薬師組合で商会への誘い
薬師組合につくとグレゴリーさんが待機しており、すぐに部屋に通される。
「エリザベス様ようこそ薬師組合へ、エリザベス様に見合うものが用意できておりませんが、精一杯のお迎えをいたします」
「お忍びなので、必要ありませんわ」
「では、飲み物だけでも」
「分かりましたわ」
ベスだけでなく俺たちにもお茶を出された後に、グレゴリーさんからバーバラさんと思われる人を紹介される。
「エリザベス様紹介させていただきます、組合の薬師バーバラです」
「バーバラです、よろしくお願いいたします」
「よろしく、詳しい話はエドとセオドアに任せますわ」
俺がバーバラに挨拶をすると、皆を紹介した。
「俺がエドことエドワードです、それとギルドのライノ、俺の師匠でエマ、妹のドリーです」
挨拶を済ませると、早速バーバラに今回の商会の話を受けるのか聞く。
「それでバーバラさんは、商会の工場で働くことは問題ないのですか、薬屋もありますよね」
「弟子も居ますから問題ありません、私の薬屋は作れる量に対して、売れる量が合っていないのです」
「アルバトロスなら余っても組合で買取をしてそうですが」
「していますね。私も売っていますが、今回の工場はそれ以上の給金が出ると聞いたので、働こうと思いました」
「分かりました、では辺境伯の貧民街に対する救済に参加されることで、不利益を被る可能性もありますが、問題ありませんか?」
「私と弟子たちは、最悪店を移動すれば生きていけます、それだけの腕は持っているつもりです」
「確かに、アルバトロスの薬師なら移動も可能かもしれませんね」
トリス様は失敗したとしても場所を変えて工場は作り直すだろうし、バーバラさんを見捨てるとも思えないので、覚悟を確認したつもりだった。色々考えているとバーバラさんが質問してくる。
「いいかい?」
「なんでしょう?」
「私を何故選んだのか、聞いてもいいのかい」
「俺が最初にグレゴリーさんに選考中の書類を貰って、見た時に気になったのがバーバラさんだったのです」
「私の書類ですか、他の薬師とそう変わったことはないと思うが」
「他との違いはバーバラさんには、お弟子さんが非常に多かったんです」
「そう言えば、組合の書類には弟子の人数が載っているんでしたね」
アルバトロスの薬師は、許可されている一門と、許可されていないものがあるので、見分けるために書類にも弟子の名前を書いておくのだろう。
「今作ろうとしてる物が、どれだけ作れば消費量を超えられるかが分からなく、作る人数が足りないからと選考を繰り返していると、生産が遅れるかと思って人数に目が行きました」
「そう言うことですか、弟子も雇って貰えるなら喜ぶと思います」
「そうすると、薬屋が人数足りなくなるのでは?」
「全員引き抜かれたら薬屋廃業になるけど、うちは私合わせて十人近く居ますから二人残せば最低限は回せると思うよ」
「なら雇う人数は段階的に増えていくとは思うので、薬屋の人数が足りなくなる前に言ってください、書類から選考をまたしますので」
「分かったよ」
シャンプーとトリートメントは作る量が決まっていない、辺境伯の屋敷だけでもすごい量になるとは思うが。
協会の人や売り出すことも考えると予測できないので、すぐに雇える人数は多い方がいい。
「後は、何で貧民街の救済なんて話になったんだい。グレゴリーとセオドアには多少聞いているが、詳しく聞けるかい」
「俺も色々あったから、貧民街については最初は気を利かせてくれたんだとは思う」
「辺境伯の後ろ盾で、商会をやろって子がかい?」
「色々あったんだ」
「ふん、聞かない方がいいってことだね、なら聞かないよ」
トリス様に口止めされているのもあって、出会ったばかりのバーバラさんに話せないので誤魔化すと、察してくれたようで引いてくれた。
俺の気まずさをセオさんが感じたのか、説明を交代してくれる。
「貧民街の救済ですが、エドさんの件はなくもないですが、現在は他の要素が強いですね、バーバラさんには実はまだ商会の名前を伝えていないのです」
「商会の名前って、それが何の関係が?」
「エリザベス商会と決定致しまして、エリザベス様が商会に名前を連ねることも決定しました」
「エリザベス様って、その女の子かい?」
ベスのことを知っている人にばかり会ってきたので、バーバラさんがベスの事を知らないとは思わなかった、セオさんもそう思ったらしく。
