Life 37 The nightmares are always with you. 夢のおはなし
夜の団らん。僕が娘の髪を乾かしながら、3人はそれぞれが見る夢について語り合います。
夢とトラウマ
娘は「ピーマンに追いかけられる夢」を見るという可愛らしい夢の話をしますが、僕が「夢の中で殺される」という深刻な夢を見て睡眠障害を患っていることを知って、同情します。娘は、僕が発作を起こす理由を理解し、2人がそばにいてくれることで、僕の夢を見る回数が減ったことを喜びます。
夢と現実
娘は、僕と結婚して家庭を持つ夢を見ることを打ち明けます。僕は、その夢が別の世界では叶っている出来事かもしれないと語り、娘は「どんな未来があったとしても、お父さんと一緒にいるのが一番嬉しい」と答えます。
髪型とアイデンティティ
僕と彼女(奥様)は、娘に髪型を変えてみることを勧めます。彼女は「娘の違う髪型を見てみたい」と言い、僕もロングヘアを勧めます。娘は「お父さんにあの時の私を忘れてほしくない」と、これまでの髪型にこだわっていた理由を明かします。しかし、僕は「君は髪型を変えて、自分らしくしている方が僕は好きだ」と伝え、娘はウィッグを試してみることにします。
お互いの夢
その後、彼女もまた行方不明になった時のトラウマがフラッシュバックする夢を見ていたことを告白し、僕と娘は、互いの夢を通じて、3人がそれぞれの心に抱える闇を支え合っていることを再確認するのでした。
この夜の団らんを通じて、僕たちは、互いのトラウマや夢を共有することで、さらに深い絆で結ばれていることを実感します。
定例会。定例会と呼んでいるけど、要は、自分の定位置に座って、なんとなくどうでもいい事を話して、寝ようという感じの穏やかなもの。
日によって色々なことをしている。例えば、家族三人で、PS4でFall Guysをプレイしてたり、アニメのリアタイ視聴をしたり、あるときにはそれが白熱したりしてね。
僕らには必要な時間。そういう時間を持つことで、大雑把な理解を統一しているというのが正しいのかな。
今日も、僕はいつものように、娘の髪の毛を乾かして、ブラッシングしている。
定例会にも暗黙のルールみたいなものがある。というより、彼女達だけのルールだと思うけど、出し抜けは許されないらしい。
僕はこのあと、奥様の髪の毛も同じように手入れすることになる。まあ、嫌じゃないから、別にいいんだけどね。
「たまにさ、ピーマンに追いかけられる夢を見る時があるんだよね。」
「また随分と可愛い夢を見るんだね。」
「オトーサンもない?なんか、急に昔のトラウマのような夢を見る時。」
「...もれなく発作が起きるな。僕の深層心理はやっぱり病理なのだろうかなあ。」
「なんか、ごめんなさい。」
「ん、気になるのはそのピーマンの話だけど?」
左側の半分の上部分はだいたい終わった。次は右部分の上のあたりから。
「そうそう、ピーマンって克服してると思ってるんだけどさ、やっぱりなんとなく避けちゃうというか、そういう味するよね。」
「僕もピーマン好きじゃないもん。その気持ちは分かる。けど、追いかけられるような夢ってのは、生きてて見たことないんだよなあ。」
「オトーサンがそういう夢見る時って、大体何が出てくるの?」
「そうだなあ、僕は夢の中で殺されて、目が覚めるのね。だから、時にはナイフで刺されたり、時には首をはねられたり、あるいは夢の中なのに、全身のちからが抜けて、これが死ぬ感覚なのかって分かるような感じになるんだよ。」
「目が覚めて、変に怯えてるっていうのは、そういうことがあったからなんだね。それは逆に考えたことがなかった。確かに、オトーサンが発作を起こす理由になるよね。」
「今は二人がいてくれるから、比較的見る回数は少なくなったけど、ひどいときは毎日そんな感じだった。」
うん、キレイに整ってきたから、下の方をやっていくか。
「さすがに毎日見ることになったらイヤだけど、ピーマンに追いかけられるぐらいなら別に気にするなってことなのかな。」
「逆に、楽しい夢とか見たりするの?」
「そりゃあ、...いや、やっぱり言えないよ。なんか私ばっかり妄想してることでさ。」
「聞いてみたいね。僕も発作の時の夢を教えたんだから、ちょっとだけでも、ね。」
