貧民街の箝口令
フレッドとアンが来るのを待っていると、レオン様は仕事に戻ると部屋を出ていった。レオン様は忙しそうだ。
「レオン様、忙しそうですね」
「レオンは溜まっていた仕事がある上に、王家との連絡もありますから」
俺がベスと会った時にはレオン様はアルバトロスに居なかったので、結構長い期間アルバトロスを不在にしていたようだ。それは仕事が溜まって忙しいだろう。
誰かが入ってきたのでフレッドとアンかと思ったらリオだった。ベスがリオに問いかける。
「リオ、どうしましたの?」
「エドとドリーに改めてお礼と、今度はちゃんと名乗りたくて」
「分かりましたわ」
リオが俺とドリーの前にくる。
「改めまして、レナード・フォン・リングです。今まで通りリオと呼んでください。お母様を治してくれた事感謝しています」
「リオって呼んでも良いのかい?」
「ええ。皆は僕の事をリオと呼ぶので、そう呼んでください」
「では、リオ。ルーシー様の事は偶然が重なって助けられただけだから」
実際ドリーがダンジョンの中で飛んで移動していなければ宝箱は見つけられなかったし、アンが居なければ宝箱は取れなかっただろう。更には宝箱の中に薬草が入っていると言う偶然。
「偶然が重なっただけで魔法薬が作れるとは思えません。王都からお母様の為に付いてきた魔法使いたちも驚いていました」
「それはドリーのお陰かな。感覚で魔法薬を作れるのはドリーだけだ」
「感覚?」
どうやらその事は聞いていなかったようだ。
「ドリーは薬に関して天才的な才能があるんだ。今回の魔法薬も元々作り方を知っていた訳ではなく、ドリーが感覚的に作り出した物なんだ」
「そんな事できるんですか?」
できてしまっているのだから、できるとしか俺は言いようがない。だがジョーは違ったようで話をしてくれる。
「話に割り込んで悪いが、ワシが少し説明をするんじゃ」
「えっと?」
「失礼。ワシはジョゼフ、ジョーと呼んで欲しいぞ。レナード王子」
「ジョー、リオで問題ないですよ。それでジョー、説明とは?」
ジョーは良くリオに話しかけれるなと驚く。ジョーは気にした様子もなくリオと呼び、説明を始める。
「ではリオ。そもそもドリーは、苔が以前から何かで反応する事を知っていたんじゃ。ドリーは、魔法使いになって反応させるのに必要なのが魔力だと分かったんじゃろ」
「素材に魔力を宿らせられるのなら、魔法薬にしやすい訳ですか」
「そうじゃ。それをドリーは直感的に理解したんじゃろ」
ジョーの説明が分かりやすかったので納得する。ジョーの説明で合ってるかドリーに聞いてみる。
「ドリーそうなの?」
「そう!ジョーの話わかりやすかった!」
ドリーの回答にジョーは安堵している。
「自信満々に説明して間違っておらんくて良かったぞ」
「ジョーはどうしてドリーが考えたことが分かった訳?」
「ワシなりに作るならどうするか考えただけじゃ」
ジョーは出来た魔法薬を自分で作ろうと考えていたのか。流石だ。リオがドリーにお礼を言っている。
「ドリー、ありがとう」
「お母さん、治って良かったね!」
「うん」
ドリーがルーシー様を治療するのに頑張っていたのは、母親という存在を助けて欲しいと言われたからだったのかもしれない。
「休んで、ご飯たべれば元気になるの!」
「お母様にそういうよ」
リオは年齢以上に大人びているが、ドリーと喋っていると年相応に見える。リオとドリーが楽しそうに会話をしているのを見ていると、部屋に誰かが入ってくる。
「失礼致す。呼ばれた故参り申した」
「失礼します」
フレッドとアンが部屋に来たようだ。
「よく来ました。私はベアトリス・フォン・リング・メガロケロスです、トリスと呼ぶ事を許します」
「拙者、今はただのフレデリックと申す。フレッドと呼んで欲しいですな」
「アンです」
フレッドはいつも通りだが、アンは緊張した様子だ。
「フレッドにアン、薬草と薬は非常に助かりました」
「エド殿から無事に治ったと聞きましたが、今はどうですかな?」
「ルシル王太子妃殿下は良くなりました、フレッドは会ったことは?」
「やはり病気になり申したのはルシル殿下でしたか。助けられてよかったですな。拙者は、ルシル殿下にお会いした事はありませぬな」
「年齢的に考えると会ったことはありませんか」
「拙者が生まれた時にはリング王国に嫁いでいた筈ですな」
