Life 93 僕は彼女に溺れる。
なぜかは分からないけど、私の体は、元に戻っていた。君に一言、心強い言葉を掛けてもらっただけで、昨日、あれほど疼いていた体が、嘘みたいに普通。
結局、あの後、私は思いっきり快感に溺れた。自分では溜まっていたと思っていたけど、それは違ってたみたいで、私も君と離れたことで、不安になっていたのだと思う。あの娘に取られたら、私は本当にどうしたらいいのか、思い詰めた結果が、あの気持ちに繋がっていた。だから、悶々としてた。だけど、君が気遣ってくれたあとの、昨日の快感は、本当に疼いていた体を開放するためだった、と解釈することにした。気持ちの整理も出来たし、私はもう大丈夫...たぶん。
「おはようございます、先輩。やっぱり、昨日は体調が悪かったんですか?顔が真っ赤でしたし。」
「あ、おはよう。ごめんなさい。心配、掛けちゃった。今日は大丈夫。明日は...金曜日だし、大丈夫よ。」
「先輩は、明日自宅へ帰るんでしたよね。楽しみですよね?」
「楽しみ、かな。それに、昨日は、2つ、いいことがあった。」
「それ、なんですか?教えて下さい。」
「内緒。話せるときが来たら、あなたにもちゃんと話すわ。今は、ごめんね。」
そう、きっともう一つ、彼女の人となりを知って、私はあの子の笑顔に惚れてしまった。これも恋愛脳というやつだろうか。でも、アイツからその実力は聞いているし、仕事という面で、彼女のような子を手元に置きたい。素人でも、二人よりは三人。それに、三人揃って部長補佐にしごかれれば、人事のいろはも分かってくるだろう。私にお飾りの時間は、それほど長く残されていない。部長という立場に見合うだけの小娘になってやろうじゃない。ま、派閥みたいなものを作るのは、ちょっと子供じみてるかもしれないけどね。
僕の抱える不安。この不安は、ずっと消えることがないような気がしている。今更それに気づくなんて、遅いのかもしれない。
不安は消えない。でも、今の僕には、不安を分かち合うことも、一瞬でも不安を忘れさせてくれることも、一緒にしてくれる恋人たちがいる。もう、恋人でも、家族でもないのかもしれない。運命共同体?カッコよく言えばそういう感じ。だけど、それがまた不安だった。二人が僕を支えてくれるとしても、僕が二人を支えることが出来るのだろうか?
「ん?どうしたの?」
僕の顔色が気になったのか、彼女が尋ねてきた。
「うん...。なんと言えばいいのかな。僕は恵まれた人間だったんだなって思って。」
「そうだよ。二人の私に愛される人。こんな人生、誰も出来ないよ。」
「そうだよなぁ。好きに優劣を付けることはしないけど、僕は君達を支えていけるのかなって。」
少し考えたようだったけど、返ってきた答えは、ありきたりだった。
「支える必要なんかないでしょ。私達、もう勝手に支え合ってるし。だから、共依存してるんでしょ?」
「そう言われると、そうなのかもしれない。君は、僕みたいなことを言うようになったね。」
「あ、うまくごまかしたって思ってる?本心だよ。そういうところがちょっと鈍いけど、それが君だもんね。」
「そんなに僕の言葉はうわべだったりする?」
「気のない返事は大体そうじゃない?大好きって言えば、大好きって返ってくるみたいな。」
「オウム返しじゃない。そこまでひどくないと思うんだけどな。」
「いいんじゃない、家の中では。それで慌てる人もいないし、怒る人もいない。知らないようで、知っているってやつだね。」
「でも、君の言う通り、僕も、君も、あの人も、知らず知らずのうちに支え合ってたから、この1年半はうまくやってこれたのかな。」
「これからは、もっとうまくやれる。まあ、小競り合いが絶えないかもしれない。女同士でお互いに好きだけど、今まではやっぱり遠慮がちになってたと思う。でも、タイプが違うけど、私達は、君を取り合う仲になる。それも面白いんじゃない?」
