商会の運営を任せる人
テレサさんの兄弟と会うのにベスも参加することになったので、今いる部屋に呼ぶことになった。
メイドさんが呼びに行き、連れて来て部屋に入ってくる。
「初めまして、私はエリザベス・フォン・リング・メガロケロス、テレサには助けられていますわ」
「お初にお目にかかります、テレサの弟でセオドアと申します」
「私のお願いから発展したお話なので、私も顔合わせに参加しただけで、基本的には話し合いには参加しないつもりですので、私の事は気にせず進めて下さって問題有りませんわ」
「はっ」
テレサさんの兄弟はセオドアさんと言うらしい、ベスも初めて会ったようで挨拶している。
ベスは挨拶を済ませると、後は俺に任せるようだ。
「ではエド、セオドアに説明した通り、以降は基本的には話に入りませんわ」
「分かった」
ベスに返事をすると、俺とドリーはセオドアさんに挨拶をする。
「初めましてエドワードと言います、エドと呼んでください」
「ドリーは、ドロシーなの」
「エドさん、ドリーさん、よろしくお願いします、テレサの弟でセオドアと言います、セオと呼ばれることもありますので好きな方で」
「ではセオさん、こちらこそよろしくお願いします」
「セオさん、よろしくなの」
お互いの自己紹介も終わったことだし、今回の話を受けてくれたお礼を言わないと。
「セオさん、今回は商会運営の話を受けて下さってありがとうございます」
「いえ、商人としては辺境伯の後ろ盾がある商会を立ち上げられるなんて、夢のようですからね」
「やっぱり辺境伯の後ろ盾があるって珍しいんですか」
「珍しいというか御用商人は居ますが、このような形の後ろ盾となると、他の貴族でも滅多に聞きませんね」
まさか、そんなに珍しいことだったとは。
「そんなに珍しいとは…でも商品が二つというか、二つで一つの物しかないんですが良いんですか?」
「それに関しては、将来商品を開発していただけると嬉しいですが、辺境伯の屋敷に納品してるだけでも、商会としては十分やっていけると思いますよ」
「商会はそれだけでも十分やっていけるんですね、安心しました。後は商品開発については考えておきます」
「商会の継続はできますが発展はしませんので、商品開発は是非お願いしたいところですね」
「分かりました」
地球の知識からすると他にも色々あるのだが、有りすぎて作るものに迷う、とりあえず今は商会の話に集中しよう。
「運営をお任せするのですから、商品の説明をしたいのですが」
「商品に関してはテレサから借りて使ってみました、良いものですね男性にも人気が出そうだ」
「男性だとシャンプーはまだしも、トリートメントを嫌がる人はいそうですが」
「私の感想ですが、貴族はそうでもないと思いますよ」
「そうなんですか、では男性用の香りも作った方がいいのかな」
「香りですか?」
商品の詳しい説明をしないで話してしまったので、ベスとトリス様で別の香りを作ったことを言うのを忘れていた。
「今あるシャンプーとトリートメントは、ドリーと師匠のエマ師匠が好きな香りにしてあって、ベスとトリス様用を作っています」
「それならば商品は3つ、いや男性用を作れば4つになりますよ」
「香りで別の商品として考えるんですか?」
「売り方が変わってきますから、別で考えていいかと」
「なるほど」
地球の売り方と違ってターブ村では石鹸は種類が違っても、石鹸として売っていたから売り方が違うと思っていたが、貴族向けだからかアルバトロスだからか分からないが、地球に近い売り方をしているようだ。
エドとしての経験と、地球の知識が入り混じって、常識がどれが正解か分からないのだ、やはりセオさんを雇ったのは正解だと改めて認識する。
「雇う人数にも関わってくると思うので、作り方を教えたいと思うのですが、今日は材料を持ってきてないので、口頭で説明するだけになりますが」
「良いんですか、作り方を知って逃げるかもしれませんよ」
セオさんは冗談ぽく聞いてくる。
「辺境伯を敵にしてまで、することでは無いと思いますから」
「その通りですね」
「それに、分量は実際に作ってくれる人も交えて話したいですし、今は作る工程に人がどれだけ必要かを知りたくて」
「それはそうですね、今私が出来ることは細かい分量ではなく、どの程度の人数で量がどれだけ量産できるかですね」
「その通りだと俺も思います、では話していきたいと思います」
「お願いします」
シャンプーとトリートメントの材料の種類から、作る工程を説明していく。
「以上ですが、聞きたいことはありますか」
「今は材料をどこで購入しているんですか?」
「今は薬師組合で買っています」
「私の覚え違いでなければ、組合の材料は薬師しか買えないのでは?」
「俺とドリーは、組合員なので素材が買えるんです」
「その若さで組合に入っているのですか」
「はい」
そう言えばベスにもトリス様にも言ってない気が、色々話して出自は話したが、アルバトロスに来てからの話をしていないかも?
