薬師組合
早く寝たが、久しぶりに安全な場所だったからか、熟睡していつもより少し長めに寝ていたようだ。先に起きていた様子の猟師のケネスおじさんが、朝の挨拶をしてくる。
「起きたか。おはよう」
「うん、おはよう」
昨日、寝る前に師匠が用意しておいてくれた水で顔を洗って目を覚ます。
「よく寝た。ドリーはまだ寝てるんだね」
「疲れてるんだろう、もう少し寝かせておこう」
「わかった」
ドリーが起きるまで服を縫っていると、部屋をノックする音が聞こえ確認する。すると外にエマ師匠が立っている。
「エド、おはよう。寝れましたか?」
「はい。ぐっすりと」
「それは良かった。部屋に入っても?」
「勿論、どうぞ」
エマ師匠が部屋に入ると、ドリーも起きたのかベッドの上で動いている。
「エマししょー?」
「はい、エマ師匠よ。ドリー、おはよう」
「おはようございまふ」
寝ぼけたドリーがエマ師匠には面白かったのか、エマ師匠は笑いながらドリーと会話をしている。俺はドリーに顔を洗うように促す。
「ドリー、顔を洗って目を覚そう」
「にーちゃ、わかった」
そう言うとドリーは顔を洗うと目が覚めた様子だ。そんなドリーを見たからかエマ師匠は朝食に誘ってくる。
「それじゃ、朝食に行きましょう」
「「はい」」
俺とドリーは返事をして、ケネスおじさんは頷いている。
食堂に着くと俺たちは食事を貰って、空いている席に着いて食べ始める。
「エド、今日の予定だけど」
「魔法の訓練は今日からなんでしたっけ?」
「そのつもりだけど。杖を頼んだ人がどうせ寝てるから、早くても午後になると思うの」
「分かりました。午前中は自由にしていて問題ないですか?」
「薬師組合と冒険者ギルドに行ってらっしゃい。時間がかかるようなら、今日は魔法の訓練は無しでも問題ないから」
「良いんですか?」
「ええ。一日遅れた程度問題ないから」
「分かりました」
薬師組合と冒険者ギルドどちらを先に行こうか迷って、エマ師匠に聞いてみる。
「薬師組合と冒険者ギルド、先に行くならどちらですかね?」
「薬師組合ね。冒険者ギルドは早朝は依頼を受ける人で凄いことになってるわ」
「分かりました」
エマ師匠はそんなことまでよく知っているなと思いながら食事を終えると、皆で部屋に帰る途中にエマ師匠の部屋を教えられる。
「ここが私の部屋だから、用事が有ったら訪ねてきて」
「はい」
「今日、私は断れない用事があるから付いて行けないの。エドたちが外から戻ったら、部屋に一度声をかけてみて頂戴」
「分かりました」
エマ師匠に薬師組合の場所と、冒険者ギルドの場所を教えてもらって別れる。部屋に戻ると外に出る準備をして、三人で協会を出て、まずは薬師組合に歩いて向かう事に。エマ師匠に教えて貰った薬師組合の建物に着くと、薬師組合を見上げる。
「此処が薬師組合か。協会ほどは大きくないけど、周囲の建物に比べたら大きいし、倉庫みたいな建物だね」
「そうだな」
薬師組合の中に入ると受付はあるが、中は外から見た通り倉庫に近い建物だった。中を見回した後に受付の人に話しかける。
「すみません」
「はい、何か御用でしょうか」
「薬師組合に登録したくて、免状はあるんですが」
「はい、登録ですね。免状を書いたのはアルバトロスの薬師ですか?」
「アルバトロスの薬師ではないんですが。無理ですか?」
「登録することは可能ですが、免状を確認する必要があるので、少々お時間がかかることになります。問題ありませんか?」
免状ですぐ登録できるかと思ったら違うようで、時間がかかりそうだ。時間はエマ師匠から気にしなくて良いと言われたので、問題ないのでお願いする。
「時間は問題ないので調べてもらえますか?」
「分かりました。担当を変わるので少々お待ちください」
そう言うと受付の人は別の人を呼びに行った。受付の人は、すぐに人を連れて戻ってくる。
「薬師組合のグレゴリーが対応させて頂きます」
「グレゴリーさんお願いします。エドワードと言います」
「エドワードさん、よろしくお願いします。まずは免状をお見せいただいでも」
グレゴリーさんに言われた通りに俺とドリーの分の免状を差し出すと、免状を確認し始める。
「書式は合ってますし、アルバトロスで薬師をするのが許可されている一門ですね」
「良かった。組合に入れますかね?」
「アルバトロスの薬師であればすぐに入れるのですが、違う場合は名簿で確認しないとダメな規則なんです」
「教えてくれたオジジがアルバトロスで組合員になってないとダメと言うことですか?」
「いえ。薬師たちは一門の名前を集めて、名簿として所属制限をしている都市の組合に回しているので、回ってきた名簿で名前を確認します」
薬師たちは名簿を回すなんて大変なことをしてるとは驚きだ。同時にオジジが名簿にあるか気になる、俺が知ってる限りオジジが村から出たことがない。
「教えてもらったオジジは結構な年で、俺の知る限り十年以上村を出たことがないんですが、オジジの名前は名簿にありますかね?」
「若い人より年長者の方が名簿に載っている可能性は高いです。名簿が回ってくるのは数年に一度ですし、抜けが多いので」