「面白いか。それが、幸せってやつだよね。」
「そうそう、それに、結果的に支え合ってるだけで、本当はバランスが良くないのかもよ?きっと、今日1日と、おねえちゃんの帰ってくる明日半日で、私と君の関係は一区切りつく。私も子供じゃないけど、もう決着はついてる。どちらが諦めるわけでもなく、取り合うわけでもない。私は娘だけど恋人。おねえちゃんは妻だけど恋人。二人の恋人と、君はこれから生活していくんだよ。それで特別なことになるわけでもないけどね。でも、私の中で、目の前でおねえちゃんと君がキスしてたら、嫉妬するし、私と君が一緒にお風呂に入ったら、おねえちゃんは嫉妬すると思う。私達も、どこまで自分が自信過剰になれるか、試されるのかもね。」
「まあ、恋人だから、お互いを嫉妬する気持ちは分かるけど、3人でも楽しいことはいくらでもあるよ。別に、3人でお風呂に入るのも、今まで通り、ありじゃないの?」
「変態だよね。そんなにハーレムみたいな生活したいわけ?それに、今までと違って、恋人には、簡単に肌は見せないよ。見せられるのは、明日の夕方まで。」
「そこまでが、二人での恋人の時間ってことね。ねぇ、君は、何をして欲しい?」
「知ってるでしょ?今夜は、二人で一緒に気持ちよくなるの。そして、明日はおねえちゃんを出迎える準備をする。そんなことしたら、明日の夜も、頑張らないといけないかもね。」
「......やっぱり、今からサプリでも注文したほうがいいのかな?そんなに自信ないんだけど。」
「今日は、ドラッグストアにでも行って、精力ドリンクでも買って飲めばいいんじゃない?明日のことは、分からないからなんとも言えない。」
「そこは自分だけなんだね。」
「あ、あと、今日はゴムなしで大丈夫な日だよ。昨日より、もっと気持ちよくなれるね。」
「ははは、勘弁してよ。君を満足させられるか、いつも不安なんだよ。」
「そういう不安は、考えないようにすればいいよ。それに、昨日は私を見て興奮して、勢いで始めたけど、気持ちよかった。」
「一緒にお風呂に入ってたからだけど、ごめん。」
「とか言いつつ、ゴムは準備してるあたり、用意周到だよね。やれると思ってたんだ?」
「間違いがあるといけないと思ってたから、今週はずっと脱衣所に用意してたよ。君達の約束は、僕も守らなくちゃ。」
「言えてる。二人の子供は、私だけ。まして孫が出来たら、大変だもんね。」
「それもそうだし、君達の体の安全も考えないと。万が一に降ろすにしても、生むにしても、負担が大きいからね。」
「そっか...。う~ん、いつか、子供を生みたいって言ったら、君はどうする?」
「僕の子供ってことだよね。個人的には、こんなに精神が安定しない父親が、子供の面倒を見るのは難しいと思う。」
「安定してないのかな?やっぱり、私には分からないのかもしれない。」
「言葉にして伝えるってことが重要だと思ってるけど、今だって、不安だらけ。」
「そういうものなんだね。不安があるなら、私がいつでも聞いてあげる。そっか、こういうことを2人分しないといけないんだよね。」
「生まれたばかりの子供は話すことも出来ない。泣くことぐらい。それでも感情表現出来るだけ、僕より面倒じゃないか。」
「君は、赤ちゃん以下なんだ。」
「下手に知識を付けて、それなりの年齢になったら、やっぱり面倒になるだろ?僕は、自分が面倒な人間だと思ってるからね。」
「そんなことないのに。あんまり、自分を卑下することないよ。君は、今が辛いだけだよ。」
「そうかもしれないね。でも、今の僕は、やっぱり自信を無くしてる。そういう状況下で、事故は絶対に起こる。それが怖いんだ。」
「そういう時でも、下半身が元気になるんでしょ?あ、そうか、こういうことを言っちゃうと、また元に戻っちゃうかもしれないよね。」
