リオとダンジョンへ
訓練場で弓の試射をした次の日、ジョーと共にリオを訪ねる。リオにジョーが作った防具を試着して貰う。ジョーが少し手直しすると、リオの装備は問題なさそうなので、近々ダンジョンに行こうと、リオを誘う。
「リオ、ダンジョンに行かないかい?」
「はい!」
そう言えば、リオはルーシー様にダンジョンに行くことを伝えてあるのだろうか?
「リオ、ルーシー様にダンジョンに行くことは伝えたの?」
「伝えたら好きに行ってきなさいと、ギルド証も用意してくれました」
「年齢的に止められるかと思ったけど、そうでも無いんだね」
「ドラゴンに乗って帰ってきたのが大きかったみたいです。比べたらダンジョン位は問題ないと」
言われてみればリオは一ヶ月近くも旅をしていたのだし、今更ダンジョンと言われても、好きにしなさいと言われそうだ。ドラゴンで帰ってくるのは完全に予定外だったのだが。
「それなら明日にでもダンジョンに行こうか」
「分かりました」
アンにも装備を試して貰いたいが、魔法協会の訓練場で試すのは危険すぎるので、明日ダンジョンに行ってから試して貰おう。トリス様が作ってくれた服だけベスの予定を聞いてから届けに行こうと思う。
リオと別れてベスを訪ね、明日ダンジョンに行くか尋ねる。
「ベス、明日ダンジョンに行こうと思うんだけど、行けそう?」
「お母様からしばらく自由にしていて良いと言われておりますわ。なので私もダンジョンに行きますわ」
「なら明日迎えにくるよ」
「分かりましたわ」
メガロケロスとドラゴンを連れて帰ってきたから、ベスにご褒美なのだろうか? しばらく自由と言うのなら、ダンジョンに通えそうだ。
次の日、皆でダンジョンに集まった。トリス様が用意してくれた服を着ていたり、新しい装備を手にして六人で集まってダンジョンに行くのは初めてなので新鮮な気持ちだ。
「この人数でダンジョン行くのは初めてだね」
「そうですわね」
「今日は装備が新しくなってるから、装備の確認と、連携の確認かな」
「それが良いですわ。連携に関しては一緒に一ヶ月近く旅をしたので分かってきておりますが、ダンジョンだとまた違いそうですわ」
ベスも同意してくれたので、まだ装備を渡していなかったアンに新しい装備を渡していく。俺が普通に引けた弓と、魔法格闘術を使わないと引けない強い弓を渡すと、強い弓を使えそうだと言うので、強い方を渡す。
「アン、新しい装備なんだけど、弓がかなり強力になったから、協会で試すには強すぎたからダンジョンで試そうと思うんだ」
「そんなに強力な弓ができたのですか。使う時は注意します」
俺とアンの会話の後に、フレッドがアンに頼み事をする。
「アン殿、すみませぬが拙者の盾を作るのに鉱石を大量に使ってしまったらしく、ジョー殿に追加で鉱石を渡したいのですが、頼めませんかな?」
「アン、俺からもお願いするよ」
「フレッド、エド、分かりました。私も装備を作って貰いましたし、鉱石を多めに採掘しましょう」
ダンジョンの中に入ると、まずはリオの装備を確認しつつ移動していく。リオはドリーと一緒に空を飛び始めた。
「宝箱を見つけた時の状況は聞いていましたが、本当にドリーが飛んでいますわ」
「ベスはドリーが飛んでるのを見るのは初めてだっけ?」
「ええ。魔法で空を飛べる事を初めて知りましたわ」
「俺は最初にエマ師匠と出会った時に飛んでいたから驚いたよ」
「それは私でも驚きそうですわ」
飛んでいるドリーとリオを眺め、ベスは二人を不思議そうに見ている。途中で鉱石を見つけるとアンが壁を登り始めて、それもベスは感心している。
「アンの特技は話には聞いていましたが、凄いですわ」
「だよね」
アンは以前より、かなり早い速度で採掘して降りてくる。
「新しい道具は良いですね。簡単に鉱石が掘れます」
「そんなに違うのか。ジョーにお礼を言わないとな」
「そうですね。代わりではないですが、鉱石を多めに持って帰りましょう」
以前より効率が良くなった事で、アンは採掘する速度が上がったようだ。鳥の魔獣を見つけた時に、アンが弓を試してみるかと言う。
「鳥で弓を試してみますか?」
「いや、弓が強すぎると思うんだよね」
「そんなに強くなっているのですか?」
「うん」
弓を使った感じだと鳥の魔獣ではなく、もう少し強い相手に試してみるべきだろう。鳥の魔獣はリオに魔法で倒して貰ってダンジョンをさらにすすんでいく。
草原まで来るとリオが感動しているようだ。
