魔法の発動成功
薬師組合から出ると丁度昼頃で、エマ師匠がご馳走するからご飯にしましょうと言って、エマ師匠がよく食べにいくと言う高そうなお店に、断る暇なく連れられて行ってしまった。
魚介の多いお店だったようで、ドリーは初めての海の食べ物に興奮して美味しそうに食べていた、俺も生まれ変わってから初めての海の幸で、美味しく食べ過ぎてしまったように思う。
「エマししょー、おいしかった!」
「それは良かった、また来ましょうね」
「いいの?」
「勿論です」
「やった!」
ドリーがエマ師匠とまたくることを約束しているのでお礼を言うと、エマ師匠は気にする必要はないし、エドも一緒に来ましょうと言ってくれる。
色々と俺とドリーに気を遣ってくれるエマ師匠に、いつかご馳走できる日が来ると良いなと思いながら、お店を出ると協会へ帰る。
部屋に戻ると荷物を運び込んでおいてくれたようで、シャンプーとトリートメントを作るのに、必要な素材や道具を取り出して準備していると、ドリーが。
「にーちゃいつもと違う」
「薬師組合で良さそうな物があったから、一部の素材を変えてみた」
「そうなの?」
「うん、これがあれで…」
変更した素材を説明していくと、ドリーは理解したようで、以前の分量で作り出そうとするが止める。
「ドリー前回と量が変わってると思うから、調整しながら作っていこう」
「わかった!」
ドリーは何故か知らない薬でも適切な分量を、最初から近い分量を当てる不思議な才能があり、調合は任せて分量をメモしていく、ドリーは何回か調整した後に気に入った配合を見つけたようだ。
「できた!」
「それじゃ、試してみようか」
普段は罠で捕まえた動物などに使って試していたが、薬師組合で溶液が酸性かアルカリ性かを測れる道具があったので、使って問題ないと判断できたので。
更に試験するなら動物が欲しかったが、今居ないので流せるように水を用意した後に、少量を自分の肌に塗ってみる。
「にーちゃ、だいじょうぶ?」
「大丈夫さっきの道具と混ぜ合わせた素材的に、よっぽどじゃない限りは問題ないと確認してる」
ドリーも俺がやってることの危険性を理解しているので、薬師組合で買った道具の説明を改めてすると納得したようだ。
泡立ちやら匂いなどを調整していくと、以前作っていたものより良さそうなものが出来上がった。ドリーも納得した様子で喜んでいる。
エマ師匠に風呂に入れる時間か聞くと、俺が入れる時間だと教えてもらったので試してみようと思う。
「それじゃ、試してきます」
試作したシャンプーとトリートメントを使ってみると、以前の代用品で作っていたものより、地球のものに近くなったように感じる。
試し終わって部屋に戻ると、エマ師匠が驚いている。
「エド、随分と綺麗になりましたね」
「そうですか?旅で髪の毛が傷んでたのかな」
正直このシャンプーとトリートメントは、俺だけなら普通の石鹸で良かったのだが、ドリーのために何か作れないかと、地球の知識から頑張って思い出したものなので、自分の髪が綺麗になったからと言って、そこまで感動するものでもなかったりする。
そんな俺とは違ってエマ師匠とドリーは気に入ったようで、早く風呂の時間にならないかと落ち着かない様子だ。
何故か俺は嫌な予感がするので、自分の服を作ろうと作業していく。
時間になると二人は風呂に入りに行った、そして風呂から戻ってくると、エマ師匠とドリーはとても喜んでいて、エマ師匠がもっと作るようにと言い始める。
「エド、もっとこれを作るのです」
「え、でも薬はどうするんですか?」
「薬は買えますので、問題ありません」
エマ師匠は急にそんなことを言い始めるが、使用できる期限のある素材もあるため、薬にしないで放置しておくのも不味い。それにシャンプーとトリートメントの材料は、そこまで大量に買い込んでいない。
「エマ師匠、今日買った素材の中に使用期限が短いものが入っているので、それだけは薬にしたいと思います」
「また買い直しますよ?」
「流石にそれはちょっと、後もう一個理由があって素材がそこまでありません、ドリーが一人で作れば、今日買った分は全部なくなると思います」
「なら買い足しに行きますか」
「それは流石に必要ないと思いますよ、今日買った素材で作れる量は三人で使うなら十分ですよ」
「それなのですが、良い物なので友人にも分けてあげたいのです」
急にそんなことを言われて戸惑うが、友人分くらいはと引き受ける事にするが、今から薬師組合に行って買い出しとなると、結構な時間になってしまいそうだ。
「それなら買い足しは必要ですが、今日は時間も時間なので明日にしませんか」
「分かりました」
エマ師匠が同意してくれて安堵する。
