難航する仲間探し
次の日何をするか迷っているとベスから手紙が来ており、やはり忙しいので暫くダンジョンへは行けそうにないとの連絡だった。
今日は屋敷に行くこともないので予定が空いてしまった、エマ師匠と合流して今日の予定をどうするか迷う。
昨日ダンジョンで狩った魔獣のことを思い出す、今日は魔道具作りも良いかもしれない。
「エマ師匠、ダンジョンで狩った魔獣が届いてたんですが、ジョーを朝に訪ねても問題ないですか?」
「ジョーは錬金流派にしては比較的まともな生活をしていますが、朝ではなく昼過ぎ以降の方がいいでしょう」
「分かりました」
そう言えば錬金流派は徹夜を繰り返す人が多いと、以前エマ師匠が言っていたのを思い出した。
それじゃ何をしようかと考えるが、昨日別れる前にベスから仲間を探しておいて欲しいと言われたのを思い出すが、正直仲間の当てがなさすぎて思いつかない。
ベスが貴族というのもあるし、俺とドリーはアルバトロスに来たばかりで知り合いがそう居ない、とりあえず冒険者ギルドのライノに相談してみるかな?
「今日はダンジョンに行かないで、ギルドに行ってライノに会って話をしてこようと思うんですが、エマ師匠はどうしますか?」
「私は協会から仕事を受けて治療をしてようと思っています」
「それならドリーはどうする? 俺でもエマ師匠とでも好きな方でいいよ」
「んー、にーちゃと行く! ライノに会いたいの!」
「分かった」
エマ師匠は治療をしに、ドリーは俺に付いてくる事になった。ドリーはライノがお気に入りで二人が会うと、ライノはドリーを肩車などをしてくれて楽しませてくれている。
「それでは、夕方までには協会に戻ろうと思います」
「分かりました。ジョーに会った後にドリーの大規模魔法の練習だけはやってしまいましょう」
「そう言えばドリーだけやってませんでしたね」
「ベスが先に試して良かったです。ベスの時間ができるのが昨日の屋敷からすると時間がかかりそうです」
「エマ師匠そう言えば言い忘れていたんですが、朝にベスから手紙が来て、忙しいので暫くはダンジョンに行けないと連絡が来ました」
「やはり時間がかかりそうですね。ベスが居ない間は時間があるでしょうから、ジョーに色々教えて貰うといいですよ」
「分かりました」
ジョーに教わる錬金流派は既に基礎ではなく、それに元々ベスは魔法薬や魔道具を作るのは興味がない。なので俺とドリーがジョーに錬金流派を教わっても、ベスとの進み具合が変わらないので勉強は錬金を重視しろという事だろう。ベスは作るのは興味がないが、武器防具自体は興味があるので何か出来上がったら見せよう。
エマ師匠と別れてギルドにドリーと共に行く事にする、ギルドまで歩いて行くか迷うが若干遠いので協会で馬車を借りて向かう。
ギルドに着いて中に入るとライノが丁度いたので声をかける。
「ライノ、今いいですか」
「エドか、問題ないぞ」
「ベスが家の事で忙しくなったから、仲間になってくれそうな人を探しているんだけど居ないかな?」
「つまり臨時ということか?」
「ごめん。言い方が悪かった、三人だと不安だからもう一人位増やしたいんだ」
「臨時ではなく組むのか、となると難しいな…」
「やっぱりベスが問題?」
予想はしていたがライノは難しそうな顔をしている、ベスの身分を考えると下手な人を入れれないし、組んでも問題ない人はもう違う人と組んでそうだ。
「それもあるが、エドたちは全員が魔法使いだからな」
「そう言われるとそうだけど魔法は使えなくても良いかな、前衛を探してるんだ」
「魔法が使えなくても、エドたちと釣り合いが取れるのが中々居ないぞ」
「やっぱりそうなんだ」
「というか前衛が足りないなんて、エドたちは何処まで進んだんだ?」
「ダンジョンの草原まで進んだよ」
「もうそこまで行ったか、魔法使いは凄いな」
ライノは俺たちが進んだ場所に驚いているが、草原でも冒険者は見かけたし珍しくなさそうだが?
「草原でも冒険者は結構見かけましたよ?」
「アルバトロスだと草原からが、冒険者として本当のダンジョンだな」
「本当のダンジョンですか?」
「そうだ。地図も無いし、複数で敵が出てくる事もある草原を迷子にならず歩けるようになれば、冒険者としては一人前だ」
「そう言えば草原は地図がなかったね」
「草原は地図を書こうとしても無理だろ」
「確かに」
そう考えるとダンジョンの草原は、他の冒険者はどうやって探索しているんだろうか?
