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Life 43 Revisiting a place of memories. 高校のあった街へ

ホテルで迎えた1/2の朝。僕は、寝床が変わったせいか早朝に目が覚めます。ふと横を見ると、彼女と娘がベッドを寄せ合って寝ていました。僕も一度起きますが、再び眠りに落ち、朝を迎えます。


宇都宮への移動と初詣

朝食を済ませた3人は、僕の母親と合流して宇都宮の二荒山神社へ初詣に向かいます。バスの乗り方が数年前から変わっていたことに驚く娘に、僕は時代の変化を話します。神社は多くの人で賑わい、僕たちは参拝と御祈祷を終え、それぞれおみくじを引きます。


思い出のラーメン屋

母親と別れた後、僕たちは高校時代に通っていたラーメン屋「オギノラーメン」へ。ちゃんぽんと甘味を楽しみ、懐かしさに浸ります。娘と彼女は、初めて知る僕の過去の思い出に興味津々で、僕の意外な一面に触れていきます。


街の散策とホテルでの夜

食後、寂れてしまったオリオン通りを散策しながら、昔の街の様子を語る僕。ホテルに戻った夜、僕は娘と二人でベッドを共にします。懐かしさを感じる娘と、久しぶりに親子水入らずの時間を過ごします。明け方、目が覚めた僕はもう一つのベッドに座る彼女に気付き、彼女もまた一人では安眠できないことを知ります。お互いの存在の大きさを再確認し、3人にとっての家族の形を深めていくのでした。

ホテルのベッドというのは、やっぱり寝心地が良くない。いや、そもそもにベッドというのがあまり好きじゃないけど、自宅でベッドで寝ている人間としては、なんか自宅とは違う感じがするんだよなあ。

時間はまだAM4:30。ちょっと明かりをつけるのははばかられる時間帯だな。とりあえず、備え付けの椅子にでも座ってみる。


隣のベッドを見てみると、相変わらず同じ顔が見を寄せ合って寝ている。狭いから僕がエクストラベッドでいいと言ったんだけど、二人で寝るってきかなかったんだよなあ。僕、なんかダメなのかな。

