他国の魔法使い
貧民街での炊き出しのご飯を配り始めたので、手伝いをしながらアンに言われた人物が来るのを待っていると、明らかに不審な人が現れる。自分と同年代くらいの黒髪の男が、何かの肉を持って炊き出しに近づいてくるのだ。
「アレかな?」
「アレでしょうね」
「そうです。あの方です」
俺とセオさんが言葉で確認をしただけなのにアンは正解だと言う。
「分かりやすいな」
「ですね」
アンは何も言わないで苦笑している。
「アン殿、今日も肉を持って来たので是非貰って欲しいですな」
「フレッドさん、ありがとうございます」
「拙者が食べるのに何も払わないのは気になるのでな。なのでお気になさる必要はありませぬ」
フレッドと呼ばれた人はアンに肉を渡すと炊き出しを貰いに行こうとするので、慌ててセオさんが呼び止める。
「すみません、少し話を良いですか」
「拙者ですかな?」
「はい、肉を貰っている様でお礼をしたく」
「あなたが拙者にお礼をする必要はないのでは?」
「失礼、私は炊き出しを企画したセオドアと言います」
「おお、それは失礼した。拙者、フレデリックと申す。こちらこそ助かっているので肉についてはお礼は必要ありませぬ」
「それでは、お話だけでもできませんか?」
「ならば先に食事を取ってきても構いませぬか?」
「ええ、構いません」
「腹が減ってしまってな。では失礼致す」
悪い人では無さそうだが、非常に個性的な人のようだ。俺はセオさんとの会話に参加することも出来ずに驚いていただけだった。
少しするとフレデリックさんが戻ってきた。
「失礼、改めて拙者はフレデリックと申す。フレッドと呼んでほしい」
「セオドアと言います。セオとでも好きに呼んでください」
「では、セオ殿と」
セオさんとフレデリックさんが挨拶を済ませると、セオさんが俺も紹介してくれた。
「こちらは私と炊き出しを共同で企画した、エドワードさんとドロシーさんです」
「エドワードです、フレデリックさんエドと呼んでください」
「エド殿、フレッドで問題ありませんぞ」
「ではフレッドもエドで。年齢も近い様だし」
「拙者が殿と呼ぶのは習慣でしてな。簡単には直せないので、申し訳ないですがエド殿と呼ばせて欲しいですな」
変わった喋り方をするし、不思議な習慣があるようだ、殿とは今まで聞いたことのない呼び方だ。
「フレッド、分かったよ気にしないから好きな方で呼んでくれ」
「感謝致す」
「ドリーは、ドロシーっていうの!」
「よろしくドリー殿」
「よろしくフレッド!」
挨拶が済んだところで、俺はフレッドに聞きたかったことを聞く。
「ところでフレッド、聞きたいことがあるんだけど」
「拙者にですかな? 答えられることなら答えますが、何でしょうな?」
「フレッドって魔法使いだよね?」
「ああ、おっしゃる通り魔法使いですな。そういうエド殿とドリー殿も魔法使いですな」
フレッドが来た時はすぐに魔法使いだと分からなかったが、近づいて見ているとトリス様のように魔力を誤魔化しているようだと気付いた。
フレッドを協会で見たことがないし、協会に出入りしている魔法使いとも雰囲気が違うので、本当に魔法使いか怪しかったが魔法使いだったようだ。
「「えっ!」」
セオさんがフレッドが魔法使いだと驚くのは分かるが、どうやらアンも魔法使いだと知らなかったらしく驚いている。アンはフレッドに慌てて確認をしている。
「フレッドは魔法使いだったのですか!」
「そうですな、アン殿に言っておらなんだか?」
「聞いてません」
「それはアン殿申し訳ない、忘れており申した」
何故かフレッドはアンに素直に謝っている。
俺はフレッドを協会で見たことがないので、出入りしているのか聞いてみる事にした。
「フレッドって魔法協会で見たことがないけど、偶然会ったことがないだけ?」
「拙者は、協会に出入りしておらぬ」
「え、なんで?」
「拙者はツヴィ王国から来たので場所が分かりませぬ」
「え?」
どうやらフレッドはリング王国の魔法使いではないらしい。
勉強で教えられたツヴィ王国は、リング王国と双子の王国と言われるくらい仲がいい国らしく、言語などは似ていると習ったが、意味は分かるがフレッドの喋り方は独特だ。
しかし協会の場所は聞けば教えて貰えそうだが、フレッドは誰にも聞かないでこのまま貧民街に居そうなので、心配になって案内がいるか聞いてみる。
「フレッド、協会へ案内しようか?」
「おお、エド殿頼めるか」
「勿論。ただ、炊き出しが忙しそうだし、手伝いが終わったらで良いかい?」
「拙者は問題ない、感謝致す」
思ったより炊き出しが忙しそうだし、フレッドも問題ないと言ってくれたので、俺たちは手伝ってから帰る事にする。結局フレッドも一緒に手伝ってくれて炊き出しは無事に終わった。
