アルバトロスへ
協会に泊まること二日目の朝、猟師のケネスおじさんがアルバトロスへ向かう準備ができたらしく出発することになった。
見送りに協会長とオジジが来て餞別だと物を渡してくれた。
「薬師の師匠が弟子に送る免状二組と秘伝書じゃ。秘伝書は二人分は用意できなんだから、二人で仲良く使うんだよ」
「オジジ。俺、弟子じゃないのに」
「いいや弟子だ。基礎に応用までできる一人前さ」
「「オジジ」」
俺とドリーはオジジに抱きつくと、オジジは優しく抱き止めてくれる。
俺とドリーが落ち着くと、協会長も餞別を渡してくる。
「私からは旅費と紹介状です」
「協会長、悪いよそんなの」
「弟子への罪滅ぼしだと思って受け取ってください。本来なら弟子として教え導くはずだったのですから」
「でも」
「エド、そう気にしないでください。こう見えても私は高給取りですし、村の生活ではそう使いませんから」
協会長に無理やりお金を持たされる。
「ありがとうございます」
協会長が頷くと、ケネスおじさんも餞別を渡してくる。
「ワシは一緒に行くが先渡しで弓だ。三人で行動するが危険はあるからな」
そう言うと俺とドリーに丁度良い大きさの弓を渡してくる。
「送って貰えるのに更に弓まで。悪いよ」
「元々二人に贈ろうと作っとった物だから気にするな。本当は剣でも贈れれば良かったが剣は高くてな。自作の弓で悪いが」
「嬉しい、ありがとう」
協会長とオジジにお礼を改めて言って、ケネスおじさんと共に村を出る。
「今までありがとうございました」
「気をつけるんだよ」
二人と別れて少しするとドリーが静かに泣き出し、頭を撫でて宥める。
中々泣き止まないドリーをケネスおじさんが抱き上げると、歩きながら話し始める。
「ワシも昔はダンジョンで稼いでいた。その時に色々な人に出会った。ドリーも同じようにこれから仲良くなる人に色々出会う」
「ほんと?」
「ああ。尻尾があるのとか鱗があるのとか色々な」
「しっぽ?」
「そう村には見て分かるのは居なかったが、港町に行けば色々おるぞ」
知らなかったが普通の人以外も居るようだ。というか、ケネスおじさんはダンジョンで働いていたのか。
「ケネスおじさんはダンジョンで働いてたの?」
「働いていたというか、ワシは冒険者ギルドってのに所属して、そこで仕事の斡旋などを請け負っていたんだ」
「そうなんだ。というか村から出たことがあるんだ」
「そうかエドは知らんか。元々ワシは村の出身じゃない。ワシは依頼で来たところで妻と出会ってな」
「知らなかった」
ケネスおじさんは思わず馴れ初めを話すことになってしまい恥ずかしそうにしている。
そういえば、先ほどケネスおじさんが言った尻尾や鱗とはどういうことなのだろう。
「尻尾や鱗ってどういうことなの?」
「一般的には獣人と呼ばれている。ワシらみたいな外見に、他の要素がついてる者をまとめてそう呼ぶ」
「鱗でも獣人なの?」
「正確に言うとドラゴン族とか蛇族とか色々ある。だが覚えきれないのでまとめて獣人と呼ぶ」
「なるほど。村には居なかったけどあんまり居ないの?」
「そうでもない。ワシらが住んでいる村でも獣人の名残が薄らあるのもいる」
実は村にも獣人は居たらしい。気付かなかった。
「気付かなかった」
「ドリーに言っておいて何だが普通の獣人は、ぱっと見では分からないからな」
「そうなんだ」
「明らかに見た目が違うのは身体能力が凄かったりするから注意しておけ」
地球の知識的には遺伝子どうなっているんだろうと思うが、魔法がある世界だからなんでも有りなんだろうか。
話を聞いていたドリーは喜び。
「ドリー、獣人の人に会いたいっ」
「そうだな。アルバトロスに行けば会えるぞ」
「うん!」
ドリーの機嫌も良くなったところで歩く速度を上げる。
五日ほど歩き、出てきた魔獣などを狩りながら川下りができる村まで到着する。お金を払って乗合の船に乗せてもらう。
船は休憩しながら三日ほどかけて川を下り切ると港が見えてくる。
「わー、あれがアルバトロス?」
「懐かしい、あれがアルバトロスだ」
ドリーがケネスおじさんに聞くとおじさんは同意している。
船が桟橋に着くと三人で降りて、俺はこの後向かう場所を考える。
