ダンジョンの終着点
ベスと話し合ったように、よく食べて交代で寝る事を繰り返してく。
二回目に寝て起きた時に気づいたのだが、この階層には夜が来ないようだ。夜が来ない階層なんてあったのか。今までは空が徐々に暗くなって行ったので時間の経過がわかりやすかった。
この階層は常に時計を確認して交代時間を確認している。
夜が来ないのはジャイアントアントが天井を破壊しているからか、元々夜がこない階層なのかは分からない。
だがカゲロウを夜に見分けたり、明かりを灯せばカゲロウが寄って来ることは予想できるため、夜が来ないのはありがたい。
フレッドとアンが寝ている時に、ドリーが驚いたような声を出した。
「にーちゃ、酸素の量がとても増えてる」
「え?」
慌てて魔道具を確認すると酸素の量がすごい量になって魔道具の色が赤に近い色になっている。酸素が多ければ多いほど赤くなるので、かなりの酸素量だ。
慌てて窒素の量を調整して増やしていく。
寝ているフレッドとアンも調整するために起こして、自分で窒素の量を調整してもらう。
酸素量が増えてからも交代で眠って魔力を回復させながら、カゲロウから逃げながらも順調に川を進んでいくと、周囲の森の木が巨大化している事に気づいた。
「なんか木が大きくない?」
「カゲロウも見えなくなってきましたわ」
それ以外にも川から泡が多く上がってきており、ジャングルから別の森になってしまったように見える。
視界が木で塞がれているため警戒しながら進んでいくと、川の終着点に見える場所に辿り着いた。
川の終着点は洞窟になっており、船に座っている俺たちなら問題なく通れそうだが、立っていると通るのが難しそうな大きさで、随分と小さな洞窟になっている。
洞窟には鍾乳石のようなものが生えており明るくなっている。その見た目がどことなく湖まで繋がる洞窟に似ている気がする
「エド、どうしますの?」
「いつも通っている湖に通じる洞窟に似ている気がするんだ。入ってみようか」
「言われてみれば水没していなければ似ているかもしれませんわ」
寝ていたフレッドとアンを起こして注意して洞窟内に入っていく。
洞窟に入るとドリーが酸素量を確認する魔道具を俺に見せてくる。魔道具は真っ赤になっており、慌てて俺は窒素の量を増やす。
増やしたところで皆を確認すると、皆もしっかりと量を調整しているようだ。
洞窟内を慎重に進んでいくと、随分と先が長い事に気づいた。引き返そうかと迷っていると、洞窟が少し広くなってきたところで、ドリーが今度は酸素が減ってきていると言う。
俺も魔道具を確認すると酸素の量が確かに減っており、少しずつ窒素の量を減らしていく。
洞窟が広くなるにつれて徐々に酸素の量が適正な量に変わっていった。
「普通に呼吸ができる量になったみたいだ」
「なぜ急にここまでの変化が起きたんですの?」
「分からないけど、雪山のことを考えると湖が近いのかも」
徐々に川の流れが穏やかになっており、俺たちは魔道具を使って前に進む事にした。
洞窟内を船で走っていくと、浅くなって行っている事に気づいた。更に進んでいくと、湖が普段ならある場所だと思われる場所に辿り着いた。
普段階段がある小島がある場所には階段はなく、巨大な門のようなものが置かれている。
「階段じゃない?」
「あれは……」
「ベスは何か知ってるの?」
「あれがダンジョンの出口。あの向こう側は管理者がいる場所に繋がっていますわ」
ベスの話に驚いて再び門を確認する。本当に大きく天井に近いほどの大きさだ。天井の高さを測るのは難しいが、十メートルや二十メートルよりは高いと予想できるので、門は二十メートル以上かもしれない。
船を進めていくと、門には文字のようなものが書かれているのが見える。だが俺には門に書かれていることが読むことができない。
小島に船をつけると、俺たちは島に上がる。船がどこかに流れて行かないように、島に持ち上げて島の上に置いた。
船の解体もあるが、先に門を皆で確認しにいく。
「これがダンジョン最後」
「ええ。私も本でしか読んだことがありませんでしたわ」
皆、無言で門を眺める。
首が痛くなるほどの高さがある門はどのような素材で出来ているかも分からず、不思議な事に薄らと発光している。
どのくらい門を眺めていたか分からないが、船を解体してしまう事にする。
専用の道具を使って船を固定していた杭を抜いていく。船の解体が終わると板を縛って持ち上げ門のそばまで運ぶ。
門に近づいて気づいたが、こんな巨大な物をどうやって開けるのだろうか?
