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別れ

 訓練場から部屋に戻る途中で、昨日出した洗濯物を受け取った後に必要なものを持って風呂に向かう。かなり早い風呂になってしまったが思ったより土で汚れていたようで、洗ってから風呂に入ると気持ちいい。

 猟師のケネスおじさんとのんびりと風呂に入った後、部屋に戻るとエマ師匠がドリーの相手をしていてくれた。


「お風呂から戻りました」

「はい、丁度交代の時間ですね。ドリー、私たちもお風呂に入って来ましょう」

「うん!」


 ドリーに着替えなど渡してエマ師匠にドリーをお願いする。エマ師匠はドリーを連れてお風呂に向かって行った。

 新しく作っている服を取り出すと縫っていく、時間が意外とあるので結構進んできてドリーの新しい服は、もう少しでできそうだ。

 集中して縫っていると、ケネスおじさんが声をかけてくる。


「エド」

「ケネスおじさん、呼んだ?」

「ワシは明日の朝、ターブ村に帰ろうと思う」


 ケネスおじさんは家族が村に居るから別れることになるのは分かっていたが、それでもとても悲しい。だが頑張って送り出そう。


「家族のことや村のこともあるし帰ったほうが良いね。今まで本当にありがとう…」

「すまん。エドをもっと見守って居たいが、アルバトロスからターブ村に帰るのに行きの倍から三倍の時間かかるとなると、そろそろ戻らねばならん」

「うん…」


 言葉が続かない。アルバトロスに来るまでやアルバトロスに来てからも頼りっぱなしで、ケネスおじさんが居なくなってもう会えないと思うと不安で仕方がない。


「エマという師匠ができ、薬師組合と冒険者ギルドにも入ることができた」

「うん…」

「魔法は暴走してしまったが、魔法が使えると確認できた。そうなると協会を追い出されることはなく、住む場所や食事もどうにかなりそうだ」


 ケネスおじさんの言う通り、ドリーを連れて路頭に迷うことは無くなった。エマ師匠も俺とドリーを大切にしてくれている。


「ケネスおじさん、もう大丈夫。会えなくなるのは寂しいけど、俺はアルバトロスで生きて行くよ」

「無理はするんじゃないぞ。師匠であるエマを頼ったり、ギルドのライノを頼れ。ライノは面倒見が良かった。今日会った感じは昔と変わっておらん」

「分かった、そうする」

「うむ、それでな…」


 ケネスおじさんが言い淀んで迷っている。


「何?」

「この後ドリーにも言うつもりなのだが…」


 ケネスおじさんが言いたい事を察して。


「絶対泣くので、慰めるのを手伝います」

「すまん、頼む」


 落ち込むだろうドリーのために少しでも喜ばせられるかもしれないと、服を急いで作っていく。

 ケネスおじさんと話をしながら服を縫っていると、エマ師匠とドリーが帰ってくる。


「戻りました」

「お風呂きもちかった!」


 エマ師匠とすっかり仲良くなったようで、お風呂を楽しんできたようだ。


「ドリー良かったね。エマ師匠ありがとうございます」

「気にしないでください。ドリーと入るのは楽しいですから」

「ドリーも楽しい!」


 ケネスおじさんがどのタイミングで話し始めるか気になりながら、ドリーの機嫌がいいことに安堵していると、ケネスおじさんがドリーに話しかける。


「ドリー、少しいいか?」

「ケネスおじちゃん、なあに?」

「ワシは明日、ターブ村に戻ろうと思う」

「えっ…」


 少しの間があった後、ドリーはケネスおじさんに抱きつく。


「ケネスおじちゃん、かえっちゃ嫌だ!」

「うむ…」


 こうなるとは思っていたが、実際になってみると辛いものがある。

 ケネスおじさんも言葉が続かないようで、抱きついてきたドリーの頭を撫でている。


「ドリー…」


 俺も何か言おうとしたが、言葉が出ない。


「ドリーすまんの、ワシは帰らねばならん」

「うぅ…」

「エドと共にエマを頼ったり、ライノを頼るんだ」

「ケネスおじちゃん…」


