冒険者ギルド
薬師組合は結構な時間がかかったようで昼近くになってしまった。冒険者ギルドで時間がどれほど掛かるかわからないので屋台で軽く食事をした。
冒険者ギルドは遠く、結構な距離を歩いて街の陸側にある出入り口が見えるところまで来ると、冒険者ギルドはあれだと猟師のケネスおじさんが教えてくれる。
「あれが冒険者ギルドだ」
「協会や組合と違って、冒険者ギルドは街の出入り口に近い場所にあるんだね」
「冒険者ギルドは匂いが出たりするから、基本的には出入り口近くやダンジョンの近くにあるんだ」
ケネスおじさんの説明に納得する。動物を狩ったり皮を鞣したりすると匂いが出る。
「ここ以外にも街の外で獲物を引き取る場所もあって、街中は綺麗にしとけとワシがギルド員をやっていた時は注意されたの」
「街の外って危なくないの?」
「ワシが居た頃は危なくなかったな。出入りが激しい場所で、もし魔獣が来ても獲物だと狩に行くようなのばかりだった」
「それなら魔獣も近寄らなさそう」
立ち話もその位にして冒険者ギルドの中に入ると中は意外と綺麗だった。
「懐かしい変わっとらん」
「そうなんだ」
「うむ、まずは受付だな」
受付には厳つい見た目で、普通の人とは違い獣人だと思われる人が居た。
「御用は?」
「この二人のギルド登録を頼みたいのだが」
「子供のか?あんたは?」
「昔ギルド員をやっていたが、もう引退した」
「ほう」
ケネスおじさんはじっと受付の相手の顔を見た後に。
「間違っていたら申し訳ないんだが、ライノか?」
「その通りだが、どこかで会った事があるか、思い出せん」
「ケネスだ、最後に会ったのが二十年近く前だから、思い出せなくても仕方あるまい」
「ケネスケネス…」
どうやら受付の人はケネスおじさんの知り合いだったようで、思い出そうと考え込んでいる。
「もしかして、弓使いのケネスか?」
「昔はそう呼ばれていたな」
「おお!どこかでくたばっているかと思ったら、生きていたか」
「それはお互い様だな。あのライノがギルドの受付をしているとはな」
「流石に歳よ。もう無理はできん」
「そうか時の流れは残酷だな。重戦士として憧れたものだ」
「しかし、よく分かったな。二十年も経てば見た目が変わって分からんだろうに」
「サイ系の獣人は珍しいからな、間違っているかと思ったが当たっていて良かった」
ライノさんとケネスおじさんは昔話を楽しんで、少しするとライノさんは。
「それで子供二人をギルドに登録したいんだって?」
「そうだ頼めるか?」
「できんことはないが、ケネスお前の子供なのか?」
「ワシの子供ではないが住んでいる村の子で、ワシがアルバトロスに送り届けにきた」
「何か事情があるのか」
「ライノだから話すが、事情がある」
「分かった。別室を用意して受付を交代するようにしてくるから、少し待て」
ケネスおじさんが了承すると、ライノさんは席を離れていく。
「ケネスおじさん、あの人はどういう人なの?」
「ギルド員をしていた時に組んだこともある、サイの獣人で信用できる」
「そうなんだ」
「昔は面倒見が良かったし真面目だった。ギルドの職員になってる位だから中身は昔からそう変わっていないのだろう。態度の悪いものがギルド員から職員にはなれない」
ケネスおじさんの説明に納得する。職員になって受付を任せられるくらいの信頼があるのだろう。
その場で少し待っているとライノさんが戻ってきて、部屋を取ったとのことで案内してくれ、部屋にある椅子に座ると話しかけられる。
「それじゃ、事情を話してくれるか」
「その前に、話すことをなるべく秘密にしておいてくれないか」
「ギルド職員として可能な限りなら、秘密にしよう」
「それで問題ないか、エド」
俺が頷いて話すのは俺の方が良いと思い、ケネスおじさんに言う。
「ケネスおじさん、俺が話すよ。説明が不足していたら補足お願い」
「分かった」
「ライノさん俺はエドワードと言います。エドと呼んでください」
「ドリーは、ドロシーって言うの」
「ライノだ。エドにドリーよろしく頼む」
薬師組合と同じように説明を始める。
俺とドリーがターブ村でどう暮らしていたか、村の掟で追い出されアルバトロスまで旅をして来たこと、協会員になって出身がアルバトロスになっていることなどを話すと、ライノさんは怒ったようにケネスおじさんに問いかける。
「ケネス、どうにかならんかったのか」
「こんな事にならないように、事前に村長には村に残すように話していたが奴は忘れていた」
「忘れていたで済む話ではないぞ、それは」
「魔法使いになれる子を忘れる村長と、放置する親だぞ」
ケネスおじさんの言う通りかなり酷いのだろう。ライノさんも言葉が出ないようで迷った後に尋ねてくる。
