Life 32 I want to fill my belly, but I also want the food to be filled with love. 料理は愛情
我が家の女性二人は料理が苦手なので、平日の夕食は僕と奥様がスーパーで総菜を買って済ませるのが日課となっています。
スーパーでの会話
僕は奥様とスーパーへ向かう道中、仕事で着ているジーンズとジャケットの話や、過去にダイエットのためにストイックな食生活をしていた頃の話をします。スーパーに着くと、昨日の夕食を思い出せず、結局お寿司を買うことに。奥様は、僕の選ぶ渋い総菜に「やっぱり味覚がおじさんになってる?」とからかいます。
味噌汁とセンス
家に帰ると、娘が僕たちのために味噌汁を作ってくれていました。しかし、味見をすると味噌の味しかしない。娘は「だしの素を入れ忘れた」と謝りますが、僕は「作ってくれるのは嬉しいけど、クックパッドくらい見てもいいんじゃないかな」と笑いながら話します。僕と奥様は、料理のセンスは生まれつきのものであり、それを磨くには場数を踏むことが大切だと娘に教えます。
それぞれの生き方
夕食後、僕たちは中学時代の恩師の話になります。その先生は、僕に「主流で生きなくてもいい」という考え方を教えてくれました。娘は、昔に比べて生き方が多様化した今の時代は息苦しくなく、自由だと感じていることを語ります。奥様もまた、受験勉強に励んだ過去を振り返り、僕と娘との出会いを通じて、肩の力を抜いて生きられるようになったことを明かします。
僕たちは、料理のセンスも人生の歩み方も、それぞれが持つ個性であり、それを磨き、互いを尊重し合うことが大切だと再確認するのでした。
さて、知っての通り、もうネタになっているが、我が家の女性二人は、料理が致命的に苦手である。苦手というより、センスが欠落してるというか、例えば想像どおりの味にはなっていない感じだ。
娘には色々させてみたこともあったけど、結局のところ料理を会得するようなことは出来ず。作れないわけじゃなくて、あくまで食べられる水準まで行かないというのが正直な表現である。
まあ、そういうこともあって、結局は僕が料理を担当しているのだけど、それは土日限定にしている。さすがに平日もやっていると、男子ごはんになりやすく、数日同じものを食べるというのも普通じゃないからだ。
それでも、カレーを2日蓮チャンで出すとブーイングされるわけで、最終的には、僕もお惣菜を頼ることにしている。
「あ、おまたせ。今日も先越されたかぁ。」
「別に急ぐこともないじゃない。たいして待ってないし、大丈夫だよ。」
そういうわけで、平日は奥様とスーパーでお惣菜というのが主流となってきた。娘のバイト先でもいいのだが、コンビニはコストの面で、ちょっと劣る部分があるので、たまに様子を見に行くだけにしている。
「しかし、熱くなってきたね。男の人ってジャケットとか脱がないけど、なんか修行でもしてるの?」
「う~ん、なんか、一度着てしまうと、脱ぐのが面倒ってのが一番かな。あとは、なんとなく見た目?」
「別に熱くなってくれば、ワイシャツの人も多いんだし、それは気にしなくてもいいと思うんだよね。」
「普通はね。僕は、会社から特例でジーンズをOKにしてもらってるから、その点でジャケット着ないとあんまりいい印象がないみたいよね。」
「なんでジーンズ?別にスーツでもいいじゃない。」
「なんかイヤなんだよね。個人的にチノパンはちょっとな人なので、ジーンズにしてる。まあ、アイコンにしてもらえれば、それでいいのかなって。」
「一見するとどうでもいいけど、こだわりが少しはあるってことなのね。理解は出来た。納得はしないかな。」
そんな雑談をしつつ、スーパーに行く。
スーパーも3つぐらいローテーションしてる。我が家は谷中銀座もそこそこ近く、そこでお惣菜を買うという選択肢もあるので、毎日同じものは意図的にしか食べないようにはなっている。
もっとも、僕らが夕飯の買い物をしているということは、たまに前日と似たようなものを買ってきてしまうこともあるので、一応二人で買い物という風に監視はしているのである。
困ったことに、僕らは娘を含め、食にこだわりがあまりない。ただ、同じものを出されるのがイヤなだけ。僕は毎日カレーでもいい人なんだけど、そこは許してくれない。
目的のスーパーに着く。ここまでに娘からリクエストがない限りは、適当に買って帰るのがルール。
「っと。昨日は何を食べたんだっけか。」
「昨日...あれ、何を食べたんだろう?」
結局はこうなる。二人で来たとして、何が監視目的なのかわからないが、本気で忘れてしまうから怖い。
ちなみに、...いや、本当に覚えてないんだよなあ。何なら食べてない?