俺とドリーは予想外に忙しくなってしまったが、シャンプーとトリートメントはドリーで、素材に期限がある薬は俺と作業を分担して、夕食以外はひたすら作り上げていく。
エマ師匠にどの程度の人数に渡すのか確認しておいて貰い、明日の買い出しに備えておく、そして薬を作り続けてなんとか素材に期限があるものを作り終えると、気づけば夜になったため今日は寝る事にする。
次の日、起きるとドアがノックされている事に気づく。
「エド、起きていますか」
「エマ師匠、おはようございます」
エマ師匠の声が聞こえたので、ドアを開けて挨拶をする。
「エド、おはよう、ドリーはまだ寝ているようですね」
「そうみたいです」
ケネスおじさんが居なくなって、初めての夜なので、泣くかと思っていたが、昨日が思った以上に忙しい一日になったので、ドリーは熟睡したようだ。
俺は朝の準備をしていると、ドリーも起きたようで寝ぼけた様子で、エマ師匠と挨拶した後に、俺と同じように朝の準備をした。
「では、朝食を食べた後に、魔法の訓練をして、素材の買い出しですね」
「「はい」」
エマ師匠の言った通りに朝食を食べ終えると、訓練場に向かって全力で魔法を撃つ事になる。
「では、エドから全力で魔法を使いましょう」
「はい」
昨日感じた神が魔力を動かし魔法を使う様を思い出して、それを真似して水の玉を作る魔法を発動してみる。
「行きます」
真似して動かすと以前と違い魔力は綺麗に動き、杖を通して魔法を発動させると、昨日と違い魔法はとても安定して俺は驚く。
「エマ師匠、安定しました」
「三回目で安定するとは驚きです、可能な限り維持してみてください」
「分かりました」
数分維持しても魔法は安定しており暴走しそうにない、エマ師匠は次の課題を言ってくる。
「安定してるようなので、次は消してみてください」
「分かりました」
魔法を消せないかと色々試してみると、魔力を拡散させると徐々に消えていく、エマ師匠は一瞬で消していたし、もっと方法がありそうだと試してみるが、上手くいかない。
「エド、うまく行きませんか」
「魔力を拡散させれば徐々に消えるとは思うんですが、エマ師匠のように一瞬では消えないので、色々試してるんですが上手く行きません」
「一瞬で消す方法は、想像が難しいのですが、単純に消すという魔法だと想像することや、他には上書きするなどがあります」
どうやら難しい事だったようでエマ師匠は助言をくれる、消すという魔法は魔力がほぼないため無理かと思い、上書きできるか分からないが、やってみる事にするが、安全な魔法が分からないので、エマ師匠に尋ねる。
「上書きする場合は、どういう魔法がいいですか」
「風は危ないので、熱の無い光などで消えていくと、想像するのがいいですね」
「やってみます」
全力の魔力で作った魔法を光に上書きしたら、目が大変な事になりそうだと、魔力を拡散させながら小さい光に上書きしていく、結果的に思った以上に綺麗な光景となり、一色の光だったものを複数色に変えたりして、魔力を消していく。
「綺麗でしたよ、エド」
「楽しかったです、でも一瞬で消すのは無理でした」
「三回目で魔法を安定させて、最初から消せるだけ凄いのです、問題ありません」
「もう少しで上手く消せそうだったので、悔しいです」
「上書きするのは上手く行っていたようですが、消すのは難しかったですか」
「全力でやったので、魔力が残っていないから消せないと思って」
「なるほど、エドそれは誤解です、魔力は制御を離さない限りは、基本的に何度でも魔法を変えることができます」
「え?」
「今エドが実際にやったように、水の玉から光へと変えたように、魔法は変化します」
エマ師匠に言われて、水の玉から光に変えているのだから違う魔法だ、消すという魔法も、同じように使えるはずだと気づく。
「確かに!」
「魔法が安定し始めてから教える予定だったのですが、予想外に覚える速度が早かったので、教える順番が逆になってしまいましたね」
俺も記憶が戻らなければ、魔法が成功するとは思って居なかったので、エマ師匠の説明が遅れてしまうのも理解できる。
今回は魔法が安定したら魔法を消したが、制御を手放したらどうなるのだろうかと、気になって聞いてみる。
「魔法が安定して、制御を手放すとどうなるんですか」
「魔法が解除されて、存在する現実の物と一時的になります」
「それなら、水の玉から制御を手放したら、一時的な大量の水になるんですか」
「水の場合は少し違って存在し続けます、水以外の大半はその通りで、一時的に存在して消えます、それが魔法の一番基本的な性質ですね」
「水は残るのですか」