フレッドは同い年なので、十四年前にはルーシー様はリング王国に嫁いでいたようだ。
アンが覚悟を決めた様子で話し始めた。
「トリス様、お話ししたい事があります」
「なんでしょう?」
アンは自身の過去について話し始めた。俺も以前聞いた犯罪組織で盗賊まがいの事をやらされていたなどを。アンの話が終わった後にトリス様は知っていたと言う。
「アン、あなたの事は調べているので知っています。エリザベス商会で働いている人は身元を調べていますので」
「では何故私を雇ったのですか?」
「問題ないと判断したからです、判断した理由は…」
トリス様は迷った様子でリオに声をかけている。
「リオ、アルバトロスの貧民街について何か聞いていますか?」
「はい、お母様の代わりとして聞いています」
「リオのような年齢に聞かせる事ではないのですが、分かりました」
トリス様は説明する気になったようで話し始めた。
「貧民街の犯罪組織ですが、セオドアや貧民街出身の冒険者が説得しても話を聞かないので、エマとエレンが出向いたのですが、何故か戦闘になったらしいのです」
「何故、エマ師匠とエレンさんが出向いたのです?」
「治療をしてくれる魔法使いは貧民街でも数は少ないですが活動しているため、普通であれば話を聞いて戦闘を避ける存在なのです」
治療をするのは魔法使いの裁量に任されている部分なので、貧民街で活動している魔法使いもいるだろう。エマ師匠も頼まれたら断らない気がするし。
そう言えば貧民街にベスを連れて行ったのも協会の馬車だった、あれも安全の為だったのか。
「それなのにエマとエレンは戦闘になりましたが、冒険者の助力もあり簡単に犯罪組織の人間を捕まえました。流石にエマとエレンも違和感があったそうで調べたところ、犯罪組織の人間も二通り居ました。戦闘に参加した者と、そうでない逃げようとした者」
「仲間を見捨てて逃げようとしたんですか?」
「そうです。逃げた者に話を聞いたところ、戦闘に参加した者は他国の間諜だったのです」
「え!」
「どうやら魔法使いを排除している国が送り込んでいたようです。なので魔法使いに攻撃的だったと」
魔法使いを排除している国は近くには無いと言っていた気がするが、間諜がいたとは。
「かなり攻撃的な気質のようで、魔法使いだと分かれば攻撃してきました。しかし、アンはそのような言動はありません。それにアンのような子供が多くいたようでエマが怒ったらしく、エレンと共に魔法を使ったようです」
「あの空き地は、エマ師匠とエレンさんの魔法だったんですか」
「はい。必要な情報や物は冒険者とセオドアが回収してきましたが、建物の強度がなかったのもあり全壊しました」
エマ師匠とエレンさんどんな魔法を使ったんだ…
「子供は保護して様子を見ていますが、間諜は一部入り込んでいただけなので、子供達に洗脳などはしていなかったようです」
トリス様の説明で、以前ライノに箝口令が出ていると言われたが、間諜が入り込んでいたからだったのか。
「アンの身元はしっかり調べています。なのでアンが自己嫌悪する必要はありません」
「はい」
トリス様の説明を静かに聞いていたアンは、トリス様の言葉に小さく返事をした。俺はアンが居なかったら今回の薬を作れなかったと話す。
「アンが居なければ宝箱は取れなかったから、今回の薬もできなかったよ」
「アン凄いんだよ!すいすい登るの!」
ドリーの言う通りアンの壁登りはすごい。
「トカゲ系でヤモリの獣人でしたか」
「はい、垂直の壁でも登れます」
「私もあまり聞いたことのない能力ですね」
トリス様でもアンの能力は珍しいようだ、アンのような人が珍しくないほど居たら驚きだが違うようだ。
トリス様が改めて貧民街の話について注意してくる。
「貧民街の話は間諜の問題もあり箝口令が敷かれています。誰かに話す事はないと思いますが、話さないように」
「分かりました。ところで間諜の問題はどうなるんですか?」
「相手の国が遠いこともあって、今回の事で戦争になる可能性は低いのですが、抗議はせねばならないです。辺境伯としては国と共同で動く予定です」
随分と大きな問題になってしまっているようだ、レオン様が忙しそうにしていたのは間諜の問題もありそうだ。
トリス様はフレッドに話しかけている。
「ところでフレッドはアルバトロスに滞在を続けますか?」
「問題なければ、このまま定住しようと考えておりますな」