なんとなく、彼女の頭をなでてあげた。そういう心配は、恋人にはして欲しくない。
「どうしたの?急に頭を撫でて。」
「うん、悩みを増やしているのは僕で、君はそういうことを考えなくていいと思ってる。でも、思ってくれることは、嬉しいなって思ってね。」
「じゃ、一つ試して見ようかな?私のことが好きだったら、今からキスして。」
「いいよ。」
彼女と同じ目線になり、軽く唇を当てた。この娘、キス顔も、悩ましい表情になる。その先を思い浮かべたくなるような顔だった。
「ん、うん、はぁ~。」
「うん、君はやっぱり魅力的な女性だよ。僕じゃなくても、引く手あまたじゃない?」
「自分の彼女なんでしょ?そこは、絶対に渡さないってくらい、言って欲しいよ。」
「それは失礼。だけど、もう、君の色気にやられそう。そばにいてくれるだけで十分なのに、それ以上を求めたくなる。」
「その先は、まだお預け。また一緒にお風呂入って、一緒にベッドに入って、一緒に気持ちよくなる。今日の目標でしょ?」
「いやらしいことを目標にしちゃうのも。でも、僕のせいだよね。」
「私がそう思ってるから、君と体を重ねるの。上にも乗るし、後ろからも、前からも、お互いに快感を感じながら、気持ちよくなるの。あ、それより、君は私の体のほうに興味津々かな?」
「そりゃそうだよ。あの人がよくいやらしいって言ってるのが、ここ数日でよく分かった。表情も、体も、実は心も、すごくいやらしいんだなって。」
「......ずっとエッチなこと考えてるような感じ。私って、そんなにいやらしい娘かな?性欲強いのかな?」
「僕の前だけで乱れて欲しいとは思ってる。」
「それって、自分以外とエッチなことをしないでって言ってるようなものだよ。ほんと、エッチなんだから。」
今度は彼女からキスをしてくる。ああ、僕の彼女なんだよね。不安になるけど、少なくとも、今日は忘れよう。彼女に溺れよう。
「今、僕は夢を見てるのかな?よく分からない感じで、怖くなる。」
二人で、今日2回目のお風呂に入っている。浴槽で、二人。僕の上に、彼女が座っている。
「あれぇ~、そんなこと言ってるけど、しっかり元気じゃん。私の感触、分かるでしょ?」
「うん、そうなんだけどね。なんか、不思議なんだ。君に触れてるのも、夢なのかなって思っちゃう。」
「もしかして、まだいける?ここでもう一回しちゃう?」
「いや、そこまでって感じじゃない。僕は、君に溺れすぎた気がする。だから夢を見てる感じなのかもね。」
「そっか...。私は何度でも絶頂にいける気がしてる。やっぱり、君しか知らないからかな?」
「そう言ってくれると、頑張った甲斐があるかな。楽しかった。誰かに溺れるって、こんなに楽しいことだって、この歳で知るなんてね。」
「君の初めて、奪っちゃったかな?ねぇ、ちょっと動いていい?もう一回、入ってきて欲しい。」
「結局、やっちゃうんだ。冷えて、風邪を引くとまずいから、あんまりお風呂に長居したくないけど、」
彼女は湯船の中で体を動かし、自分の中に、僕を包みこんだ。
「あっ、うん、この状態が、一番ホッとする。ちょっとだけ、感じちゃいそう。」
「君がそう言うなら......と言いたいところだけど、僕は動かなくても、気持ちいいから、いつまで持つかな?」
「あん、そういうこと言うんだ。出来れば、お風呂から出るまでは繋がってたい。」
「確かに感覚はある。気持ちいい。でも、夢のような気がして、やっぱり怖くなってしまう。僕は、なんでこんなに臆病なんだろうね。」
「......臆病じゃないけどなぁ。楽しいことが終わると、不安になるのは当たり前だと思う。でもさ、明日はおねえちゃんも帰ってくるし、夕方までは私と一緒。それでも不安?」
