エマへの謝罪
フィリップ様はメイオラニアから長期間離れられるようになったら、エマ師匠に会いに行くつもりだったと話してくれた。
「時間が経ってしまったので、私からの手紙がエマに届くよりは、直接謝った方が良いだろうと思ったのです。結婚していて他の男から手紙はどうかと思いますから。ですが、ここまで会いにいけないのなら手紙で伝えるべきでした」
「私は結婚していませんよ?」
「結婚していない? もしかして私が連絡をしなかったからなのか?」
「一年は待った気がしますが、フィルは辺境伯の息子でしたから、フィルが知らない相手が実は居たのかと思うようになりました」
相手が居たと言うよりは、相手が出来たと言う方が正確だったようですねっとエマ師匠は話す。続けて、エマ師匠は命が狙われていたのなら連絡できなくて当然だとも言う。
「下手にフィルに連絡しては迷惑になると、手紙を送るのは辞めていて良かったです。ですが、連絡がこないのは不思議でしたから、メイオラニアに来たことで事情が分かって良かったです」
「エマは私のために考えてくれていたのに、私は連絡もできず…エマ、本当に申し訳ありませんでした」
「フィルが真面目な人だと知っていたから、事情があるのだろうと考えただけです。気にしないで良いですよ」
エマ師匠の言葉にフィリップ様は頷いている。俺には二人がまだ惹かれ合っているように見えるのだが、ベスの好意に気づいていなかった俺は判断する自信が無い。なので、後でベスにどう思ったか聞いてみる事にしよう。
「ところでエマは、何故メイオラニアに? 私のことを聞きに来たわけでは無いだろ?」
「私は弟子のベス、エド、ドリーの付き添いと、私が開発した魔法を教えに来ました」
フィリップ様はエマ師匠がベスの師匠であることに驚いた様子だ。フィリップ様は付き添いである事は理解したと言う。開発した魔法はどう言うものかとエマ師匠にフィリップ様は尋ねて、エマ師匠が魔法の効果を詳しく話した。
「それは凄い魔法だ」
「エドが居なければ作れなかった魔法ですし、エドとドリーが居なければルシル殿下も助からなかったでしょう」
「ルシル殿下が助からなかった? もしや病気になられたのか」
「そうです」
エマ師匠がルーシー様が、内臓や神経系が麻痺していき死にいたる病気になったが、病気はすでに完治した事や、薬が定期的に作れるようになった事をフィリップ様に伝える。
「ルシル殿下が…エドとドリーでしたか。ツヴィ王国の貴族として感謝致す」
フィリップ様は挨拶の途中でエマ師匠と会話をし始めたのを思い出したようで、フィリップ様が挨拶をしてくれたので、俺たちも挨拶を返した。
「フィリップ様。薬師として当然の事をしたまでです」
「転生者なのに? 薬師?」
俺は事情を話して良いか判断がつかなかったので、ベスに話して良いかと尋ねると、問題ないと言うので、フィリップ様に俺の事情を説明すると、驚かれた。
「双子でない転生者なんて初めて聞きました。しかも歳の離れた兄弟が双子だった可能性があるとは」
「エドは特殊ですわ。他の転生者と違ってダンジョンへの執着が少ないですし、薬師をしたり、魔道具や魔法薬を作っても居ますわ」
「珍しいですね」
フィリップ様が以前に聞いた話だがと前置きしてから、ツヴィ王国の王族は、止めなければダンジョンに篭ったままになると説明してくれた。
「あの、俺以外の転生者に興味があるので話を聞いても良いですか?」
「構いませんよ。年齢は今年で一二歳です。転生者なのは第二王子で、双子の兄弟が第三王子になります。王家の家系なのでドラゴン族だろうと言われていますが、ドラゴン族としての特徴が見えないので判断が付かないようです」
「転生者はドラゴン族なんですか?」
ツヴィ王国の成り立ちから王家はドラゴン族の人が多いのだとフィリップ様が教えてくれた。だが、代を重ねるごとにドラゴン族として生まれる人は減っており、ドラゴン族としての特徴が出ない人も珍しくないと説明された。
「なのでドラゴン族としての特徴がある人物は貴族の養子になったりします。大半のドラゴン族は貴族として生まれますが、稀に例外が居るのです」
フレッドは例外として生まれ、貴族の養子になったのか。