「そうですか。リング王国ではツヴィ王国の魔法使いを保護しているので、必要な物を支援します。何か必要は?」
「協会に住まわせて貰えれば拙者は問題ありませぬ」
「分かりました。必要な物があれば用意しますのでいつでも相談してください」
「感謝致す」
必要な物で思い出したが、薬の報酬が決まっていないんだった。
「フレッド、アン、薬の報酬なんだけどお金か欲しい物らしいんだ。俺もまだ決めてないんだけど考えておいて」
「言い忘れていましたね。エドの言う通り金額は決まっていませんが、王家が出す報酬ですから期待していいですよ」
トリス様が期待して良いと言うのは多すぎそうで逆に怖い。
「了解致した」「分かりました」
トリス様がお願いをする。
「フレッドお願いがあるのだけれど、ベスに魔法を見せてあげてくれないかしら」
「拙者のですか?」
「ええ。ベスが、もう少しで覚えそうだった魔法ですから」
「リング王国の魔法使いがツヴィ王国の魔法をですかな?」
「お母様どういう事ですの!」
ベスはあのまま行くとツヴィ王国の魔法を覚えていたのを知らなかったらしい。なのでフレッドも驚いているが、ベスの方がもっと驚いている。
「体を鍛えることで覚える魔法があるのですよベス」
「そんな事聞いておりませんわ!」
「教えたら覚えると言われそうで、言っていませんでした」
「覚えるつもりはありませんわ!」
「「え?」」
ベスの予想外の反応に、俺とトリス様が驚く。
「お母様、エド、私はお父様を目指していると言っていましたわ」
「レオン様を知らなかったのもあるけど、近づけるなら魔法とか関係ないかなって」
「ベス、私もそう思っておりました。手段は選ばないと」
「選びますわ!」
どうやらベスにも何か拘りがあるようだ。
「ベス、一先ずフレッドに魔法を見せて貰いましょう」
「お母様、分かりましたわ」
トリス様はベスに魔法を見せることを優先したようで、フレッドが魔法を使っても問題ない場所に皆で移動する。
「エド殿少し付き合ってくれませぬか」
「分かった」
俺もツヴィ王国の魔法を使ってフレッドと演舞のような動きをするがフレッドについて行けない。
「エド殿、随分と上達しましたな」
「全然フレッドについて行けなかったけど?」
「体が吹っ飛ばないだけで十分ですな」
確かにダンジョンでは壁に突っ込んでいたから多少は上達しているのか?
「ベスどうでしたか」
「面白そうではありますが、私が求めている物ではありませんわ」
「そうだったのですか…」
トリス様がベスを見ながら驚愕している。俺も驚きだ。
「説明していれば魔法を普通に覚えていてくれたとは。ベスがツヴィ王国に嫁がねばならないかと思っていました」
「私がツヴィ王国に?」
「そうです。今見たのはツヴィ王国の魔法ですから、嫁ぎ先の候補がツヴィ王国となりますよ。ベスなら王妃もあり得ます」
「もう少しで私は、ツヴィ王国に嫁いでいたかも知れなかったのですの! 危なかったですわ!」
ベスは王女でもあると先ほど聞いたし、相手が王族でも不思議ではないな。
フレッドがベスに、簡単にツヴィ王国の魔法は覚える物ではないと説明する。
「失礼。体を鍛えるだけでは普通覚えられる物ではないので、ダンジョンに行かないとツヴィ王国の魔法使いにはなりませんな」
「ダンジョンに行く? あ、危なかったですわ!」
やはりベスは屋敷を抜け出してでダンジョンに行こうとしていたんだろう、慌てている。
「ところでベスならツヴィ王国の魔法覚えられそうな気がするんだけど、どうする?」
「覚えませんわ!」
「いえ、覚えておきなさい」
何となく俺はベスならツヴィ王国の魔法を覚えられそうなので尋ねると、ベスが否定すると即座にトリス様が否定した。
「お母様、私はツヴィ王国に嫁ぐつもりはありませんわ」
「リング王国の魔法を覚えているのだから嫁ぐ必要はありません、ベス自身の安全のために覚えておきなさい」
「嫁がなくても良いのなら、エドも覚えているようですし良いですわ」
「ドリーも使えるよ!」
「あら、ドリーも使えますの?」
「うん!」
「なら覚えますわ」
ドリーも使えるとの事で、ベスはやる気になったようだ。
修正 貧困街→貧民街 造語を作ってしまっていました。確認したつもりですが残ってたら申し訳ないです。
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