「オトーサンと結婚して、家庭を持ってる夢。でも、不思議と今の私達みたいに、楽しいだけじゃないって分からせるような内容なんだよね。でも楽しい。」
「概念的な話になるけどさ、君のその夢ってのは、あるいは別の世界では叶ってる出来事なのかもね。君だから見られる、もう一つの世界とのリンクだと考えると、面白いよね。」
「向こうの世界、この世界、どっちか良くわからないけど、やっぱり私は、オトーサンといるのが一番嬉しいんだよね。いろんな未来があったとして、その先には、やっぱりオトーサンがいる。そう思うんだよね。」
「う~ん、父親としては、そろそろ親離れして欲しいって思ったりするんだけどね。でも、君からしたら、僕はいつまでも恋人なんだろ。」
「そうなんだよね。いや、オトーサンには悪いけどさ、外見はもっといい人いくらでもいるし、オトーサンの趣味とか、やっぱり理解出来ないところもあるし、おねえちゃんほど私は寛大じゃないんだよ。だけど、やっぱりいちばん好きなのはオトーサン。オトーサンがいるから、私も頑張ろうって思えるような生活を送ってるよ。」
「ま、夢の中だけでも、君の旦那様役を仰せつかることにするよ。それに、君はまだ若いから、いくらでも僕よりイイ男は見つかるよ。」
最後に毛先にブラシを入れ、整える。また伸びてきてしまったので、奥様とそれほど見た目が変わらない感じになってる。
「よし、出来た。そろそろ髪の毛、カットしてもらったら?あの人と少し変化を付けるのが、君にはちょうどいいと思うよ。」
「ねね、髪型変えたりさ、このまま伸ばしてセミロングぐらいにしたら、それはそれでいいと思う?」
「いいと思うよ。あの人は変える気ないらしいから、君が髪型を変えたりするだけでも、だいぶ違いが出るんじゃないかって思うよ。まあ、あとは...」
「一応言っておくけど、私はコスプレやらないからね。また凛ちゃんにディティールが近くなると思ってるでしょ?」
「まあ、個人的な好みで言えば、セミロングは見てみたい。ミディアムボブとそんなに変わらないような気もするけど、やっぱり髪の毛が綺麗だからね。ロングも似合うと思うよ。」
「珍しい、髪型の話してる。あなたが髪型のリクエストするなんて、やっぱりこの娘に気がある証拠かな。」
どこからかは知らないけど、どうも話を聞いていた奥様が風呂上がりらしい。
「それじゃあ、お手数ですけど、私の髪の毛も乾かしてね。」
「へいへい。まったく、あなたまで甘えて髪の毛の手入れをしなきゃいけないなんて、僕はなんなんだろうね。」
「それだけ信頼がおけるのよ。あなたのその良くわからない技術。本当に、生活力が弱いだけで、何でも器用に出来ちゃうって言うのは、不思議な才能よね。」
「才能なのかな。あ、左側からやるけど、熱かったら言ってね。」
「才能というか、特殊技能?そういうのに近いよね。オトーサンのその手の技術。」
「そう、なんかお金にはならないんだけど、無駄にそこの部分だけ高い技術力が発揮されるって、結構な才能だよね。」
「あんまり自覚がないんだよなあ。僕はただ、火傷せずに、綺麗にまとめてあげてるだけなんだけどね。」
「で、私が髪型変えないから、この娘にリクエスト。私も、この娘の違う髪型ってちょっと見てみたい気がするのよね。」
「そう思う?なんか、私の髪の毛でそういう話になるのって、よほど今の髪型にこだわりがあったとしか思えてないみたいじゃん。」
「まあ、事実だろ。その髪型へのこだわり。」
「事実です。オトーサンに、あの時の私を忘れてほしくないの。」
「安心しなよ。それは僕の奥様の役目だから、君は髪型変えて、自分らしくしている方が、僕は好きだな。」
「なんか、ちょっとからかわれた気分があるけど。でも、あなたも大学生だし、いつまでも色々縛られたままだと、面白くないぞ。」
「おねえちゃんも推進派なんだね。それじゃあ、ちょっとウィッグでも注文してみようかな。ロングが似合うかどうか実験。」
「お、いいぞ。私もちょっと付けてみたいから、一緒に買ってみようか。ちょっといいのをアマゾンで探しておいて。」
しかし、毎回思うけど、この人の髪の毛も本当にいい艶してる。年齢の割と言ったら失礼だけど、なんでこんなにツヤツヤしてるんだろうな。