「ベス、これってどうやって開けるの?」
「手を添えれば開けられると書かれていましたわ」
せっかくなので皆で同時に門に触れようと、六人並んで門に触れる。
門が力を入れている訳でもないのに、ゆっくりと開いていき、門の先が見えるようになった。
門の先は、花や緑あふれる場所でありとても綺麗な場所だ。
「エド、船を門の先に持ち込みますわ」
「分かった」
門の先は広い空間が広がっており、誰かがいる様子はない。
解体された船を中に運び込んで、全員が門から中に入ると、門は自動的に閉まり始めた。
船を門の前に置いて、このダンジョンの終着点を調べるために見て回ることにした。
ダンジョンの終着点は思ったより広く、果実の生った木まで生えている。更に調べていくと、門と似たような物が二つあり、一つは通ってきた門と同様の大きさで、一つは半分以下の大きさで身長の三倍近い大きさの五メートルほどの門だった。
「管理者がいるのは小さい方の門ですわ」
「小さい方なんだ」
小さな門は大きな門同様に手を添えれば開いていき、門の中が見えるようになる。洋館の玄関のように広間になっており、階段や廊下が見え、更に複数の扉が取り付けられている。
門の先は不思議と俺は知っている雰囲気のある場所だった。
何故知っているのか考えていると、広間を歩いていた人物が振り返った。それは神みたいなものと言って、俺を転生させた人物であるショッツだ。
ショッツは俺たちのことを見ると、驚いたように目を見開いている。
俺たちが門の中に入ると、ショッツは近寄ってきた。
「見た事がない顔だ。初めてたどり着いた人かい?」
「今たどり着いたよ。でも俺はショッツに会った事がある」
「会った事があるって事は僕が転生させた転生者かい?」
「一応そうだよ」
「一応?」
俺はショッツに転生させられた時の記憶を語ると、ショッツの顔が強張って青白くなっていくのが分かった。
転生を失敗したことで記憶が記録となってしまって、人格が継承されていない事をショッツに伝えると、頭を下げられた。
「申し訳ない。僕のミスだ」
「転生者としての自覚はないけれど、俺は俺だよ」
「正直かなり痛いミスなんだが、話が長くなるから座って話そう」
そう言うとショッツは雑多に色々な物が置かれた廊下を移動していき、奥の部屋に連れてこられると、他にも人が忙しそうに動いているのが見える。
ショッツは大きめの机の前で止まると、ショッツに勧められて俺たちは椅子に座る。
俺が周囲を見回していると、ショッツがこの場所について教えてくれた。ここはダンジョンを管理する場所で、監視と管理をしている場所だと言う。
「この場所の事は詳しくは後で話そう。まずは僕のミスについて説明しようか」
最初の失敗だからよく覚えているとショッツが言って話し始めた。転生先をミスした事に気づいたショッツは俺の転生を止めようとして、転生のためのシステムを止める事ができなかったと言う。
しかも最初の転生作業だったために、かなり説明不足な部分が多かったとショッツから謝られた。
「正直ここに辿り着けると思えなかったよ。よく辿り着けたね?」
「仲間が良かったからかな。偶然が重なっただけだと思う」
「転生させても運ばっかりは変えられないからな」
「そうなのか?」
転生で変えられるのは肉体的な構造に限っていて、記憶力や運動能力、そして魔力については変えられるが、運のように肉体と関係ない部分は変えられないとショッツが説明してくれた。
俺はドリーの運の良さは変えられた物かと思っていたが、ドリーの運は自分で掴んだ物だったのか。宝箱を見つけたり、ガーちゃんと仲良くなったり、あれは自前の運だったのか……。
「随分と強そうな仲間だね。本当に魔力量が皆凄い。転生させたのは田舎の村だった気がするんだが?」
「生まれた村からは移動したから」
「移動?」
俺とドリーが育った育児放棄された環境を説明して、結果的に村を出た事を伝える。ショッツは再び顔を青くして謝ってきた。