ただ薬師組合に相談しているのは言っているから、知っているか?
組合員であることを言ったか言ってないか忘れて悩んでいると、セオさんが材料の仕入れについて聞いてくる。
「今は組合で買えますが、今後どうするかですね」
「組合にも相談しているので買えるかもしれません、薬などと比べるとそこまで難しく無いので、薬師見習いも作業できそうだと」
「相談されているのですか、組合はシャンプーやトリートメントを作るために素材を売ってくれるのですか?」
「薬屋で石鹸を置いてると言っていたから、問題ないと思いますよ」
「石鹸を薬屋で売ってるのですか、知りませんでした」
「俺も先日聞いて知りました」
というか材料の入手が難しそうなものは、大半が魔法で錬金されているものなので、エマ師匠を頼って魔法協会と交渉すればどうにかなると思うのだ。
「組合が売ってくれないとしても、入手が難しいのは魔法で錬金している物なので、魔法協会に相談すれば良いと思います」
「そうしたいですが、協会は貴族でも断りますから難しいと思いますよ」
「エマ師匠か、エレンさんにお願いすればどうにかならないかな?」
セオさんの返答は渋いもので、俺はエマ師匠に尋ねてみる。
「エマ師匠、どうですか?」
「私でも錬金流派に頼むのは可能だけれど、エレンがエドにお礼をしたいと言っていたから、エレンに相談すれば手を回してくれると思うわ」
「それじゃ、組合で断られたらお願いしようかな」
「そうするといいわ」
セオさんが、俺とエマ師匠の受け答えで存在に気づいて声をかけている。
「失礼ですが、治癒の魔法使いエマ様でしょうか」
「私は、そう呼ばれることもありますね」
「これは、今更ながら挨拶をしても?」
「ええ」
「セオドアと申します」
「魔法使いのエマです、エドとドリーの師匠をしています」
前に冒険者ギルド職員のライノが丁寧に挨拶をしていたから、エマ師匠は冒険者に有名なのかと思っていた。
だがセオさんの反応を見るにそうではなく、アルバトロスで広く知られた有名人なのかもしれない。
セオさんとエマ師匠の会話が終わったところで、俺はセオさんに切り出す。
「組合がダメなら協会で素材は手に入ると思うんです」
「どの程度の量が必要になるかですが、あまりに多いと協会が嫌がるかもしれません」
「確かにそれはあるかも」
エマ師匠が話に入ってくる。
「それは問題ないと思う、私がシャンプーとトリートメントを配ったから、もう一度欲しい人は絶対に居る筈よ」
「そう言えば、元々エマ師匠が知り合いに配りたくて、俺とドリーで作ってた物でしたね」
「ええ、エドとドリーの魔法使いになるまでの、お小遣いになればと思ってたのだけど、想像以上に大変なことになってしまったわね」
「エマ師匠、そう言うつもりで俺とドリーに頼んでいたんですか」
「ええ、でもお小遣いの規模の話ではなくなってしまったわ」
「それでもエマ師匠が言ってくれなければ始まらなかった話です、ありがとうございます」
「少しは私の弟子を自慢したいと言う欲もあったから気にしないで」
少し照れた様子のエマ師匠が弟子自慢だと言う。
エマ師匠が知り合いに配って歩いたのは、俺とドリーへの優しさだったことに気づいて、俺はエマ師匠に本当に感謝した。
「エマ師匠のおかげで素材の入手は、量が必要でも問題なさそうなので、次は作り方ですかね」
「そうですね、混ぜるだけなら水車が適していると思うのですが」
「確かに、水車なら混ぜるのに良いですが、借りられるのですか?」
「普通なら借りられませんが、エドさんは辺境伯の後ろ盾を使って、借りることは可能だと思います」
「辺境伯の後ろ盾ですか?」
「辺境伯の領地は、全ての水車が辺境伯の管理下なので、使用するには辺境伯の許可か、辺境伯が選んだ管理人が水車を運営しているので、管理人に頼むかですね」
ベスにどうすれば良いか確認した方がいいだろう、トリス様で許可が出るのか、辺境伯本人でないとダメなのか。
「ベス、水車を借りたいんだけど、トリス様に聞けば良いのかな?」
「水車一基くらいなら、私の権限で貸し出せますわ」
「とりあえず一基で十分だと思う」
「増えるようなら、お母様に相談した方がいいですわ」
「分かった、とりあえず一基だけ借りられる?」
「用途に適したものを選んでおきますわ」
「ありがとう」
「それと、お母様にも水車の事を私から伝えておきますわ」
「お願いします」
材料は手に入る当てができて水車も借りれそうだから、後は計量して水車が混ぜている間の管理をして、中身を取り出す人が必要になりそうだ。
「後は計量する人と、水車の混ぜ合わせたものを見てる人と、取り出す人かな」
「そうですね」
「組合が人を探してくれているんだけど、どうなっているか分からないな」
「この後、時間があるのなら向かってみますか?」
「セオさんを組合のグレゴリーさんに紹介するのもいいかも、今後組合から素材を仕入れるなら、顔合わせしておいた方が良さそうだ」
「そうして頂けるなら、私も嬉しいです」
「後は何かあるかな?」
「エドさん、大事なことが残っております」
「え?」
何だろう?