「最近だとステゴドン侯爵がドラゴン族を養子に迎えましたが、出奔しました。未だに居場所が分からないようですからステゴドン侯爵は心配しているようです」
俺はフレッドの事だろうと予想がつくが、言って良いのか分からない。ベスに顔を向けると、ベスが頷いてからフィリップ様に声をかける。
「ステゴドン侯爵から出奔したの人物の名前はフレデリックではありませんの?」
「そうです。もしや行方を知っていられるのですか?」
「アルバトロスに残してきた仲間ですわ」
「仲間。ダンジョンに行っているという事ですか」
「ええ。ツヴィ王国に来たら帰れなくなるかもしれないと、付いてくるのを止めましたわ」
「ツヴィ王国に来たら簡単には帰れなくなる可能性は確かにありますね。無事な事をステゴドン侯爵に報告するだけでも喜ばれるでしょう」
ベスはリング王国の王都経由でツヴィ王国に、アルバトロスにフレッドがいる事は伝わっているはずだと言う。
「私は王都に行くことが少ないので知らなかっただけの可能性もありますが、ステゴドン侯爵には私からも連絡しておきます」
「フレッドも家族は大事にしているようでしたから、伝えて頂けると喜ぶと思いますわ」
フィリップ様はフレッドの事情を知っているようで、養子で家を継ぐのは嫌がって当然だし、強さで爵位を決めるのは良いが、本人が嫌がっているのなら継がせるのを止めるべきだと言う。
「私は兄弟がいないので、兄弟がいたら爵位を継がなかった可能性が高いのです。私はツヴィ王国では珍しく、魔法の使い方がリング王国式の魔法を使うのですよ」
「それでアルバトロスに遊学をしたんですの?」
「メガロケロス辺境伯とメイオラニア辺境伯の両家は、お互いに遊学する例は多いのですが、私の場合は魔法の勉強という意味が大半でした」
フィリップ様とエマ師匠はそれで出会ったのか。あの頃は楽しかったとフィリップ様が言う。
「懐かしがってもいられませんね。エリザベス殿下、メイオラニアに滞在中は屋敷に部屋を用意しますので、好きに使ってくださって構いません」
「フィリップ様、感謝致しますわ」
「船旅でお疲れでしょう。ダンジョンが心配でしょうが、少しは休んでいってください」
フィリップ様は俺たちにも部屋を用意してくれるようで、フィリップ様の後ろに控えていた執事に人数分の部屋を用意するように命令している。
懐かしがってもいられないと言ったフィリップ様と、エマ師匠が楽しそうに昔の話をしている。部屋が用意されたと言うので俺たちは移動する。
各自の部屋に案内された後に、俺たちは一つの部屋に集まる。
「まだやる事はありますが、重要な仕事は終わりましたわ」
「ベス、お疲れ様」
「僕ももう少し手伝えたら良かったんですけど」
「私とレーヴェより継承権が随分と上ですから、リオは居てくれるだけで説得力が違いますわ」
リオは申し訳なさそうにしているが、ベスの言う通りリオが居るだけで説得力が違うのだろう。
「それにフィリップ様は状況をすぐに理解してくださいましたから、私も説明をすることが少なかったですわ」
トリス様がメイオラニア辺境伯は学者のような人だと言っていたが、確かにフィリップ様はフレッドとは違って体の線が細く、ツヴィ王国の魔法使いには見えない人だった。
「アビゲイルに、船酔いしながらメイオラニアに付いてきて貰ったのが申し訳ないですわ」
「エリザベスお嬢様、お気になさらないで下さい。何事もない方が良いのですから。それに船酔いも魔法が完成してからは問題なくなりましたので」
「酔い止めの魔法が完成したんでしたわね。今はアビゲイルが自分で魔法をかけているのですの?」
「はい。魔法の使い方を教わって使えるようになりました」
エマ師匠とドリーが作った酔い止めの魔法は、完全に完成した訳ではないが出来上がっていた。酔い止めを治すのと、酔わないようにする魔法を別で作ったので、酔わないようにする魔法の効果時間を伸ばしたいと改良している。
「それにエリザベスお嬢様、まだ仕事が終わったとは思えません」
「そうかもしれませんわ」
ベスはそう言うとエマ師匠を見て、どうするつもりなのかと尋ねた。
「どうとは、どう言うことでしょうか?」
