ウェンディゴ対策の魔法薬
ギルドでライノとウェンディゴについて話し合った後に、屋敷に戻ってフレッドの体調を確認した後に、レオン様の部屋に向かって事情を説明した。
「ウェンディゴの攻撃はそのような物だったのか」
「俺の見立てはそうだと思います」
「エドが提案したように魔法薬が欲しいな」
「今後のためにも試作をしてみますが成功するかは分かりません。普通の人に飲ませれば過剰摂取で毒にもなりますし、扱いには注意が必要ですよ」
魔法薬ができても薬師以外の一般人に売る場合は、雪山に向かう人に限られる事になるだろう。フレッドが回復するまでには完成しないと思うが、ドリーと試作をしてみよう。
「魔法薬の試作は頼みたいな。しかし、ダンジョンはフレッドが回復するまでは行けないようだな」
「はい。その間にドリーと魔法薬の試作をしようと思います」
レオン様への報告が終わったところで、レオン様の部屋から退室した。俺はドリーとアンに相談して屋敷で魔法薬を試作してみるが、やはり今までに無かった物なのでドリーでもすぐに魔法薬にするのは難しいようだ。
「やっぱり難しいか」
「魔法薬にするための素材が足りないと思うの」
「素材か。ジョーに相談してみた方がいいな」
「うん」
フレッドをアンに任せて、俺とドリーは協会に向かい、ジョーを尋ねる。ジョーに事情を説明すると手伝ってくれるようだ。
「ドリーでも一度で作れんとはのう」
「必要な素材が足りてないと思うの」
「そちらか。ワシの部屋にある物で足りれば良いんじゃが」
ジョーの部屋にある物で試作をしていくが、ドリーが欲しい素材は無かったようだ。
「ダメなようじゃな」
「組合で探すしかないかな。必要な素材が珍しい物じゃないと良いんだけど」
「そうじゃな。どちらにしろ時間が時間じゃ、組合に行くのは明日にした方が良さそうじゃ」
「本当だ。ジョーが助かったよ」
試作を長時間やっていたようだ。ジョーの部屋から自室に戻って就寝する。
組合にある素材を使って試作をするが組合にある素材が多い事もあって、三日で魔法薬が出来上がる。
「早くできたのは良いんだけど、試しに飲めないんだよな」
「そうじゃな」
「ウェンディゴに触られた状態なら死ぬような物は入ってないんだけどな」
フレッドも随分と調子が良くなって、フレッドで試すのが怖くどうしようかと思っていたところで、丁度ウェンディゴに攻撃されたと言う人が出てきたので、試して貰ったのだが、魔法薬を飲んだ瞬間吐き出した。
「まずっ!」
「あー、味も確認できてなかったから…」
俺も絶対に飲まないように口をつけて吐き出してみるが、魔法薬は凄まじい味だ。これは飲めなくて当然だ。試して貰った人には謝って、普通のビタミンを摂取して貰った。協会に戻って魔法薬を加工する事にする。
「すっかり忘れてたよ。一部のビタミンは不味いから味を感じないように加工してたんだった」
「魔法薬をさらに加工するしかないようじゃな」
「今のままじゃ飲めないもんな」
もう1日かけて魔法薬を錠剤に加工して物自体は完成した。後は誰かに使って貰う必要があるのだが、それはそのうちで良いだろう。
「そろそろフレッドも回復したかな?」
「見に行ってきたらどうじゃ?」
「そうするよ。ついでにレオン様に魔法薬を見せてくる」
「説明はエドに頼むぞ」
俺とドリーは協会を出て屋敷に向かい、フレッドの前にレオン様に報告をした。
「もうできたのか」
「はい。味さえ良ければもっと早く完成していたんですが」
「薬はまずい物だろ?」
「何事にも限度があるので、作った魔法薬は飲めた物ではありませんでした」
「そこまでか」
完全に薬が完成したかは、ウェンディゴに攻撃された者が試さなければ分からないが、ウェンディゴに攻撃された者なら毒にはならないだろう。ウェンディゴに攻撃された時間で量が変わってくると予想して、一錠の量は少なめにしている。
「後は試すだけだな。それはこちらに任せるといい」
「お願いします」
レオン様に薬を渡して俺は部屋を出る。フレッドがどうしているかを確認しに、俺とドリーがフレッドが借りている部屋へと向かう。
「フレッド、起きてる?」
「起きていますぞ」
