騎士とお母さん
ベアトリス様はベスの護衛の兄弟が、どういう事をしているかまで知っているのか、凄いなと思っていると。
「エドワード、それで商会を立ち上げても作る人が居ないとダメですが、どうするつもりです」
「それも薬師組合が探してくれています」
「人数が必要でしょうから、私も探しておきましょう」
「ありがとうございます。分業にすれば計る人混ぜる人にできるとは思うので、人を集めやすくなるかなとは思ってます」
「面白い考えですね、それならば探せる人材も増えそうです」
分業制はまだないのだろうか、それとも珍しいだけなのかは分からないが、一番大変なかき混ぜる力があれば解決する。
計るのも教えれば覚えられるだろうし、慣れている薬師見習いなら難しい作業ではないはずだ。
どう生産していくかは話せたし、商会を立ち上げることもほぼ決まったので、香りをどうするか尋ねるべきだろう。
「商会のことはほぼ決まったと思うので、香りの話をしたいのですが」
「そういえば、好みに合わせられると言っていましたね」
「はい、好みの精油があればそれを使えば少し匂いが変わりますが、そのまま使えますし、今回俺とドリーで作ってきたものもあります」
「そうですか、では作ったものを見せてもらいましょう」
メイドさんが移動する時に精油も持ってきたようで、すぐに準備してくれる。
並んだ精油を混ぜてないものと、混ぜて作ったものを説明していき、ベアトリス様は混ぜた物の、香りを確認していくようだ。
「どれも良い香りですが、二つ特に気に入りました」
「ドリーが作ったの!」
「あら、そうなの?」
「うん!」
ベアトリス様が選んだ精油は、どちらもドリーが作り出したもので、ドリーが喜んでいる。
失礼にならないかと思ったが、ベアトリス様は気にした様子がなく、俺は安堵する。
「ドリーは上手に精油を調整するのですね」
「楽しいの!」
「そうですか、それは良いですね」
「うん!」
「そう言えばこれは、ベスが好きそうな香りですね」
「それ、ベスが選んだの」
「あら当たりましたか、これもドリーが作ったのですか?」
「それは、にーちゃなの」
「あら、エドワードも上手に作るんですね」
「うん!」
ベアトリス様は子供好きなのか、ドリーとの相性がいいのか分からないが、お互いに楽しそうに会話をしている。
二人は楽しそうに会話した後に、ベアトリス様は真面目な顔で。
「ドリー、また遊びにくる事を許します」
「いいの?」
「ええ、それと私のことはトリスと呼ぶ事を許します」
「トリスさま?」
「ええ」
思った以上にベアトリス様とドリーは打ち解けたようだと思っていると、急に呼ばれる。
「エドワード」
「はい」
「出身の村に調査が行ったことも報告を受けました」
何の事かと思うが、冒険者ギルド職員のライノがケネスおじさんのために用意した、冒険者の調査団の事を言っているのだと理解する。
思い出していると、ベアトリス様は続けて話しかけてくる。
「調査が終わってから判断しようと思っていましたが、二人と話して気が変わりました、後ろ盾となり学べる場を用意しましょう、好きな時に屋敷に来なさい」
「え?」
俺はベアトリス様に言われた事が、理解できなく混乱していると。
「エドワードも私の事はトリスと呼ぶ事を許します、エドワードの事は今後エドと呼びますので」
「トリス様?」
「はい」
これって普通のことなのかと周りの様子を見てみると、皆驚いているのでやはり普通のことでは無いようだ。
「エド、今後は出自はなるべく言わないように」
「今まで話した時も、秘密にしてくれるように言ってから、話すようにはしてましたが」
「ならば良いですが、今後は特に貴族には言ってはいけません」
元々説明するのに致し方がない場合でしか話さなかったし、秘密にする事を基本的にお願いしていた。
しかしトリス様の注意で貴族には特に言うなと言われたが、そもそも会う機会がないと思うのだが。
「貴族には、そう出会わないと思うんですが」
「屋敷に出入りすることで会う可能性があります、メガロケロスの領地出身では無いのは問題になる可能性があるのです」
「そう言われると、屋敷に来ることで会うことも有るんですかね?」
「ベスの事もありますが、結構な頻度で来てもらうことになると思います」
「魔法を覚えるまでは毎日通うことになるとは思いますが、それ以外にもと言うことですか?」
「そうです、学べる場と言いましたが、貴族としての知識を授けましょう」
「貴族としての知識ですか?」
俺は平民だし…あれ、俺って平民なんだろうか?