必要なことは全て洗い出したつもりだったが、何かあっただろうか?
「すいません、セオさん分かりません、忘れていることは何でしょうか?」
「商会の名前ですよ」
「あ、そうか、すっかり忘れていました」
「名前が決まらないと書類が出せませんからね、辺境伯が後ろ盾なので、すぐ受理していただけますが、出さない限りは受理しようがないですから」
「そうですね」
「はい」
商会の名前って急に言われても思いつかないので、聞いてみることにする。
「商会の名前って普通どういう付け方をするんですか、思いつかなくて」
「そうですね、立ち上げた人の名前が多いですかね」
「名前ですか」
俺の名前はなんか恥ずかしいので個人的に却下だ、ドロシーでも良いがドロシー商会になんか違和感が。
迷って周りを見るとベスに目が止まって、ベスに聞いてみる。
「ベスの名前を借りていいか?」
「え?私ですの?」
「俺は自分の名前をつけるのが抵抗があって、ドロシー商会よりエリザベス商会の方がなんか響きが好きで」
「私は良いですが、ドロシーは宜しいの?」
「ドリーは、薬屋さんがいいな!」
「そうですか」
あれ?
ドリーの中では薬屋をやるのが決定事項らしい、ベスも違和感なく受け入れている。
魔法使いをしながら薬屋をできるだろうか、最悪こぢんまりとやればいいか?
「それじゃ、エリザベス商会で良いのかな?」
「私は問題ありませんわ」
「うん!」
商会の名前が決まったところで、セオさんがベスに声をかける。
「エリザベス様、本当に宜しいので?」
「私の名前ですもの良いと思いますわ」
「それは、そうですが…」
「辺境伯の後ろ盾があると見せつけるのに、丁度いいですわ」
「それは確かに、変な考えを起こすものはいなくなるでしょう」
「なら問題ありませんわ」
何となく語呂で決めてしまったが、確かにベスの名前を使うのは軽率だったかもしれない、トリス様に許可を求めるべきだろう。
「俺が言い出したことだけどベス、やはり一度トリス様に許可を求めた方がいいかもしれない」
「エドがそう言うなら。問題ないと言うと思いますが、お母様に聞いておきますわ」
「お願いします」
セオさんは安心したようで話してくる。
「では、商会の名前は許可が出ましたら、エリザベス商会にしましょう」
「それで、お願いします」
これで忘れていることはないだろうか、セオさんにも確認する。
「これで忘れていることは、ありませんかね?」
「私が分かる範囲だと、ないと思いますよ」
セオさんの返答に安心する。
次は組合に行って、グレゴリーさんにセオさんを紹介しに行こう。
「それでは組合に行こうと思うんですが、セオさんは問題ありませんか?」
「ええ、問題ありませんよ」
ベスに声をかけてから、屋敷を出ようと思う。
「ベス、今日はありがとう」
「いえ、私こそポンチョありがとうございます、嬉しかったですわ」
「作った甲斐があったよ」
「大事にしますわ」
「また違う服も考えておくよ」
「ええ」
ベスは本当にポンチョを喜んでくれたようで、俺も頑張って作った甲斐があった。
その後、ベスも俺たちと組合に行きたそうにしていたが、メイドさんからこの後予定があるし、外出許可がないとと言われて諦める。
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