「これから冒険者ギルドに行けば良いのかな?」
「まずは協会だな」
「ギルドじゃなくて協会なんだ」
「冒険者は誰でもなれるが、協会は違うから身分証として役に立つ」
「なるほど」
船着場にいた衛兵に協会の場所を尋ねると丁寧に教えてくれる。教えて貰った住所に着くと大きな建物が見える。
「此処が協会? 大きいね」
「ワシも初めてきた。大きいな」
アルバトロスの協会は、ターブ村では考えられないほどの大きさで驚く。
中に入ると受付があり男の人がいるのでそこに向かう。
「すみません、紹介状があるんですが」
「紹介状ですか、お見せ頂けますか?」
受付の人に協会長からの紹介状を渡すと、受付の人は中身を読んだ後驚いた様子で。
「魔法使いの卵を村から追い出すなんて初めて聞きましたが、本当ですか?」
「はい」
「ワシも嘘偽りないこと証言する」
「失礼ですが、あなたは?」
「村の猟師でケネスという。二人が無事にアルバトロスに辿り着くため一緒にきた」
俺とドリーを心配してくれた様子の受付の人は、食い気味に猟師のおじさんに尋ねる。
「あなたが二人の面倒を見れなかったのですか?」
「ワシもそうしたかった。だが我々の村には掟があって、二人の面倒を見れば私の家族も村を追い出されることになる」
「それは…」
ケネスおじさんが顔をこわばらせ怒りを抑え込んだように理由を話すと、受付の人は申し訳なさそうに謝る。
「事情も知らずに、申し訳ありません」
「いや、当然の事だ。二人の面倒を見れるなら見たかった」
猟師のおじさんが無念そうに言うのを見た受付の人は、俺たちを安心させるように話してくれる。
「これからは協会が、お二人を守ります。安心してください」
「そう言って貰えると助かるが、二人が魔法を使えるか見なくて良いのか?」
「ああ、失礼しました。私も協会員。つまり魔法使いです。なので私には、お二人が魔法が使えるか分かります」
魔法使いが受付している事に俺は驚いた。ケネスおじさんも同じだったのだろう。受付の人に確認する。
「なんで受付を?」
「魔法使いの依頼は魔法使いしか答えられません。人が少ない支部だと魔法使い以外が受付をしますが、此処は地方を統括しているだけ有って魔法使いが多いのです。なので交代で魔法使いが受付業務をしてます」
「なるほど。ところで二人は協会員になれるのですね」
「勿論です」
俺は安堵する。
受付の人は協会に所属するのに必要な書類を作ってくれる。
「名前は?」
「エドワード」
「ドロシー」
「出身地はややこしくなりそうですし、アルバトロスにしてしまいましょう」
受付の人がさらっと出身地を詐称していく。
「両親不在と。後は宿はどうされています?」
「ワシらは宿を決める前に先に協会に来たから、泊まる場所は決めてない」
「それなら話が早い。協会の建物は研究所であり寮でもあるので部屋を用意するので住んで下さい」
「こんな立派な場所高いんじゃないのか」
「協会員は無料でございます」
「「「無料!」」」
俺たちは驚く。立地もよく綺麗な場所に無料で住めるとは、どこからそんな予算が出ているんだろう。
「無料で住めるのか?」
「アルバトロスを治める辺境伯が予算を出しておりますので、当協会は辺境伯の援助によって運営されています」
「なるほど…」
受付の人が辺境伯だと言って思い出す。田舎の農村に住んでいたので自覚はなかったが、此処はリング王国であり国王も居れば貴族も居る。
「また魔法使いは必要な時に辺境伯に呼ばれる可能性はあります。ですが寮に住んでいる住んでいないに関係なく、貴族に呼ばれたら出向かねばならないので、無料で寮に住んでおくことをお勧めします」
普通の人なら貴族に呼び出されることはないのだろうが、魔法使いは違いそうだ。俺の不安を読み取ったのか受付の人は説明を続ける。
「貴族の依頼は給金が良いですし、無理な依頼なら断ることもできるので安心してください」
「断れるのか?」
「協会が作られたのは魔法使い同士の互助が目的です。なので辺境伯が協会を直接運営しないで、運営資金を援助としているのはその為です」
受付の人の話を聞いていると、魔法使いは昔何かあったのだろうか?