「草原って他の冒険者はどうやって探索してるんです?」
「頑張って覚えるか、案内人を雇っている」
「案内人?」
「草原を案内する奴らだ。と言うか、エドは草原をどうやって探索したんだ?」
「猟師に近いことをしていた時と同じように、足跡とかの痕跡で探索しました」
「そう言えばケネスから猟師の技術を教わったと言っていたな」
「はい」
「ケネスも元々は案内人の副業みたいな事をしていて、私とは依頼でウシを狩りに行ったな」
どうやらケネスおじさんは、ライノがウシを狩る時に草原の案内役をしていたようだ。ケネスおじさんはダンジョンに居る時から、猟師のようなことが出来たようだ。
昨日の晩餐でセオさんから聞いて謎だった、他の冒険者が草原でウシを見つける方法は、案内人に頼む事だったのかと理解した。
ライノに俺たちもウシを狩った事を報告する。
「ウシなら俺も昨日狩りましたよ」
「何だと? 解体場から聞いてないぞ」
「ベスの家に全部お土産にって上げたので知らせなかったのかも?」
「なるほどな。在庫の肉は報告されるが、持って帰ったものまで報告はされんからな」
ライノはウシが狩られた事を知らなかった事情に納得した様子だが、困った顔で俺をみてくる。
「そうなると尚更仲間を見つけるのは難しいぞ」
「そうなの?」
「ウシを狩れるやつの仲間になるんだから実力がないと厳しいぞ」
「そうなんだ」
「そういう奴はもう誰かと組んでるからな」
「やっぱりそうなんだ」
「ああ」
やはり普通の冒険者は誰かと組んでいるようだ、そうなると俺たちと組める人は中々居ないようで困ってしまう。
俺はライノに見つけるのが難しいと言われて、どうしようかと思い悩んでしまう。その間ドリーがライノに肩車をされたり遊んで貰っている。
他に相談できる人となるとセオさんかと思うが、昨日の晩餐で話している時に居たので、組めそうな人がいるなら晩餐の時に言ってくれそうだ。だが他に当てもないので、とりあえずセオさんに会いに行ってみる事にする。
「決まったか?」
「とりあえずセオさんに会いに行ってみます」
「そうか、ではエド、ドリーまたな」
「ライノまたね!」
「ドリーまた来てくれ」
ライノと別れてセオさんに会いに行こうと思うが居る場所がわからない事に気づく、とりあえずエリザベス商会の建物へと向かう事にする。
エリザベス商会は既に営業しているので、従業員用の入り口から入って執務室に向かいセオさんが居るか中に入って確認をする。
幸いにセオさんは商会内に居たようで、セオさんから声を掛けてきた。
「エドさん、どうされましたか?」
「セオさん、実は昨日の晩餐でベスが仲間を探そうと言っていたと思いますが、覚えていますか?」
「そう言えば最後にそのような事を言っていましたね」
「それで仲間を探すのにライノに聞いてみたんですが、難しいと言われてしまって」
「確かに魔法使い三人で、しかも貴族となると難しいでしょうね」
前衛を探しているため俺はあまり意識していなかったが、セオさんもライノも魔法使い三人だと難しいと言うので、魔法使いであることが仲間を探すのに障害になりそうだ。
「しかもライノはウシを狩れるとなると、前衛の冒険者で空いてるのが居ないとも」
「なるほど。それで、ライノに居ないと言われて私に会いに来たと言うことは?」
「セオさんが仲間になりそうな人知らないかなと」
「それは流石に私でも無理ですね」
「ですよね」
ダメ元で来てみたがやはりダメだったようだ。
商会で雇った人がお茶を出してくれたので、ゆっくり飲んでいるとセオさんが予定を聞いてくる。
「エドさん、これから予定はありますか?」
「見つかる当てのない仲間を探すという目的くらいですけど」
「それなら数日前から貧民街で炊き出しが始まったので見に行きませんか?」
「炊き出しって、危なくないんですか?」
「どうやら脅しが効きすぎたようで、今のところは問題ありませんね」
本当にエマ師匠とエレンさんは何をしたのだろう。
安全とのことなので俺はドリーを連れて行こうかと思う。
「分かりました。ドリーを連れて行ってみます」
「エドさんは馬車で移動してきましたか?」
「協会の馬車で来ましたよ」
「では、協会の馬車で向かいましょう」
セオさんも同じ馬車に乗って、貧民街の炊き出し場所まで向かう事になった。
貧民街の中に入っていくと協会の馬車を見ると歩いている人が道を譲ってくれ、炊き出しの場所で馬車が止まると、炊き出しの周りにいた人が驚いた顔で見てくる。
