子供のドラゴンとメガロケロス
俺とベスの婚約を発表して、街を練り歩いてから数日。
俺とベスはお世話になった人たちにお礼を言ってまわっている。
今日はガーちゃんたちにお礼を言うため森に向かう。俺とベスはお礼が目的だが、子供を見たいと多くの人が一緒に行動することに。
その中には一緒に来て良いのかちょっと謎な人まで含まれている。
「ベス、ウィリアム王太子殿下も一緒に来て良かったの?」
ベスは相変わらず以前と同じようにポンチョを着て動きやすい格好をしている。とはいっても冒険に行くわけではないため、赤みが強い金髪は下ろされており、縛ることが多いため癖のついた髪はゆるく巻いている。
髪の毛と同じ色の毛が生えたライオンの耳と、尻尾は髪同様に綺麗に手入れされている。
婚約してもベスとの距離感はそう変わらないが、最近はは尻尾を俺に絡ませてくる。元々あったものでもないのに器用だ。
「私やリオも王族ですし、王太子殿下だけダメというのは無理ですの。それに、ドラゴンやメガロケロスには普通会えませんし、王族としての知見を深めると言い訳できますわ」
「言い訳なんだ」
「言い訳ですわ。護衛もダンジョンの管理者たる私たちがいるのですから、王太子殿下の護衛たちも問題があるとはいえませんの」
王太子殿下が好き勝手に動き回っているのは、俺たちが関係していたのか……。
リオは王太子殿下の息子で、ドリーがリオの婚約者。そんな関係なので、俺も王太子殿下とは無関係とはいえない。王太子殿下に危険が近づいたら確かに守るな。
「王太子殿下はルーシー様に任せますわ」
「一緒にルーシー様も来てたね」
「ドラゴンとメガロケロスの子供が見たいようですわ。王太子殿下はそれについてきたというのが正しいと思いますの」
ルーシー様が全然帰ろうとしないので、王太子殿下が迎えにきたらしいからな。立場上、政略結婚ではあると思うのだが、随分と仲のいい夫婦のようだ。実際今も二人で馬車に乗っている。
結構な列の馬車を連れ、俺たちはガーちゃんたちが住む森へと進んでいく。
森の脇にできた村にはオジジやケネスおじさんの他、ターブ村から移住した人。それに貧民街から移住してきた人たちが住み始めている。
「エド」
「ケネスおじさん、俺とベスの婚約発表した時は見にくてくれてありがとう」
ケネスおじさんは黒髪で黒目。身長も普通の人より若干高く、百八十センチほどあるのではないだろうか。
そんなオレも、ケネスおじさんといつの間にか同じ視線になっている。随分と身長が伸びていたようだ。
「皆が見に行きたがっていたからな。それに、ワシらもレオン様からも招待されておったしな」
「ケネスおじさんは村長として忙しいんじゃ?」
「忙しくはあるが、オジジや旧友に手伝ってもらってどうにかしている」
森の脇にある集落はアルバトロスの一部としてではなく、今は独立した集落として作ることになった。将来的にアルバトロスが森近くまで発展した場合は、吸収されることになるらしい。とはいっても随分先のことだ。
集落を村とすると決めると当然村長が必要になった。最初はレオン様の家臣から村長を選ぼうとしたようだが、ダンジョンのゴタゴタや、アルバトロスの好景気もあって出せる人員いなかった。
ターブ村からの避難民に村長をやらないかという話が回り、オジジは年齢から辞退、回り回って最終的にはケネスおじさんが村長になったとレオン様から後から聞いた。
「ところでエド、村の名前に何か案はないか」
「ケネス村は嫌なの?」
「光栄だが、自分で開拓した村ではないのがな」
「確かに」
俺に命名の才能はないしな。
レオン様は村の住人が気に入る名前にしたいようだが、村の名前を決めろと言われても困っているようだ。今のところは名無しの村だが、最終的にはレオン様がどうにかするだろう。
「ガーちゃんたち、ドラゴンとメガロケロスはどんな調子?」
「定期的に手入れをしてもらうため外に出てきている。それと、エドの婚約で表に出て以降、親と共に子供も外に出てくるようになった」
「子供も出てきてるのか」
「親と一緒だし問題ないだろう」
普通の人が勝てる相手ではないしな。
魔法使いでも俺たち以外だと負けるだろう。
俺とケネスおじさんの話を隣で聞いていたベスが、王太子殿下の相手をしていたレオン様の元に歩いて行った。今聞いた内容を伝えるためだろう。
レオン様はライオンの獣人で、ライオンの顔と赤い髪が印象的な人だ。身長も大きく二メートル近い。
レオン様とケネスおじさんが話し始めた。どうやら子供が外に出てきているのを再確認しているようだ。ケネスおじさんから報告はされていたのだろう。
話が終わったところで、森の中に入る。
「ガーちゃん!」
「ガー」
ドリーがガーちゃんに抱きつく。
ドリーは俺と同じ銀髪に金髪を足したような髪を最近腰近くまで伸ばした。ガーちゃんに抱きつく様は、管理者になっても今まで通りに天真爛漫といった感じだ。
ドリーに続いてリオがガーちゃんの元に行く。リオは白金のような髪を肩より少し上ほどまで伸ばしている。
俺もドリーとリオに続いてガーちゃんに近づく。