「どうするべかな。」

小声でつぶやく。何かに気づいたように彼女も起きてしまったよう。

「...どうしたの?やっぱり眠れない?」

「なんとなく目が覚めちゃった。まあ、二度寝する時間あるから、ちょっと小休止。」

「寝てるのに小休止って...おかしな人だよね、あなたは。」

「そういうあなたも、まだ早いんじゃない?」

「同じかな。やっぱり寝床が変わると、どうも寝付けないのよね。」

対面にあったエクストラベッドに彼女は座る。

「どうしたものかな。」

「どうしようかな。」

「「う~ん」」



AM8:00

聞き覚えのない目覚まし音。あ、そうか、ここはホテルだったな。

目を開けてぼーっと前を見てみる。

「あれ、なんでいるの?」

隣で彼女が寝ている。その後ろ、やっぱり不思議そうな顔でこっちを見てる娘。

「オトーサン、おはよう。」

「おはようございます。」

「で、どうしておねえちゃんはベッド移動してるの?」

う~ん、あまりに記憶がなさすぎる。一度起きて、考えたぐらいまでは覚えてるんだけど。

「ふあ~。おはよう。」

「あ、おはよう。よく眠れた?」

「なんとなくはね。」

彼女も起きた。あんまり状況が飲み込めないんだが、僕は夜中に確か彼女たちの寝顔を見てたと思うんだよね。

「どうしたの?」

「いや、後ろ。疑問だらけの娘がいますけど。」

彼女がゴロンと逆を向く。

「おはよう。」

「うん、おはよう。いやいや、そうじゃなくて、なんでおねえちゃんがベッド移動してるの?って話。」

「なんででしょう?」

「ごめんなさい。もしかして、僕が連れ込んだ感じ?」

「この娘を起こしたくなくて、あなたのベッドに入ったの。覚えてない?」

「起きて、椅子に座ってるあたりから、記憶が飛んでるんだよね。」

「さっすが私の旦那様。無意識でも娘を気遣えるって素晴らしいかな。」

「やっぱり、僕の言ったことなんだ。あなたに迷惑掛けちゃったかな。」

「ねね、そんなによく寝てた?私。」

「寝てた。本当に寝てても可愛いんだから。あんな寝顔を見せられたら、さすがにまたベッドに入りづらいかな。」

なんとなく、そんなこと聞いた気がする。あ、そうそう、それで、たまにはって話で、二人で同じベッドに入ったんだっけか。

「あー、あなたが思ってるようなことはしてないよ。さすがに私達も、早朝から元気に動けないのよ。歳よね。」

「そうだね。まあ、あなたと同じシングルベッドで寝るって思ってなかったしね。」

娘はなんか釈然としない表情。それはともかく、今日はこのあと、宇都宮に移動する。


「さ、じゃあ、ベッドでグダグダしててもしょうがないし、出かける準備しますか。」

「「はーい」」



とりあえず準備して、ホテルに荷物を預け、朝食を取っている。と言っても、食べてるのは娘だけで、僕らはコーヒーをすする程度。

待ち合わせする電車は決まっているので、そこまでに間に合えばいい。

「ねぇ。今日は私と一緒に寝てよ。」

「どうしたの。嫉妬しちゃった?」

「そういうわけじゃないんだけどさぁ。なんか、ちょっと釈然としない。」

「まあ、それだけよく寝てたってことだよ、君は。色々あって疲れてたんだろう。」

「いい寝顔だったわよ。私ってこんなに可愛い寝顔してるんだって思っちゃった。」

「そうやって、子供扱いするなよぉ。」

「してないよ。僕の病気のせいで、君まで起こす必要がないから、そのまま寝かせてあげたんだよ。かえって悪いことをした?」

「う~、そう言われるとしょうがないとしか。」

「まあ、今日もホテルに戻ってくるし、一緒に寝たら。あなたも、そっちのほうがよく眠れるんじゃない。」

「どうだろうね。よく眠れたら、君のおかげってことにしておくよ。」

「うんうん、じゃあ、今日は私と一緒ね。」

「この人、どこまで本気で言ってるのかしらねぇ。まあ、本当に何も考えてないから、恥ずかしげもなくそういう事言うのか。」


ホームから、いつもの電車に乗り、オカンと合流する。

「おはようございます。お義母さん。」

「おはようございます。引っ張ってきたんだね。」

「オトーサン、ちゃんと一人で起きてるから、心配しなくて大丈夫。」

「そうかい。まあ、妻子持ちでだらしないカッコも出来ないか。」

「ま、そういう事にしてください。」

「アンタ、また今日も無理してるんじゃないだろうね?」

「ああ、大丈夫。集団生活してると、規則正しい生活になるもんでね。」

「え、規則正しい生活?」

一番規則正しくないお前が言うな、って娘に言ってやりたいが、我慢する。

「そりゃあ、会社行くんだから、規則正しい生活してるだろ。」

「ほらほら、電車の中だからね。静かにしたほうがいいかな。」


「言う事聞くんだねぇ。」

「この人たちは、素直ですから。言う事はしっかり聞いてくれますよ。」

彼女が一番強いようなイメージがあるな。まあ、事実ではあるが。


しかし、何年ぶりだろうか。こんなに大人数で初詣に行くって、随分と久しぶりな気がする。

彼女たちは何年ぶりかの宇都宮。娘にしたら、未来の宇都宮の街になるのかな。寂れたとか言われそう。


宇都宮駅に着いた。

コンコースあたりで、娘が耳打ちしてきた。

「なんか、ちょっと変わった感じする。改札がもっと狭かった気がするけど。」

「多分?僕は逆にこの感じのほうに慣れてしまってるから、思い出せないんだよね。」


「いつもどのバスに乗ってるんだっけ?」

「適当に下に降りて、作新学院行きのバスとかでいいんじゃない。あれが一番頻繁だよ。」

とりあえず、この辺は僕の仕事だ。止まってるバスに乗れば、おおよそ二荒山神社の目の前にある「馬場町」というバス停に行く。

と、娘がまたちょっとおもしろい行動を取った。

「あ、お客さん、乗る時は後ろに変わったよ。」

そう、宇都宮を走るバスというのは、なぜか全国でも珍しい前のり前降りというバスだった。おそらく彼女も知らないだろうが、ここ数年で後のり前降りに変わったのである。PASMO対応とからしいが。