「僕は不安に縛られてるからなのかもね。本音を言えば、僕の不安は消えることがないと思う。どれだけ自分の不安を小さくしていくか、それが一番の課題かな。」
「不安になってるのに、下半身はこんなに元気。私の中で固くなったり、大きくなったり。今日の君は、本当に欲望の塊みたいで、私も恥ずかしかったよ。」
「それでも僕のことを好きでいてくれる?」
「嫌いだったら、自分の中に、わざわざ導かないよ。動かなくても、安心出来るって、不思議な感じ。こういう楽しみ方もあるんだね。」
「なんでもかんでも、激しいだけじゃ辛いでしょ?ゆっくりと相手を確かめながら、会話するっていうのも、今の僕達には必要じゃない?」
「必要。君と話してると、だんだんと自分も分かってくるみたいで、面白かった。本当はいつまでも、こうやって二人で話していたい。でも、三人で話すほうが、楽しいよね。」
「もう一人の君も、僕らとの会話を楽しみにしてる。今日はさすがに遅いし、また発情してても困るから、そっとしておこうか。」
「......やっぱり、今日はもう終わり?」
「ねだられても困っちゃう。それに、意外と体力の消耗具合も激しいし、引き際も大事だよ。」
「ま、それに、どうせこのままの格好でベッドに入るし、話だけならベッドでも出来るもんね。」
「君の魅力にはずっと溺れてたいけど、さすがに今日はもう無理だね。君の感触を楽しみながら、下半身を膨らますぐらいかな。」
「今も元気なのにね。でも、気持ちが付いてこないか。」
「ごめんね。これからも、こういうことはちょくちょくあるけど、なるべく持たせるように、僕も努力するから。」
「ううん、無理はダメだよ。でも、私はまだ若いし、しょっちゅうおねだりしちゃうかも。」
「うん、応えられるように、頑張る。君がどんどん大人の女性になっていくところ、見ていきたい。」
自分から腰を上げて、彼女はこっちに向き直る。そして、キスをする。
「んん、ふぅ~。あ、唇にふれるだけでも、気持ちいいって感じる。やっぱり、私って性欲強い?」
「そういうことにしておこうか。さ、お風呂出て、ベッドに入ろう。寝るまでは、話ぐらいは付き合うよ。」
彼女と、寝るときも、起きるときも、そして部屋でゆっくりとしているときも、ようやく昼間に出られるようになった買い物のときも、ずっと手を繋いでた。
依存している。僕は、やっぱり共依存しなければ、生きていけないようだ。君の、君達のすべてが僕であるように、僕のすべては、君達にあると思ってる。
「ただいま~。」
「おかえり、おねえちゃん。お疲れ様でした。」
「アンタも、お疲れ様。今回はすごく助けてもらっちゃったね。」
「あれ?なんか、気持ち若返ってる感じするけど、気のせい?」
「そう見えるとしたら、これが恋の力じゃない?やだ~、おばさんに何言わせてるの?」
「いや、浮かれてる。なんか怖い。」
「おかえりなさい。あなた。」
「ただいま。あなた。会いたかった。」
「うん、僕も、会いたかった。ごめん、なんかそっけないかもしれないけど。」
「色々あった一週間だった。あなたも、私も。」
「ありがとう。君には感謝することだらけだよ。」
「嬉しい。私も、君って呼んじゃう。ずっと大好きなままだよ。気持ち、大事にできてるよ。」
「本当に若返ったんじゃない?この娘が言うようなこと、恥ずかしげもなく言ってる。」
「え~、私、そんなこと言わないよ。おねえちゃんが少女チックなだけだよ。」
「でも、本当に少女に戻った気分がしてる。なんか、私達、本当に夫婦なんだよね?」
「戸籍上はそうだけど、本当の意味では、夫婦じゃない。まだまだ恋人同士なのかもね。」
「うれしい。今は、そう言ってくれるようになったんだ。よかった、私の好きな君に、戻ってくれた。」
「さ、立ち話もなんだし、君も着替えて、ゆっくりご飯でも食べよう。話をする時間は、いくらでもある。」