「その村長で大丈夫なのか、ケネスの村は」
「…正直不安だ」
ケネスおじさんの言う通り確かに不安だ。ターブ村はよく今まで何事もなくいられたと思ってしまう。
「ケネス、もし村から移住するなら手伝える位には私はギルドの信頼がある」
「ワシだけでは判断できんし、村での付き合いもある」
「そうか。必要なら訪ねて来い」
「分かった。必要な時には訪ねさせてもらう」
ケネスおじさんを心配したライノさんが、移住の話を出すくらいにはターブ村の村長は酷いんだなと改めて認識して、生まれ育った村は大丈夫なのだろうかと心配になる。
ライノさんはケネスおじさんから俺の方に視線を移動させ声をかけてくる。
「事情は分かったが、エドとドリーはギルドに入りたいんだな」
「はい」
「魔法使いなら歓迎するが、魔法使いならギルドに入らなくても暮らしていけると思うが」
「俺はケネスおじさんに聞いたダンジョンに興味があって」
「そうか」
ライノさんは俺とドリーをギルドに入れるか迷ってる様子で、無茶はしないと説得しようと思う。
「魔法の師匠から魔法を覚えるまではダンジョンは禁止されて、街のお使いをするように言われてます」
「魔法使いが街のお使いでは割に合わないが良いのか?」
「アルバトロスに来たばかりなので、街を知るのに良いだろうって」
「確かにそれなら問題ないか」
ライノさんが俺とドリーをギルドに入れることに抵抗がなくなってきてるようで、安堵しているとケネスおじさんがライノさんに話しかけている。
「ライノ、この位の子供も昔はギルドに入れてただろ?」
「今も入れてるし働いている」
「なら、何故迷うんだ」
「生きる糧を手に入れるために必要だから許可をしている。ギルドとしては推奨しているわけではない」
「そうだったのか」
ライノさんの話を聞くに、俺とドリーは生きていくのに必要な食料や住む場所があるので、無理にギルドに登録しなくても良いという判断だったのだろう。
ライノさんはケネスおじさんに逆に質問し始める。
「ケネス、聞きたいんだが、エドとドリーが村の生活で狩をして生活していたと言っていたがどの程度の腕なんだ?」
「普通の動物は罠で捕って投石やら棍棒で倒せるし、同じように小動物の魔物なら倒せるな」
「冒険者というよりは猟師の育て方だな」
「今はワシも猟師だからな」
「そういうことか」
「後は薬師にも師事していたから、薬草なども採取してきていたな」
「薬師もできるのか優秀だな」
「ギルドに来る前に薬師組合で登録してきたぞ」
「それは凄いな、二人ともか?」
俺とドリーは先ほど貰った薬師組合の組合証をライノさんに見せると驚いている。
「確かに、これは薬師組合の組合証だ」
「薬師として一人前で、猟師としてもアルバトロスに来る間に弓を教えたからすぐに上手くなるだろう」
「更に魔法まで使えるのか、それは凄い」
ライノさんとケネスおじさんに褒められて照れてくる。
「俺は猟師としても薬師としても半人前ですし、魔法もまだ使えません」
「どれも時間が解決してくれる、将来を楽しみにしているぞ」
「何ていうか、ありがとうございます」
期待が大きすぎて怖くもあるが、ライノさんのような貫禄がある人に期待されるのは嬉しい。
「それでは冒険者ギルドに入れるかどうかだが魔法の師匠が言うように、魔法を覚えるまでは街中の依頼を受けると言う事なら入ることを許そう」
「ありがとうございます!」「ありがとー!」
俺がお礼を言うと、あまり喋らなかったドリーも合わせてお礼を言う。
「では、書類を作ってギルド証を発行する」
「分かりました」
出身地は協会や薬師組合と同じように誤魔化しておくと言って、二人分の書類を作るとライノさんは書類を持って部屋を出ていく。
少しするとライノさんは戻ってくる。
「発行手続きをして来たから届くまでギルドの規約を説明しよう」
「はい」
「詐欺や犯罪行為をしない事。それとギルドの建物でなるべく喧嘩をしない」
「…え?」
ライノさんのギルド規約の説明は、規約というか一般常識で“なるべく”何て言ってしまっている。
「簡単だろ?」
「簡単というか、一般常識ではないんですか?」
「そうなんだが、冒険者ギルドは覚悟と力があれば成れるから、読み書きもまともにできないのも居て、簡単に説明するようになってしまった」
「と言うことは、規約はちゃんとあるんですか?」
「有るが正直しっかり守らなくても問題ないし、守っていたら死ぬだろってのもあってな」
「それはダメなんじゃ。規約を変えないんですか?」
「難しい問題だ。平時なら規約通りに行動すべきだが、冒険者は平時が少ない。先ほど言ったギルドの建物でなるべく喧嘩しないと言うのも、元々はギルド員同士は喧嘩しないだったんだが、獲物の取り合いはよく有ることで、それで喧嘩は起きて毎回規約違反で罰する訳にもいかん」