「えへへ、注意されちゃった。」

「君の知ってる時代のバスの乗り方、数年前に変わってしまったんだよね。言わなかった僕も悪かった。」


バスもそこそこ乗っている。まあ、大体東武駅前ぐらいまでには全員が降りてしまうんだろうけど。


「アンタ、バスって馬場町までいくらだったっけ?」

「確か170円。あ、でもSuica使えるから、それで払えばいいんじゃない。」

「いつの間にSuicaに対応したんだろうね。知らなかったわ。」

「あれ、去年はもう対応してたよ。僕はSuicaで払った記憶ある。」

「そうかい。便利になったもんだね。」


宇都宮事情においていかれてる二人もいる。

「Suica使えたんだ。整理券取っちゃった。」

「ごめんね。前もって言っておくべきだった。」

「そうかぁ。生きてる時代が違うと、ここまで変わるんだね。」

「感心しなくていいぞ。本当にここ数年の話だから。」


「次は馬場町 二荒山神社前」

アナウンスが入ると、一目散に降車ボタンを押す輩は必ずいる。

「降りるからね。分かってると思うけど、運賃箱に小銭入れてよ。」

よくよく考えてみると、そもそもこの人たちは、定期券でしかバスに乗ったことないんじゃないかと思った。でも、整理券取るあたり、乗り方は分かるのかな。


宇都宮の繁華街から若干外れたものの、大通り沿いにある由緒正しき宇都宮二荒山神社。

「今年も時間待ちになっちゃったね。」

「ここ数年、神頼みしたくなることばっかりだったから、しょうがない。

「あれ、なんで並んで待ってるの?」

「境内が混雑してるから、入場制限ってやつだね。」

「私、初めてここに初詣に来たけど、こんなに混むものなのね。さすがに県下じゃ有名な神社だものね。」

おおよそ10分ぐらい待った。

「しかし、アンタさ、もうちょっと気を回すこと、出来ないものかい?」

「え、なんの話?」

「バス。さっさと降りちゃって。娘ちゃんが両替してたじゃない。小銭渡してあげればよかったのに。」

「ああ、それは気づかなかった。ごめんね。」

「ううん、おかーさん、別にいいよ。私も子供じゃないから。」

「子供じゃないと言っても、今はアンタの娘なんだから、もっと色々言っていいんだよ。」

「うん、ありがと。おかーさん。今度からそうする。」

ちょいちょい気になってたんだが、僕の母親がおかーさん、僕がオトーサン、彼女がおねえちゃん、そうすると、オトンを呼ぶ時は、おとーさんになる?いや、そこはおじいちゃんなのかな。まあ、どうでもいいけど。


「ここまでの方は、石段を上がって境内に入ってください。」

呼びかけがあった。さ、ここから、石段を一気に上がる。僕らはまあいいとして、毎年オカンが登れるか心配...するんだけど、案外登ってくるんだよな。さすがに田舎のお母さんは馬力が違う。

「それじゃあ、お祓いの受付だけしちゃうから、先に並んで熊手と御守を買っておいて。」

「はいよ。二人は、参拝したら、オカンと合流しててね。」

正月は仮設の売店が出来るほど。そして地元のアルバイトを含め、100人ぐらいの体制で初詣客を捌いている。

当然だけど、売店には長蛇の列。最近は購入前に手書きのシートを書いて、それを窓口で渡すと、商品が運ばれてくるという仕組み。

とりあえず、熊手を3つ、これは親戚とか、実家に置く用のものだ。それと家内安全の御守を3つ買っておくか。

地味にこの時間が堪える。日陰で、雨が降ってもいいように屋根が案外長く取ってある。おまけに何列にも並んでいるので、身動きがほとんどない。じっとしてるには寒い時期だ。