 ドリーが落ち着くまでケネスおじさんは、ドリーを撫で続ける。


「ドリー」

「ケネスおじちゃん、またいつか会おう?」

「ドリー…」


 ドリーはケネスおじさんともう会えないことに気がついていたようだ。ケネスおじさんも気づいたようで。


「分かった。ドリー、またワシはアルバトロスに来る。その時に会おう」

「うん!」


 ドリーが落ち着いたようで安堵すると、エマ師匠が。


「ケネス、ドリーとエドは私がしっかり見守りますので、安心してください」

「エマ、どうか宜しくお願いします」


 ケネスおじさんは俺とドリーのためにエマ師匠に頭を下げて、お願いしてくれている、改めてケネスおじさんにお礼を言う。


「ケネスおじさん、今までありがとうございました」

「ワシが見ていられるのはここまでだ。ドリーと一緒に頑張るんだぞ」

「はい。エマ師匠これからもご指南宜しくお願いします」

「ええ、エドとドリーならすぐに魔法を使えるようになるわ」


 ドリーはケネスおじさんの、言葉に反応して。


「ドリー、がんばる!」

「ワシも応援しとるからの」

「ドリー、私と一緒に頑張りましょう」


 ドリーが元気になったようで、皆が安心している。

 俺はほとんど出来上がった服をドリーに試着して貰おうと声をかける。


「ドリー、服を着てみてくれないか」

「うん!」


 ドリーに俺の作った服を着せていく。大きめに作って紐をつけて大きさを調整できるようにしておいたので、紐を結んでいくと紐自体が装飾となって可愛らしく見える。自画自賛だが中々うまく行った。


「ドリー、苦しいところはないかい?」

「ちょうどいい!」

「そうか、後は上着も用意しといたからこっちも着てみて」


 ポンチョにフードが付いたような服を作ってみたところ、エマ師匠に貰った布は元々模様が入っていたので、民族衣装ぽくなって中々の出来だと思っている。そのポンチョをドリーに着せてみる。


「ドリー、似合ってるよ」

「ほんと?」


 ケネスおじさんとエマ師匠が、同意してくれる。


「似合ってるぞ」

「ええ、ドリーとっても可愛いわ」

「やったあ!にーちゃ、ありがとう!」


 俺は再度服に問題がないか確認して、仮縫いの部分をしっかり縫ってしまうために、ドリーに脱いでもらおうとする。


「ドリー、服を一度脱いでくれるかい」

「ドリー、今日はこのふくがいい」

「ちゃんと縫ってないところがあるから、糸が解けてしまうよ」

「うー」

「明日までに間に合うように縫っておくからさ」

「うー、うん!」


 ドリーが服を気に入ってくれて嬉しいが、脱いでくれなくなるとは思わず、なんとか服を脱ぐことを納得させられて安心する。

 ドリーを着替えさせると、エマ師匠がドリーが泣いてしまって目が腫れてしまったので、治癒魔法を使いながら顔を拭いてくれる。


「エマ師匠、ありがとうございます」

「ありがとー!」

「いえいえ、気にしないで」


 ドリーの服を縫おうとすると、俺のお腹が鳴ってエマ師匠が食事に行こうと話しかけてくる。


「食事をしに行きましょう」

「すいません、昼遅かったのにな」

「言い忘れていました、魔法使いは魔法を使うとお腹が減るのよ」

「え?」

「魔法協会が食堂を用意してるのは、魔法使いが健啖家だからなの」


 魔法を使うとお腹が減るとはどうなっているのだろうか、食べ過ぎたら太りそうだがエマ師匠は太っていないし、協会で見かける人は太った人は居なかったと思う。


「食べ過ぎたら太らないんですか?」

「魔法使いは基本太らないの、理由は分かっていないのだけれど」

「理由が分からないと言うのは、調べたことがあるんですか」

「魔法使い以外の女性からの質問だったり、依頼で魔法使いのように食べて痩せていたいと依頼がくるのよ、たまに男性も来るけれどね」

「なるほど」


 地球では太っていた方が良いという時代や国はあったが、アルバトロスでは痩せている方が良いのだなと納得する、そして異世界でも食べ続けながら痩せる方法を探しているんだなと納得する。