自分の身分って聞いた事がない、とりあえず今聞く話でもないので、後でエマ師匠に聞いてみよう。
身分的にどっちにしろ貴族では絶対ないので、貴族の知識が必要だとは思えないのだが?
「俺に何故、貴族としての知識を?」
「将来その気があれば、ベスの護衛として騎士として、叙爵したいと思っているからです」
「俺が騎士って、そもそも可能なんですか?」
「エドは可能です、もし騎士にならなくても、魔法使いは貴族について知っておくと将来助かりますよ」
「魔法使いって、貴族について知っておいた方がいいんですか?」
トリス様は言い難い話だったのか、促された様子のエマ師匠が代わりに答えてくれる。
「エド、魔法使いが一番呼ばれるのは貴族だから、お金払いもいいけれど相手によっては無茶も言われるの」
「魔法協会が守ってくれると、説明された気がしますが?」
「協会が守ってくれるけど、その場での対処方法を知ってるのと、知らないのとでは、上手くその場を離れられるか違ってくるわ」
「揉めた時のその場での対処ですか、確かに覚えないと大変なことになりそうだ」
「エドの場合はベアトリス様の後ろ盾があるから、多少のことはどうとでもなると思うけど、後ろ盾を頼るのなら知識はあった方が良いわ」
「そう言うことですか、分かりました」
俺が納得すると、トリス様がどうするか聞いてくる。
「では、エドどうしますか」
「貴族としての知識を学ぼうと思います」
「ベスの騎士はどうしますか」
「受けたいとは思いますが…」
「何か心配なことがあるのですか?」
俺はベスの鍛錬を見た時から、戦ったらベスの方が強いと思っており。
ベスの方が強いと言うか迷っていると、トリス様に促され言うことにする。
「トリス様、俺はベスより弱いと思います」
「それに関しては頭の痛い問題なの、同年代の子供だとベスの方が大半強いわ」
「そうなんですか、貴族とかなら勝てるのが居るのかと思ってました」
「いえ、今のところ性別関係なしに全て打ち負かしています」
トリス様の本当に頭痛の種だったのか、本当に困った様子だ、俺は困りつつも。
「騎士見習いというか、もう少し様子を見てもらえませんか」
「それで構いません、今すぐに騎士にする予定では元々なかったですし」
「はい」
「それとドリーには、令嬢としての知識を学んでもらいます」
「ドリーは騎士ではないんですね」
「ベスの二の舞にはしたくありません」
「えっと…」
俺は何を言っても破滅する気がして言葉に詰まると、トリス様が話を続けてくれる。
「ドリーは素直で良い子に育っていますから、教えて行けば立派な令嬢になるでしょう」
「ありがとうございます」
「どうしてエドがお礼を?」
確かに俺がお礼を言うのは変だったなと思っていると、ドリーがトリス様に説明し始める。
「ドリーは、にーちゃとずっと一緒にいたの」
「どう言うことです?」
もしかして、トリス様は話を聞いたと言ったが、俺とドリーが育児放棄されていたことを、知らないのかも知れないと気づく。
「俺とドリーは親から放置されていたので、村人に助けられながらですが、二人で生きてきました」
「何ですって、ベス聞いておりませんよ」
「お母様伝え忘れました、ですが聞かれたのは村を出た経緯だった気も」
「確かにそう言ったかも知れません、村の調査について先に聞いていたので、ベスに聞いたのは再確認のためでもあったから」
「だとしても、お母様に全て報告すべきでした」
「いえ、私もまさかそんな状態だったとは、思いもしませんでした」
お互いに勘違いをしていたようで、ベスとトリス様の反省会となってしまった、そんな二人をドリーが励ます。
「ドリーは、にーちゃがいればいいの」
「ドリー…」
トリス様は、俺とドリーを抱き寄せて頭を撫でる。
「ドリー、エド、これからは私のことを母だと思って頼ってください」
急展開すぎて俺は戸惑うが、ドリーも同様のようで戸惑った様子で。
「お母さん?」
「はい、ドリー」
ドリーはトリス様に強く抱きつく。
地球の記憶がある俺と違って、ドリーには親が必要だと思っていたが、親なんて用意しようと思って用意できる物ではない。
俺が親代わりと言っても歳も近いし限界がある。
親ができるのは予想外の出来事であるが、ドリーにはとても良いことだろう、だがトリス様は予想外すぎる。
そんなことを考えていると、トリス様に呼ばれる。
「エド」
「はい、何ですか」
「エドも」
「え?」
「さあ」
「お、お母さん?」
俺はそう呼ぶと、トリス様は楽しそうに笑った後に。
