ウシのお礼に晩餐
ダンジョンから馬車で移動して冒険者ギルドの解体場に着く、昼の早い時間のためか混んではいなかった。
テレサさんが解体場のギルド職員に解体を急いで欲しいものがあると頼む。職員は割増料金を払えば今なら解体を受けられるという、テレサさんは割増料金を払う事にしたようだ。
「それじゃ、全ての収納の魔道具を出してくれ」
ギルド職員に言われた通りに全ての魔道具を渡す。職員は収納の魔道具を、取り出す魔道具の上に、順番に乗せて取り出していく。職員に魔獣が出た時は凄いなと褒められ、ウシが出た時には驚かれた。
「これを狩ったのか。凄いな」
ウシは中々手に入ることがないと職員に教えられる。テレサさんが先に解体して欲しいのはウシだと言うと、職員は納得した様子だ。
「おたくらの格好を見ればなんとなくわかるが、これはギルドとしても売れれば高いんだ。だが狩った本人が欲しいと言うんだ分かったよ」
どうやら職員はテレサさんの格好が騎士なので、貴族関係であると職員は察したようだ。職員は別の職員を呼んで、ウシを先に解体するように依頼をした。
「それで、他はどうする」
「魔獣は素材にしたいので持ち帰ります。他は要らないので売って良いかな?」
「私は構いませんわ」
「なら引き取りでお願いします」
「魔獣を売らないと安くなってしまうが良いのかい?」
「はい」
職員の質問に俺が頷く、職員は俺の腕にある腕輪を見た様子で、それで職員は納得したのか。
「君らも魔法使いか。なら持って帰った方が良いな」
「よく腕輪だけで分かりますね」
「魔法使い以外で腕輪を付けてるやつも居るが、装飾品の腕輪と魔法使いの腕輪は全然見た目が違うから分かるんだよ」
「なるほど」
「魔法使いなら解体した魔獣を魔法協会に直接運び込める。どうする?」
「なら魔獣はお願いします。俺の名前と部屋は…」
俺は名前と部屋番号を伝えて魔獣を届けてもらう事にする。
「分かった、後は届けておく。ウシは少し待ってくれ、大きいから時間がかかる」
「分かりました」
昼食を食べていなかったのでどこかでと思ったが、解体場でもご飯を売っていた。売っている物を見て回る。売っている物はモツを使った料理が多く、燻製なども用意されていた、それらを注文して食べる事にした。
「美味しいですわ」
「ベスはこういう料理も平気なんだ」
「似たような料理を食べることもありますわ」
「そうなんだ」
貴族の勉強をする関係で食事の作法を学ぶため屋敷で何回か昼を食べているが、似たような料理はなかった。俺は昼しか今のところ食べていないので夜に出たりするのだろうか?
食事を食べ終わって待っていると、ウシの解体が終わったと職員に伝えられる。
解体されたウシは乗ってきた馬車では持って帰れないので、荷馬車を一台借りて帰ることにする。荷馬車の御者に行き先を辺境伯の屋敷だと告げると驚かれたが、御者は黙ってついてきた。
馬車と荷馬車が屋敷に着くと、テレサさんがメイドさんに色々と指示を出して人を呼ぶ。呼ばれた人によって荷物は下ろされていく。荷馬車の御者は荷物を下ろされると、逃げるように去って行った。
「荷物を運ぶ場所が辺境伯の屋敷だとは思わないだろうから、少しかわいそうでしたね」
「仕方あるまい。あの量の肉は私たちが乗って行った馬車では運べない。代わりに荷馬車の御者には料金を多めに払っておいた」
テレサさんも悪いとは思っていたのだろう。荷馬車の御者に多めにお金は払っていたようだ。
「お母様が呼んでいるようですわ」
俺たちが荷物を下ろしたりしている間に、ベスはトリス様に連絡をしていたようだ。トリス様からの返事が、トリス様の部屋に来るようにとのことらしい。
流石にダンジョン帰りの汚れたままの状態でトリス様に会えないので、俺たちは風呂に入り、服を着替えてトリス様の元へ向かう。
「お母様、参りましたわ」
「ベス、来ましたか。先ほど報告を聞きましたが、随分と大物を狩ったようですね」
「三人で頑張りましたわ」
「無事なら良いです。肉は屋敷にと聞きましたが」
「昔食べた記憶があるとエドとドリーに言いましたの。そしたら是非お母様にも食べさせたいと、ドリーが言いましたわ」
「あら、そうなのドリー」
「うん!」
ドリーの返事を聞いたトリス様は俺にも確認してくる。
「エドもよろしいのですか?」
「トリス様にはお世話になっているので。是非貰ってください」
「分かりました。代わりに今晩は晩餐を屋敷で食べて行きなさい。熟成してからも美味しいですが、新鮮なうちも美味しいですよ」
「はい、では楽しみにしてます」
「後はエマとエレン、それにセオドアも時間があるようなら呼びましょう」
どうやら他にも人を呼ぶらしい、ウシは結構珍しい存在だったのだろうか?