そしてあっという間に定例会の時間。そう言えば、この一週間で、定例会は2回しかしてないな。
「あの、確かに密着していいとは言ったけどさ、片腕にしがみつくのは、さすがにどうかと思うよ。」
「だって、こうしないと、あの娘に持っていかれそうなんだもん。」
このしがみついている彼女こそ、僕の奥様。あの頃の面影を、そのままこれまでも、そしてこれからも持ち続けられる恋人。
「ねぇ、あの娘とは、何をしてたの?」
「何と言われると、答えづらいな。でも、元気になれた。不安は消えないけど、少しだけ忘れさせてくれた。」
「やっぱり、あの娘と二人がしっくり来る感じ?」
「長い間忘れてたような気持ちだった。たった、1年半前の話なのに、その前の2年近くを忘れてた。あの娘と二人で暮らしてた頃、あの娘が僕を支えてくれていたってことが、身にしみて分かったよ。だからこそ、3人で暮らすためには、もう共依存していくしかないと思った。もちろん、あなたにもね。」
「私はどうしたらいいんだろう。ただ、寄り添うだけでいいの?」
「いいと思ってる。あなたが寄り添ってくれることは正しかった。でも、僕が気持ちを伝えられなかった。だから不安だった。今は、自分の気持ちを伝えて、二人で考えて欲しいと思ってる。虫のいい話で申し訳ないけど、僕にはそれしか生きていく方法がわからないんだ。」
「迷ってる?でも、いいんじゃないかな。私は、君が頼ってくれるなら、それに応える。君の気持ちをそのままぶつけてくれていいし、私も本音をぶつける。たまにはケンカすることもこれからはあるかもしれないけど、そうやって、また恋人同士に、家族になっていこう。」
「ごめん。僕は弱いし、頼りないけど、二人がいなくなったら、僕も生きていけなくなってしまう。その代わり、僕も自分から命を落とすような真似は、もう絶対にしない。」
「それは当然として...、君は、私達の期待に応えて来たじゃない。無理しなくていいし、多少なりとも君のことは理解してる。私は、君が好きに生きているのを見るのが好きだから、お願いだから、私達のことは気にせず、自分のやりたいことをやって欲しい。」
「ごめん、なんか、謝ってばかり。僕は、こんなに幸せなのに、何を不安になってたんだろうね?」
「人間は、大なり小なり、不安を持つ。それは当たり前のこと。君は、不安を背負い込むようなことをしてた。精神が不安定なのも、君の特徴だと思ってる。だけど、その背負った不安を、これからは話してくれれば、私達も君も、色々なことに立ち向かえるんじゃないかな。」
「そうだね。一人だと思うから良くないんだよね。3人で考えれば、上手いこと行くかもしれないね。」
「いくわよ。私達3人は、3人ともバラバラな性格だし、個性よ。合わせるだけでも、いい考えは出てくる。それでいいじゃない。」
「うん、ごめん。でも、うれしい。」
また、涙を流していた。この人は、僕の心を打つ言葉を言ってくれる。あの娘とはまた違う、安心出来る一言をくれるだけで、僕は幸せだったじゃないか。
「久々に、胸を貸そうか?と言っても、一週間ぶりか。」
素直に従うことにした。けど、あれ、なんか、すごく柔らかいんだけど。
「......君もノーブラに戻ったの?」
「あ、バレた?今日だけ...いや、もう面倒になっちゃった。私の体型が変わらないってことが分かっちゃったから、ノーブラでも胸が崩れることはないのよね。だから、もう私も我慢することないかなって。それに、あの娘よりはボリュームもないし、可愛いもんでしょ?」
「注意したほうが、逆に始めちゃうところが問題だけど、僕はノーコメント。僕は君が好きだから、そういうことやられちゃうと、襲っちゃうかもよ?」
「そんな度胸があるなら、襲われたいわよ。ま、襲うなら、二人の時ぐらいかしら。今、しちゃう?」