「フィリップ様とまだ結婚する気があるのなら、エマがメガロケロス家の養子になれば結婚は可能ですわ」
「私がフィルと結婚ですか?」
「選ぶのはエマですわ」
ベスとアビゲイルさんに、エマ師匠とフィリップ様がお互いに惹かれあってるように見える事を尋ねようと思っていたが、ベスとアビゲイルさんも俺と同じように感じていたのだろうと俺は納得する。
エマ師匠は迷った様子だが話し始めた。
「フィルと話して過去を思い出しましたが、今の私はどうしたいかよく分からないとしか言えません。それにフィルがどう思っているかはわかりませんし、養子を取っていると聞いていますし」
「メイオラニアに居られる時間は短いですし、次回いつ来れるか分かりませんわ。エマが後悔しないように話し合って欲しいですわ」
エマ師匠は迷った様子でベスに頷いている。
「メガロケロス家としては損はないのですから、エマの好きにしてくれて良いですわ。私個人としてはどうなろうともエマを応援しておりますわ」
「ベスありがとうございます」
エマ師匠との会話が終わった後に、ベスはアビゲイルさんにエマ師匠の手助けをするように言っている。
「かしこまりました」
「アビゲイル、エマの養子に関しては、お母様から可能性があると話は少し聞いていますが、アビゲイルは何か聞いていますか?」
「エマ様の年齢からメアリー様の養子になる可能性があるとは聞いています。それと何があっても一度アルバトロスに戻ってくるようにと」
「分かりましたわ」
ベスはエマ師匠とフィリップ様の事もあるが、魔法を教える必要もあるので、メイオラニアの魔法協会に一度は行くべきだと言う。
「だけどベス、フィリップ様が治安が悪化しているって言ってたよ」
「言っていましたわね。私たちは魔法使いなので襲われても負けることはないと思いますが、複数人で行動するようにした方がいいですわ」
「そうだね」
レーヴェが船員にも治安が悪化している事を伝えた方が良さそうだと言い、ベスも同意する。
「一泊はするつもりだったけど、船に戻った方が良さそうだ」
「俺が一緒に船に戻ろうか?」
「いや、エドは残って欲しいな。メイオラニアの馬車で船まで行けば船員も居るから安全だ。馬車と人を借りて一人で向かうよ」
俺は判断に迷いベスを見ると、ベスも迷った様子だが、レーヴェの意見に条件付きで同意した。
「レーヴェは魔法が使えますが、見た目が子供ですから、船の外に出る場合は誰かを護衛に付け、用心するのなら許可しますわ」
「魔法が使えると言ってもまだそこまで得意じゃないから、護衛は絶対につけるよ。それじゃ、船に戻って出航するために必要な物を集めるように伝えるよ」
「レーヴェ、お願いしますわ」
「メイオラニアでの陸地の仕事は任せる。準備がどのくらい掛かりそうか分かったら伝えるよ。それと船員を何人か屋敷に滞在するように調整しておく」
「分かりましたわ」
レーヴェは頷いた後にメイドさんを呼んで事情を説明すると、馬車と護衛を手配するとメイドさんは言う。馬車の準備ができるとレーヴェは部屋を出て行った。
「レーヴェが心配ですが、船員は強いし見た目が怖いので護衛としては優秀ですわ」
「見た目が怖いってのは何とも言えないけど、強いってのは動きで分かるな。船乗りは荒っぽいって印象はあるけど、アルバトロスの船員はちょっと違うよね」
「船員と言っていますが、あの船に乗っている船乗りは海兵ですわ。陸の兵士と違った荒っぽさはありますが、兵士として訓練されているので礼儀作法は最低限できますわ」
「海兵だったのか納得したよ」
言われてみれば当然か。メガロケロス辺境伯の船なのだから、船自体が軍属になっているのだろう。見た目は普通の帆船になっているので、軍属だとは思っていなかった。地球の帆船だと大砲で攻撃するが、こちらは魔道具で攻撃したり、魔法使いが魔法を撃つのだと予想される。俺が予想する船での戦闘方法をベスに話すと、ベスに同意された。
「アルバトロスの船はエドが予想した戦い方であっていますわ。ツヴィ王国ですと船ごと体当たりして乗り込みますわ」
流石ツヴィ王国だ。船の上でも近距離戦を挑むのか。
ブックマーク、評価、感想がありましたらお願いします。