トリス様はメイドさんにエマ師匠、エレンさん、セオさんを呼ぶように伝えている。
「エドやドリーからダンジョンでの様子を聞いたことがなかったので、今日は聞きたいと思います。問題ありませんか」
「はい」「うん!」
俺とドリーはダンジョンでの様子をトリス様に話すと、トリス様は楽しそうに聞いてくれた。
晩餐の時間がまだあるので俺は皆と一旦別れ、俺は別室で貴族の勉強していく。貴族の勉強を教えられながら過ごしていると、エマ師匠が部屋に来て、今日も大規模魔法を練習しようと誘われる。
エマ師匠に、俺は勉強を切りの良いところまで終わらせたいとお願いすると、先に行っているので来て欲しいと言われる。
一区切りついたところで、いつもの訓練をしている場所に行く。エマ師匠とエレンさんが居て、地面には既にもう収納の魔道具が広げられている。
「エマ師匠、来ましたけど収納の魔道具ってまだあったんですか」
「エドたちの大規模魔法を三回分やっても余るくらいにはありますよ」
「そんなに一杯あるんですか」
「緊急時用の予備と言うのもありますが、一日で結構な量が使用されますから備蓄は多めです」
「なるほど」
「今日も収納の魔道具を持っていくと言ったら今日の担当職員にすごく喜ばれましたよ」
「これだけの量があれば喜ばれもすると思います」
皆が揃った段階で今日は誰が大規模魔法を使うかと言う話になる。話し合った結果ベスに決まり、ベスが準備をする。
「ベス、魔力を出すけど準備はいい?」
「問題ありませんわ」
俺は魔力を出すとベスに制御を譲るように意識する。少しすると魔力の制御が無くなった感覚があり、うまく行ったようだ
「上手く魔力を渡せた。次はドリーだ」
「うん!」
次のドリーも魔力を出すと、ベスは魔力の制御を譲り受けたようだ。
「暴走はしそうにないですが、安定しませんわ」
「そのまま収納の魔道具に近づければ勝手に魔力が吸われて行きます。なるべく維持してください」
「分かりましたわ」
ベスは前回言っていた通り魔力の制御があまり得意ではないようだ。魔力が若干安定していないが、収納の魔道具は勝手に魔力を吸い取って行っている。
魔力が減るとベスの魔力の制御は安定していき、更に収納の魔道具に魔力を吸わせていくと魔力は無くなった。
「大変でしたわ」
「普通はそうなりますね。エドが上手なだけですよ」
どうやらベスのようになるのが普通らしい。
エマ師匠は俺に晩餐について聞いてくる。
「ところでエド、晩餐に呼ばれましたが何か知っていますか?」
「ダンジョンでウシを狩ったんです。そのウシの肉をトリス様にって渡したら晩餐に呼ばれました」
「納得しました。ダンジョンのウシは美味しいですよ、それに珍しいですからね」
「エマ師匠はウシを食べたことがあるんですか」
「治療のお礼にと、一度だけ」
「なるほど」
「私が食べた時もとても美味しいかったですよ」
「なら期待しておきます」
その後は皆で収納の魔道具を片付け、時間が遅いため鍛錬は無しとテレサさんに言われる。晩餐までの時間を屋敷でゆっくりしていると、晩餐に呼ばれる。
「ではベス、エド、ドリーに感謝していただきましょう」
トリス様が簡単な挨拶をした後に、用意されたウシの料理を食べると凄く美味しい。和牛に近い感じで口に入れると溶ける、同時に肉の味がしっかりある。
セオさんも忙しくはなかったのか、晩餐に来ており感動した様子で感想を言っている。
「初めて食べましたが、聞いた通りとても美味しいですね」
「手に入りにくいのもあって希少ですからね」
セオさんとトリス様の会話に疑問に思う。ここまで美味しいのだから値段も高そうだし、頑張って倒す人はいそうだ。
俺たちは魔法を使って倒しはしたが、罠や人数が多ければ冒険者なら倒せそうなのに、なぜ倒さないのだろうか?
「あの何で希少なんですか? 作戦があれば倒せそうですが」
「知らずにウシをエドは倒したのですか。セオドア、説明できますか」
「私も冒険者ではないので詳しくは知りませんが。一般的なことなら」
セオさんが説明してくれるようだ、お願いをする。
「お願いします」
「ウシについてですが、第一にウシを見つけ難いのだそうで。ウシを見つけられたとしても、周辺を狩場としている冒険者には強すぎて狩れないんだそうです」
「狩れる強い冒険者は探さないんですか?」
「強い冒険者もウシは中々見つけられない。なのでウシを探して狩る位なら、奥で量を狩った方が儲かるらしいのです」
この美味しいウシは割と微妙な立ち位置にいるらしい。そう言えばウシなのに群れて居なかった。群れで居ないのも儲からない理由の一つな気がする。
だがウシを見つけるのはそんなに大変なんだろか? 俺たちは結構簡単に見つけたのだが?