確かに獲物を狩ることで糧を得ているのだから、取り合いになって引けなくなるのはよくありそうだが、狩のルールを決めれば良いのではと疑問に思い聞いてみる。
「それなら、獲物を狩る優先順位を決めておけば良いのでは?」
「それは、各ギルドの決まりがある」
「ギルド全体の規約とは別に、各ギルドが決めた物があるんですか?」
「そうだ、冒険者ギルドはリング王国以外にもある組織なので、ギルド全体の規則と地域毎に狩場の生態系が違うから、各ギルドの決まりは別になっているんだ」
狩場の生態系が違うから規約に含めれないという理由に納得する。アルバトロスはダンジョンもあるし海もあるから、統一した規約ではまともに動けなくなるだろう。そして冒険者ギルドはリング王国だけでなく、外国にも存在する事に驚く。
「狩場で違いが出るのは分かりましたが、冒険者ギルドはリング王国以外にもあるんですか」
「そうだ、世界的にあると思っていてくれて良い。一部拒否された国にはギルドは無いが、リング王国周辺の国はギルドがある」
「リング王国だけだと思ってました。大きな組織なんですね」
「魔物は国関係なく居るからな。現役だった頃に違う国のギルドに行ったが、国によって特色があるから機会があったら行ってみるといい」
薬師組合で国によっては移動に制限がかかると教わったが、ライノさんは他国に行ったことがあるようだ。他国へ行くのは危険なのかと思っていたが、ライノさんの言い方だとそこまでなのかもしれない。
そんなことを考えていると、ライノさんが書類を取り出しながら俺に質問してくる。
「ところでエドは文字が読めるかい?」
「読み書きは教わっているので大半の文章なら読めると思います」
「そうか。ならこれがギルド全体の規約と、アルバトロスギルドの決まりだ。難しい言葉は使わないようにしてあるから大体読めると思う」
ライノさんはそう言って取り出した書類を俺に手渡してくる。
俺は渡された書類を読んでいくと、ギルド全体の規約は大雑把な範囲で書かれており、逆にアルバトロスギルドの決まりは細かく書いてある。
「ギルド全体の規約を違反すると罰則があるのは分かりますが、アルバトロスギルドの決まりを破るとどうなるんですか?」
「故意でなければ注意して、故意に何度も破るようだとアルバトロスギルドから出禁だ。ちなみにギルド全体の違反はギルドから追放だから注意してくれ」
「出禁に、追放なんですか。分かりました注意します」
「アルバトロス以外のギルドに行ったらギルドの決まりを見せて欲しいと言えば、見せてくれるので覚えておくといい」
「分かりました」
そんな話をしているとギルド証であろうものを持った人が入ってきて、物をライノさんに渡している。ライノさんは渡された物を俺とドリーの前に置く。
「これがギルド証だ。薬師組合とそう変わらない」
「本当ですね。でも紋章が二個入っている」
「それはギルド全体の紋章と、アルバトロスギルドの紋章で、登録した場所がわかるようになっている」
「なるほど」
「ギルド証に書いてある名前が合っているか、確認してくれ」
俺は薬師組合と同じように自分の分を確認した後に、ドリーと交換してドリーの分も確認すると問題なさそうだ。
「問題ありません」
「よしなら登録は終了だ」
「「ありがとうございます」」
「何か他に用事はあるか?」
聞きたいことが他にあったか考えていると、ドリーがライノさんに話しかけ始める。
「あの…」
「なんだいドリー?」
「しっぽ、触らせてほしいの」
気づかなかったがライノさんには尻尾があったようだ。ドリーが静かだったのは尻尾に気を取られていたからだったのかと納得する。だが同時にライノさんが怒らないか心配になる。
「ははは、良いぞ触ってみるか」
「いいの!」
怒ることなく気前よくライノさんは許可してくれ、ドリーは喜んでライノさんの尻尾を触っている。
ドリーは満足するまで尻尾を触ったりライノさんの角を触らせてもらいながら話をした。結果ドリーはライノさんに気に入られたようだ。ドリーが満足すると協会に帰るためギルドを出るとライノさんは見送りまでしてくれた。
最後にケネスおじさんとライノさんは少しの間、俺とドリーに聞こえない音量で会話した。その後ライノさんはドリーに声をかける。
「ドリー、またギルドに来るんだぞ。待ってるぞ」
「うん、またねライノおじちゃん!」
随分と仲良くなった二人に俺は嬉しくなりながら、また来ますと言って魔法協会へと向かう。
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