「だから魔法使いは、魔力を大量に使ったら何か食べておくこと、すぐにどうこうはならないけれど、魔法を使わない人より餓死しやすいから」

「分かりました」


 エマ師匠に促されて食堂に向かうと、俺とドリーは食堂で多めの食事をして、エマ師匠は普通に、ケネスおじさんはお腹がそこまで減っていないと少量食べていた。


「昼が遅かったのに不思議なくらい食べれました」

「うん、おなかいっぱーい」

「魔法使いは依頼でのお金も多くもらえるけれど、協会以外で食べると食費もかかるから注意することね」

「はい」


 頑張って食料を集めて生きてきた身からすると、必要以上に食べる量が増えるのは中々の恐怖で、無料で食べられる協会のご飯を食べるようにしようと決める。

 食べ終わったので部屋に戻ると、服を作り上げてしまおうと縫っていく。

 集中して作業していると、気づけば寝る時間だったようで、ドリーがケネスおじさんと寝たいと言うのでベッドをくっつけて、ケネスおじさんを中心にして三人で寝ることにした。


「おやすみ、ケネスおじちゃん、にーちゃ」

「おやすみ、ドリー、エド」

「おやすみ、ケネスおじさん、ドリー」


 ぐっすりと寝て起きると、ケネスおじさんはもう起きていたようだ。


「ケネスおじさん、おはよう」

「エド、おはよう」


 少しするとドリーも起きてきたようで、モゾモゾと起き上がってくる。


「ドリー、おはよう」

「おふぁよう」


 ケネスおじさんは早めにアルバトロスを出ることになるだろうと、服を昨日のうちに完成させていたので、ドリーに完成した服を着せて見せておきたい。


「ドリー、服はできてるから顔を洗ったら着替えてごらん」

「うん!」


 ドリーは元気よく起きると顔を洗ったりと朝の準備をして、新しい服に着替え始める。着るのに少し手伝ったが慣れれば一人で着ることができそうだ。


「似合ってるぞ、ドリー」

「にーちゃ、ありがとう」

「また作ってあげるからな」

「うん!」


 ドリーのために頑張って作った甲斐があった。俺の分は普通に作れば良いだろう。お揃いのポンチョくらいは作っても良いかもしれない。


「ケネスおじちゃん!」

「ドリー、よく似合っておるぞ」

「ありがとー!」


 ドリーは服をケネスおじさんに見せに行って、褒められて喜んでいる。

 食堂に行って食事にしようかエマ師匠を待っているか迷っていると、部屋をノックする音が聞こえ、出るとエマ師匠が立っていた。


「エド、おはよう」

「エマ師匠、おはようございます」

「エマししょー、おはようございます」

「ドリーおはよう、二人とも魔力はしっかり回復しているようですね」


 魔力が回復していることに、エマ師匠に言われて気付く。


「本当だ」

「慣れてくると、どの程度回復したかなども分かるようになります」

「全て回復しないこともあるんですか?」

「経験則になりますが、回復しない時の大半は睡眠と食事が足りていない場合、全ての魔力が回復することはありません」

「睡眠と食事に注意しないとダメなんですね」

「注意した方が良いですね。研究中の魔法使いは寝食を忘れて作業しがちなので、エドもそうならないように」

「分かりました」


 研究中の魔法使いが寝食を忘れると説明されて、そう言えば俺とドリーの杖を頼んだ人は昼くらいに起きてくると、言っていたなと思い出していると、エマ師匠が食堂に行こうと言っている。


