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Life 26 We try my best every day. 泣くのも君の感情表現

家に帰る時間がバラバラな僕たち3人。僕は一番早く帰宅し、妻と娘の帰りを待ちます。夜10時半、いつものようにこたつを囲んで、他愛のないおしゃべりが始まります。


娘と妻の心の距離

妻の不満と僕のねぎらい

妻は会社の総務部で、不合理な社内ルールや、備品目当てで声をかけてくる男性社員たちにうんざりしていました。僕はそんな彼女の不満を聞き、「毎日ご苦労さま。よく頑張りましたね」と頭を撫でてあげます。彼女は、僕の優しい言葉に涙を流し、「私、ちゃんと親もやれてるんだ」と、娘を育てていることへの自信を深めます。


感情のコントロール

娘は、涙もろくなった僕と妻に「歳を取るとそうなるの?」と尋ねます。僕は、感情を素直に表現することの大切さを語り、泣きたいときは我慢せずに泣くようにと娘に伝えます。妻も、ホルモンバランスの乱れで感情の起伏が激しくなることがあると話し、娘に共感します。


涙の約束

娘は、僕と妻に「泣くとき、胸を貸してくれる?」と尋ねます。僕たちは「お安い御用だよ」と快諾し、娘を安心させます。娘は「曲を聞いてたら、歌詞が泣けてきてさ」と、泣きたい理由を明かし、僕たちは「泣き虫って言わないでね」という彼女の言葉に笑い合います。


