Life 93-93.9 恐怖を幸せに変えていこう。
なぜ、そう思ってしまうのか。それは生まれて間もない頃から、たびたび思ってきたことだから、当然だと思っていたのかもしれない。
僕が最初に恐怖を覚えたのは、父からの虐待の日々だった。
何かあれば、げんこつで頭を叩かれる。何かあれば、押入れに閉じ込めて泣きやむまで開けない。何かあれば、言葉の暴力を浴びせてくる。子供ながらに人格否定をされていたのは、4~5歳の子供でも明らかに分かった。だから、余計に逆らおうと思った。でも、子供と大人の差は大きい。そして、父は柔軟性が皆無な、昭和の親父だったことが、その後の僕のメンタルの弱さを植え付けたのだろうと思っている。急に、脱力感に襲われたり、自分を自虐したりするのは、このときの経験が影響していると思う。
僕は、自由が欲しかったのかもしれない。支配される恐怖を知っていたからなのだろう。
小学校では、母親に勉強を教えてもらいながら、常に成績は上位をキープしていた。まあ、小学校の学習なんぞ、誰でも教科書を読めば100点を取れただろう。問題はその後だ。中学に入り、僕は途端に勉強への興味がなくなった。正確には、もともと興味がなかったと言ったほうが正しい。今でも、高校まで学習したことで、役に立っていることは、おそらく社会科の授業ぐらい。勉強も、運動も出来なかった。中学で運動部だったから、基礎体力みたいなものはあったので、高校ぐらいまでは、特に問題なくである。平均よりちょっと下ぐらい。なおさらであるが、学校の行事も嫌いだった。でも、中学の行事が、結果的に君を好きになるキッカケだったから、感謝しなくちゃいけない。
君に振られることも恐怖だった。
あの時、なんとなく降りてきたから告白したけど、その答えは希望もありながら、現実を突きつけられた気がした。告白することで、関係が崩れるのも、恐怖を感じた。でも、この時は、君との関係が密になった。お互いに知っている両片思い。もしかすると、気持ちを受け入れることにも、恐怖を持っていたのかもしれない。そして、短い時間は過ぎ、彼女との別れ。あの時、僕らは一時の別れだと思っていたのかもしれない。だけど、僕は別れることに恐怖を感じた。
恐怖は、常に僕と隣り合わせ。生きている限り、恐怖はついて回るものだと理解は出来てる。でも、そんな言葉で割り切れるほど、僕は出来ていない。
最初の彼女となんとなく別れた時もそうだった。
一度は死のうとまで思った。行き倒れてしまったがゆえ、今の僕は生きている。幸運ではあったが、そんなものでは、不安からの開放はされることがない。
そして同棲までして、別れることになった二人目の彼女に、僕はトドメを刺された気持ちがした。
「私を見た目で決めつけなかったことは感謝してる。でも、私を理解して、愛してくれると思ってたから、あなたは意外だった。あなたは、誰なら愛せるんだろうね?」
僕は愛することが出来ない。自分の感情に不安と恐怖を抱いた。僕は、本当に不安だけを抱えて生きている人生、そうして生きてきた。誰かに誇れるような、誰かに羨まれるような人生は、僕には出来ないだろうし、これから先も、することはないと思う。これが結論だった。
そして今、僕は二人の君と生活している。僕は、二人を愛しているのだろうか。いや、愛しているのか、好きなのか、もうなんでもいい。
自分の心を蝕むだけなら、まだいい。
僕は、自分の弱さをさらけ出して、まだ君に助けを求めてる。そして、拒絶されるのではないかと、常に恐怖を感じている。
君がそういうことをしないのは知っている。知っていてなお、安心出来ないのが、辛い。離れて行って欲しくない。僕は一人になりたくない。
離れていってしまったら、もう僕は生きていけない。今の僕にとって、もう二人がいない生活は考えられない。
「あれ、大丈夫?ものすごく顔色悪いよ。」
「あ、ごめん。ひどい顔見せちゃったね。」
「なんか辛そうだけど、そんなに大変なこと、考えてた?」
「うん、まあ。ちょっとね。今までずっと、僕は不安と恐怖に怯え続けてるんだなって。」
「そっか。オトーサン、ずっと怖かったんだね。今も怖い?」
「怖い。はっきりとしないけど、漠然とした恐怖は、ずっと持ってる。」
「恐怖かぁ。私はずっと守られて生きてるから、感じたことがなかったかもしれない。」
「感じないことに越したことはないよ。これは、僕が持って生まれて、これから死ぬまで持ち続ける感情だ。」
「辛いね。でも、今は私がいるよ。色々話して欲しいな。怖いことがあっても、話せば楽になれると思うよ。」
この娘はニコッと笑って、頼もしいことを言ってくれた。一人じゃないことに、また気付かされた。
「ありがとう。なんか、情けないね。自分の大切な人に、こういう姿しか見せられないのは。」
「いいじゃん、情けなくても、オトーサンはオトーサン。色々話していけばいいんだよ。抱えなくていいよ。私が聞いてあげる。」
「僕は、幸せだね。君みたいな娘、彼女がいる。僕を見捨てない?」
「私が見捨てるわけないよ。オトーサンが離れていっても、私がついて行く。絶対に離れないよ。」
「あれぇ、泣きそうじゃない。どうかした?」
「あ、おねえちゃん。オトーサンさ、また一人で怖い想像してたみたい。だから、なぐさめてたの。」
「あんまり甘やかしてもダメよ。この人には、もう少し立ち直ってもらわないとね。」
「ごめん。不安にさせちゃ、良くないね。」
娘の頭を撫でてあげた。やっぱり、いくつになってもこの娘の頭を撫でるのは、くせになってるのかもしれない。
「恥ずかしいけど、私は娘のほうが、居心地がいいかも。」
「じゃあ、私は、遠慮なく恋人に甘えようかな。ねぇ、君。」
「君って呼び方、やっぱり慣れないね。普段はあなたにしてくれないかな?」
「恥ずかしいんだ。私もおばさんだけど、気持ちは若く持っていたいよね。」
「あなたは見た目が若すぎるから、なおさらそう思うのかもね。僕も、見習わないとね。」
「はいは~い。私の恋人なんだから。おねえちゃんはおあずけだよ。」
二人が僕と一緒にいてくれるだけで、僕は少し不安も、恐怖を忘れることが出来る。
忘れることが出来る、それは、彼女達の愛のおかげ。僕は、愛情をしっかり返しているのだろうか。
...二人が楽しそうにしてる。幸せなんだと思う。僕も、同じ空間にいることを幸せに思っていこう。
物語はさらに続く。今日は、この辺で。