「君の場合は、もう前科が色々ありすぎて。何言っても驚かないよ。でも、普段からこれをやられると、う~ん、心臓に悪い。」
「エッチな君にはこれぐらいがいいのかと思った。それに、あの娘とのスキンシップに対抗するには、こういうことしか出来ないじゃない。」
「対抗か。僕は、二人共好きなんだけどなぁ。今回は、あの娘に溺れてしまった。君に溺れるときも、当然あるよ。好きなんだから。」
「やっぱり歳のせいかしらね。昔みたいに羞恥心が薄れてくるのよね。でも、おばさんとは言え、君を興奮させるには、十分な体だって知ってるしね。」
「......自分の体だから、本当に大切にしてね。君の場合、外見が変わらなくとも、内部機能は年相応になってるかもしれないし。」
「気をつけます。ま、今は、私の胸の感触を感じながら、思いっきり溺れてくれていいよ。その先も、別にいい。」
僕は彼女から離れて、彼女の肩を掴み、彼女の目を見た。
「その先もしたいけど、もっとゆっくりしよう。僕らはもうおじさんおばさんなんだし、焦ったところで、間違いが起こってもいけない。」
「優しすぎるのよね。大丈夫。私もしたいわけじゃないから。また、ゆっくり出来るときに、気持ちよくなろう。」
「あ~、おねえちゃん、オトーサンに引っ付いてる。」
娘がお風呂から出てきた。どうも、今の状態が気になってるみたいだった。
「オトーサンは、もう私の魅力でメロメロなんだよ。いくら密着しても、もう私のものだもんね。」
「はいはい。今日も髪の毛、乾かす?」
「日課だもんね。お願いします。」
ちょっと奥様と離れる。でも、目は、離れて欲しくないと訴えてくる。
「終わったら、同じ場所に座る。ごめん、少し待ってて。」
「うん、ちゃっちゃと終わらせちゃいなさいな。爆発すればいいのに。」
二人共、なんかバチバチしてる感じがする。ま、気にすることないか。
「はい、毛先のほうは自分でやってね。」
「もう、いつものオトーサンだね。安心した。」
「ありがとう。君のおかげ。というより、二人が揃ったから、安心出来たのかも。」
「うれしいこと言ってくれるじゃないの。あなたは、なんの気なしにそういうことを言えるから好きよ。」
「ずいぶんと軽い男に見られてたりしてるんだな、僕は。」
「冗談よ。ふふふ、なんか、久し振りの感覚。ああ、やっぱり、三人っていいわね。」
「おねえちゃんは、一人でホテル生活のほうが、楽しかったんじゃないの?」
「あれはあれで、ちょっと非日常って感じがしたわ。でも、後に残るのは、虚しさと、いつまでも収まらない欲望だけ。でも、三人で話した後、なぜか収まった。やっぱり、私も二人に依存してる。一人離れて暮らすって、こういうことなんだって良く分かった。」
「色々不思議なことがあったんだ。あなたに置いていかれてしまったと思ったあの日、この娘が、あなたに見えたんだ。見えてもおかしくないんだけど、あの時、この娘は間違いなく、あなたと同じことをしてくれた。」
「あれ、私の魅力じゃなくて、私がおねえちゃんに見えたから?」
「両方かな。きっと、君が大人になったから。僕には彼女のように見えたし、君が彼女と同じことをしてくれた。偶然だったとしても、君と、あなたは、やっぱり同じ人間なんだなって思った。それを知った上で、二人が、お互いに違う人間だとも認識できた。僕は、やっぱり君達が好きで、君達なしではもう生きられないんだって感じたよ。一緒に暮らせて、本当に良かった。」
「ふ~ん、私だけってわけじゃないんだ。でも、寂しがってるオトーサンをなぐさめる方法が、体の関係しか思い浮かばないあたり、私はまだまだ足りないのかも。」
「あら、自分の武器を最大限活かすって方法は立派じゃないの。嫌味とかじゃなくて、それが最善だと思ったのなら、今のアンタの選択が正解だったと思うわ。」