「なんかお肉系じゃなかったっけ?そんな食感は残ってるのよね。」
彼女がそんなことをいい始めた。まあ、そうなのだろうと勝手に思う。
「んじゃ、もうめんどいから、特になんでもないけど、たまにはお寿司でも食べる?」
突拍子もない返事をしてしまったけど、なにより手抜きが出来る。パックを袋に詰めて捨てるだけでいい。あとは付け合せとインスタントの味噌汁ぐらいで済むから、こっちとしては簡単だ。
「そんなにお金の余裕ある?色々買って3,000円ぐらいになっちゃうなら、別のものでもいいんじゃないかな。」
「まあ、あればでいいんじゃない。まだセール時間じゃないし、品揃えで考えればいいよ。」
スーパーはそれ相応に混んでる時間だった。買い物する時間なんて、みんな同じようなものだからしょうがないのだが。
とりあえず鮮魚コーナーにお寿司のパックがあるかどうかを確認しに行く。というか、それをしないと、また目移りしちゃうからね。
「お、あった。アジの握りパック(580円、8貫)。これなら3つでもいいんじゃない。」
「アジかぁ。私は普通の握りパック(680円、10貫)にしようかな。」
「なに、アジにイヤな思いでも?」
「小骨が気になるのよね。最近はよほどのことがない限り取ってあるけど、ちょっと苦手かな。」
「大して変わらないし、好きなのを食べなよ。」
「悪いわねぇ。私だけ、別のパックにします。」
あとは、なんとなくの付け合せ。うーん、個人的に浮かばないなあ。
とりあえずお惣菜コーナーの付け合わせのあたりをキョロキョロしてみる。
「あ、これがいいかな。海藻とひじきの酢の物(200g 498円)、これを3人で分けよう。」
「やっぱり選び方が渋いよねぇ。やっぱり、味覚はおじさんになってる?」
「そんなことないよ。今でもお子様舌です。でも、なんかたまに食べたくならない?こういうの。」
「う~ん、出てくれば食べるけど、自分からは選ばないかな。」
ま、こんなところだろう。小鉢に取り分けるだけで済むし、インスタントの味噌汁...のり汁はあったかなあ?まあ、細かいことはいいや。
「ねぇねぇ、燃料買っていいですか?」
「まだ冷蔵庫に入ってるんじゃないの?」
「今日はちょっと違うのが飲みたい気分。あ、これは自分で出すね。」
そういうと、そそくさとお酒コーナーに向かっていく彼女。そういえば、ミネラルウォーターも僕の分は切れそうだから、1本買っておこう。
「ありがとうございました。」
QR決済なので、そこまで心配することはない。昔より錬金術もやりやすくなった。まあ、翌月の携帯料金から引かれるんだけどさ。
スーパーから家への帰り道。
「そういえば、聞いてなかった気がするけど、食べ物の好みってどういうものがいいの?」
「私?私は甘いものぐらいしか興味がないかな。その、細かい苦手なものはたくさんあるんだけど、概ね出されたものは食べられるタイプ。あなたは?」
「僕は味覚が子供だから。ファミレス飯なら何でも行ける感じ。お酒も甘いものしか飲まないし、多分カレーと、かけそばと、あとダイエットコーラだけあればなんとでもなる感じかな。」
「すごく決め打ち。でも、なんかイメージ湧くもんね。独身時代はファミレスに籠もって作業してたりしたんでしょ?」
「そんな話したっけ?確かに、ファミレスでデザートを3品ぐらい頼んで、延々ドリンクバーで粘ってPC作業をしてたときもある。」
「迷惑な客よね。デザート食べたら、とっとと帰ればいいって思われてたよ。多分だけど。」
「本当にね。まあ、でも、一時期、ずっと富士そばでミニカレーセットとダイエットコーラだけで生活したことがあってさ。」
「...偏食の塊みたいな組み合わせ。で、なにか結果が出たんですか?」
「その時、1ヶ月でウエストが80cmまで縮んだの。すごくない?」
「今のウエストって90cmぐらいあるんだっけ?」
「多分そのぐらい。正確に測ったことないけど、大体90以上のを選んでベルトで解決してる感じだから。」
「体重は?相当落ちたの?」
「最終的に68キロまで落とせた。それ以上は無理だったね。」
「なんかすごい話ね。なにがそこまでストイックにさせたの?」
「分かんないんだよね。あの時の心理がまったくわからなくてさ。多分、色々なことに絶望しちゃったんじゃないかな。」