とりあえず買ったぞ、と。

社務所の前あたりに三人がいたので、合流する。

「11時からだって。」

「珍しいね。10時半に間に合うと思ったのに。」

「どうする、荷物持ってるかい?おみくじ引いてくるんだろう。」

「それじゃあ、頼むわ。」

「お義母さん、お願いします。」


おみくじ売り場は仮設の売店から、参道を挟んで向かいにある。ここに行くのも、意外と苦労する。

「なんか色々おみくじの種類あるね。」

「普通のおみくじでいいんじゃない。ちょっとしたお守りみたいなものが入ってる。」

「じゃあ、私もそれにしようかしら。」


三人揃って、同じおみくじ。結果は...こういうのは教えないほうが、ご利益があるんだよな。想像にお任せする。

...明らかに引きずってる娘がいる。詳しいことは聞かなくていいだろう。


「荷物持ちさせてごめん。」

「どうだった?」

「う~ん、まあ、それぞれに。」

「あとはお祓い。アンタのもあるから、本殿に三人で上がっていったら。」

「ああ、ありがとう。いつも悪いね。」

「オトーサン、本殿って、お賽銭箱の上のところ?」

「そう。あ、さっき参拝しちゃった?まあ、気にしなくていいんじゃない。」

「私、一回だけ上がったことあったかも。大学受験の時に、親戚が連れてきてくれたかな。」

「普段、祈祷の申し込みなんかあんまりないから、家族で上がって、色々話をしてくれるやつだろ。僕も受けた気がするよ。」


それから、四人で本殿に上がり、御祈祷を受ける。本殿も冬仕様らしく、全体にホットカーペットが引いてあったり、ヒーターがあったりと、実はそれほど寒くはない。

おおよそ30家族ぐらいの御祈祷をまとめて行い、御札などは終わったあとに順序よく手渡しとなっていく。毎年思うけど、手際がいい。


「さて、アンタたちはどうする?」

「う~ん、僕は久しぶりにオギノ行ってみるわ。」

「それじゃ、お母さんは先に帰ってるから。荷物は?」

「親戚に持っていくものだけ渡すよ。あとは僕らで持って帰る。」

「そうしてもらえると助かるわ。」

「ごめんなさい。ご一緒出来なくて。」

「気にしなくていいよ。宇都宮は久しぶりだろ。ゆっくり見てきなさい。」

「ありがとうございます。お義母さん。」

「それじゃ、オカンも気をつけて。夕方までには帰るから。」


「オトーサン。おかーさんはなんで来なかったの?」

「昼からラーメン食べたくないってことだろ。これからラーメンを食べに行くんだ。」

「オギノって言ってたね。何?名店?」

「僕の中では名店。お嬢様育ちにはどうかなあ。」

「「そんなことないもん」」

「あ、おねえちゃんもそう思ったんだ。」

「でも、私も実はみんみんすら行ったことないんだよね。宇都宮って、やっぱり高校があるだけのイメージだったから。」

「ま、でも、残念だけど、ラーメンを食べたら僕らも帰る。本当はオリオン通りとかをふらつきたいんだけど、1月2日からやってる店は飲食店ぐらいしかない。」

「そっか。でも、わざわざ期待値上げてまで食べに行くんだから、美味しいってことだよね。」

「あなたのそういうところは信用してる。きっと、また度肝を抜くようなものが出てくるんでしょ?」

「それは頼んでからのお楽しみってところで。」


神社から県庁通りへ、そして県庁に背を向け、大通りから数えて最初の路地にあるのが、オギノラーメン。

「いいでしょ。レトロな感じで。」

「オトーサンはなんか、そういう道の人だったりするの?」

「そんなことない。ここは昔から来てるから知ってるんだよ。」

「知らなかったなあ。路地に入るだけで、まだこういうお店があるのね。」

「中にもメニューがあるけど、ちゃんぽんは必修科目です。必ず頼んでください。」


ガラン

「いらっしゃいませ。」

「3人で。あ、メニュー見せてもらえますか?」

「はい、どうぞ。」

「すみません。」

「えっと、ちゃんぽん3つとクリームソーダ一つ、あとは?」

「えっ、デザート?あ、コンビアイスクリームを一つ。」

「私はいい。とりあえずそれでお願いします。」

入り口でお金を払い、食券代わりの札をテーブルに置く。この店のルール。

「あ、あんみつなんてあったのね。追加してこよう。」

彼女がそそくさと入り口でお金を払って、札を交換してきた。

「いやあ、今年もやっててくれて、嬉しいね。」

「ここは、オトーサンの何?」

「何?と言われると、高校時代に食べてたラーメン屋だね。」

「知らなかったなぁ。私がいた時代にもあったんでしょ。」

「そうだね。少なくとも、僕のオカンがここで食べたという証言があるから、60年以上はここでやってるってことになるね。」

「あれ、オトーサンのおかーさんは、宇都宮出身なの?」

「そうそう。だから、それなりに詳しい。もっとも、今はどうかわからないけどね。」

「へぇ~。意外ねえ。しかし、なんでラーメンと甘味をやってるの?」

「僕もそこはよくわからない。けど、谷中にもラーメンと甘味をやってる店もあるし、ちょいちょい点在するらしいんだよね。最初は甘味処だったけど、なぜかラーメンを出すようになったケースと、ラーメン屋だったけど、デザートに甘味を食べてもらうということでおいたってケースの2つの説がある。」

