ガーちゃんの魔法
次の日、ダンジョンに行こうとベスとリオを誘いに辺境伯の屋敷を訪れると、屋敷全体が騒がしい。
「なんだろ。騒がしいね?」
「何でしょうな?」
「ドリーも分かんない」
案内してくれたメイドさんはベスに聞いて欲しいと言うので、ベスに聞いてみる事に。
「ベス、屋敷が騒がしいけど何かあったの?」
「エド、それが川が新しくできましたわ」
「川が新しく?」
「ええ。ドラゴンとメガロケロスを住まわせた森から水が出てきたらしいのです」
「え、それ大丈夫なの?」
「今は量が多くないですし、場所としても水があれば嬉しい場所なのですが、急に川が現れた理由なんて一つしか思いつきませんわ」
ベスが言いたい事はわかる。つまり、ドラゴンとメガロケロスが何かをしたのだろう。だが、何をしたら川なんかできるんだろうか?
「エド、森に確認に行きますわ」
「分かった。けど、皆で行く?」
「そうですわね」
「リオとアンも呼ぼうか」
「分かりましたわ」
リオは屋敷に居るし、アンが住んでいる場所は屋敷と逆方向なので、いつもダンジョンに向かう途中に迎えに行っている。まずはリオを呼んで、次にアンを誘って、ドラゴンとメガロケロスが居る森へと向かう。
「まだ小さいけど、本当に川ができてる」
「報告にあった通りですわ」
ドリーが川の水を手で掬ったりして確認しているので、俺も同じような事をしてみる。
「にーちゃ、ターブ村の森と同じ水だと思う」
「確かにそっくりかも」
「どういう事ですの?」
「ターブ村と同じような環境をドラゴンとメガロケロスが作ったのかも?」
「そう言われると中が気になりますわ」
「森の中も気になるけど、水もうまく使った方が良いよ。この水は薬師が薬を作るときに使いやすいし、飲み水としてもそのまま飲めて美味しいよ」
ターブ村にいる時は水源がいくつか有ったが、薬を作るときはガーちゃんが住んでいた場所から流れてくる水を使っていた。
「水の事もお父様に伝えておきますわ。ところでエド、森の中に入って問題ないか分かりませんの?」
「それは俺も分からない。成功するか分からないけど、メガロケロス呼んでみる?」
「呼べるんですの?」
「呼べたり呼べなかったりだけど、近くに居れば指笛で来てくれることがあるんだ」
「一度試してみて欲しいですわ」
「分かった」
俺が指笛を吹いてしばらくすると、森の中からメガロケロスが出てくる。
「来てくれた」
「本当にきましたわ」
俺がメガロケロスに身振りで森の中に入って良いか聞くと、メガロケロスは森の中に戻って行った。
「これはどっちなんだろか? 入って良いのかな?」
「エドに分からないのなら、私には分かりませんわ」
メガロケロスが去っていた森を眺めていると、メガロケロスがガーちゃんを連れて戻ってきた。
「ガーちゃん!」
『ガー』
ドリーがガーちゃんに飛びつく。ドラゴンの言葉が分かるフレッドに、ガーちゃんの通訳を頼む。
「フレッド、ガーちゃんに森に入って良いか聞いてみてくれないか」
「了解致した」
フレッドがガーちゃんと会話を始める。一ヶ月近い旅で慣れたがドラゴンと人間の会話は不思議だ。
「まだ完全ではないですが、入って問題ないとのことですな」
「それなら案内して貰えないかな?」
「聞いてみますな」
フレッドがガーちゃんと会話をすると、ガーちゃんが案内してくれるらしく、森の中に踏み込んでいく。
「森の中に入ると、ターブ村近くの森に似てきたね」
「拙者には分かりませんな」
「私には少し分かります。薬草の数が随分と増えていますね」
「アン殿やエド殿は、薬師だから拙者とは見ている部分が違いますな」
アンの言う通り、薬草の数が随分と増えている。それに全体的に森の密度が増えている。ガーちゃんに案内されて辿り着くと、そこにはターブ村と同じように苔が繁殖して、ドラゴンたちがのんびりとしている。
「苔が生えてる」
「そう言えば、ドラゴンたちは背中に乗せて運んでいましたわ」
「育てるために運んでいたのか」
「侵入禁止の森ですが、さらに厳重にしないと盗もうとするのが出てきますわ」
「ドラゴンの横で盗もうとする?」
「私なら絶対しませんが、考え無しに盗もうとする人は出てきますわ」
ドラゴンから主食を盗むとか無理だと思うんだが、苔は滅多に取れる物でないし、盗もうとする人は居るか。ドラゴンたちを眺めていると、メガロケロスも苔を食べている事に気づく。