「でもね、すごくエッチで、子供みたいだった。嫌だっていうのに、ずっとおっぱい吸ってたりしてね。」
「えっ、そんなに、ずっと胸を触ってた?」
「気づいてないのか。私が弱いって言ってるのに、さんざん乳首を攻めてきたのは、誰だったっけ?」
「そんなこと言って、いやらしい声をあげて、頼んできたのは誰だっけ?」
「はいはい、発情期のバカップルみたいな言い合いはやめようね。それにしても、あなた、私にも、そうするの?」
「多分...。僕は、この娘に言われたように、イタズラが好きな子供なんだよ。だから、性行為よりも、前戯のほうが興奮しちゃうんだろうね。」
「でも、約束した通り、気持ちよくなれたもんね。おねえちゃんは、もう大丈夫なの?体の疼きというか、発情というか。」
「大丈夫。さっきも言ったけど、収まったみたい。気持ちを維持したまま、自分の性欲を抑えるって、実はとても難しいことなのね。」
「男はその辺、案外単純に出来てるけど、女性はコントロールが難しいってこと?」
「う~ん、わからないのよね。私は恋愛脳になりやすいタイプらしいのよ。実は、あのあと調べちゃって、該当する項目が結構あって、驚いたの。だから、離れて、初めて仕事が手につかないほどに、君が好きで、君になら何をされてもいいって思っちゃったのよね。人を好きになるってこと、すっかり忘れてたから、いっぱい恥を晒したけど、長く生きてみるものね。」
「長く生きてみるか...。君は、ずっと、これから先も、そのままってことなんでしょ?」
「そうなのかな?アンタが一番知ってると思うけど、そういうことなの?」
「多分。私も、どこで得た知識なのかわからないけど、少なくともおねえちゃんは、死ぬまでそのまま。髪の毛とかは、もしかすると真っ白になるのかもね。」
「言われてみると、髪の毛だけ...ま、いいわ、色々な毛は、伸びたり、生えたりしているものね。」
「えっ、そうなの?肌、すごくキレイだけど、あれって手入れしてるんだ。」
「当たり前じゃない。あれ、もしかして、私が天然のパイパンだと思ってたんだ。ちゃんと脱毛器使ったりして、その都度処理してるのよ。君が舐めたくなるような体、自分で作ってる。そういう苦労の末に、君と一緒にエッチする自信が身につく。体が18歳だとしても、やっぱり気分はおばさんだから、気後れしないように、若い状態をなるべく維持していたいのよ。でも、この娘から話を聞いて、ストイックになるのは、少し落ち着こうかなって思った。その、体力が、何をやっても尽きないのよね。」
「どおりで、1日に10キロランニングしても、ケロッとしてるわけだよね。普通なら、体力は落ちる一方なのに、私とランニングしてて、倍の距離を走ってて、全然平気そうだもんね。」
「色々謎が解けたのよ。そのおかげで、もう少し自分を労ろうと思った。アンタがお酒の量を制限してくれるおかげで、私はなんとか酒浸りにならずに済んでるし、アンタの言う通り、ランニングもアンタのペースで走って、疲れを残さないことも重要なのかなって。」
「ランニング、止めるわけじゃないんだよね。」
「さすがに止めちゃったら、体力だって落ちる一方だと思うし、ましてこの年齢、内臓機能が低下するのであれば、身体機能も低下していくと思ってる。それを防止するって意味が強いわね。ま、ランニングのあと、お風呂から出て、お酒を飲むって感覚も好きだしね。それに、誰かさんがまだ元気な時に、スポーツ用品も買ってもらったし、本当の目的として、今度はそっちにもチャレンジしていこうと思ってる。」
「......やっぱり、君はすごいね。本当に完璧主義というか、そこまで維持できる君を、尊敬する。」
「尊敬だなんて。やっぱり、これって恋の力かしら。」
