ジャイアントアントの増え方
俺たちは一度協会に戻って、ジョーに色々と相談したい事はあるが、まずは位置情報を入れた方位を指す魔道具を渡す。
「魔道具は稼働はしておるようじゃな」
「確認もしてきたけど、問題は無さそうだったよ」
「それではこれを元に量産をしておくように言っておくぞ」
続けて俺はジャイアントアントが居た階層についてジョーに説明をすると、ジョーがため息をつく。
「また気体を調べる事になるんじゃな?」
「それもなんだけど、酸素がどの程度あるかを調べるための魔道具を作らないと危険かも」
「いつかは作ることになると思っておったんじゃが、予想以上に早かったぞ」
酸素は濃ければ濃いほど良いものではなく、昆虫が大型化するのも酸素を処理するためだ。人間の場合でも体の大きさで扱える酸素の量は決まっており、緊急時以外で酸素の量を増やすのは良くないようだ。ジョーにも酸素の説明をする。
「エドが酸素の量を測りたいと言っていた意味が分かったぞ」
「多すぎても少なすぎても問題になる。薬と同じだね」
「薬なら調整できるが、息を吸うのは調整できんぞ」
「そうなんだよね」
ジョーに次の階層について今わかっている事を話すと、レオン様にも同じ事を説明しにいくとジョーに言って、協会を出て屋敷へと向かう。
屋敷に向かう道中にベスが話しかけてきた。
「イフリートがあの場所を通ったとすれば、ジャイアントアントも死んでいるはずですが、何ヶ月も経っているとはいえ、短期間で数が増えた可能性がありますわ」
「確かに。でもイフリートがどの程度倒して回ったかは分からないな」
「そうですわね。ワームのようにイフリートに攻撃をしなければ、反撃をされない可能性もありますわ」
というかイフリートがいる階層に辿り着いていないが、イフリートはどの階層にいる魔獣だったのだろうか? かなり奥から出てきたのは分かっていたが、次の階層の何処かではない事を祈る。
酸素が大量にある場所でイフリートと戦って勝てる気がしない。
「今の階層でイフリートと戦いたくはないな」
「酸素が多いと火力が上がるんでしたわね」
「そう。イフリートが強くなると思うよ」
屋敷に着くとメイドさんの案内でレオン様に会いに行く。
部屋の中に入ると、レオン様にジャイアントアントが出る階層について話をしてく。
「分かってはいたが、想像以上に大変そうだな」
「はい。他の冒険者が辿り着いた場合には、注意をしないと危ない場所のようです」
「それは私からギルドに伝えておく。ジャイアントアントの数を減らすには女王の個体を減らすしかないかもしれないな」
子育てをする特殊な魔獣らしいが、女王を倒したところでリスポーンされたら意味がない気がするのだが、女王はリスポーンされるのだろうか?
「女王はリスポーンされるのですか?」
「ジャイアントアントに関してはかなり特殊な生態をしているようで、ジャイアントアントが一定数の群れになると女王が生まれるようだ。しかもジャイアントアント自体が元々集まる習性があるようで、女王になりやすいようだな」
「女王自体がリスポーンされる訳ではないんですね」
それだと溢れた時に女王だけ倒す意味はないと思って俺はレオン様に尋ねると、女王になるまでには時間がかかるので、女王になる前に群れを殲滅するのが重要だとレオン様から教えられた。
「女王を倒すのは一定数の群れになると、ジャイアントアントは群れを分ける習性があるからのようだ。ピーター殿と資料を調べなおしたらそう書かれていた」
「ピートと調べてくれたのですか、ありがとうございます。しかしジャイアントアントは厄介な習性を持っていますね」
「かなり厄介な魔獣のようだな」
よくそこまで詳しい情報があるなと疑問に思って聞いてみると、ジャイアントアントをずっと調べていた転生者が居たらしいと、レオン様から教えられた。ジャイアントアントを調べていた転生者か。
「ダンジョンを踏破するだけではなく、魔獣の生態まで観察する転生者がいるんですね」
「変わった人物だったようだ。調べた結果を資料にまとめたのは別人のようだな。まとめた人物が残した転生者の言葉は、ジャイアントアントはレベリングの効率が良い、らしい」