「ちょっと首のあたりが熱くなるけど、我慢してね。」
「大丈夫。信用してるし、火傷しても見えないでしょそのあたり。」
「そのコメントが信用出来ないが...まあ、続けるよ。」
「そう言えば、おねえちゃんも怖い夢って見る?」
「見る見る。私もなんだかんだで、怖い夢見て起きるってこと、結構あったからね。まあ、発作を起こしたりしないだけ、まだいいのかな。」
「どんな感じの夢?ちょっと教えてほしいなあ。」
「なんだろ、ピーマンに追いかけられる夢?で、ピーマンが口の中にめがけてドンドン入っていくって感じのやつ。」
「どっかで聞いたような夢だけど、本当に同じ夢を見るんだね、あなたたちは。」
「やっぱりおねえちゃんも見るのか。でも、別にピーマンが嫌いってわけでもないよね。」
「好きか嫌いかで言えば嫌いよ。でも、別に食べられないほど嫌いってわけじゃないから。赤ピーマンとかも食べられるし。」
「そっか、やっぱりピーマン好きじゃないんだね。」
「...隠してるよね。本当は、もっと怖い夢、見てるんじゃない?」
「バレたか。さすがあなたね。洞察力が違う。」
「なんとなくごまかすような話し方してたからね。さすがに、もう分かるようになってきたよ。」
「うん、本当は、一人でどうしようもなかった時が、夢でフラッシュバックしてくるの。」
「それって、おねえちゃんも行方不明になった時のやつ?」
「そうそう。確かに体感は一瞬で20日ぐらい過ぎてたんだけど、実はその間、私は一度死んでるんじゃないかって思ってるの。」
「僕の発作の起こる夢と似てる。どういう感じ?」
「あの時って、ウトウトしてるうちに、違う場所にいたんだけど、そのウトウトしている間、私は何かに追い詰められて、自殺してるって感じの夢を見るのね。なんで、そのところがピンポイントで毎回見るのか、それが良くわからないけど、さっきのピーマンよりは頻度が高い気がするかな。」
「暗示というべきか、それとも、現実だったのか。まあ、あなたがこうして生きて僕が髪の毛を乾かしてるってことは、夢でしか片付けられないか。」
「別に今まで困るようなことにはなってないし、あなたたちと暮らすようになって久しく見ていないから、多分、その時幸せだったかどうか、そんなところと直結してるのかもね。」
「じゃあ、そういう意味でも、オトーサンは、おねえちゃんの王子様ってことなのか。」
「あなたもよ。この人が王子様って話はとりあえず置いておいて、少なくとも、あなた達二人と暮らしてからだから、あなたにも抑止出来る力があったのよね。」
「確かに、環境が変わると、頻度が減るとか、なくなるとか、それは心理的な部分でもあるのだと思うけど、暮らしで改善出来る余地はあるってことか。」
「でも、あなたの発作、あの怯え方とか、妙に子供に戻る感じとか、あれはちょっと特殊かも知れないね。まあ、睡眠障害の弊害なのかもしれないしね。」
っと、とりあえず毛先も丸くなって、これで彼女の髪も完了。
「終わったよ。」
「ありがとう。いつも大変なのに、二人分もありがとうね。」
「君たちが喜ぶなら、やった甲斐もあるよ。まあ、もう手慣れたしね。」
「お、いいウィッグあった。コスプレ用か。大丈夫かなあ?」
「試しに付けてみるだけだから、そんなに心配しなくて大丈夫よ。あ、私ウィッグ付けたことないかな。」
「それじゃあ、オトーサンのリクエスト通り、渋谷凛ちゃんモデル買いました。」
「そこまでに、ネクタイ結べるようになろうね。僕は割と期待してるよ。」
「オトーサン、そういうところは直したほうがいいと思うけど。でも、到着したら、またコスプレしてあげなくもない。」
「まったく、自分の娘にコスプレさせる親がいますかって言いたいところだけど、親子揃ってコスプレイヤーって人も最近はいるから、難しいところよね。面白いから、見てるけどね。」
「おねえちゃんも、そういう時は止めて欲しい。なんかなあ、いつも私が実験台みたいな気がするよ。」
「あら、面白半分でコスプレ衣装買って、それを着てる人に、そんなこと言うこと出来るのかな?」
こんな感じ。よくもまあ、我ながら毎日こんな感じで話題が続くと思う。でも、これがあるから、三人で幸せだと思える。僕はそう思ってる。
今日はこの辺で。