「凄かったね。アン、いつもこうなの?」
「いえ、今日は人数が多かった気がします」
「何でだろ?」
セオさんが俺の疑問に答えてくれる。
「多分ですが、協会の馬車が理由かと。魔法使いが居るので安全な場所だと認識されたのかもしれません」
「そんなに効果があるんですか、この馬車」
「馬車と言うかエドさん、ドリーさん、そしてフレッドさんが、結構大きな声で魔法使いだと言っていましたし」
そういや結構大きな声で喋っていた気もする。馬車もだが本当に魔法使いが居るのが重要なのか。
「アン、今日のように人数が多いなら人が足りませんね」
「そうですね、手伝って貰ってなんとか終わりましたから」
「人数を増やした方が良いですが当てはありますか?」
「ポンチョを作るのを頼んでいる人に聞いてみます」
「分かりました。お金は心配しないでください、足りなくなるでしょうから足しておきます」
「ありがとう御座います」
セオさんとアンの会話で俺は聞いていなかったが、どうやらポンチョの制作も進んでいるらしい。
お金は俺にも驚くほど入って来ているので、貧民街が目的で商会を作ったのだし好きに使って欲しい。
セオさんは他にもアンと相談した後に俺たちに声をかけてくる。
「お待たせしました、エドさん、ドリーさん、フレッドさん」
「セオさん、気にしないで下さい」
「こちらは帰れますが、エドさんは?」
「帰れます。セオさん、帰りましょう」
協会に帰る前に、セオさんをエリザベス商会に先に送る。道中でポンチョについて聞くと、まだ始まったばかりで製品にはなっていないが、もう少し練習すれば他の店へと卸せそうだと言う。
「バーバラさんの知り合いや、長期で雇った元冒険者の知り合いの伝手で、何人か雇う事になりそうです」
「なるほど」
セオさんのポンチョでの説明で気になったのが、元冒険者と言ったことだ。
「元冒険者って、今は違うんですか?」
「ギルド員を辞めたわけではないので現役ですが、商会の従業員をしているので、ほぼ冒険者としては活動していないので元冒険者ですかね」
「確かに従業員で雇われてたら冒険者なんてする暇ないか」
「そうですね」
俺とセオさんの会話を聞いていたフレッドが感心した様子で聞いてくる。
「リング王国の魔法使いは、その様な事業までするのか」
「普通は協会で研究してるよ、俺たちが特殊なだけ」
フレッドに俺とドリーが、貴族の魔法使いと魔法の兄弟弟子で、色々巻き込まれて気付いたらこうなっていたと説明する。
「エド殿は大変ですな」
「セオさんにほぼお任せだし、そこまで大変ではないかな? それに楽しいよ、兄弟弟子とも仲が良いし」
「それは良いことですな」
エリザベス商会に到着してセオさんを降ろした後は、協会に戻る事にする。
エマ師匠が協会にいると良いのだが、居ないならエレンさんに相談するしかないかもしれない。
「フレッド、ここがアルバトロスの協会だよ」
「おお、感謝する」
協会内に入ってから気づくがフレッドは施設に入る魔道具を持っていない、受付で魔道具を貰いつつエマ師匠とエレンさんに連絡を取ってもらうと、二人とも居たようだ。先にエマ師匠が受付まで来てくれた。
「エド、どうしました?」
「エマ師匠すいません。実は魔法使いに出会って、協会の場所を知らないって言うから連れて来たんですが」
「魔法使いが協会の場所を知らない?」
「ツヴィ王国の魔法使いで、アルバトロスの協会が分からないと」
「「ツヴィ王国!」」
エマ師匠に話していたがエレンさんも来ていたらしく、俺がツヴィ王国と言うと驚いている。
「その魔法使いはエドと一緒にいる人ですか」
「そうです」
俺が紹介しようとするとフレッドは先に名乗る。
「拙者はフレデリックと申す、フレッドと呼んでほしいですな」
「治癒の魔法使いエマよ」
「エレンよ」
「エマ殿、エレン殿宜しく頼む」
エマ師匠とエレンさんは頭を抱えながら叫ぶ。
「「本物だ!」」
エマ師匠とエレンさんは受付に駆け寄るが、受付の人も慌てた様子だ。
「トニーに連絡を」
「今しました!」
エマ師匠が受付の人に連絡を頼むと、受付の人はもうしたと言う。
何でそんなに慌てているのだろうかと、俺は疑問に思う。
「エマ師匠なんでそんなに慌ててるんです?」
「それは…いえ、トニーが来てからにしましょう」
「えっと?」
エマ師匠は俺の質問に答える事なく、呼んだ人物が来てから話すらしい。
少し待っていると、大柄の男性が凄い速度で走りこんでくる。
「ツヴィ王国の魔法使いが居ると聞きましたが!」
「彼です、トニー」
「助かります! エマ殿!」
エマ師匠にトニーと呼ばれた人はフレッドに幾つか質問をし、確認が終わった後にエマ師匠にお礼を言っている。
「エマ殿、今回は本当に助かりました」
「確認はできましたか?」