「レベリング」
レベリングについて思い出すと、転生者はやはり転生者だったかもしれない。レベルなんて概念はないが、魔獣を倒せば魔力量が増えるので、強くはなっていく。あれだけのジャイアントアントを倒せば速く強くなりそうだ。
「研究者のような性格ではなかったようですね。魔獣の討伐を効率化したかったようです」
「そうか。効率が良いと言うのだから、やはりそちらか」
「一応俺たちも明日魔力が増えたか確認します」
レオン様からも魔力量を報告する事をお願いされ、俺たちは了承する。今日かなりの数を倒したのだから、かなり増えていそうだ。
「明日以降も階段付近のジャイアントアントを順番に討伐して、女王を見つけようと思います」
「根気よく徐々に減らすしかないだろうな」
「はい。魔道具の製作もあるので、徐々に進めます」
レオン様にジャイアントアントの素材が大量に余りそうなので、必要なら好きに使っていいと伝える。レオン様から何か使い道がないか考えてみると言われた。
「無理にとは言わないが、屋敷に泊まって魔力を確認してくれると嬉しい」
「分かりました」
ドリーがそれならと、アンとベスを誘って一緒に寝ることにしたようだ。
屋敷で食事を食べていると、ピートも一緒だったのでピートに資料を調べてくれたお礼を言った後に、ジャイアントアントの階層について分かった事を伝えた。魔道具ができたら作り方と、魔道具をピートに渡すことを約束した。
「エド、助かる」
「ピート気にしないで、事前に情報が多いから役に立つ情報が多いんだ。先にジャイアントアントが出たダンジョンに情報と魔道具を持って帰ってよ。同じ理由で体調不良になるのなら安全にダンジョンを攻略できると思う」
「分かった伝えるように手配をする」
ピートに転生者が言っていたレベリングについて説明をすると、苦笑しながら頷き、転生者は転生者かっと呟いた。確かにダンジョンの攻略を優先の転生者らしい考え方ではある。
「それでもどうにか出来る目処は立ったし、事前情報があるだけ助かるよ」
「私としては転生者の言葉や、調べた結果を書き残した者を褒めたいな」
「それは確かにそうかも」
食事が終わると俺はドリーと別れて一人で部屋に戻る。
起きて体調を確認すると若干ではあるが魔力が増えている。俺の魔力量で増えていると分かるのだから、かなりの量が増えているのかもしれない。
皆にも尋ねようと支度をして部屋を出る。フレッドが朝食を食べていたので挨拶をした後に尋ねる。
「魔力が増えているのが分かったんだけど、フレッドは?」
「拙者も増えていましたな。イフリートを除けば一番増えたかもしれませぬ」
「そんなに増えてるのか」
フレッドが不思議そうな顔をするので、俺の魔力量が多すぎて増えたのが若干にし感じないと伝えると、フレッドは納得したように頷いた。
「エド殿は魔力が増えすぎですな」
「そうかもしれない。これって皆が均等に増えているならアンが凄いことになっているんじゃ?」
「均等かは分かりませんが、拙者とエド殿との差を考えると、一番増えていそうですな」
俺たちの次にリオが起きてきたので、魔力について尋ねると分かる程度には増えていると言う。リオは俺より魔力が少ないが、フレッドよりは多いので魔力の増えた量が少なく感じているようだ。
「ドリーたちは今日も起きてくるのが遅いかな」
「そうですね。予定も決めていませんでしたし」
「確かに。ダンジョンに行ってジャイアントアントを討伐するくらいかな?」
「それと魔道具の製作でしょうか」
確かにジョーに任せきりにするのもどうかと思うので、手伝いに行くべきだな。
ジャイアントアントの討伐はダンジョンを歩く時間の方が長いくらいなので、普通なら魔道具の製作もできるが、今日はどちらかになりそうだ。
「ドリーたちが起きてくるまで屋敷にある素材で色々と試してみるか」
「良いですね」
屋敷にある素材を確認すると、ジャイアントアントの素材が運び込まれていた。
レオン様に自由に使って良いと言ったが、俺たちが倒しすぎたので屋敷にも早速運び込まれたのか。
「ジャイアントアントか。この外骨格って意外と硬いよな」
「そうですね。エドが作った弓で貫通しないんですから、下手な鉄より硬いのでは?」