「1日一食でそれだと、本当はいろいろ弊害があるだろうにね。ちょうど良かったのかしらね。」
「まあ、今やれって言われたら、絶対に無理だよね。なかなかどうして厳しいよ。」
そんな話をしながら、帰宅。
ガチャ
「おっかえり~。今日はなに買ってきたの?」
「ただいま。今日は、特になんでもないけど、お寿司買ってきたよ。」
「...最近、なんかお寿司の頻度が高い気がする。好きだから別にいいけどね。」
あれ、答えに詰まったらお寿司みたいな選び方してたんだな。言われないと分からないのがダメだよね。
「あら、珍しく料理?って、お味噌汁作ってたの?」
「なんか、どこかからそういう電波をキャッチして作ってみました。」
正直、期待が一切出来ない。だしの素とかが入ってなかったり、具がまんまふえるワカメちゃんだけだったり。まあ、手直しはこっちでやろう。
とりあえず味見...うーん、味噌汁で合ってるけど、味噌の味しかしないやつね。最近はだし入りの味噌なんかも売られてるけど、だしの素は入れたほうが、味が整う。
「だしの素は入れた?」
「...えへへへ。味噌だけです。」
「知ってた。作ってくれるのは嬉しいけど、クックパッドぐらい見てもいいんじゃないかな。」
「さすがオトーサン、味にはうるさい男だねぇ。」
「いや、それ以前の問題を言ってるんだけど、もう諦めてるから、自由に創作していいよ。やらなきゃ、上手くならないしね。」
「優しい男だねぇ。そういうところが大好きだぞ。」
「でも、それならまずは手直しさせないぐらいに作らないとね。頑張れ、私。」
「なんでそんなに笑顔で励ましてくるかな、おねえちゃん。あんまり変わらないくせに。」
「...そう...でも...ないと思うんだけどなあ。」
「ま、どっちが料理が上手いか競う前に、まずは夕飯食べてからにしよう。そうすれば、競わなくて済むよ。」
「そういう機転、どこから生まれてくるのかなあ、その減らず口。」
「さぁ?よく見慣れた光景ですし。」
「「「ごちそうさまでした」」」
ちょっと足りないぐらいがちょうどいいんだっけか。まあ、十分でしょう。
片付けは二人に任せて、僕はログボをポチポチ回収する時間。
「そういえば、調理実習の時、一人で焼きそば焼いて食べてた時あったよね?」
「あったあった。なんで実習にない食材あるの?って先生が焦ってたやつね。」
「あれか。別に、僕の分だけ家から持ってきただけの話だったんだけどね。なんかおおごとにされちゃってさぁ。」
「職員室に連行されてたよね。」
「そう、担任に迷惑かけたけど、あの時の担任があの先生で良かったよ。適当に誤魔化してくれてさ。男子も料理が出来ないといけない時代なのに、調理実習外のものを作ってても、別に時間内で収まるなら、将来有望ですよってw」
「すごい買いかぶり方ねぇ。でも、あの時代にしては、割と先を行くコメントが多かった気がする。」
「そうそう。何も、女子校に行って、大学を出るだけで、立派な会社に入れるわけでもないですよって、なんか力説してくるの。私の親に。」
「でも、嬉しかったんじゃない?結果的にあなたはそれに乗ったわけだけど、当時の親御さんに物申してくれる存在もいなかったでしょう?」
「おねえちゃんはどうだった?」
「私は、あの先生、あんまり好きじゃなかったかな。なんというか、選択肢を増やしてくれるのはありがたかったけど、ある程度レールの上で生きる立場も考えてほしかったなあって。」
「私も。まあ、同じ人間だからそうなんだけどさ。昔から親にこういう生き方が正しいって言われ続けて来たけど、そこに疑問を持たせてくれたのは、良かったかもしれないって思った。」
「珍しく、微妙に意見が違うんだね。」
「私が今大学生として生きてるからかな。オトーサン達の20年間を否定するわけじゃないけど、昔と違って、今は性別も年齢もそこまで大きく取り上げられることがなくなってる。息苦しくないよね。あの頃の受験勉強って、もう一生やりたくないぐらい息苦しくて、長いような気がしてたから。」
「実際、私は色々あったけど、長かったわよ。違う名字で高校に戻ってずっと受験勉強。女子校の割に、周りは専門とか、当時は短大も多かったから、そこまで勉強する必要がなかったのかな。そんな中で、進学クラスと同じぐらい勉強してたもの。でも、それが生きがいだったから、なんとかしがみついてたのよねぇ。」