「そのうち詳しい話を教えられますので、今は無茶な依頼は受けなくてもよいと覚えておけば問題ありません」
「エドとドリーが安全なら良い」
「それは安心して頂いて問題ありません。協会も辺境伯も魔法使いを大事にしておりますので」
思った以上に魔法使いは大切にされているようだ。小さい村で俺と妹が魔法使いだったので、数はそこそこいると思っていたが意外と数が少ないのだろうか。
「さて、それでは寮に入るので問題ありませんでしょうか」
「エド、ドリーどうだ?」
「入ろうと思う」「にーちゃと、一緒がいい」
「とのことだ頼めるか?」
「分かりました。部屋ですが二部屋用意します」
一部屋で俺とドリーは住むことになると思っていたが、二部屋用意すると言うのでドリーが慌てる。
「ドリーは、にーちゃと一緒がいい」
「住むのはそれで問題ないですよ」
「ほんと?」
「はい」
ドリーが安心したところで疑問に思う、住むのは一部屋で問題ないのに何故二部屋用意するのだろうと、疑問になって聞いてみる。
「何故、二部屋用意するのですか?」
「備品の問題です、ベッドは一部屋に一つなのです」
「ベッドだけ移動させればいいのでは?」
「そうするとベッドがない部屋ができてしまうので、自分でベッドを買ってくるか作るかしないとダメでよけいにお金がかかります」
俺とドリーに気を利かせて、お金がかからない方法で暮らせるように考えてくれたようだ。
「確かに」
「協会の寮は魔法使い以外は部屋を用意できないのですが、お二人とも魔法使いなので二部屋用意して、ベッドを移動させて一部屋で暮らして、余った一部屋は作業部屋にすれば良いですよ」
「そういう事ですか。分かりました」
「では、部屋の手続きをする前に師匠を決めましょう」
「師匠ですか?」
「そうです、部屋を師匠と近い場所に取るのが良いですからね」
「なるほど」
受付の人は名簿らしきものを見ながら悩んだ後に。
「治癒の魔法使いエマが良いかもしれませんね」
「なんで治癒流派なんですか?」
「流派を知っていますか」
「村を出る時に少しだけ聞きました」
「そうですか。治癒流派の魔法は便利なので、どの流派の人もある程度は覚えます。最初に覚えるには良い。それにエマは子供好きで優しく教えて貰えますからね」
「ドリーのことを考えるとその方が嬉しいです」
ドリーの事を考えると優しい人の方が良い。同時に受付を丁寧にしてくれているお兄さんでも良いんじゃないかと思う。
「ちなみにお兄さんは?」
「私は自然流派で、最初に覚えるにはちょっと問題があります」
「そうなんですか?」
「大規模な魔法が多いので最初から自然流派を覚える人はほぼ居ないです。私も別流派から自然流派に移ったので教えられなくもないですが、エマに教わった方が早く上達しますよ」
「分かりました。エマさん、という魔法使いにお願いしようと思います」
「では、連絡しますのでお待ちを」
そういうと、受付の人は電話のようなものを手に取って操作をした後に話をしている。
「にーちゃ、あれは何?」
「多分エマさんって人に連絡してるんじゃないかな?」
「ふぇー、すごい」
受付の人は連絡が取れたようで。
「すぐに来るとのことです。少し待っていてください」
「はい!」
ドリーが元気に返事をして受付の人は笑顔で頷いていると、奥から人が飛んできて皆で驚く。
飛んできた女性はチョコブラウンの髪で年齢は三十行かないくらいだろうか?