「本当、どこから入ってくるの。その知識?」

「僕もいつの間にか知ってる知識だからなんとも言えないんだよね。」

「こういうところが、底の知れなさで、面白いところよね。あなたの脳の情報をすべて引っ張り出してみたいわ。」

「たどり着かないと思うよ。多分、考えてる時だけシナプスが結合して情報が出てくるとか、そんな感じなんじゃないかな。」

「そのおかげで、オトーサンが思ってる好きなお店に入れるんだもんね。」

「まあ、今日はなんにも言わずに、オギノラーメンを楽しもう。」


で、ここのちゃんぽんというのは、なぜか深いカレー皿のようなもので出てくる。醤油ベースで、とろみが付いていて、具や麺に絡んでいる。高校生の時は、ここにライスを追加して、麺を食べ終わったあとの汁にご飯を入れて、ぞうすいにして食べるのが贅沢だったなあ。一つ残念なのは、僕がもう若くないせいか、若干味が濃いかなと思ってしまう点。年々思うことだから、やっぱり僕のほうの問題なんだと思う。


「完食。」

「全然知らないラーメンを食べた気分。ちゃんぽんって、リンガーハットのイメージしかないから。こういうちゃんぽんもあるのね。」

「あれは長崎ちゃんぽん。ちゃんぽんって、土地ごとに違うものがあるらしいから。ま、実際に長崎ちゃんぽんだけでも、結構種類があるしね。」

「オトーサンに教えてもらわなかったら、多分一生巡り合わなかった味だと思う。美味しかったよ。」

「やっぱり、若いと美味しいって感じるんだな。歳かな。」

「どうしたの?」

「いや、味が濃く感じちゃって。でも、多分、僕の衰えなのかなって。」


その後、すぐにデザートを持ってきてくれる。クリームソーダ、コンビアイスクリーム、そしてあんみつ。


「アイスの容器がレトロねえ。そんなの、子供の頃の絵本に出てきたアイスよね。」

「合ってると思う。昔は、アイスクリームといえばこの容器だった気がするんだけどね。」

「あんみつの容器も、これってパフェとかも入るタイプの容器よね。」

「そうかな。サイズ的にはそうかも知れない。でも、ここでしか見たことがないかも。」

「で、オトーサンはクリームソーダね。あの話以来、本当に頼むのかと疑ってたけど、ついに頼んだね。」

「実を言うと、ここでクリームソーダを頼んだのは初めて。普段は、ラーメンライスだから、基本食べられないんだよ。」

「どう?割と念願叶ったって感じ?」

「う~ん、昔から興味はあったけど、無くなる前に食べておきたいって気持ちはあったかな。ん?食べて?飲んで?どっちだろ。」

「よかったね。今年もやってて。」

「そうだね。出来れば、お店をやっててほしいけどね。」


とはいえ、おそらくここも、いつ閉まってもおかしくないぐらい。次世代の料理人が育っているのか、イマイチよくわからない店ではある。

でも、宇都宮のちゃんぽんは終わって欲しくないなと思ってしまう。それぐらい、僕には思い出があるんだよね。


ガラン

「ありがとうございました」


「悪いね。僕に付き合わせてしまって。」

「オトーサンの知ってるお店は、ハズレがないもん。全然いいよ。」

「本当よね。こういう人だから、奇抜なメニューだったりするのかなと思いきや、案外大衆向けというか。」

「言ってるでしょ。僕はお子様舌だから、そんなに珍しいものは食べに行かないよ。」


その後、短いながらも、オリオン通りを散策してみるも、やっぱり正月2日からやってる店もほとんどなく。心なしか、店の看板もない場所が増えている気がする。

「昔は、もっと色々あった。楽器屋だったり、ブティックだったり、八百屋もあったっけ。ゲーセンもあった、ちょっと離れるけど、模型屋もあったんだ。」

「この先に、ユニオン通りってのもあったよね。あっちは?」

「あっちは独自の文化になってるみたいだね。入り口に専門学校があるせいか、こっちよりずっと若い人向けらしいよ。地方都市のアーケード街はみんなこんなもんなんだよな。車社会だと、どうしてもロードサイドが充実しちゃうからね。まだ、宇都宮は頑張ってる方か。駅もあるし。」