3人は、それぞれの感情を素直に受け止め、互いを支え合いながら、今日もまた幸せな気持ちで眠りにつくのでした。

ガチャ

「ただいま~。っと、僕が一番か。」


最近は僕が一番帰るのが早くなってしまった。

まず、奥様は企業の中核たる総務部の課長クラス。当然付き合い残業みたいなものがある。

ビシッとしたスーツを来た彼女はどうも、毎日不満だらけで帰ってくる。出迎えて、頭を撫でて、褒めてあげるのが日課。

正直、素性は本当にごく一部の人間しか知らないらしい。会社では歳を取らないアイドルとしてここ20年ほどは君臨してるんだと。自分でアイドルって言っちゃうんだね。


そして娘。大学へ行き、夕方からコンビニでバイト。とは言え、短時間で、帰ってくればご飯を食べて、すぐにお風呂に入るという日課。


僕はそれほど大きくない会社で、いわゆる何でも屋をやっている。

コピー機の紙詰まりも、Excelのソートも、時には極秘資料を受け取ってPowerPointでそれっぽい資料を作ったり、Excel VBAでプログラム組んだり。

残業はご法度らしいので、毎日就業時間に適当に帰る。そのときに、コンビニに寄れれば娘の顔を見て帰る。


そんな三人。

改めて、お風呂に入ったあと、こたつを囲んでTVの正面に僕、その左側に奥様、そして右側にもたれかかるように娘。

PM10:30。いつものとりとめのないおしゃべりが始まるわけ。これは、前に娘と暮らしていたときの名残でもある。


「でさ、おねえちゃん、いつなら時間取れそう?」

「ごめん、何の時間だっけ?ちょっと忘れてる。」


「もう、おねえちゃんの行ってる美容院、次いつ行くかって昨日聞いたじゃん。」

「そうだった。ごめんね。土曜日予約取れるかちょっと連絡してみるね。」

「結構直近だね。そんな感じで、あのひとの予約取れちゃうの?」

「ほら、私、なにげにあそこで切ってもらってるタレントさんより店舗でのランク上だったりするから。20年も通ってるし?」

「すごいねえ。割とおねえちゃんと話してて、あれだけダメ出ししてる人って見たことないから、なにげにすごいのか。」


「オトーサン、行く?」

「うーんと、目線が痛いので、僕は友人と秋葉原にでも行ってきます。」

奥様が来るなビームを出していたので、僕は遠慮したいと思います。


そうして、娘は、

「オトーサン、また借りるね。オトーサンセレクト聞いてるから。」

「はいはい、気が済むまで聞いてていいよ。」

オーディオプレーヤーとお気に入りのイヤホンを定位置から持っていく。


「なんか飲みます?」

「ビタミン剤?冗談。ちょっと弱いお酒でも飲みましょうか。」

彼女は冷蔵庫から、ほろよいを出してきた。あ、僕も好きなホワイトサワーだ。

珍しくグラスに開けないな。あ、こりゃ荒れてる時だ。

「それじゃ、僕はいつものように」

面白みはないが、ダイエットペプシである。まあ、多少はね。

ちなみに娘は僕が席を立つと自立し、僕が定位置に戻ると、寄りかかってくる。条件反射みたなものだ。


「「カンパーイ」」

カンとペットボトルでやるもんだから、音もしなけりゃ、両方とも豪快に喉を鳴らすタイプでもないので、一口ぐらいで至福のときは終わる。

「最近思うのよね。なんか、毎日、帰ってきたら褒めてって。今までと何が変わったのかしら。」

「一人で生きてきたからじゃないの?きっと、毎日褒めて欲しかったんだよ。」

「うーん、いや、それって、なんとなくですけど、幼児退行してるってことなのかな?」

「そういう歳でも無いでしょう。それとも、赤ちゃんプレイとかのほうが喜ぶとか?」

「あなたが?気持ち悪い。そういう人じゃないでしょ。もっと真面目なくせに。」

「でも、毎日、あなたが理不尽と戦っているのは知っています。どうせなら、もう怒られない程度に、キャラ変してみたらいいんじゃない。」

「それだと、部下だったり、理不尽の素だったり、そういう人たちに示しがつかないのよね。大体、総務部で備品管理だけをやってる部署があるってのがおかしいのよ。」

「ああ、後輩二人とやってるっていうやつね。」

「備品なんて今どき帳簿管理している会社なんてありえないわ。ただですら、世の中はシステム化して、今や打刻ですら個人のスマホで管理するというのに。」

「あなたの会社って本当に大丈夫?誰か横領してるとか、そういう空気漂ってますけど。」

「横領は経理部と管財課が未然に防いでいるって感じかな。多分だけど、どんな人を雇っても、うちの会社ってなんとなくセコい人間しか集まってこないのよ。」

「で、この前のボールペンの話か。」

「信じられないでしょ。週に4本とか。あんなの、単に私達と話したいがためよ。ある意味セクハラ。全く。」

「そんなセクハラに耐えて、毎日ご苦労さま。よく頑張りましたね。」

おかしいんだよなあ。奥様の頭を撫で撫でしてあげるって、やっぱり何かのプレイ?だったりするんだろうか。

「うーん、ありがとう。今日も大好きだぞ。私の旦那様。」


「しかし、だんだん似てきたというか、本来のあなたなのか、よくわからないけど、娘そっくりの言動になってきた。」

「そりゃあ、最初はさすがに、私もよそ行きというか、なんとなくぎこちない感じ、わかってたでしょ?」

「僕はどっちでもいいんだけど、あのぎこちない感じ。無理に落ち着いた女性を演じてるあなたも、好きだったりするけどね。」

「え、それならそれで、頑張ってみようかな。ねえ、落ち着いてる感じ出てる?」

「出てるわけ無いでしょ?やっぱり僕とじゃ、あんまり出ない感じあるよね。娘と二人のときに出てくる感じ。」


「私ね、この娘の親代わりですけど、未だに悩むことがあるの?」

「それは?いいなら僕に教えてよ。」

「もうこの娘は立派に自分の道を歩いてるじゃない。そんな状態で、私が伝えられることなんてあるのかな?って。」

「いまさ、僕はすごく心強いの。あなたが娘をちゃんと見てくれてる。それが義務感なのか、責任なのかは知らない。でも、本当に大切に接してくれる。もちろん、あなた自身というのもあるんだろうけど、立派に親になってる印だと思うよ。」

お酒が入って、彼女の頬は赤みがましてきている。それでもって、僕を真剣に見てくる。その目に弱いんだよ、僕。

「娘を17歳のときに保護して、親として、時には恋人目線で、あの娘を育ててたけど、それを見て、あなたが喜んでくれた。そして、色々やり始めたことを、ちゃんとサポートして上げてくれる。僕は、その辺よくわからないけど、男親一つで育てた娘より、これからは友達関係でも、親子関係でもいいけど、しっかりと彼女を見てくれる同性がいてくれることに、感謝してるんですよ。」

「不甲斐ない親だと思ってない?」

「なんでそんなこと思わなきゃいけないの。僕が背負っていたもの、それを勝手に半分引き取って、この娘が魅力的になっていく。親として、これ以上嬉しいことはないよ。」

「そっか。私、ちゃんと親もやれてるんだ。嬉しいなあ。」

お酒のせいにしておこうかな。ポロポロ涙を流している彼女。僕は当たり前のことを行っただけなのにね。


横目でチラチラと娘も気になってたらしい。自分のことを話してるんだから、そりゃ当たり前か。

ちょうどいいタイミングで入ってくるのが、この娘なりの優しさなんだろう。

「ちょっとオトーサン、おねえちゃん泣いてるじゃん。なんかあったの?」

「違うの、ちょっと嬉し泣き。駄目ね。歳を取ると、涙腺がもろくなってくる。」

「そういうものなの?オトーサン?」

「そうだね。ちょっとしたことで、涙が出てきたりする。昔は何も感じなかったのに、今はよく分かる、不思議なものなんだ。」

「え、オトーサンもそうなの?」

「僕もそうだね。君も、あと20年したら、僕らの想いがわかるんじゃないかな。でも、一つだけ、ちょっといいことを教えておくよ。」

「オトーサン、珍しいね。」

「立派じゃなくても、素直に感じることのできる大人になって欲しいからね。いいかい、泣きたいときには、恥ずかしくても泣いてしまうんだ。」

「え、さすがにそれは、なんか気がひける。」

「でもね、泣きたいときには、素直に泣かないと、泣けなくなってしまって、感情のコントロールが難しくなるってことがある。」

「たまに、オトーサンが起こす発作のようなもの?」

「あれとは違うかな。あれは、僕ら3人で暮らしてても起こることだから、もう一生付き合わないといけないものだと思ってる。でも原因は感情のコントロールが出来ないことにあるんだ。」