「はい、ツヴィ王国の魔法使いです」
「そうですか」
「エマ殿は何処で彼と?」
「私ではなく、私の弟子が連れて来たのです」
エマ師匠に呼ばれて俺とドリーは紹介される。
「この二人が私の弟子です」
「エドワードと言います、エドと呼んで下さい」
「ドリーはドロシーなの!」
「エド殿とドリー殿ですか、私はアンソニーと言います。トニーと呼んで下さい」
「トニーさん宜しくお願いします」
「トニーさんよろしくなの!」
「エド殿、ドリー殿、今回は本当にありがとう御座いました」
何でそんなにフレッドを連れて来ただけで感謝をされるのかが謎だ。
「あの、何でフレッドを連れて来ただけでそんなに感謝されるんですか」
「もしや、二人はまだツヴィ王国の魔法使いを知りませんか?」
「はい」「うん」
「そうですか、ツヴィ王国の魔法使いは、リング王国の魔法使いとは少々違うのです」
「違うとは?」
「魔法の使い方から、習慣までですね」
「どう違うんですか?」
俺の重ねての質問にトニーさんは迷った様子で考えた後に。
「感謝した理由の習慣から話しましょう」
「お願いします」
「ツヴィ王国の魔法使いは、特定の人だけ国を出て修行に行くという習慣がありまして。国を出て修行をする人の大半は、フレッド殿のような事になります」
「フレッドのような事とは?」
「当てもなく歩き続けるのです。簡単に言うと迷子です」
「迷子…」
「魔法使いなので、生きていくのも難しい環境でも生きていけてしまうので…」
確かに魔法を覚えた現状なら何処でも生きていける気はするが、文化的な生活は欲しくないのだろうか?
「生きては行けると思いますが、普通の生活はしたくないですか?」
「私もそうだったのですが、他国に修行に出るものは大半は事情があるのです。開放感というか破滅願望に近い精神状態が多く…」
「結構な事情があるんですか」
「はい」
今の話の流れで気付いたが、トニーさんもツヴィ王国の魔法使いらしい。
「トニーさんもツヴィ王国の魔法使いなんですか?」
「そうです、昔に私もアルバトロスの魔法使いに拾ってもらいまして、以降はアルバトロスの協会にお世話になっております」
「そうなんですか」
どうやらトニーさんもフレッドと同じように、アルバトロスの魔法使いに協会まで連れて来られたようだ。
「ところでエド殿とドリー殿はツヴィ王国の魔法使いを知らないということは、どのような魔法を使うかも知らないのですか?」
「知らないです」「しらない」
俺とドリーが知らないと答えるとトニーさんは教えてくれるようだ。
「では簡単に説明しますとツヴィ王国の魔法使いは魔力で肉体を強化します」
「「え?」」
「リング王国の魔法使いからすると疑問に思うでしょうが、我々は魔力を外に出さず体内に押し込むようにして肉体の強度を上げます」
「魔法ってそんな事が出来るんですか?」
「はい、魔力を押し込むのと、魔力を出すのとは、両方覚えるのは大半の人は不可能です」
「出来ないんですか?」
「私は、例外は数人見たことがありますが、基本はできないと思って頂ければ」
使いづらそうだが、俺がリング王国で魔法を覚えたからそう思うだけなのだろうか。
「外に出せないだけで、身体にまとわり付かせることはできるので、水などは確保できますよ」
「そうなんですか」
トニーさんとの会話に、フレッドが入ってくる。
「拙者はリング王国の魔法も使えますな、制御できる量は少ないがな」
「それは珍しいですね」
フレッドはどうやら両方使えるらしい、それを聞いたトニーさんは驚いている。
「使えると言っても、拙者はあまり使っておらぬが」
「私が知り合った使える人も大半がそうでしたね、中途半端だと」
「拙者もそうであるな」
便利そうだが意外とそうでもないようだ。しかし、ツヴィ王国の魔法とはどういう物かが気になる。
「あのツヴィ王国の魔法って見せて貰えませんか?」
「私で良ければ見せますよ」
「トニー殿、それなら拙者と組手をしてくれませぬか」
「フレッド殿、分かりました。ですがその前に、協会の寮にフレッド殿の部屋を用意するのと、アルバトロスの簡単な地図を渡します」
「感謝致す」
再び迷子にならない為なのだろうか、トニーさん、受付の人、エマ師匠、エレンさんでフレッドに色々教え込んでいる。
フレッド登場です、語尾が定まらず語尾が迷子になる子です。
語尾が定まらないので語尾を『ござる』にしてやろうかと思ったけど、ちょっと違うので方言というか古風ぽくしてます(なってるといいな)。
ツヴィ王国とリング王国はツヴィリングでドイツ語で双子です。ドイツ語かっこいいよねってノリで特に意味はないです。
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