「宇都宮にあんなに通ってたのに、全然知らないことだらけだったなぁ。」

「ほら、君たちはお嬢様だったし、バスで学校を往復するだけだっただろ。だから、知らなくてもしょうがない。」

「なんか、オトーサンが羨ましいな。同じところなのに、まったく違う青春時代だったってことだよね。」

「僕は、前にも話したけど、学校が厳しかったから、その反動。まあ、君たちの同級生とかも緩い生活だったのかもしれないけど。」

「門限というか、新幹線の時間があったから、なんとなく駅前とか駅ビルには覚えがあるのよね。」

「新幹線って。まあ、それはいいとして、今はロビンソンもなくなったし、駅ビルもあんまり代わり映えしないラインナップに落ち着いてる。」

「え、ロビンソンってなくなったの?あれ、すっごく大きいビルだったじゃん。」

「今もテナント中心に、ヨドバシカメラが入ってる。デカいダイソーとかもあるしね。」


そんなこんなで、馬場町の交差点まで戻ってきた。さすがに駅まで歩く元気もないし、荷物もあるから、バスで宇都宮駅へ向かった。

帰りの電車は意外と混んでいる。帰省客もいる。まあ、1時間に3本ぐらいしかないから、混むのも当然か。


「はー、帰ってきたね。野木に。」

「複雑な気持ち。故郷ではあるんだけど、今は家があるわけじゃないのに、なんかホッとする。」

「僕の実家があるだろ。もう、そこを故郷として思えばいいんじゃない。もしくは、君があの家の鍵を預かってきて、泊まれるぐらいにする?」

「ないない。私も中が見たいけど、別荘にするつもりはないかな。」

「なにかの機会で、一回ぐらいは泊まりたいよね。オトーサンの実家。」

「まあ、妹夫婦がいない時なら、泊まれるんじゃないかな。部屋も一つ空くし。」


「ただいまー。」

タタタと可愛い足音が響いてくる。

「おかしは?」

妹の息子は、どうもお菓子を買って帰ってくると思っていたようだ。誰の入れ知恵だか。

「ごめんね。買ってきてないんだ。」

「ふ~ん。」

そう言うと、また母親の方へ戻って行ってしまった。

「あれ、なんか買ってきたほうが良かった?」

「どうだろ。大体そんな話してないから、なんとも。」

「きっとお義母さんがお菓子を買ってきたから、それと同じだと思ってるんじゃない。」

「ま、そんなところか。どれ、さっさと上がって、また顔を見るかな。」


その日も、特に干渉することなく。せがまれなかったので、コンビニには行かなかった。

完全に懐いたのか、オトン一択だった妹の息子が、娘と遊んでたりする。不思議な光景だったけど、娘といいつつ、もう21歳だしね。

その間に妹夫婦はしまむらに服を買いに行き、奥様はオカンに料理を習ってる。が、思ったより出来ないことを指摘されつつ。

僕は特に役割がないので、たまに上に乗っかってくる息子の相手をするぐらいで、ぼーっとしていた。


夕食後、僕らはまた小山に移動しなければいけない。

「というわけで、また明日寄るわ。」

「無理なら無理でいいよ。」

「そんなことない。夕飯まで食べて帰るよ。」

「じゃあ、おやすみなさい。お義母さん。」

「おやすみ。おかーさん。」

「はい、おやすみなさい。」



ホテル

忘れてたことがあった。そう言えば、僕は今夜は、娘と一緒のベッドだった。

「というわけで、なんか久々だね。普通のサイズに二人で寝るって。」

「うん、まあ、そうなんだけどさ。」

「私のことは気にしなくていいわよ。たまには親子水入らずってね。」

「そういうもの?」

「そういうものよ。覚悟を決めて、一緒に寝てあげなさい。父親なんだから。」

「オトーサン。私とじゃ嫌?」

「本当にただ添い寝するだけでいいんだよね。」

「あったりまえでしょ。おねえちゃんの寝てる横でエロいことでもしようと思ってたの?」

「思ってない。逆に君がそう思ってたらどうしようって思って。」

「一緒に寝るってそういう意味じゃないもん。本当に添い寝してくれるだけでいいんだもん。」

「駄々っ子みたいな言い分だね。まあ、一応聞いとくけど、僕は大丈夫?」

「何を言ってるのかわからないけど大丈夫。自信を折るようで言えば、襲われる気配ないし。」

「...うん、分かった。もう寝よ。疲れたよ。」

「和解した?電気消すわよ。おやすみなさい。」