「バーバラ、あのエリザベス様を知らないかい?」
「すまないね、有名な方なのかい?」
セオさんが困った様子でいると、ベスが名乗りをあげる。
「私はエリザベス・フォン・リング・メガロケロスですわ、メガロケロス辺境伯の娘ですの」
「えっ!」
「今はお忍びですし、気にする必要はありませんわ」
「し、失礼しました」
バーバラさんは固まった後に小さくなって謝っている。ベスは気にした様子もなく普通にしているので、セオさんが続けて説明を再開する。
「先にエリザベス商会になる可能性があり、後に貧民街の問題に手を出せるかもしれないと、バーバラの書類を見て私は考え、ベアトリス様に相談すると商会の目的を、ただ生産するだけから変えたのです」
「セオドア、聞いてないよ」
「辺境伯の後ろ盾があるとは、言いましたよ」
しらばっくれるセオさんに、バーバラさんは諦めた様子で、グレゴリーさんに目をむける。
「グレゴリー」
「言えると思いますか、しかも昨日は可能性で先ほど決まったのですよ」
「さっきなのかい!」
「私もバーバラを迎えにいくまで、知りませんでした」
バーバラさんはあまりの速さに絶句している。普通こういう問題はもっと慎重に事を進めるのが普通だと俺も思う。
作るものが時間がかかるが自分で作れるし、無くなったら石鹸があるので、生産が遅れたところで問題ないから、できる事なのかもしれないと伝える。
「作る物が代用品があるし、量産しないのであれば自作できるから、失敗覚悟でやれる事だと思うよ」
「失敗が可能なら、やる価値はあるってことかい」
バーバラさんは多少納得した様子なので、作る物をどこまで聞いているのか気になり聞いてみる。
「バーバラさんは、作る物ことはどこまで聞いてますか」
「変わった石鹸だとは聞いてるよ」
「液体の石鹸と髪の毛を補修する物で、シャンプーとトリートメントと言うのですが」
「ふん?」
バーバラさんは理解できないようで、確かに現物なしで言葉で説明しても難しいよなと思う。
そして思いつく、今も俺はシャンプーとトリートメントを自作しているのだが、バーバラさんにも任せられないだろうか。
「今から一緒に作りませんか、作った分は買取もするので」
「今からかい、こんな場所で作れるのかい、それに道具はどうするんだい」
「ここでも作れます、道具は用意が必要だけど組合なら売ってるから」
セオさんが同意してくれる。
「私も一度作ってるところを見たかったのです、道具は買ってもいいですし、グレゴリーさん、組合から借りられませんか」
「セオドアさん、必要な物次第ですね」
グレゴリーさんが、俺に必要な道具を聞いてくるので答えると。
「殆どのものは貸し出せますね」
セオさんが買う必要があるものは買うので用意して欲しいというと、素材や道具が用意されていく。
用意された道具でバーバラさんと作っていくと。
「精油の量が複数あるが、それ以外は思ったより簡単だね、混ぜるのだけが大変だが」
「そうなんです、今は俺とドリーで混ぜてるから量が作れなくて」
「アンタと小さい子でか、それはそうだろね」
一日中混ぜると筋肉痛になるのだ、一日の終わりにエマ師匠に実は魔法で治してもらったりしている。
それでも筋肉痛が残ったりするので、地味に筋肉痛が治るという布で作った服が役に立っている、それも水車で作るようになれば解決する。
「それで、混ぜるのは水車で混ぜようという話になって」
「水車?」
「そう言えば言ってませんでした。バーバラ、貧民街の水車が閉鎖されているのは知っていますか?」
「随分前から閉鎖されているのは知ってるよ」
「そこを使って、作ろうという話になっています」
「なるほどね」
出来上がった物を容器に移して、一つはバーバラに渡す。
「私に渡してどうするんだい?」
「一回使ってみてください」
「そう言うことかい、分かったよ」
俺はバーバラに生産が始まるまで作ってくれないか、再度頼んでみる。
「バーバラさん生産が始まるまで、手作業でですが作ってくれませんか」
「値段次第だね」
バーバラさんがそういうと、セオさんが会話に参加して値段を交渉し始め、少しすると決まったようだ。
「それでいい」
「手作業で少し高くなっているので、大量生産が始まると値段は落ちますからね」
「分かってる、ところで弟子に作らせてもいいかい」
セオさんは少し迷った後に。
「良いですが、絶対に作り方を漏らさないでくださいよ」