「凄い! ダンジョンじゃ無いみたい」
「リオはダンジョンに草原がある事を知ってた?」
「勉強はしていたので草原などが有るのは知ってはいますが、実際見るのは違いますね。ダンジョンから出てしまったのかと思いました」
「俺もダンジョンから出てしまったのかと思ったよ」
「分かります」
俺とアンで獲物の痕跡を探しながら、上からドリーとリオで探している相手を見つけて貰う。まずはアンの弓を試したいので、良さそうな相手を探す。シカの痕跡を見つけたので追う事にする。
「にーちゃ、居た!」
「分かった」
注意しながらドリーの指示に従って移動していくとシカを見つける。アンが弓を使ってシカを射ると一撃でシカは倒れる。シカを確認すると矢が反対側から飛び出て、もう少しで貫通して飛んでいってしまいそうだ。
「確かにこの弓は強すぎますね。もっと遠くから狙った方が良いかもしれません」
「みたいだね。普通の矢を使ったんだよね?」
「そうです。魔道具の矢なら確実に貫通して、何処かに飛んで行っていましたね」
「だろね。使うならもっと大型の獲物か胴体の分厚い場所かな?」
「そうですね。ですが普段は普通の矢で十分そうです」
「そうだね」
弓を作ったは良いが強力すぎた気もする。ジョーが辺境伯に渡したいと言っていたし、それだけの出来では有るのだろう。
「ベスもこの弓使ってみる? ジョーが辺境伯に渡したいと言ってたけど」
「ジョーがそこまで言うのですの? 一度使ってみますわ」
「俺が持ってるのが弦が普通の弓で、アンが持ってるのが弦が強い弓。俺は強い弓は魔法格闘術がないと引けなかった」
「そこまでですの。アン一度貸して欲しいですわ」
「良いですよ」
ベスがアンから弓を借りて、弓を引くがアンほど安定していない。
「アンの方が獣人として完全な状態に近いようですわ。私には引けても当てることは難しそうですわ」
「私はそこまで獣人の部位が多くないと自分では思っていましたが、そうではないのですか?」
「アンは手足が特殊だと聞きましたし、見た目に出ていない部分で多いんだと思いますわ」
「見た目で分からない場合もあるんですね、知りませんでした」
獣人は元々になっている獣に近い方が身体能力が高いと聞いたが、見た目以外でも身体能力は高くなるようだ。アンは俺が見ても獣人に見えないので、獣人として見えない部位が獣に近いのだろう。
「では、エドが持っていた弓を私は借りますわ」
「うん、使ってみて」
次の獲物を探していると、オオカミの痕跡を見つける。
「オオカミだ。この人数だったら余裕そうだから行ってみる?」
「良いですわ」
「拙者の盾を試すのに良さそうですな」
「分かりました」
「うん!」
「はい」
皆、同意してくれた。ドリーとリオは降りてこないで、飛んでいるようにと注意をしてオオカミを追う。ドリーとリオがオオカミを見つけて教えてくれる、六頭と思ったより数が多いが行けるだろう。
「それじゃ弓で先制して、次は魔法を使うよ。どちらも当たらなかったのをフレッドにお願いするよ」
「了解致した」
アンとベスが弓で先制すると、アンの狙ったオオカミは倒れ、ベスの狙ったオオカミは急所から微妙に外れたのか近づいてくるが死にかけだ。俺は魔法で他の狼を狙う。フレッドの所まで辿り着いたのは二頭だが、フレッドが盾の一撃で一頭倒してしまう。残りの一頭もベスによって最初に矢が当てられた相手だったので、すぐに片付けられる。
「六頭では足りませんでしたな」
「みたいだね。多いかなって思ったんだけどドリーとリオが飛んでいても余裕だった」
「ですな。装備がしっかりしているので余裕ですな」
「もっとダンジョンの奥に行っても良いかも」
「そうですな」
ベスに弓がどうだったか尋ねる。
「ベス、弓はどうだった?」
「思ったより真っ直ぐ飛ぶので、狙いが少しズレてしまいましたわ。それだけ強力な弓だと言うことでもありますし、お父様もお喜びになると思いますわ」
「ジョーにそう伝えておくよ」
更に奥に進んでいくと、以前見たことがある大きな足跡を発見する。
「これウシかも」
「ウシ? ですかな?」
「エド、狩りに行くわ!」
フレッドは知らないので困惑しているが、ベスは興奮している。
「フレッド、このダンジョンのウシは美味しいんだよ」
「なるほど、それでベス殿が狩りにいくと言っているのですな」
「うん、ウシを探してみよう。ドリー、リオ空からお願いね」