馬車を降りて炊き出しに近づくと、バーバラさんの弟子アンが出迎えてくれる。
「セオドアさん、来たんですか」
「はい、エドさんとドリーさんを連れてですが」
「それで協会の馬車で来たんですか」
セオさんが協会の馬車かと聞いた理由が分かった、協会の馬車には協会の紋章が付いている為に何処の馬車かわかるのだ。
「セオさん、もしかして今回の目的は協会の馬車ですか?」
「効果覿面でしょ?」
「そうですけど、逆に炊き出しに人集まらなくなりません?」
「問題ないですよ」
「本当ですか?」
俺がセオさんを怪しんでいるとアンが説明してくれる。
「エドワード様、問題ないです。貧民街でも協会とやり合おうと思う人は普通居ませんし、協会の馬車を見て来なくなる人なら準備をする私たちは安全になりますから」
「なるほど?」
「エドさん普通は協会とやり合おうと思う人はいないんですよ、普通は」
アンの説明の後に付け足したセオさんの言い方で察する、普通じゃないのが貧民街に居たんだろうと。
「何となく察しました」
炊き出しに影響がないなら問題ないが、別のことが気になったアンは俺を様付けする必要ないと思うのだ。
「俺は呼び捨てで良いよアン、年齢も近いだろ?」
「ですが…」
「ドリーは、ドリーで!」
「えっと」
どうやらアンを困らせてしまったようだ、セオさんが助けてくれる。
「アン、エドさんとドリーさんに関しては様付けしなくても問題ありませんよ、魔法使いではありますが貴族ではありませんし」
「そうなんですか?」
「俺とドリーはちょっと前まで魔法使いでもなかったし」
「そうなんですか」
まだ迷った様子のアンに俺は友達になろうと声をかける。
「なら友達になろうよ、友達なら呼び捨てでも変じゃないだろ?」
「それなら…エド、ドリーよろしく」
アンも納得したようで、俺とドリーを呼び捨てにして呼んでくれる。
「しかし、エドとドリーは貴族ではなかったんですね」
「そうだよ。前会った時に俺たちと年齢が同じくらいのもう一人の女の子が居たと思うけど、彼女は貴族だけど街に出てる時は大半お忍びだから、作法とか気にしないと思うよ」
「彼女は貴族なのね。分かったわ」
ベスの性格を知らないので、アンは貴族というだけで注意しているようだ。
そう言えば、アンは俺と普通に会話をしているが炊き出しは良いのだろうか?
「アン、炊き出しは良いのかい?」
「まだ準備中なの」
「そう言うことか。手伝う事とかあったりする?」
「具材を切ったりする準備は終わってるから、今は煮込んでいるところね」
「そうなのか」
「見てみる?」
「お願いしようかな」
「じゃ、付いてきて」
炊き出しの食事を見るとパンと汁物だが、汁物の中に結構な量の肉が入っていてお腹が膨れそうだ。
「思ったより、食事としてお腹が膨れそうだね」
「本当ですね。アンお金は足りていますか?」
セオさんも確認していなかった事のようで驚いている、セオさんは慌ててアンにお金が足りているか確認している。
アンはセオさんの質問の意味を理解したようで聞き返してくる。
「汁物のお肉の事ですか?」
「「はい」」
俺とセオさんは疑問に思ったことが同じだったようで同時に返事をする、するとアンは事情を説明してくれる。
「このお肉は炊き出しに来た人からの貰い物なんです」
「貧民街でお肉の貰い物ですか?」
アンの回答にセオさんは疑問のようだ。
俺も疑問に思う炊き出しに来て肉を渡す? だが俺は自分の常識は怪しいと思っているのでセオさんに確認する。
「セオさん、やはり珍しいんですか?」
「貧民街でお肉を渡すような人は、普通は貧民街に住みませんよ」
「やっぱりそうですよね」
俺の常識は合っていたようだが、俺は肉を渡してきた人が謎でしかない。セオさんも同様のようで不審に思っているようだ。
俺とセオさんが不審に思っているのを察したのか、アンが理由を説明してくれる。
「私も変だと思って聞いたんですが、料理が下手なのだと」
「「料理が下手」」
料理が下手だから肉を渡すとか、そのまま売れば良いだけでは?
話を聞けば聞くほど疑問が増え続ける不思議な状態だ、だが肉を貰ったアンはそうでもないようで俺たちに提案してくる。
「今のところ毎日来てるので待ってみます?」
「「はい」」
アンの説明に納得できていない俺とセオさんは、アンの言う通りに待ってみる事にした。
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