ガチャ


こういう時、キングサイズのベッドだと、寝る時は二人共僕のほうを向いていても、起きれば向きは日によってバラバラである。それぐらいの広さがある。

でも、今日は一人用のベッドに二人でいるから、どうしても、向かい合わせに寝るしかないんだよなあ。

「あれ?」

娘の顔がない。あ、さては布団の中に潜ってるな。まあいいや、無視して寝よう。

「あれ、ちょっと寂しくない?探してくれないの?」

「潜ってるんだろ。ちゃんと顔出して寝なさい。」

ガサガサしながら、顔を出してきた娘。

「オトーサンがオトーサンモードに入ってるね。なんだか二人で暮らしてたときみたい。」

「はいはい。それじゃ、たまには抱きしめてあげようか。」

久々にぎゅーってしてあげた。たまには恋人ごっこに付き合おう。

「なんか、ただ寝る前にこんな事してもらってたことあったっけ?」

「冬はしょっちゅう。僕もオジサンだし、臭いとかも気になるし、嫌なら嫌でいいんだよ。」

「嫌じゃないから寝てるの。えへへへ、今夜は一人占めだからね。」



う~ん、やっぱりホテルのベッドじゃなんかこう眠りが浅いというか。

AM4:00。昨日とおんなじパターンだな。ちょっとトイレに行こうかな。

薄目を開けると、相変わらず可愛い寝顔。ずっと見ていたいけど、トイレで起きたから、ちょっと耐えられないかな。

「ごめんね。」

そうやって、ベッドを抜け出す。そしてトイレに入る。


ガチャ

「やっぱり目が覚めちゃった?」

トイレから出ると、もう片方のベッドに彼女が座っていた。

「なんだろうね。やっぱり、家のベッドじゃないと、よく眠れない?」

「一人で寝てて思ったの。私も、誰かがいないと安心して眠れないんだなあって。」

彼女が寝ていたベッドに僕も座る。

「何か心配事でもあった?」

「特にないのよ。でも、なんか不安というか、落ち着かないというか。」

「僕も同じだよ。普段、三人で寝てると、やっぱり落ち着くもん。」

「とは言え、私までそっちのベッドに入るって、もう無理があるものね。」

なんとなく、肩を抱き寄せてみた。

「これでいいかな。少しは落ち着いてくれるといいんだけど。」

抱き寄せた手に、彼女の手が添えられた。

「ごめんなさい。私もわがままなのよね。やっぱりあなたと、あの娘がいないと眠れなくなっちゃうなんて。」

「そんなことないよ。一緒に寝るって、大事なんだなってあらためてわかった気がする。」

しばらくそのままの体制で座っていた。彼女にも、寂しい思いはさせたくない一心。


「うん、ありがとう。私は大丈夫。だから、あの娘の寝顔を眺めてあげてほしいかな。」

「寄り添ってあげられなくてごめんね。」

「ううん。あなたを困らせちゃうのはダメ。それに、こんな事してたら、またあの娘が嫉妬するでしょ。」

「自宅に帰ったら、否応なしに一緒に寝るけど、それで許してくれる。」

「許すとかじゃない。今日はあの娘の番なだけ。そういうとこだぞ。」

そういうと、手をほどいて、布団の中に入っていった。

「2度目だけど、おやすみなさい。」

「おやすみ。」


さてと、

「寒くしてごめんね。」

そうして、娘のいるベッドに入り、しばらく寝顔を眺めていたが、自然と寝てしまったらしい。



「...よう。朝だぞ。」

「...うん、もう少し寝かせて。」

耳元でささやくモーニングコールを止めたくて、つい反応してしまった。やっぱり眠りが浅いようだ。

娘がベッドから出た音がした。これは、寝てていいってことかな。


「...よう。そろそろチェックアウトの時間だよ。」

とっさに体が反応して、飛び起きてしまった。

「ごめん、二人共。」

「おはよう。ねぼすけさんだね。」

穏やかに笑う彼女。娘も、

「朝ごはん食べてきたから、もう出るだけだよ。さ、早く着替えて。」

そうか。割とよく寝たんだな。あの時、僕も安心感をもらってたのかな。


「うん、着替えるからちょっと待っててね。」


そう言って、出る準備...あ、そうか、今日はチェックアウトだから荷物も片付けなきゃな。





朝だけど、今日はこの辺で。

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