「あれ? メガロケロスも苔を食べてる?」
「本当ですな。拙者がドラゴンに聞いてみますな」
フレッドがドラゴンに事情を聞いてくれた。
「一度食べたら美味しくて、一緒に食べているみたいですな」
「そうなのか。草食だから食べても問題ないのかな?」
「エド殿の友人はメガロケロスと言っても魔獣ですから、問題ないのではないですかな?」
「魔獣だからか。いや、魔獣って関係あるのかな?」
「拙者も分かりませぬが、普通の動物より体は強いんだと思いますな」
フレッドと話していると、アンの驚き、俺を呼ぶ声が聞こえる。
「エド! これを見てください!」
「どうしたの?」
アンが指差す方を見ると、ルーシー様の病気を治す時に使った薬草が生えている。
「え! この森に生えてるの?」
「薬を作るのに絶対必要な素材ですから、材料を探していた時に冒険者や騎士が近場は全て探していると思います」
「そうすると以前は無かったって事に、これはドラゴンとメガロケロスが生やした?」
そう言えば一ヶ月の旅でドラゴンとメガロケロスに、苔と薬草を混ぜて薬を作りリオの母親を助けたと説明し、苔が役に立ったと説明した。以前に薬を作った時に使った薬草を一緒に採取したのは、メガロケロスなので採取した薬草を覚えていたのか?
「エド、この草はなんですの?」
「ベスはそういえば知らないんだった。ルーシー様の病気を治すのに必要な薬草だよ」
「これがその薬草ですの? つまり苔と薬草が揃っていると?」
「そうだね。後は薬師組合にある材料で、薬が作れてしまうね。しかも薬草も群生してるから、取りすぎなければまた生えてくると思うし」
「お父様に報告しないと不味いですわ」
ここまで来ると、流石に俺でも盗みに誰か入ってこようと思える。しかし、森の侵入を止めるって難しそうだが。
「エド、何か侵入を防ぐ方法を思いつかないのですの?」
「急にそんな事言われてもな。魔道具で何かないか、ジョーにでも相談してみる?」
「良いですわね」
「そう言えば、ドラゴンとメガロケロスをジョーに紹介するって話をしていたんだった。忘れてた。エレンさんも呼んで欲しいと言って居たし。ジョーとエレンさんを迎えに行こうか」
「いえ、外にいる騎士にジョー以外も呼んでもらいますわ。時間が惜しいですわ」
俺とベスでメガロケロスに乗って一旦森の外まで出て、外周で待機していた騎士にベスが伝言を頼んだ。
「これで良いですわ」
「一旦中に戻る?」
「そうですわね」
真っ直ぐ戻らず周囲を探索しながら皆の元に戻る。皆の元に戻ったところで、アンに報告される。
「エド、貴重な薬草が多いようです。アルバトロス周辺では見かけないような薬草もあります」
「やっぱりここもか。戻ってくる時にメガロケロスに頼んで探索したんだけど、薬草だったり木の実が多いんだ。動物は少なめだったけど、大きな音で逃げ出しただけだろう。食べるものが増えているし今後は動物も増えるだろうな」
「ダンジョンが有るのでアルバトロスは薬草が豊富ですが。ここで採取したい人は多いでしょうね」
「組合とも相談しないとダメかもね」
「そうですね。元々立ち入り禁止の場所ですから、薬師が勝手に入ったとなると、組合としても苦慮しそうです」
今後の組合は大変な事になりそうだ。アンにどんな薬草があったか確認した後に、メガロケロスを何頭か連れて森の外まで行く。
「エド、待っておったぞ!」
「ジョー待たせてごめん」
「良いんじゃ。メガロケロスに会えたんじゃから!」
「ジョーにもメガロケロスに乗って、ついて来て欲しいんだ」
「ワシもメガロケロスに乗れるとは思いもしなかったぞ!」
ジョーとはメガロケロスに興奮しているようだ。レオン様、セオさん、グレゴリーさん、エレンさん、エマ師匠まで駆けつけてくれたようだ。
「エド、どうやら大変な事になっているらしいな。ベスからの伝言は聞いたが詳しくは着いてからと言われたが?」
「レオン様、中に入ってから説明します。メガロケロスに乗って中まで案内するので乗って貰っても?」
「おお、メガロケロスに乗れるのか!」
レオン様もメガロケロスに乗れると興奮している。セオさんとグレゴリーさんにも乗ってもらうと言うと、同じように二人とも興奮している。皆を別々のメガロケロスに乗ってもらい、森の中に案内する。