部屋に入ると、フレッドはすっかり元気になっているようで、お茶を飲みながら食事をしていた。
「元気そうで良かったよ」
「昨日には元気になったのですぞ。ですが、もう一日は安静にしろと言われましてな」
「それでお茶を飲んでいるのか」
「エド殿の予想通りに、食べれば食べるほど調子が良くなるので、食べれる限りは食べていますぞ」
フレッドの調子を聞いていると、フレッドが姿勢を正して、改めて俺に声をかけてきた。
「エド殿」
「どうしたの?」
「拙者やりましたぞ」
「えっと?」
「アン殿とお付き合いする事になり申した」
最初何を言われたのか分からなかったが、フレッドの言葉を反芻することで理解できる。
「フレッド、おめでとう!」
「拙者、アン殿がダンジョンの管理者になるまでは無理かと思っていましたな」
「俺もそう思ってたよ。元々の身分の差が大きいからな。アンは気にしそうだし」
「アン殿に二回も命をかけて守られて心配になったと、なんと言っていいか分からない理由でしたがな」
そういえばイフリートの時や、今回はアンを守るために死にかけているな。フレッドは俺たちの盾役なのもあって、命をかけて守ることがどうしても多くなる。アンはそこが心配になったのか……なんとなくだが、アンもフレッドと付き合うのは恥ずかしかったのではと予想してしまう。流石にフレッドには言えないな。
「なんにしても良かったじゃないか」
「エド殿、感謝致す。色々と気を使ってくれていたのは分かっていましたぞ」
「やっぱりにフレッドには気づかれてたか」
フレッドは貴族として生まれて生きてきたのだから、俺以上に気を回すのはうまいだろう。なので俺が気を遣っていたのは気づかれていたようだ。
「それで元気になったと言ったら、安静にするようにと怒られましたな」
「それはそうだろうね」
「なので大人しくしておりますぞ。最初から喧嘩をしたくはありませんからな」
俺よりドリーが詳しくフレッドとアンの話を聞きたいようで、質問をしてフレッドが恥ずかしそうにしながらも詳しく話している。フレッドは元気だが、あまり居るのも悪いかと部屋を出てベスの元へと向かう事に。
「エマ師匠と違ってフレッドは歌にはならなそうだな」
「歌にはなりたくないって、アンは気にしてたよ」
「アンは俺と同じ感覚なのか。ドリーはアンがフレッドをどう思ってたか知ってたのか」
「うん。三人で泊まった時に聞いたの」
なるほど。三人で泊まった時に夜遅くまで起きていたと言っていたし、そんな話をしていたのか。ベスと会うと、早速ベスがフレッドとアンの事を報告してくる。
「さっきフレッドから聞いたよ」
「ようやくアンが受け入れる気になったようですの」
「みたいだね」
俺とドリーが魔法薬を作っていた間、アンはフレッドをずっと看病していたと、ベスは教えてくれた。今更だが、魔法薬を作っている間にアンが協会にくる事はなかったな。
「看病するために、アンもずっと屋敷に泊まっていましたわ」
「そうだったのか。俺とドリーは魔法薬作るのに必死で気づかなかったよ」
「急ぎでしたから仕方ありませんわ。魔法薬があるのと無いのとでは雪山を越えられる確率が違いますわ」
魔法薬ができても珍しい素材で作っては意味がないと、グレゴリーさんに手伝って貰ってアルバトロスで手に入りやすい素材で魔法薬を完成させた。もっとも三日で魔法薬を完成させるのは、ドリーがいなければ不可能だっただろう。味はすごい物が出来てしまったが…
「完成して良かったよ。まさかあそこまで不味いものができるとは思わなかったけどさ」
「そこまで不味かったんですの?」
「飲むのは無理だね」
「そこまでですの」
錠剤にして味がしないように加工したとベスに伝える。今後は何錠か各自で持って貰うつもりだと話す。
「分かりましたわ。ところでダンジョンに行くのはいつから再開する予定ですの?」
「フレッドに聞き忘れたんだけど、アンからは何か聞いていない?」
「アンも判断ができないと言っていましたの」
フレッドの状態は栄養失調に近いが、少し変則的なのでアンでも予想ができなかったか。フレッドなら自分で動けば違和感を感じられるだろう。
「元気そうだったから問題はなさそうだけど、フレッドに明日動いて貰って確認しようかな」