ガーちゃんとメガロケロスが一緒にいるのだが、二体ともどこか疲れたような表情をしている気がする。ガーちゃんはなんとなくだが、俺が助けたメガロケロスは何故か表情がわかりやすい。
メガロケロスは歳を重ねるにつれ、落ち着きある性格になったので、そう表情に出ることも減っていたのだがな。
「ガーちゃん、この間はありがとう」
「ガー」
ガーちゃんは気にするなというように、俺の言葉に返事してくれた。
フレッドを経由して話すと、どうも子育てが大変なようで助かったと言われる。ドラゴンとメガロケロスたちは、子供が元気いっぱいに動き回るので大変なようだ。
「だから森の外まで子供が出ているのか」
「子供たちは、森の外が楽しかったようですな」
ガーちゃんたちは、大人だけ手入れをしてもらいに外に出ている。それを子供たちは羨ましがり、大人たちが折れて一緒であればと連れ出しているようだ。
そんな元気いっぱいの子供たちは、遊んでくれる人間がいっぱいきたことで、元気に動き回っている。相手をしているうちの一人であるルーシー様は、人間とそう大きさの変わらないドラゴンの子供と遊んでいる。
ドラゴンの子供はガーちゃんたちを小さくしたような存在で、小さめの草食恐竜といった感じだろうか。違うのは草食ではなく雑食なため、牙が生えている点だろう。
「ルーシー様、よく平気だな」
「魔法格闘術を使っているのだと思いますぞ」
「使わないと相手するのは無理か」
「体を鍛えることの多いツヴィ王国の魔法使いでも、流石に女性ですからな」
ドラゴンの子供と遊んでいるルーシー様を、王太子殿下は見守っているが動揺しているように手を動かしている。王太子殿下はツヴィ王国の魔法を使えないんだろうから、近づけないのだろう。
ガーちゃんと喋りながらいると、後ろから小突かれた。
誰かと確認すると、メガロケロスの子供が興味深そうに俺を見ている。大人のメガロケロスは馬以上の体格だが、子供は普通の鹿程度にしか大きさがない。斑点のある体毛を撫でながら話しかける。
「遊んで欲しいのか?」
「チィー」
独特の鳴き声で小鹿は鳴いた。
遊んで欲しいのだと理解して、遊ぶのにちょうど良さそうだと持ってきたボールなどで遊ぼうとする。しかし、子供とはいえ、普通の鹿程度には大きいため力が強い。子供なので大人と違って手加減がうまくできないため、吹き飛ばされそうになる。
魔法を覚える前は相手するのも大変だったが、今は魔法が使える。ルーシー様と同じように魔法格闘術を使って遊びに付き合う。
小鹿は飛び上がって喜び始める。すると、近くにいたドラゴンの子供も集まってきた。結局皆で、子供の面倒を見ることとなる。
俺とベスはお礼が目的だったが、皆はドラゴンとメガロケロスの子供に会いにくるのが目的だったので問題はないだろう。人間側が息切れするほど面倒を見たところで、子供たちは疲れたのか昼寝を始めた。
ドリーたち女性陣が、花冠を作って寝ている子供達を飾り付けている。寝ている姿はとても可愛らしい。
「ガーちゃんが元気いっぱいって言った意味がわかったよ」
「そうですな」
満足してくれたのは嬉しいが、俺でもとても疲れた。魔力は膨大な量があるが、体力と魔力は別物だからな。皆を魔法で回復させておく。
「楽しかったですわ」
「ベスは平気そうだね」
「この程度平気ですわ」
さすがベス。鍛え方が違う。
俺もダンジョンで相当鍛えたと思うのだが、ベスの体力には追いつけていなかったようだ。もしかしたら、心構えとかそういうものかもしれないが。
ベスと話していると、ガーちゃんとメガロケロスが近づいてきた。
「ガー」
「ガーちゃんが、とても助かったと言っておりますな」
「それは良かった」
一緒に子供たちと遊んでいたフレッドがガーちゃんの言葉を訳してくれる。
しかし、今までも子供が生まれていたとは思うのだが、なぜそこまで大変そうなのかがわからない。フレッド経由で理由を尋ねると、どうも今までここまでの数、子供がいたことがなかったようだ。
子供の数が多いことでドラゴンやメガロケロスはお疲れのようだ。
ガーちゃんたちの子育てはとても大変だとよく分かった。俺の目的であるお礼も、子供の面倒を見たので多少は返せたのではないだろうか。
「ガー」
「またお待ちしておりますと言っておりますぞ」
ガーちゃんたち大人のドラゴンとメガロケロスは、人が来るのを望むほどには子育てが大変なようだ。
「俺たちは来られないかもしれないけど、他の人に言っておくよ」
「ガー」
大変とはいえ、ドラゴンやメガロケロスに会いたいと思う人は多いだろう。俺たちはアルバトロスを近々離れるので、人選はレオン様に任せる。
協会の魔法使いたちあたりなら、研究目的もあって遊びにくるのではないだろうか。女性も多いし、魔法使いは身分が保証されているしな。
眠った子供たちが起きないようにと、俺たちは撤収することにする。
クオリティがちょっと足りてない気がするのですが、没にするのも勿体無いと投稿。
新作『かけらの渇望 〜疎まれた転生者は安住の地を求める〜』の連載を7月15日より開始しました。
良ければ読んで頂けると嬉しいです。
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