「で、オトーサンは?」
「え、僕は中学あの先生だったから、今みたいな生き方をしてるのかなって思ってる。別に主流で生きなくてもいいじゃんって思ってるし、いい思いもしたし、苦い経験もした。だけど、今のこの生活にも何か生きてるかなって思うだけで、得した感じする。もともと、子供の頃から思うままに生きてて、親に殴られてたような子供だったからね。」
「なるほどなあ。君の魅力。なんとなくまた一つわかった気がする。そういうちょっとした遊び心よね。どうせだからやっちゃえって感覚が、普通の人にはないもの。」
「あの焼きそば、実は高校でもやってるんだよね。ま、さすがに高校では呼び出しはなかったけど、僕の班だけなぜか野菜炒めじゃなくて焼きそば食べてるっていうね。制約の中で自由を謳歌するって感じなんだろう。それでも、うまくいかなかったこともあったし、壁にもぶち当たったけど、無事大学生になれたわけだしね。思ったよりは悪くない生き方かなって思ってるよ。」
「私の琴線に触れたことがいくつかあるんだけど、やっぱり君がやったことに心動かされたことが多いよね。京都で迷子になったこともそうだし、文化祭で寝てたときもそう。あなたは特に何をするわけでもないんだけど、何かして、終わってるのよね。今まで不思議と君の意思でやってたのかなって思ってたけど、実は自分が楽しい方へ行動してたってことじゃない?」
「う~ん、でも、その割にしては社会のお荷物みたいになってるよ。僕が今までやってきた報いだと思ってるけど、そういうふうに考えてやってたわけじゃなかったよね。本能かそうしてたのかもね。」
「なんか、楽しそうだね二人共。」
「楽しいかな?楽しいかもね。やっぱり、自分で何かやって、あとから感謝されるってのが不思議でしょうがなかったんだけど、今の話を聞いてると、確かにそうかもなって思うもんね。」
「納得しちゃうのね。でも、そういうあなただから、率先してやることには、必ず意味が出てくるものなのかもね。」
「それが料理?」
「そうかもね。最初は好奇心だけで作ってたけど、今は二人が何食べたいかな?って思って、ちゃんと考えて作るようにしてる。まあ、細かいディテールは気にしないでほしいけどね。」
「オトーサンが料理出来ない方だったら、私達はどうなっちゃうのって感じ。頑張っても、やっぱり同じものは作れない気がするもんね。」
「いつも言うけど、持って生まれたセンスは磨いたところで、すでに決まっている能力値しか到達出来ない。その差は大きいと思う。君のファッションセンスの良さを、僕は持ち合わせてないし、そのセンスは人それぞれなんだよ。もちろん、1を2にすることができれば一番いいけど、残念ながらいいところ1を1'ぐらいすることぐらいしか出来ないんだ。」
「実感のこもった話ね。その1'って差はどこから出てくるの?」
「それが気持ちの問題かなって思ってる。適当に作った料理と、誰かに食べてほしい料理、同じ料理が出てきたとして、後者のほうが美味しそうな気がしない?そのプラスアルファが料理では大事だと思うんだよね。」
「でも、そう思って作ったお味噌汁があんな感じなんですけど、私はどうしたらいい?」
「それは、場数を踏むしかないんだよね。毎日作り続けて、その感じを理解する。どうすれば美味しくなるのかって。レシピ以上に重要なことだと思う。そこがセンスなんだよ。だから、センスを磨けば、一応、1'にはなれるよ。」
「で、その先は?」
「いや、お味噌汁専門の料理人がいてもいいじゃない。そうやって5品ぐらい、得意な料理を持っていれば、少なくとも世の男子大学生には通用すると思うけどね。」
「和食がいいわよ。肉じゃがとか、煮物とか。案外、作れる人は少ないものよ。」
「それは僕も作れないよ。まあ、さすがに挑戦する気にもならないけどね。」
「さすがに出来ないのかぁ。ちょっと残念。」
「いや、やれと言われれば頑張ってみますけど。」
「無理になんて言わないわよ。本気にしちゃうんだから。真面目さん。」
料理とは不思議なものだ。こればっかりは、みんなが言うほど教えられないし、自分の感覚を信じるしかない。
奥様はもう無理かもしれないけど、娘にはまだ時間がある。とにかく作ってみて、自分のオリジナルで感覚をつかんでほしいな。親としてはそう思う。
今日はこの辺で。