「いや、人間として尊敬出来るなって。僕は堕落する一方だ。おまけに、迷惑をかけてばかりだ。」
「あら、いいのよ。迷惑だなんて思ってないし、あなたが堕落してるのは、もしかすると私達のせいだったりするかも。」
「おねえちゃんのせいだよ。オトーサンは、前はもっとしっかりしてたもん。」
「そうかな?君の前だと、やっぱりカッコつけたくなるのかもね。」
「えへへ、やっぱり、私の彼氏。かっこ悪くても、私は許しちゃう。」
「彼氏かぁ。私が、君の彼氏って言ったら、引く?」
「いや、別に。だって、事実としてそうなんだし。」
「おねえちゃんの場合は、彼氏じゃなくて旦那さんだよね。本当は。」
「......一度離婚しましょうか。もう一度、恋人同士の関係から、やり直さない?」
「冗談でもそういうことは言わないようにしようね。それに、僕が君と離婚して、また別の君と結婚することになるよ。それに耐えられないと思うよ?」
「本当よね。私だけど、この娘は私じゃない。そして、私の役割がこの娘になったら、その時は、あなたの恋人と堂々と名乗れる。社会的なダメージが大きいけど、アンタも娘じゃなくて、奥様って呼ばれてみたい?」
「私は恋人でも娘でも。オトーサンが私を愛してくれているうちは、どういう呼ばれ方をしても、いい。それに戸籍上の話だと、私はややこしいことになるし、その辺は本当にどうするか考えてから、ちゃんとしよう。」
「ちゃんとするか...。やっぱり、養子縁組をすべきなんだろうけどね。」
「でも、養子縁組しちゃうと、私とは結婚出来ないもん。やっぱり、オトーサンなんだよなぁ。」
「ごめん、そういうつもりじゃなかったんだけどさ。」
「知ってるからいいよ。だけど、忘れないで欲しいの。私も、オトーサンと結婚する夢、子供を育てる夢は、ずっと持ち続けて生きていくと思う。」
「そうねぇ。ごめんなさい、私が入ってきたことで、経済的には潤ったかもしれないけど、あなたの夢を壊してしまった気がする。人生の先輩としては、複雑な思いがある。」
「でも、オトーサンとおねえちゃんは、私の自慢の両親だもん。そして、彼氏でもあるし、私の姉。そんな関係で、私は満足だよ。満足しても、夢は持ち続けていいでしょ?」
「いいよ。それに、この人が折れるとは思えないけど、君にも可能性はあると思う。信じてみてもいいと思うよ。」
紆余曲折はあったけど、僕らはもう一歩先の関係、というより、お互いに共依存していたことに気づけた。
僕はまたドキドキするような毎日を送るのか、それとも落ち着いた、今までのような関係になっていくのか、それは分からない。
僕には、新しい不安が出来てしまった。恋人が二人。同じ人物なのに、正反対とは行かないけど、全然違う二人。二人に振り回されるのは別にいいけど、両手に華と言うべき、この状況に不安を感じる。でも、うれしい不安だ。僕がウジウジしてるような不安じゃない。そして、仮にウジウジするようなことになっても、二人は僕に手を差し伸べてくれる。でも、僕も努力をしないと、愛想をつかれるかもしれない。そうならないように、自分らしく生きていこうと思った。
「ねぇ?」
「何?どうかした?」
「どうか...いや、まあ、二人が僕に寄り添ってくれるのはうれしいんだけど、さすがに三人で密着しすぎてない?」
「あ、もしかして、私達の柔肌で、元気になっちゃった?オトーサンはエッチだよね。」
「あら、大変ね。私達はいつでもいいけど、病み上がりでそんなに元気になれないんじゃない?」
「そうじゃないよ。なんか、恥ずかしくて、ものすごく暑い。」
「照れてる。可愛いのね、あなた。」
「オトーサンはそれぐらいでちょうどいいんだよ。私達に溺れて、一人じゃ何も出来ないようになるの。これからずっと、恥ずかしい思いをしてね。」
今日が幸せであるように、明日も幸せでありますように。