「???」

「お、いい反応だね。僕があの状態になるのは、自分で抱えきれない恐怖が感情から溢れ出すようなもの。自分で抑えきれないから、あんな醜態を晒すことになる。」

彼女もそこにしっくり来たように話す。さすがに泣き止んだらしい。

「そっか、あなたのアレは、感情のコントロールがうまくいかないからだったのね。」

「でも、アレも泣くのと同じ現象。ただし、よくわからないけど恐怖だけは拭いきれない。だから、穏やかな今ですら、もしかしたらって思うと、コントロールできなくなる可能性があるんだ。」

「...。」

「話を戻すけど、泣けなくなってしまうって言うことは、感情の行き場が失われるということになる。そして、内に貯めた感情は、いつか爆発する。それが、いいように作用するならいいんだ。」

「うん...。」

「君は素直だから、今のうちに言っておかないと、溜め込んでしまうんじゃないかって思ってね。今まで、嫌なことも、理不尽なことも、そして、どういうわけか僕の前に現れたことも、あまり涙で表現したことがないから言っているんだ。それだけ、君は普通とは違う道を歩いて、立派な大人になってくれた。でも、もう我慢しなくていい。泣きたいときは泣いてほしいんだ。」

「そう言われると、なんか恥ずかしい。」

「でも、この人の言ってること、多分あってる。私も涙もろくなったのって、歳のせいもあるけど、感情のコントロールが難しくなったからというのもあると思う。まして、女性はホルモンバランスで感情の起伏がどうしても激しくなるし、そういうときに感傷に浸ることも多くなってくると思うの。」

「素直に泣く、かあ。」

「少なくとも、家族の中なら、泣いたっていいじゃない。君が泣くことをからかう人は...あ、まあ、いるかもしれないけど。」

「なんで私の方を見るかなあ。そこまで性根は腐ってませんけど。」

「知ってるよ。でも、あなたも理不尽を受け続けて、泣きたいときがあったでしょ。その都度泣いてたわけじゃないと思うんだよね。」

「そうねえ、悔しい思いもしたし、辱められたような思いもした。泣きたかったけど、何故か泣けなかった。」

「そういうときに、素直に泣くことを知ってほしい。泣くことが、感情に及ぼす影響を考えると、それを我慢するよりは、ストレートに泣いて、色々思ってほしいよね。」

「ひとつだけ、約束して欲しい。」

「なに?無理なことは言わないでよ。」

「泣くとき、オトーサンがいたら、おねえちゃんがいたら、胸を貸してくれる?」

「それぐらいならお安い御用よ。おねえちゃんは、ハグもオマケしてあげちゃう。あなたは?」

「本心を言えば、もう君も立派になったから、なんとなく僕も気恥ずかしさを感じるけど、いいよ。その時は受け止めてあげる。」


「優しいなあ。なんでふたりともそんなに優しいのかなあ。」

ちょっと涙目になりながら、娘が僕らに話しかける。

「そりゃあ、やっぱり娘の言うことは、できるだけ聞いてあげたいと思ってるからね。あ、恋人としてもそうかもしれないね。」

「まったく、そういうときは親じゃなくて、恋人として接してあげるの。そういうとこだぞ。」

「ふたりともありがとう。その時は、い~っぱい付き合ってね。」

「なんなら、今泣いておく?なんか辛いことあった?」

「ん、曲聞いてたら、なんか歌詞が泣けてきてさ。」

「歌詞で泣けるのか。本当に、素直で良い娘なんだから、私」

「まあ、曲聞いて毎回泣けるなら、毎回泣いてしまったほうがいいよ。いい心の浄化だよ。リフレッシュできる。」

「そうかなぁ。オトーサンが言うなら。泣き虫って言わないでよね。」

「こういう話をした親が泣き虫なんて言えないよ。どんどん泣いて、素直なままで大人になってほしいな。」





はっ、これって日常のワンシーンだったはずなんだけどなあ。

毎日、人の感情は揺り動かされる。けど、どんな一日の最後ぐらい、幸せであって欲しいよね。幸せな気持ちで眠ったら、また明日も頑張れるかもしれないね。



今日はこの辺で。

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