自分を落ち着かせた。よもや、オトーサンが起きないことなど、私には考えられない。

「おまたせ。とりあえず待機してる。」


ピンポーン。

「救急です。大丈夫ですか?」

玄関にはおねえちゃんが行ってくれた。私は、またオトーサンの手を握るぐらいしか出来ない。

「搬送しますね。娘さん、申し訳ないですけど、ちょっと離れててください。」

救急救命士の人に両肩を担がれ、玄関の前に用意されていた担架に乗せられた。

「ご家族の方。お手数ですが同乗して頂けますか。まだなんとも言えませんが、おそらく病院で緊急処置を行いますので、立会をお願いします。」

「わかりました。二人で行きます。」


搬送中も意識は戻らなかった。呼吸はしているので、身体的には問題ないそうだ。ただ、原因がよくわからないとのことだった。

原因がどうより、まずはオトーサンが死なないことに安堵した。


そして、病院に運ばれた。外傷もないので、ひとまず脳梗塞の疑いを解消すべく、CTスキャンを行って、脳内を見てみると言われた。


「大変なことになったかな。」

「うん。おねえちゃん、オトーサンは大丈夫だと信じていいよね。」

「説明を聞く限りでは、外傷もないし、呼吸もあるんだから、あとは意識が回復すればいいだけなんだけどね。」

「このまま目を覚ましてくれなかったら、どうしよう。」

「今はあの人を信じましょう。私達から離れたら、もう生きていけないんだから。」


「ご家族の方ですか?」

「はい。診察が終わったんですか?」

「ちょっと説明がありますので、診察室へお入りください。」


病院の先生は、すごく不思議そうな顔をしていた。

「旦那様ですが、これと言った外傷、およびCTスキャンによる脳の異常は確認出来ませんでした。と、なると、何か極度のストレスによる迷走神経性失神の可能性が一番高いのではないかと。」

「主人なんですが、頻度はかなり少ないのですが、過去にも病院にお世話になるレベルではありませんでしたが、夜中に急に呼吸困難になったり、叫んだりしていたんです。」

「おそらくですけど、何か強い恐怖を感じたのでしょうね。精神的な部分もあるでしょうから、断言は出来ませんけど。参考までにお薬手帳を拝見することは出来ますか?」

「こちらです。睡眠導入剤を処方されてるように、心療内科を受診してるんです。」

「...旦那様、精神に何か疾患をお持ちなんですか?薬の処方の中に、抗うつ薬がいくつか出てるんですよ。」

知らなかった。オトーサンがうつ病だった?それなら、あの穏やかなオトーサンは、薬で落ち着かされた状態なの?

「申し訳ありません。主人から話を聞いたことがないんです。」

「わかりました。精神疾患であれば、もしかすると失神してる時間が長いのかもしれないですね。でも、旦那様の中で、恐怖によるショックが徐々に開放されると思うので、とりあえず今晩はこのままこちらで様子を見てみましょう。」