「エド、悪ふざけが過ぎました、普通に呼んで良いですよ」
「では、トリス様と」
「ええ」
ちょっと恥ずかしかったので助かった。
「エド、本当に大変だったでしょう、自分だけでなくドリーまで」
「ドリーは俺の妹ですから、それに村人が助けてくれました」
「その村人は、どうにかしてくれなかったのですか」
「村長に色々言ってくれたのですが、無理だったのです」
過去あった事や、アルバトロスへくるまでの経緯を改めて説明すると、トリス様は不思議そうに。
「よくそれで村長をやってられますね。村長は基本世襲制とは言え、領主が解任権や任命権を持っていますから、そこまで酷いと解任されそうですが」
「やって来れているのは不思議です。ただ領主が解任権って言うのは、よく分からなくて」
「解任権や任命権などは、今度講師を用意するので教わりましょう」
「はい」
「それにしても不思議です、税を納めていれば問題なしとしていたんでしょうか。ターブ村の領主は男爵ですが、そこまで酷い噂は聞かないのですが」
どうやら村長はトリス様だと解任するに値する人物だったらしい、何故村長で居られるのか不思議そうにしている。
「調査が終われば分かる事でしょう、今日のところはエドとドリーの出自はこのくらいにしましょう」
俺とドリーの出自の話は終わり。
その後は俺とドリーの勉強をいつ始めるかは、講師の問題もあるので後日となった。
トリス様は今日のところは、これで終わりにするようで。
「では、本日はこれで終わりましょう、次回は追って連絡いたします」
「はい」
「エド、ドリーまた今度」
「はい」「うん!」
ベスは残るように言われたので別れ。
俺たちは部屋を出て、今日のところは帰ることになった。
帰りの馬車で俺はトリス様との会話で、気になったことをエマ師匠に聞いてみる。
「エマ師匠、質問良いですか」
「良いですよ、エド」
「俺の身分ってどうなっているんですか、平民になるんですか、難民で王国民でないとか、ないですよね?」
「エドはリング王国民ですよ、魔法協会で登録して居ますからね」
「良かった」
「ちなみにリング王国では魔法使いは、魔法使いという身分です」
「魔法使いは、魔法使い?」
魔法使いは、魔法使いだけど?
どういう意味なんだと思っていると、エマ師匠が答えてくれる。
「そのままの意味なのですが、魔法使いという地位です」
「魔法使い、という地位ですか」
「魔法使いは職業ではないのかと、違和感があると思いますが、地位的にも中途半端な地位なのです」
「どう中途半端なんですか?」
「平民にどちらかと言えば近いけれど、認められた場合は貴族になりやすい位置、
と言えば良いのかしら」
貴族になりやすいと言われて疑問に思う、貴族とは血統で決まるんだと思って居たのだが、違うのだろうか。
「それって良いんですか、貴族って血統で決まるのかと思ってました」
「リング王国では少し違います、他国ではエドの言う通り、血統で決まる国が大半だと聞いた事がありますね」
「リング王国が変わってるんですか」
「そうらしいです。リング王国の歴史の話になるらしく、私も詳しい理由までは知りませんが、かなり昔から魔法使いは魔法使いらしいと、私も習っています」
「なるほど、ちなみに貴族の魔法使いはどうなるんですか」
「貴族は両方が適用されるらしいと、聞いた事がありますが、詳しくは知りませんね」
「貴族は両方なんですか、不思議ですね」
「そうね」
疑問が解けたのでエマ師匠にお礼を言う、今度はエマ師匠が俺に質問してくる。
「エドは、ベスの騎士になるのは良かったのですか?」
「放って置けないのもありますけど、ベスと一緒にいるのは楽しいですから」
「それなら良いのだけど…」
「エマ師匠?」
迷った様子のエマ師匠が話を続けてくれる。
「私がベスを説得する頼みを受けたから、エドが大変な目に遭ってしまっているので、無理をしていないかと」
「それなら心配しないでください、アルバトロスに来てから俺は楽しいですよ」
「本当ですか?」
「はい、ターブ村では一部の村人に良くしてもらって居ましたが、限界はあったので」
「そうですか、それなら良いですが」
「ええ本当に楽しいですから、ドリーもそうだろ?」
「うん、たのしい。ドリー、お母さんまでできたの!」
ドリーの中ではトリス様をお母さん決定らしく、俺とエマ師匠は顔を合わせた後、お互い遠い目になる。
確かに俺は無理はしてないけど、何でこうなった?
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