「なるほど」
「もし名簿に名前がない場合でも時間はかかりますが、実地試験としてアルバトロスに住んでいる同門の薬師に試験官を頼んで、試験に合格すれば組合員になれます」
「そうなんですね。少し安心しました」
「それでは私は名簿を確認してきますので、別室にてお待ちください」
「分かりました。お願いします」
俺たちを別室に案内した後、グレゴリーさんは名簿があるであろう場所に移動していった。
「ワシも知らんかったが、薬師はしっかりしておるんじゃな」
「そうだね、もっと適当かと思ってた」
「そういえば、オジジが旅の薬師の一部は村から追い出しておったな」
「そんな事あったんだ」
「かなり前の事で、エドが生まれる前だったかもしれん。ターブ村は薬師の居る村として有名だから旅の薬師は滅多に来ない」
「確かに。俺も行商は来てたのは覚えてるけど、薬師は見た事ないかも」
行商が仕入れた薬を売っているのは見たことがあるが、旅の薬師が村に来た記憶はない。
そんな話をしながら待っていると、結構な時間が経った後にグレゴリーさんが戻ってくる。
「お待たせしました。名簿の確認が終わりました」
「オジジの名前は見つかりましたか?」
「免状に書いてあったバートン殿の名前と、村名が記載された物が見つかりました」
いつもオジジと呼んでいためバートンと言われて誰かと思ったが、オジジの名前はバートンだったと思い出す。
「と言うことは、薬師組合の組合員になれるんですか?」
「もう少し聞くことがありまして、後少しだけ質問をさせて頂きます」
「分かりました」
「ところで確認したいのですが、免状が二枚ありますが…」
免状に書かれている名前が男性の名前と女性の名前なので、女性はドリーしか居ないのでグレゴリーさんは困惑した様子でドリーを見る。
「ドリーは幼すぎますか?」
「薬師組合に年齢制限はありませんが、滅多にないことなので、出来れば話せる範囲で事情を教えて頂けますか?」
俺は悲しそうなドリーの顔を見た後に、ケネスおじさんを見ると頷いているので、グレゴリーさんに事情を話すことにする。
「グレゴリーさん、なるべくで良いので話す事を秘密にしておいてくれませんか」
「無理に聞き出そうとするのです。可能な限り秘密にしますとも」
「では…」
俺とドリーがターブ村でどう暮らしていたか、村の掟で追い出されアルバトロスまで旅をして来たこと、魔法協会員になって出身がアルバトロスになっていることなどを話す。するとグレゴリーさんは頷き話しかけてくる。
「そうですか。大変でしたね」
「協会で登録した出身地がアルバトロスになっているので、秘密にしておいて欲しいのです」
「分かりました」
グレゴリーさんは了承してくれ、俺は安堵する。俺はドリーが組合員になれるか聞いてみる。
「それで、ドリーは組合員になれますか?」
「理由も聞けましたし、協会員ということは魔法使いなので、組合員になるのは可能です」
グレゴリーさんの言い方だと、思った以上に魔法使いであることは有利に働くようだ。
「ドリー良かったな。一緒に組合に入れるぞ」
「やったー!」
先ほどまで不安そうにしていたドリーは一転して喜んでいる。そんなドリーを見ていると、グレゴリーさんが話しかけてくる。
「それでは、薬師としての知識を確認しますので、一人ずつ別室で質問に答えて頂きたいです」
一人ずつとなると、俺とドリーが離れることになるので、俺は心配してドリーを見るが、ドリーはやる気を出している。
「ドリー、先にやる」
離れたくないと言われるかと不安に思っていたが、そうではないようなので先に行かせる。
「グレゴリーさん、ドリーを先でお願いします」
「分かりました。ドリーさんついて来てください」
グレゴリーさんの案内でドリーは付いて行って、少しすると帰ってきて元気に俺に抱きついてくる。
「どうだったドリー?」
「んー、質問されたこと言わないでだって」
確かに、ドリーが言う通り次に聞かれるのは俺なのだから当然だろう。
「分かった。後で話そうな」
「うん!」
ドリーが離れるとグレゴリーさんに案内されて別室に移り、薬師として基礎的な事を聞かれて終わり元の部屋に戻る。
「以上で組合員になるための確認が終わりました」
「ありがとうございます。結果はどうなんでしょうか」
「二人とも合格です。薬師組合へようこそ」
簡単な質問だったので問題ないとは思っていたが、アルバトロスに来た経緯が心配だったので安堵する。
「良かった。これからよろしくお願いします」
「よろしくおねがいしまふ」
俺の真似をしたドリーが面白かったのか、グレゴリーさんは笑顔で返事をしてくれる。
「はい、よろしくお願いします」
「はい!」
ドリーの元気のいい返事に皆で笑顔になった後、グレゴリーさんが手続きについて話し始める。
「それでは組合証を作ります。組合証の名前ですが、免状にあるエドワード様とドロシー様で間違いありませんか?」
「「はい」」
「出身地については、協会と同じようにアルバトロスにしておきます」
協会の時も思ったが出身地を偽装するのに抵抗がないようだが、問題ないのだろうか?