皆、メガロケロスを楽しんでいたが、グレゴリーさんは途中から周囲を見回して顔色を変えている。
「エドワード様、この森はこんなに薬草が生えていましたか?」
「どうも増えてしまったようです。ドラゴンが棲家にしている場所に着いたら詳しく話します」
「分かりました」
ドラゴンがのんびりしている場所まで着くと皆が絶句している。グレゴリーさんが俺に苔のことを聞いてくる。
「エドワード様、これは、この苔は」
「アルバトロスの皆が必死に探していた苔です。ドラゴンの主食なので生やしたみたいです」
「主食、増やした…」
固まってしまったグレゴリーさんの代わりに、レオン様が俺に訊ねてくる。
「ベス、水も有用だと聞いたが」
「エドに説明を任せますわ」
「ベス分かったよ。レオン様、そのまま飲めますし、薬作りにも良いです。後、苔以外にも薬草があって」
「他にも薬草が?」
「色々有るんですが、一番驚いたものに案内します」
俺が薬草の元に案内すると、グレゴリーさん、ジョー、セオさんが驚く。
「「「この薬草は!」」」
「セオさんも知ってたんですね。この薬草と苔を合わせれば、後は組合にある素材でルーシー様の薬が作れます」
「なんと…ここは騎士に探させたが、無かったはずだ」
「レオン様。多分ですが、ドラゴンとメガロケロスが生やしたのかと」
レオン様たちは絶句した後に固まってしまった。回復するまで俺は待っていることに。
「エドワード様、薬草はこの場所に来るまで多く見ました、まだ有りますね?」
「グレゴリーさん、その通りです。かなりの種類あるようで、森への侵入が増えそうなんです」
「これは増えるでしょう。組合としても欲しいものですよ、ですがどう防げば良いのか」
グレゴリーさんが驚きから回復した後に、的確に問題を指摘してくれるが、解決方法は思いつかないようだ。
「ジョー、何か魔道具で良さそうな物無いかな?」
「うーむ」
「エドさん、商会で使用している、人が来たら反応する魔道具はどうですか?」
「そんな物があるんですね」
ジョーは悩んでいるが、セオさんが案を出してくれる。だが、ジョーからダメ出しされる。
「エド。あれは一定以上の大きさで、動くものに反応するんじゃ。森だと動物が反応してしまうぞ」
「そうすると使えないのか」
「じゃが金属を分別する魔道具と組み合わせて、一定以上の金属に反応するようにすれば上手くいくかもしれん」
確かに採取道具は金属でできているし、金属に反応するようにすれば上手くいくかもしれない。
「ジョーそれは作れそうなの?」
「すぐには無理じゃ。研究してみないと作れるかは分からんぞ」
黙っていたレオン様が喋り始めた。
「ならば、協会に依頼を出して研究して貰う。森全体を兵士で囲み続けるなど無理な話だ」
「レオン様、ワシからも協会に説明しておきますのじゃ」
「頼んだぞ、ジョゼフ。それと、ターブ村からの移住者も周囲に住まわせるのは決定だ。組合からも薬師を数人派遣して欲しい、森の中にある薬草の種類を正確に把握したい」
「レオン辺境伯様。薬師組合のグレゴリー、承知いたしました」
「頼んだぞ、グレゴリー」
オジジとケネスおじさんが住む場所は決まりそうだ。まだ家すらないが、森がこんな状態なので、すぐに家も作られるだろう。
俺にフレッドが話しかけてくる。
「エド殿、ガーちゃんが最後の魔法を使うと言ってまして、見学して行くかと言われましたがどうしますかな?」
「むしろ、見学していって良いの?」
「魔力を全部でなくても分けてくれれば、見学して行っても良いと言っておりますな」
「それくらいなら俺は良いけど、皆は?」
「拙者がドリー殿、リオ殿に尋ねて良いと言っておりました。後はエド殿たちだけですな」
「アンは魔力がないし、ベスは?」
「私も問題ありませんわ」
ベス、レオン様、ジョー、エレンさん、エマ師匠も魔力を分けるのは問題ないと言うので、皆で見学することになった。
ガーちゃんに魔力を集めるようで、魔力を渡すとガーちゃんが魔法を使う。すると噴水のように地面から水が噴き出て、結構な高さまで水は上がって霧雨のように降ってくる。霧雨が消え、少しすると見える範囲の森全体が成長し始めた。
森の成長を見ながら、俺は声も出せずに驚く。
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