「それでは、食堂に行きましょうか」

「はい」「はーい」「ああ」


 エマ師匠に、俺と同じようにドリーとケネスおじさんが同意して食堂へ向かう、食堂でドリーがエマ師匠に話しかける。


「エマししょー、服できたの」

「ドリー、可愛いですよ」

「ありがとー!」

「昨日見た時も思いましたが、エドは器用ですね」


 地球の知識と比べると俺は今一だと思っていたため、エマ師匠に褒められて驚く。


「そうですか、素人が作ったものだと思いますが」

「本職になれるくらい、上手だと思いますよ」

「ありがとうございます」


 ターブ村の知り合いは簡単な服なら自分で縫っていたので、頑張れば今回のドリーの服くらい作れそうだと思っていたが、街だとまた違うのかもしれない。

 食事を食べ終え部屋に戻ると、ケネスおじさんが話があると声をかけてくる。


「エド、ドリー、この後ワシは村へ帰ろうと思う」

「はい」

「うん…」


 ドリーは何とか声を絞り出した様子で、返事をしている。


「エド、ドリー、いつになるか分からんが会いにくる、その時までに立派な魔法使いになってるんだぞ」

「はい!」

「うん!」


 俺とドリーの返事を聞いて、ケネスおじさんはエマ師匠の方を向いて。


「エドとドリーを、よろしくお願いします」

「師として家族として見守って行きます、安心してください」

「ありがとう」


 ケネスおじさんは荷物を持つと出ていくようなので、見送ろうと思い。


「見送ります」

「協会の中でいいぞ」

「では、協会の出入り口まで」

「分かった」


 エマ師匠も付いて来てくれるようで、一緒に協会の出入り口の扉を開けると。


「ここまでで良い」

「はい」「うん」


 別れの挨拶をしようとすると。


「ケネス!」

「ライノ?」

「帰るって聞いてたからな、用事ついでに見送りに来た」

「態々来なくても良かったんだぞ」

「言っただろ、用事ついでだと」


 いつの間にケネスおじさんはライノさんに帰ると伝えたのかと考え、そういえば昨日ギルドから帰るときに何か話していたなと思い出す。


「用事か、どんな用なんだ?」

「ターブ村って言ったか、ケネスが住んでいる村は」

「ああ」

「貧しくて子供を捨てるのは聞いたことがあるが、土地が広げられないと追い出すのは聞いたことが無い。だからギルド員を調査に向かわせる」

「ギルド員は普通そんなことしないだろ?」

「直接ではないが辺境伯からの依頼だ。ターブ村は男爵領だから辺境伯の人間ではなくギルド員を向かわせる」

「態々あんな辺鄙な村にそこまでするのか?」

「そうだ。で辺鄙すぎてターブ村の位置がわからないから、ケネス案内してくれ。案内料は支払うから」

「ライノ、それはワシのために…」


 ライノさんはケネスおじさんのために、辺境伯の依頼としてギルド員を派遣して、帰りのお金や護衛を出そうとしているようだ。


「本当に調査もするさ。広げられない村なんて聞いたこと無いからな」

「分かった、調査の方も手伝おう」

「知ってる奴がいるのは助かるが、無理はしなくていいぞ」

「ああ」

「こいつらが調査をするギルド員だ」


 ライノさんが後ろに連れていた四人組をケネスおじさんに紹介している。


「優秀なギルド員で、調査に必要な技能があるものたちを選んでいる」

「分かった、よろしく頼む」


 ケネスおじさんとギルド員たちは挨拶して、必要な事を確認し合って、それが終わるとケネスおじさんはこちらを向いて。


「ではエド、ドリー、また会おう」

「ケネスおじちゃんっ!」


 ドリーは我慢できなかったようで、ケネスおじさんに抱きつく。俺もケネスおじさんの近くに行く。


「ドリー、元気でな」

「うん…」

「エド、ドリーを頼むぞ」

「はい」


 ケネスおじさんからドリーを受け取ると、ドリーは俺に抱きついてくる。


「それでは、また会おう」


 ケネスおじさんは再会の言葉を言って、ライノさんが選んだギルド員と共にターブ村へと帰っていた。

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[一言] ライノさん粋だねぇ 帰りだけどw
[気になる点] キャラの言葉使いが一定していない特に師匠のエマ。あと言い回しと言うか「魔力を感じられるようになったのなら、私の魔力が感じられるようになっていると思います。分かりますか」「魔法使い以外の…
[一言] MPはマジックパワーではなくマンプクパワーだったのだ
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