「エマ、そこまで急がなくても問題ありませんでしたよ」
「何言ってるの子供だって言うから、待たせたらダメでしょう」
「何を言っても無駄そうですね」
受付の人が諦めた表情で紹介をしてくる。
「こちらが魔法使いエマです」
「エマよ。治癒の魔法が得意よ。二人が問題なければ私が魔法を教えることになるわ」
なんとなく治癒流派はおっとりしたシスターとか医者をイメージしていたので、飛んで現れさばさばした様子で自己紹介され、イメージとの違いに驚いているとドリーがエマさんに挨拶をする。
「よろしくおねがいします。エマさん」
「あら礼儀正しいわ。それにとっても可愛い」
エマさんはドリーを抱き寄せると目線を合わせて。
「お名前は?」
「ドロシーっていうの。ドリーって皆にはよばれてる」
「よろしくねドリー」
「エマさんは、お空飛べるの?」
「魔法で飛べるのよ。ドリーも飛べるようになるわ」
「ほんと!」
「ええ」
話が逸れそうだと俺も慌てて自己紹介をする。
「エドワードです。皆にはエドって呼ばれてます。これからよろしくお願いします。エマ師匠」
「エドこれからよろしくね。呼び方は好きにすれば良いわ」
「それではエマ師匠で」「えまししょー?」
「ドリー無理しなくても良いわよ」
「はい!」
ドリーはエマ師匠に随分懐いたようだ。ドリーは会話する人が少なかったからか年齢の割には口調が幼いが頑張って話しかけている。
受付の人は会話に入るタイミングを見ていたようで話しかけてくる。
「では、エマに師事するということで問題ありませんか」
「「はい」」
「それでは、部屋をエマの近くにしますので空きを見ますね」
「お願いします」
書類を確認して鍵を取り出してくる。
「エマから近い部屋だと、この二部屋が空いていますね」
俺には部屋の位置がよくわからないのでエマ師匠が位置を聞いてくれる、その後に俺とドリーに紐付きの鍵を渡してくる。
「これが部屋の鍵ですか?」
「この鍵は形は鍵ですが実際には魔道具で差し込む必要はありません。鍵には協会の施設に入るのと用意した二部屋どちらも入れるように設定したので、首から下げておくことをお勧めします」
「分かりました。有難うございます」
魔道具だと聞いて驚きつつ、言われた通りに鍵をドリーの首に掛けてやる。俺もドリーと同じように首から下げる。
俺とドリーが首に鍵を下げたところで受付の人は話しだす。
「二人が一部屋で暮らすためにはベッドの移動が必要ですが、エマお願いできますか」
「分かったわ」
「後はお連れの方がしばらく滞在するなら、来客用の通行証をお渡ししておきます」
ケネスおじさんは少し考えた後に。
「そうだな、住む場所の確認もしたいし二、三日は見ておきたい」
「分かりました。部屋に泊まって頂いても問題ない物にしておきます」
「ありがたい」
受付の人はケネスおじさんに、水晶のような物が付いた首飾りを渡す。
「無くさないように首に下げておいてください。必要なくなったら受付で返却をお願いします」
「分かった」
ケネスおじさんが通行証を首に下げたところで受付の人は。
「では此処からはエマに任せます」
「任せておいて」
エマ師匠がこちらを向いて
「それじゃ行くわよ、付いてきて」
そう言ってエマ師匠は来た時とは違い歩いて建物を移動し始めたので、俺たちは付いていく。
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