「分かってる、辺境伯の後ろ盾があるんだ怖くてできるかい、弟子にもよく言い聞かせるよ」
「それならば同じ値段で買い取りますから、是非作ってきてください」
俺とドリーの負担が減ることが決定した、大変嬉しい。
俺が喜んでいると、話を聞いているだけだったライノがバーバラに声をかける。
「失礼、バーバラさん私は冒険者ギルドのライノと言います」
「冒険者ギルド?」
「ええ、貧民街の水車までの運搬と護衛を、冒険者に頼みたいと頼まれまして」
「なるほど、兵士がやったら貧民街が荒れるからかい」
「そう聞いています」
バーバラさんは貧民街に兵士を入れる危険性を察したようだ、流石に近くで薬屋をしているだけあって詳しそうだ。
「それで私が、冒険者とどう関係してくるんだい?」
「貧民街での護衛も兼ねているので、守られるバーバラさんが、任せられそうな冒険者を複数あげて欲しいのです、ギルドで選考します」
「そう言うことかい、分かった」
バーバラさんは名前をいくつも上げてく、やはり貧民街の冒険者は多いようで、結構な人数が上げられて、ライノはメモを取りつつ驚く。
「随分と多いですね」
「貧民街から出て行けたやつも混じってるけど、薬屋だから冒険者の懇意にしてる客は多いよ」
「そうですか、ありがとうございます、後はこちらで選考しておきます」
「頼んだよ」
ライノの仕事は終わったようで、ベスに挨拶をして帰ろうとしているところを、セオさんが呼び止める。
「ライノさん少し良いですか、私はセオドアと言います」
「セオドアさん、何でしょう?」
「失礼ですが、エドさんとドリーさんのことは?」
「秘密にして欲しいとは、先ほど言われましたね」
セオさんの質問にライノさんは察したようで、俺の秘密を知っているが言わないようにしてくれる。
「もし良かったらですが商会にライノさんも参加しませんか、冒険者ギルドから人が入ってくれると、商会を運用していくのが安定すると思うのです」
「ふむ」
ライノが迷っていると、グレゴリーさんが声をかける。
「ライノ受けておいた方がいいぞ、シャンプーとトリートメントを持って帰ると喜ばれるぞ」
「グレゴリー?」
どうやらグレゴリーさんと、ライノは知り合いらしい。
「私もセオドアさんから、商会に入ったのだから一度は試してみるべきと言われて、シャンプーとトリートメントを分けてもらったのだが、私より妻の方が喜んでいたよ、女性の方が喜ぶ物のようだぞ」
「ふむ」
「愛妻家だが、忙しいライノには良い物だと思うぞ」
「分かった」
グレゴリーさんの説得にライノはあっさりと陥落して、商会に入ることになったようだ。
セオさんが書類を渡すと何か書き込んで返し、試しにと先ほど作ったシャンプーとトリートメントを渡す。
「では、これで失礼します、エリザベス様」
「はい、今度よろしくお願いしますわ」
「…はい」
ベスが冒険者になったことを思い出したのかライノは遠い目をした後に、俺とドリーにまた会おうと挨拶をして、去っていった。
俺はグレゴリーさんに、ライノと知り合いだったのかと聞いてみることにする。
「グレゴリーさんは、ライノと知り合いなんですね」
「ギルドとの付き合いの関係で知り合いではありますが、ライノは有名ですから、知り合う以前から一方的にですが知ってはいました」
「ライノは有名なんですか?」
「ライノはアルバトロスでも一二を争うくらいの強さでしたから、歌にもなっていますよ」
「そんなに強かったんですか」
「ええ、それと同時に愛妻家としても有名なんですよ、ライノが冒険者を辞めたのは妻のため、とも言われていますから」
「そうなんだ」
俺はライノが、商会に何故すんなり入ったか納得する。
今することは終わったか、セオさんに確認する。
「セオさん、今することはおわりましたかね?」
「顔合わせも済みましたし、後はバーバラさんに素材を渡しておく位ですかね」
「それはグレゴリーさんに、お願いするとして」
俺はベスにも確認する。
「ベスは何かある?」
「今すべきことではありませんが、思いつく事としては店舗と水車の確認ですわね」
確かにそれは必要だが、セオさんに確認すると答えてくれる。
「店舗はトリス様とも相談して探しております、水車については安全が確認されるまでは、冒険者と水車の管理人に任せることになると思います」
「分かりましたわ」
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