「分かりましたわ。フレッドとアンに伝えておきますわ」
ベスと話をしていると、ドリーが今日はトリス様と泊まりたいと言うので、トリス様に許可を取ってドリーはトリス様と泊まる事になり、俺も屋敷に泊まる事になった。
朝起きて、朝食時にドリーとトリス様が楽しそうにしており、昨日も楽しめたようで良かった。フレッドも一緒に朝食をとっており、今日動けるようなら明日か明後日にはダンジョンに行くのを再開したいと伝える。
「ダンジョンについては聞いておりますが、今日からでも行けそうですぞ」
「それは動いてみてからにしよう」
「了解致した」
食事が終わった後に少し休憩してフレッドの動きを確認する。見ている分にはフレッドの動きはいつも通りに見える。
「フレッド、どんな感じ?」
「本当に少しですが違和感はありますぞ。これは調子が悪いのか、寝ていたからか判断ができませんな」
ベスに相手をして貰ってフレッドの体調の確認をすると、ベスからも若干違和感があると言う。
「若干ですが反応が遅い、と言うよりも力が入っていない気がしますわ」
「何かの栄養が足りて無いのかも」
「治ったと思っても治っていないと言う事ですの? ウェンディゴは厄介な相手ですわね」
フレッドをもう一度診察して、話を聞くと何となく不足しているビタミンが分かった。フレッドに食べると良い物を伝える。
「フレッド、あまり魚を食べなかったようだね」
「肉の方が治りが早いと思ったのですが違うのですかな?」
「間違いじゃないけど、日光に当たらなかったのもあるかも」
「確かにずっと部屋の中でしたぞ」
要らないだろうと作っていなかったが、ウェンディゴ対策には必要なビタミンだったようだ。
「予想ができたし、魔法薬にもすぐにできるかもしれない」
「魔法薬にすぐできるんですの?」
「何となくドリーのおかげで法則が分かってきたんだ」
ドリーに相談すると作れそうだと言うので、明日もう一度フレッドの状態を確認をする事になった。
「ではまた明日集まろう」
「申し訳ない」
「フレッドが謝る事じゃないよ。アンを守って負傷したんだから」
皆と別れて俺とドリーは屋敷から出て、まず必要な食材を調達し、組合に行って素材を買う。買った素材を持って協会で魔法薬を試作する。
「できた!」
「魔法薬にはなったか。後は効果があるかどうかだな」
「うん」
一日かけて作ったので、明日またフレッドに確認をした後に、まだ栄養が不足しているようなら使ってみる事にする。
次の日俺とドリーは魔法薬を持って屋敷へと向かう。フレッドに体調を聞いて、まだ不足しているようなので魔法薬を飲んでもらう。
「過剰摂取になってしまうから、少量ずつ試して欲しい」
「了解致した」
かなり少量ずつにして作っているので錠剤の大きさは小粒だ。フレッドが二錠飲んだところで、動きを確認し始めた。
「良くなった気がしますぞ」
「見てるだけじゃ分からないな」
「確かにそうですな。申し訳ないですが、誰か相手をしてもらえますかな?」
ベスに相手をして貰ってフレッドの動きの確認をすると、ベスからもフレッドの動きは問題はないと言う。アンが安心したように「良かった」と呟いた。
「お騒がせ致しましたな」
「無事完治したようで安心したよ」
皆でフレッドの完治を祝う。フレッドがあまりにも皆から祝われたので、照れたのかダンジョンをいつから行くか俺に聞いてくる。
「明日から再開しても良いんだけど、どうやって雪山を攻略するかだな」
「ウェンディゴは飛んでいましたな」
「そうなんだよね。どの程度の飛行能力があるのか分からないけど、フレッドみたいに落ちたら大変な事になる」
「ですが飛ばないであの山を登るのは大変ですぞ?」
ウェンディゴの弱点があれば良いのだが、ライノもレオン様もそのような説明はしなかったので、対策になるようなものは無いと予想できる。皆にもウェンディゴが出た時に何か覚えていないか聞いてみる。皆で話していると、フレッドが何かを思いついたようだ。
「関係あるか分かりませぬが。拙者、反対方向を向いていたのにウェンディゴの気配を感じましたぞ」
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