「うん!」
「分かりました」
痕跡を辿って探すと、ドリーとリオがウシを見つけた。
「大きいですな」
「前回は三人の魔法でなんとか倒せたんだけど、今回はどうしようか」
「魔獣ではないようですので、拙者が止められはすると思いますな」
「それじゃ、傷が少なくなるように戦ってみようか」
「了解致した」
ベスから弓を受け取って、俺とアンが弓を使う。ベスは槍を使ってフレッドが止めたところを狙って貰う。
「アン、射つよ」
「いつでも問題ありません」
魔道具の矢を牛に向かって射ると、当たるがまだ元気そうだ。
「少し狙いと外れました」
「頭か心臓に当たれば一撃だったけど、俺も外してしまったよ」
狙いは外れてしまったが、ウシにはかなり深い傷は負わせた筈だ。次の矢を射る暇なくウシが突進してきて、フレッドがウシの突進を受け止める。フレッドが少し後ろに下がるが、ウシは止まった。牛が止まった隙にベスが槍を突き刺す。
「良いところに入りましたわ。後は弱るまで抑え込みますわ」
ベスはウシの急所に上手く一撃を入れたようで、ウシは動きが明らかに衰えてフレッドが抑え込んでいると倒れてしまう。
「やりましたわ!」
「前回と違って綺麗に倒せてたね」
「ええ。人数も増えましたが、確実に成長していますわ」
「確かに、魔法で倒すしか無かった時より、手数が増えたね」
「ウシを、また先に解体して貰うなら今日は帰ろうか」
「売らなくて良いんですの?」
「どちらにしろレオン様が買いそうだし、良いんじゃない?」
「確かにそうですわね。報酬はお父様が出してくれますわ」
皆で食べようと、ダンジョンを切り上げてウシを解体するために帰る事にする。
「エド殿、慌てて帰るほど美味しいのですかな?」
「美味しいよ。そう言えばベス、前回のウシってあの後どうしたの?」
「お父様にもお出ししましたし、リオも食べていますわ」
「僕ですか? もしかして、アルバトロスに来た頃に食べた美味しいお肉ですか?」
「そうですわ」
「それは急いで帰るのも分かります。フレッド、とても美味しかったですよ」
「リオ殿が言うほどですか、それは期待できますな」
ダンジョンを出ると解体場に行ってウシを急ぎで解体してもらう。職員からまた売らないのかと言われたが、持って帰ると言うと俺たちを見た後に納得したようだ。
ウシを運ぶのに荷馬車を借りると、前回と同じ御者だった。御者は俺たちの顔を見ると、顔を引き攣らせながら荷物を運んでくれた。屋敷に着くと、テレサさんと同じように御者に多めに報酬を払っておいた。
屋敷でレオン様とトリス様に報告すると喜んでくれて人を呼んで晩餐をする事になった。屋敷にいる人以外で呼んだ人が前回より数が増えて、ジョーやライノも晩餐に来た。
「しかし美味しいなこのウシは」
「レオン様そうですね。前回より綺麗に倒せたので、食べれる量も増えていますし」
「どうやって倒したのだ?」
俺はレオン様に倒した手順を説明すると弓に興味を持った。
「魔道具とは言え、弓がそこまで強力になるのか?」
「はい。ジョーが、レオン様に贈りたいと言っていました。ベスも気に入っていましたし、俺が思ってた以上の出来になりました」
「使ってみたいな。今持っておるのか?」
「レオン様だとアンに渡した弓が合ってるかも」
「アンすまないが、食後に少し貸してくれないか」
「はい」
アンはレオン様に話しかけられると思わなかったのか緊張した様子で返事をしている。食後に外で弓を試そうとするが暗いので俺が魔法で周囲を照らす。
「エド、助かる。しかし標的は丸太と鉄にしろと言われたので丸太と鎧を用意したが、大丈夫なのか?」
「射ってみれば分かりますが、普通の的だと貫通するかと」
レオン様は弓を構えて射ると、的として用意してあった鎧の表を貫通して、鏃が裏側を飛び出たところで、矢は止まっている。
「……普通の矢でこれか。エド、ジョーこの弓は売ってはいかんぞ」
「売るつもりは無かったですけど」
「ワシもじゃ」
「なら良いが。作るのを手伝った魔法使いにも注意しないとな」
「ワシからも注意しておくぞ」
レオン様は魔道具の矢も試すと、鎧を完全に貫通してしまう。
「そうなるのは分かっていたが、実際に見ると恐ろしいな」
レオン様はアンに弓を返すと、俺とジョーに弓は売るなと再度注意をしてきた。
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