「ありがとうございます。よろしくお願いします。」



一晩泊まることになった。すぐに病室に連れて行かれた。私達は、いつ起きてもいいように、側にいることにした。


「精神疾患持ちだったのか。どおりで、一晩に飲む薬の量にしては、何種類も飲んでるなと思った。」

「おねえちゃんも知らなかった?」

「普段は穏やかだけど、突然テンションが上がったりするでしょ。おそらく躁うつ病の一種で、躁状態になっていたのね。そこは、前から気になっていたの。」

「ただ、薬を飲むほどだとは思わなかった?」

「そうねぇ。あ、でも、精神を安定させるとかよく言ってたから、私達といるときには、安心感があって、薬を飲んでなかったのかもね。」

「...どうして教えてくれなかったのかな。」

ちょっと涙ぐんでしまった。家族なのに、隠し事、それも病気のことなんて、悲しすぎる。

「ごめんね、先に謝っておくけど、あの人なりに、家族を守るために、言えなかったんだと思う。そこは心配してほしくなかったんでしょうね。」


ベッドの布団に手を入れ、手を握ってみた。暖かい。いつものオトーサンの手。

「手が暖かいよ。もう、起きてもいいんだぞ」

耳元で囁いてみたけど、やっぱり反応がない。

「ともかく、今はこの人を信じましょう。私達が出来るのは、手を握る事と、無事を祈ることぐらい。」

「私の知ってるオトーサンなら、すぐに起きると思うだよなあ。いい加減、寝坊するよ。」


そのまま、先におねえちゃんが眠気に負けてしまい、私も仮眠を取ることにした。きっと、起きる頃には、いつものオトーサンに戻ってる。



「...ん。」

なんか周りが騒がしい。目を開けてみると、目の前には、ベッドで上体を起こしているオトーサンがいる。

「あ、起きたんだね。心配掛けて、ごめんね。」





僕は、主治医の先生に、経過を聞かれた。特に問題ないが、精神疾患のことを言われた。

今回のことでバレてしまうだろうな。僕がうつ病から立ち直れていないこと。心配を掛けられないけど、正直に話すしかないか。


一通り聞かれたところで、右側にいる娘が目を覚ましたようだ。

「あ、起きたんだね。心配掛けて、ごめんね。」

「...うん、生きててくれた。うわぁぁぁん。」

娘が抱きついてきた。よほど心細い思いをしたんだろう。頭に手を乗せ、撫でてあげる。

「もう大丈夫だよ。安心していい。それに、話もしたいしね。」

続いて、彼女が目を覚ました。

「あなたにも心配掛けた。ごめんなさい。」

「うん、いいのよ。こういうこともある。覚悟はしてたことだから。」


そして、彼女たちに、僕がなぜ抗うつ薬を飲んでいるのかに関して説明した。

「実は、僕が抗うつ薬を飲んでいるのは、経過観察という側面、それと未だに気分の波、特に落ち込みに対して適応できないから、飲み続けてる。」

「それって、いつから?もしかして、私がオトーサンと会った時から?」

「もっと前。かれこれ10年ぐらいの付き合いになるかな。過去に、会社でパワハラを受けたこと、それと、死にかけたことがあってね。人間というのは不思議で、死に対する恐怖というのは、そのことが起こったあとにしか来ないんだ。それに苦しんだ。幸い、自傷行為などはなかったけど、元々ネガティブ思考の持ち主で、ネガティブな方向にポジティブになる性格というのもあって、本来なら、意欲が増すらしいんだけど、僕は、これを服用していないと、そもそもに何もする気が起きなくなってしまう。だから、前向きになろうと思っても、常に一歩下がった位置でしか、物の考え方が出来ない。ある意味、これに助けられることも多いんだけど、そういうわけで、本来の感情というものを本来は戻すためだったのが、だんだんと悪化しているというのが本当のところかな。特に気持ちの落ち込みは、もう慣れてしまって、ある意味落ち着いてしまったんだ。」

「会社を休んで、治療に専念するという選択肢はなかったの?」

「当時の会社は失業保険など出るような規模の会社じゃなかったし、その前から睡眠障害を患っていた。だから、どんどん悪化していく。本来なら精神疾患持ちと言われても、さほどおかしくないレベルらしい。まあ、とはいえ、僕は休めるほど、裕福ではない。当然、あなたが支援をしてくれると言っても、僕は、自分でお金を稼いで、克服するしかない。」


「そうなんだ。もう、付き合っていくしかないんだね。」

「だけど、君たちと暮らしてるから、安定はしていたんだよ。自分がうつ病であること、それが完治しないにしても、発作だけ受け止めればいい、その結果が、こんなに迷惑を掛けてしまった。」

「相談してくれれば、と言ってもよね。自分の精神安定を保つというのは、本当に難しいことだから、私も分かるかな。」

「今は普通の状態。ただ、いつ、またこういう状況に陥るかわからない。いつもはあなた達に介抱してもらってたけど、今回は、なんか受け止めきれなかったんだ。」

「起こっちゃったことは仕方ないから。正直、あなたの内面とか、精神状態とかまでは、私達も関与出来る範疇じゃないかな。」

「また起きちゃったら、私たちで介抱してあげるから、そんなに心配しないで。」

「ありがとう。あなた達、家族しか頼る人がいないから、その時は面倒をかけるけど、ごめん。」

「いいのよ。私はあなたの奥様ですもの。そういうところはしっかりフォローする。」

「今度はオトーサンを助ける番。あ、でも、私は何回も助けてるのか。」

「君には本当に醜態ばかり見せてしまって、悪いと思ってる。」

「そういうところもひっくるめてオトーサンだよ。大丈夫。私も力を貸すからね。」



その日の内に退院。身体には問題はないので、毎日発作が起きたら、心療内科に行けと言われた。

そして、支払い。一晩でも、救急搬送されている点で、結構な額を支払った。まあ、無事には変えられない。


「あれ、ところで会社と学校は?」

「そんな事言ってる場合じゃなかったでしょ。休みをもらったわよ。まったく。」

「大学生だから、友人にノートは取ってもらってる。まあ、一回休んだぐらいで、単位に影響はないよ。」

「ごめん。本当に迷惑を掛けてしまった。」



気絶しちゃうほどの恐怖。なんだったんだろうか。まあ、最近は体調も良くなかったし、見てしまったんだろう。

でも、僕にはそれを一瞬で立ち直らせてくれる家族がいる。こんなに嬉しいことはない。



今日も聞いてもらって、ありがとうございます。また今度ね。

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