「出身地って、そんなに簡単に変えていいんですか?」
「良いか悪いかで言うと、あまり良くないです。ですが出身地が分からないと、誤魔化す人は結構居ますから」
「そうなんですか?」
「リング王国は移動の制限がほぼないですが、国内でも一部制限がかかってる場所があって、逃げ出して来た人や、港町なので他国からの人はどうしても出身が曖昧になります」
移動の制限があるとは思っても居なかった。村が制限された場所だったらどうなって居たのだろうかと怖くなる、グレゴリーさんは話を続ける。
「もし他国に行くようなら、移動に制限がかかっている場所もありますので注意してください」
「分かりました。リング王国は気にしなくてもいいんですか?」
「大半の地域は問題ないですが、自治権を持っている地域だと制限がかかっている場合があるので、事前に調べてから移動することをお勧めします」
「そうなんですか。移動するときは調べてから行くようにします」
「薬師は移動してる人も多いので、受付や私に聞いていただければ分かる範囲で答えられますので、必要があれば聞いてください」
「その時は頼らせて貰います。よろしくお願いします」
「はい。では、二人の組合証を作るのを頼んできます」
そう言うとグレゴリーさんは席を離れたが、すぐ戻ってくる。
「頼んできたので、出来上がったら持って来てくれます」
「はい」
「それまで薬師組合について説明します」
「お願いします」
グレゴリーさんは薬草を売買している事や、作った薬を代理で売ったり、大量に必要な薬を依頼として出していることを細かく説明してくれ。
「よく使われる組合の仕組みは説明しましたが、冒険者ギルドに二人は入る予定はありますか?」
「この後、登録しに行こうと思っていました」
「それならダンジョンでの薬草が生えている位置なども共有されているので、必要があれば聞きに来てください」
「そんな事をしたら取り合いになるのでは?」
「ダンジョンは薬草を取り尽くしても、一定時間経つと成長した状態で薬草が生えてくるのです」
「そんなことが?」
「はい、ダンジョン用語でリスポーンと言います」
以前から思っていたが地球であった用語が時々出てきて戸惑う。だがそう言う物だと思っておく。
「生えている位置に行けば、誰かに採取されてない限りは取れる、と言う事ですか」
「その通りです。浅い場所だと薬師もそれなりの人数が活動しており、更に冒険者ギルドも採取しているので取り合いになりますが」
「運が良ければ採取できると思っておいた方がいいんですね」
「さようです。ダンジョンで注意して欲しい事がありまして、薬草と同じように魔物もリスポーンします」
「分かりました。注意します」
そう返事をしたところで人が入ってきて、グレゴリーさんに物を渡すとすぐに出て行った。
グレゴリーさんは受け取ったものを確認した後に、それを俺とドリーの前に差し出す。
「これが組合証になります。受け取りください」
受け取って確認するとドッグタグのようなもので、俺の名前と紋章のようなものが書き込まれている。グレゴリーさんは続けて書き込まれた名前が間違っていないか確認してくる。
「名前に間違いはないでしょうか」
「合ってます」
「ドロシーってあるよ」
ドリーは読み書きはしっかりできているので確認する必要はないと思ったが、俺のを見せてドリーのも見せて欲しいとお願いして確認すると、問題はないようだ。
「問題ないようですね。書かれている紋章はアルバトロス薬師組合の紋章です」
「そうなんですね」
「組合証は紐を通して首に下げておくことをお勧めします。ちなみに紋章は組合の入り口などにも複数あるので、気になったら探してみてください」
協会の鍵を下げている紐に、組合証も一緒にして首から下げる。ドリーも同じように協会の鍵と、組合証を一緒にしてやる。ドリーは組合証をじっと見ている。
俺とドリーが組合証を首に下げ終えると、グレゴリーさんは俺たちの免状を返してくれた。
「薬師の一門へはこちらで連絡しておきますので、安心してください」
「ありがとうございます」
「業務なのでお気になさらず。ちなみに今日はこれから用事がありますか?」
「冒険者ギルドへ登録しに行こうと思っています」
「そうですか、時間があるようなら組合内を案内しようと思いましたが。また時間がある時に声をかけてください案内しますので」
「ありがとうございます。今度また来ます」
そう言うとグレゴリーさんは組合の入り口まで案内してくれ、皆でお礼を言って別れる。組合を出るとドリーが突然声をあげる。
「あった!」
ドリーが指を差している方を見ると、組合の入り口の上に紋章が有った。
「気付かなかった、こんな所に紋章が有ったんだ。ドリーよく気づいたね」
「きになって探してたの」
ドリーは、グレゴリーさんに紋章が色々な場所にあると言われて、気になって探していたようだ。
「グレゴリーさんの言い方だと一個だけじゃないみたいだから、また探しにこような」
「うん!」
ドリーの元気な返事を聞いた後に冒険者ギルドへと歩き出す。
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