「このウシって見つけるのそんなに大変なんですか?」
「そう聞いていますが。エドさんは違ったんですか?」
「割と簡単だと思いますけど? 体も大きいし足跡も大きいですから、しっかり痕跡が残っています」
「痕跡ですか。そう言えばエドさんの事情を聞いた時に、エドさんは猟師をしていたと聞きましたが?」
「以前は真似事みたいな感じですが、猟師をしてました」
「冒険者はそういう技能がないので、大変なのかもしれません」
ダンジョンで腰が引けて戦闘している冒険者を結構見たので、セオさんの説明に納得する。
「納得しました」
「更に詳しく知りたいのでしたら、ギルドでライノさんに聞くといいと思いますよ」
「そうですね。今度ライノに聞いてみます」
セオさんも冒険者ではないのに凄く詳しかった。だがライノに聞けばもっと詳しく教えて貰えるだろう。
晩餐をゆっくりと終え皆で喋っていると、部屋に俺は見たことがない人が入ってきて、トリス様に手紙を渡した。トリス様は手紙を見た後に、渡してきた人物と周囲に聞こえない音量で会話をした。トリス様は俺たちに声をかけてくる。
「近く辺境伯が帰ってくるようです。急なお客様も一緒のようで、暫くは屋敷が忙しくなります。ベスは準備の手伝いをしてもらう事になります」
「分かりましたわ」
「エドたちは辺境伯への紹介もありますし、お見えになられる方が少し問題が有るようなのです。私が問題が把握できるまでと、辺境伯への事前に話をするので、それまでは屋敷に来るのは危険があるかもしれません。なのでエドとドリーは来ないように」
「分かりました」
俺はトリス様に同意した。だがドリーはトリス様に会えないのが寂しいようだ。
「お母さん、あえないの?」
「すぐに会えるようにしますから。心配しないで」
「うん」
ドリーは晩餐でもトリス様の隣だったので、トリス様はドリーを抱き寄せている。
そんなトリス様とドリーを眺めていると、セオさんが慌てた様子でトリス様に確認を取っている。
「ベアトリス様、エリザベス商会については、予定通りにそのまま動いても問題ありませんか?」
「セオドア、そちらは問題ありませんので予定通りに。私に相談が必要であればテレサを通して連絡をするように」
「分かりました」
セオさんは安心した様子でトリス様に了承をする。
その後ドリーはトリス様に甘えて、トリス様に甘やかされてドリーの機嫌は治ったようだ。
ベスから明日以降の話をされる。
「エド、私は忙しくなりそうなので、ダンジョンは暫く休みになると思いますわ」
「それじゃ、俺とドリーも暫くダンジョンは行くのやめようかな」
「どれほど時間がかかるかも分かりませんから、エドとドリーは好きにダンジョンに行って欲しいですわ」
「良いのか?」
「一緒に行きたいですが、貴族としての勤めはしっかりこなしますわ」
ベスはトリス様に以前言われたように貴族としてちゃんと動くようだ。
俺とドリーだけでダンジョンだと今日行った場所は危険だと思うので、少し手前で獲物を探すべきだろう。
「二人だと今日行った場所は難しそうだから、簡単な所に行ってるよ」
「それなら仲間を探していてくれても良いですわ」
「仲間か、確かに三人じゃ少ないし探してみるよ」
「お願いしますわ」
確かに三人でダンジョンに潜るのは人数が少ない気もしてきた。俺とベスは剣が使えるが、近距離が得意なのはベスだけだ。前衛がもう一人くらい居たらダンジョンでの狩が安定しそうだとは思う。
ベスとの会話の後は解散となった。皆帰るために屋敷を出るのだが、夜だと言うのに屋敷全体が騒がしくなっているようだ。
誰かに話しかけるつもりは無かったが、独り言を呟くと、セオさんが返事をしてくれる。
「大変そうだ」
「そうですね。来客が予定外だったのだとは思いますが、想像以上に大変そうです」
トリス様とベス以外の人は屋敷から帰るために玄関に歩いているのだが、普段と違う屋敷の状態に皆驚いている。
「これは…爵位が随分と上の人が来るのかもしれませんね」
「セオさん、どう言うことです?」
「辺境伯が慌てるような相手は数えるくらいしか居ないのですよ」
「なるほど」
セオさんに言われて納得する。貴族の勉強で習ったが、リング王国の辺境伯はかなり強力な自治権を持っており、リング王国でも上位の貴族だと教えられた。
慌ただしそうな屋敷の中を俺たちは歩いて行く。忙しそうなので俺たちは屋敷を早めに出る事にした。
協会の部屋に戻ると、ギルドの解体場からの荷物が届いていた。常温で腐る物は協会で冷蔵されていると、協会から手紙と冷蔵されたものを受け取るための券が入っていた。すっかり忘れていたが腐らせる心配がないようなので、ジョーの所へは明日向かうことにして寝ることにする。
この話に関係ないですが大規模魔法の名称変えるかもしれません、誤解をする名称な気がするので。
追記 ↑候補:協力魔法 修正する場合、前後が変になってしまわないか確認が必要なので少し時間かかりそうです。
ブックマーク、評価、感想がありましたらお願いします。