「しかも軽いから加工できれば防具として良さそうだけど」
リオと一緒にジャイアントアントの外骨格を持ち上げて、硬さや重さを確認する。硬さはかなりものでナイフでは軽く触った程度では傷すら付かない。軽さはかなり軽く、何か近いものは無いかと触っていると、カーボンのような軽さだと感じた。
「加工次第では本当に防具に向いていそうだな」
「ちょっと触ってみます?」
「そうしよう」
使い道はないかもしれないが、ジャイアントアントの外骨格を曲げようと力を入れてみるが、フレッドに手伝って貰っても曲げる事は出来ず、外骨格は折れるように割れてしまった。
「力では無理か」
「そのようですね」
「薬品をかけて柔らかくしても脆くなりそうだし、最悪溶けそうだな」
リオから一度やってみようと言うので、手元にある薬品を順番にかけていくと、ほとんどが変化がなかったが、一つの液体がジャイアントアントの外骨格を溶かした。
「やっぱり溶けてしまったか」
「ダメですか」
このまま捨てるのは危険だと中和するために別の薬品を入れる。そこでベスたちが起きてきたようで部屋に入ってきた。
「エド、何をやっていますの?」
「魔道具作りをしてた」
「酸素を測るための魔道具ですの?」
俺は最初はそのつもりだったが、途中でジャイアントアントの外骨格が気になって、外骨格を弄っていたとベスに伝える。ベスが何かできたか尋ねてきたので、失敗したと言う。
「魔道具作りはすぐには結果は出ませんわね。それではお父様に魔力量について報告をしに行きたいですわ」
「分かった」
レオン様の元に行く途中にアンの魔力量を聞いてみると、かなりの魔力量が増えているようだ。やはり魔力量が少ないほど魔力が増えて感じるのかもしれない。
「エド、私たちが起きるのが遅くなってしまいましたが、この後はダンジョンに行くので宜しいですの?」
「ジャイアントアントを倒すだけなら今からでも間に合いそうだね」
「それではお父様と話をした後にダンジョンに向かいますわ」
レオン様の部屋まで来ると、ベスが先頭で部屋の中に入っていく。ベスがレオン様に挨拶をした。
「ベス、魔力はどうだ?」
「私は増えておりますわ」
俺たちは一人ずつ魔力量がどの程度増えたかを報告する。元の魔力量が少なかったアンが一番増えていると感じられるようだが、全員魔力が増えているとは実感しているようだ。
「全員が魔力が伸びている事を考えると、転生者が効率が良いと言った意味がわかるな」
レオン様の意見に俺は同意する。選んでいるのだと思うが転生者はダンジョンに特化しているので、ダンジョンに関しては間違えることは少ないようだ。
「ダンジョンに行った後にどの程度魔力が増えたかを体感で良いので、書き残しておいて欲しい」
「分かりましたわ。それでは私たちはダンジョンに向かいますわ」
「今からか、気をつけるのだぞ」
装備は持ったままだったので、そのままダンジョンへ向かう。雪山の湖の階層まで一気に移動する。警戒しながら湖まで出ると、数体の魔獣がいるだけだ。
「一日でも階段から出てくるのか」
「早いですわね」
数は本当に少ないので、魔法で倒してしまう。魔獣を回収すると階段を降りていく。階段を降り切ったところにはジャイアントアントが溢れており、大変な量だ。
「一日でこれだけ増えるのか」
「仕方ありませんが、嫌になりますわね」
「階段周りを倒してしまうか」
近づかせないように魔法でジャイアントアントを倒し続ける。ジャイアントアントを倒し切ったところで、酸素を薄めるために魔法を使う。
「俺は平気だけど魔道具の試作のために窒素の魔法を使ってみるかな」
「私は違和感を感じたら使いますわ」
ジャイアントアントを倒しながら女王を見つけるために移動をする。女王を見つける目的と同時に地図を書いているので、歩く速度はかなり遅い。
「全然前に進まないな」
「ジャイアントアントを回収するには丁度いいですわ」
ベスの言う通りだし、急いでも魔道具が出来ない限りは先に進むのが無理だと、諦めてゆっくり探索する。
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