育った環境を思い出した事で、俺に双子が居ないのと、妹のドリーは関係あるかと尋ねたい事を思い出した。謝るショッツに聞きたい事があると伝える。
ショッツは転生のシステムと双子はセットになっているので、双子でないのはおかしいと言う。自分の失敗の可能性があると、ドリーを少し調べさせて欲しいと言う。ドリーが許可をすると、ショッツが魔法を使い始めた。
「生まれた後に判別するのは難しいから絶対ではないんだけど、妹さんは本来双子だったと思う」
「やっぱりそうだったのか。それも失敗が影響したのか?」
「そうだと思う。重ね重ね申し訳ない」
ショッツは自身の失敗の事もあると、本来管理者になってから説明する転生のシステムについて詳しく教えてれた。
転生のシステムは異世界から魂を呼び寄せ、この世界新たに生まれ変わらせる。呼び寄せる魂は、ダンジョンを攻略する事を強く望む物を、時代問わずに呼び寄せている。
魂を生まれ変わらせる場合に限っては能力を弄れるため、転生者には共通の能力を付与されている。
「さてここまで聞いて、転生者なら変だと思わないかい? 何故この世界の人間を転生させないのかってさ」
「確かに、何で転生させないんだ?」
「以前やって酷い事になったんだ」
大量に管理者を用意してダンジョンの安定化を図ろうと、転生させる時に子供も能力を大量に操作した結果、転生させた子供はダンジョンを目指さず、国を起こして覇を唱えて大陸を戦乱へと誘った。
ダンジョンの管理者はそれでも数を増やしたが、大陸は混乱した。結果的に長い目で見るとダンジョンの管理者となる者が減ってしまい、この世界の者の能力を弄って転生させることは禁止された。そうショッツは説明してくれた。
「例外として転生者の双子以外はね」
「どちらかが転生者か双子のどちらかが管理者になれば良いだったっけ?」
「そう。結局どちらも管理者にはなるんだけど、転生者はダンジョンの攻略に進む事が多いからさ。僕みたいな例外もいるけど」
驚いた事にショッツは転生者だと言う。
詳しくショッツに事情を聞くと、戦うことへの限界を感じたのだと言う。この先のダンジョンはこれまでと大きく違って、別の世界に繋がっていると思った方が良いのだと言う。
「別の世界?」
「そっちの話もあったな。転生者にしか分からない感覚で話してしまうよ」
鶏が先か、卵が先かと、進化論がある。ダンジョンの場合は、ダンジョンが先に有って、そこに居たダンジョンを管理する者が偶然繋げたの先にあったのが、俺たちが今住んでいる世界だとショッツは言う。
ショッツは続けて話し続ける。
ダンジョンを管理する者は一つの世界に繋げただけでは満足せず、ダンジョンを広げ続けていった。それが多くのダンジョンの入り口だった。管理者は入り口を増やし続けた結果、予想外の場所へとダンジョンを繋げてしまう。管理者を殺す事ができる魔獣が居るような世界だ。予想外の事に管理者は対応する事ができず殺されてしまった。
「結果的に管理者がいなくなっても、強力な魔獣が居る世界とは繋がりっぱなしになってしまった訳だ」
ショッツに説明されて以前トリス様に説明されて事を思い出した。凶悪な魔獣はダンジョンの氾濫後の魔獣が多く、ダンジョンの奥から来て居ると言っていた。
つまりダンジョンを最初に管理していた者を殺したのは溢れた魔獣なのか。
ショッツの言い方ではダンジョンが先にあって世界に繋がったのなら、住んでいた世界はダンジョンとは別にあったはずだ。そうなると管理者が何者なのかという話になってくる。
「最初の管理者は何者だったんだ?」
「僕も聞いた話から推理をしただけだから分からない。少なくとも言語は別の物を使っているし、別の生物なんだと思う。分かりやすく言えば神かな?」
「神か」
確かにダンジョンを作って、世界を繋げるなんて事ができる人は居ないだろう。