「はい、ただ魔法の制御を手放すというのは意外と難しいので、魔法の暴走も制御を離れない事で、魔法が暴れ続けるのが問題なのです」
「暴走はそうなんですか、ただ俺は魔法の制御を手放せそうでしたが」
個人的には、制御を手放すのは意外と簡単そうだったのだが。
「エドは制御を手放すことが、出来そうだったのですか」
「やってないので分からないですが、無理そうな感じはしなかったです」
「なら説明しておいた方がいいですね、まず全力の水の玉で制御を手放すのは止めて下さい、下手したら命にかかわるので、全力でない魔法だったり、今のような光の魔法などで試して行きましょう」
確かにあんな巨大な水の玉が制御を離れて落ちてきたら、下手したら死んでしまうのも理解できる、光の魔法で試していいのなら、最初から光の魔法の方が安全なのではと疑問に思う。
「なんで光の魔法ではなく、水の玉が最初の魔法なんですか」
「想像しやすいのが、水の玉なのもありますが、光の魔法を最初にすると、太陽を想像する場合があるので、全力でやると危険です」
「それは、確かに」
俺の質問が無くなると、エマ師匠は次はドリーだと言って、ドリーは魔法を発動させるが、昨日よりは長いが暴走してしまう。
「ドリー昨日より長く魔法を発動できています、上手くなって居ますよ」
「うん」
ドリーは上の空でエマ師匠に返事をしていて、エマ師匠は心配したようで。
「ドリー、普通は三回目で魔法を発動させることが珍しいのです、気にしてはいけませんよ」
「ドリー気にしてない、ただ…」
ドリーは言葉にうまくできないようで、俺をみてくる。
「にーちゃ」
「どうした、ドリー」
「にーちゃは、魔力と魔法?」
やはり上手く言葉にできないようで、よく分からない事を言っているので、俺が魔法を発動させた理由をぼやかして説明してみる。
「俺は昔、魔法を発動してるところを、見たことが有るのを思い出したんだ」
「にーちゃが?」
「うん」
ドリーは考え込んだ後に、何か思いついたようで。
「にーちゃは、魔法!」
「え?」
ドリーは謎のことを言って納得したようで満足そうだが、俺は意味が分からない、エマ師匠にも視線で尋ねてみるが、首を横に振られ分からないようだ、ドリーは薬を作る時もそうだが、直感的なのでそういうものかと納得しておく。
エマ師匠はドリーのそういうところがまだ分かっていないので、ドリーに問題がないか聞いている。
「ドリー、問題ありませんか?」
「うん!」
エマ師匠が戸惑っているのが分かるが、俺にも説明ができないので、どうしようもない。
「それでは、今日の魔法の訓練は終わりで、素材の買い付けに行きましょう」
「「はい」」
薬師組合に着くとグレゴリーさんが、昨日の今日で来たため驚かれたが、対応してくれた。
「何か素材に不都合がありましたか?」
「いえ問題なくて、追加で素材を買いにきました」
「そうですか、物と量はどの程度でしょうか」
そういえば、エマ師匠にまだ渡す人の人数を、聞いていなかったなと思い出す。
「エマ師匠が、渡す人数は決まりましたか?」
「そうね、多ければ多いほど良いのだけれど、とりあえず百人分と言ったところかしら」
「百!」
エマ師匠の交友関係を甘く見ていたのかも知れない、百は気軽に作る量ではない。
「無理でしたか?」
「作れはしますが、すぐに全部は無理ですよ」
「それで問題ありません、素材代以外にも制作費もお金も払いますよ」
「そこは気にしなくても良いんですが」
流石にそんな量は少量で作っていられないと、大きめの道具を買ったりして行くと、想像以上の量となってしまう。
「これ、部屋に入りますかね?」
「二部屋用意したのだから、使ってない部屋に置けば良いわ」
「忘れてました、そうですね」
そうそう使うことはないと思っていたので忘れていたが、一部屋余っているのだった。
グレゴリーさんは、普段その組み合わせでそんなに量が出ない物を、俺が買って行くので驚くが、何に使うかは聞いてくることなく、対応してくれる。
「以上で、問題ありませんか?」
「後は、協会まで運んで欲しいのですが」
「了解しました、連日買っていただけたので、料金はサービスしておきます」
「ありがとうございます」
どう考えても凄い額になるので、グレゴリーさんの言葉に甘えておく事にして、代金はエマ師匠が払ってくれる。
協会へ届けるのに、普段使っていない部屋に届けて貰えるように、お願いしておく。
買い物を終えるとグレゴリーさんにお礼を言って、薬師組合を出ると昨日と違って、まだ昼を食べるには早い時間なので、協会へと戻る事にした。
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