ダンジョンの雪山
レーヴェから頼まれたビタミンの抽出は、トリス様とルーシー様の登場で予想外の方向に進んでいったが、魔道具で抽出できることもあって、薬師に頑張ってもらう事になった。
「予想外に一日休みが増えたけど、どうにかなった」
「エド、あれは休みでしたの?」
「そう言われると違う気がする」
グレゴリーさんに会いにいって取りすぎてはダメな量を説明したり、抽出方法を一日がかかりで行ったので、結構大変だった。休みの間にアンの魔法使いとしての勉強が終わって、しかも魔法格闘術を使えるようになったので、アンも普通以上の魔法使いになっている。
「今日からダンジョンに行くから確認するよ。今日は洞窟部分の魔獣を倒す予定、そのあとは前回のダンジョンと同じように空を飛んで階層を抜けるつもり」
「分かりましたわ」
ライノから新しい階層の助言と地図を貰って、一日は洞窟分を攻略して、二日目に飛んで階層を攻略する。短期間で三層分の階層を攻略した。
次の地図を貰いにライノの元に向かうと、地図が全てはないと言われる。
「地図がない?」
「ああ。アルバトロスのダンジョンで最前線だ。エドたちは随分と早くここまで辿り着いた」
「思った以上に早く追いついたな」
「驚きだよ」
アルバトロスの冒険者は次の階層の地形を攻略する事ができず、ライノも含めて全ての冒険者が攻略を諦めているとライノが教えてくれた。ここまで辿り着けた冒険者が諦めるような地形とはどのような物なんだろうか?
「ライノ、どんな地形なの?」
「雪山だ」
「雪山? ダンジョンの中に?」
「ああ。山自体かなりの標高だ。しかも山の上に次の階層に行くための入り口があると予想されている」
標高が高くても俺たちなら飛んで移動できそうだが、頂上まで飛ぶのか魔獣によっては飛んで移動できるか分からない。出てくる魔獣についてもライノに尋ねると、クマ、ユキヒョウ、ウェンディゴだとライノが教えてくれた。
「クマとユキヒョウは分かるけど、ウェンディゴって?」
「厄介な魔獣だ。人型なのだが、姿が決まっていないし、見えなくなってしまう」
「見えなくなる?」
「白い半透明な存在なのだが、半透明から更に透明に近くなれる。しかも白いので見つけるのが難しくなる」
イフリートのようにかなり特殊な魔獣のようだ。ライノは更にウェンディゴの攻撃が特殊で体力を奪われると言う。
「体力が奪われる?」
「正確には分からないのだが、攻撃を受けると体力を奪われたとしか言えない状態になる」
「力が抜けるってこと?」
「近いが、少し違うのだ。一度ウェンディゴから攻撃を受けると、魔法で回復しても暫く調子が悪くなってしまう」
正直話を聞いていても分からない事が多い。ウェンディゴはかなり特殊な魔獣のようだ。ライノがウェンディゴに関しては分からない事が多いと言う。
「ダンジョンの魔獣として珍しいのだが、ウェンディゴに関しては冒険者を殺そうとはしない。というよりも死ぬような攻撃ができないと予想されている」
「それなら山頂を目指せるんじゃ?」
「体力を奪われた状態で登頂できるような山ではないのだ」
冒険者が皆止まるだけあってかなり厳しい階層のようだ。俺たちもしっかりと準備をして向かうべきだな。
「雪山に向かうまではいつも通りの洞窟なの?」
「ああ。洞窟はクマとユキヒョウだが、ウェンディゴに比べたら倒しやすい」
「クマとユキヒョウは倒すのが大変そうだけど」
「今まで倒してこれたなら余裕だ。洞窟で出会うクマとユキヒョウは、雪山に比べたら倒すのは簡単だな。それと洞窟は地図がしっかりとあるので、それは渡しておく」
ライノから地図を受け取り、クマとユキヒョウとどのように戦うか確認する。クマに関してはオークに刺さる弓ならば簡単に倒せるとライノから教えられる。
「オークよりは柔らかいので遠距離から倒せるなら簡単だ。近距離に近づかれたら逆に倒すのは大変だとは思うが、エドたちなら問題なく倒せるだろう」
「魔獣だから魔法を使ってくるんじゃないの?」
「使ってはくるが、力押しなのでそこまでだな。雪山で出会うと走る速度が速いのと、魔法を使ってくるので厄介なんだ」
ユキヒョウについては動きが早いのと、洞窟の壁を使って立体的な動きをするとライノが教えてくれた。
「ユキヒョウについては、雪山で雪に同化しているので気づいた時には横にいる」
「やっぱり雪山で注意すべきなのか」
「そうだ。クマやユキヒョウと一緒にウェンディゴが出てくると大変だ」
いつにも増してライノが詳しくダンジョンの説明をしてくれた。それだけ危険な場所という事なのだろう。俺たちはライノにお礼を言って、ダンジョンに向かう事にする。
「今回の階層は大変そうだ」
「やることは変わりませんわ」
「そうだね」
飛んで雪山を越える事ができればいいが。とりあえず、今日はクマとユキヒョウを倒して様子見だ。ダンジョンを進み、クマの階層へと辿り着く。
「階段を降りたところには居ないのか」
「雪山へ挑戦する人が多く、クマやユキヒョウを倒して進んでいるのだと思いますわ」
「なるほど。進んでみようか」
洞窟を進んでいくと、遠目にクマを見つける。矢が当たる距離まで近づいたところで、弓を引こうとすると、クマがすごい勢いで走ってくる。まっすぐ俺たちに走ってくるクマに弓を引くと当たるが、一発では死なないようで、皆で弓を射る。
「オークより倒すの難しくないか?」
「オークより随分と強い魔獣ですから当然だと思いますわ」
「それもそうか」
クマを確認すると、オークと違って体は柔らかいようだ。矢が深くまで刺さっているが、クマの脂肪が多いので急所にあたっていなかったのかもしれない。正面から走ってこられると狙える急所が少なく、倒すのが難しいようだ。
「脂肪が防御になっているのか。剣や槍でも同じように倒すのは大変そうだ」
「ライノが言っていたように弓が一番簡単そうですわ」
弓で倒すなら矢は使い回したい、矢を抜いてみるともう一度使えそうなので、クマはできるだけ弓で倒す事にする。クマの次はユキヒョウを倒すためにダンジョンを進む。
「階段まで来たけど、クマの数は想像以上に少なかったな。やっぱり倒してる人が多いのかな」
「そうだと思いますわ」
そのまま俺たちは階段を降りてユキヒョウを探す。クマと同様にユキヒョウも倒されているようで、すぐには見つからない。
「いた」
「洞窟だと分かりやすいですわね」
「雪の中だと全然見えないんだろな真っ白だよ」
普通のユキヒョウなら黒か灰色でヒョウ柄の模様があると思うのだが、見つけたユキヒョウは真っ白に近い。ライノから立体的に動くと言われたので、弓はアンだけに任せて、俺は剣を構える。
「魔獣なのにかなり警戒心が強いようですね。では弓を射ります」
アンがそういうと矢が飛んでいく。ユキヒョウは矢を簡単に避けると、俺たちに向かって走ってくる。壁を使って走ってくるので弓を当てるのは難しそうだ。フレッドが走ってきたユキヒョウを受け止める。
「攻撃は軽いですな」
「でも独特な魔法を使うみたいだ、風の魔法か」
ユキヒョウの魔法はうまく一瞬空中で止まったり、空中でもう一度飛び上がったりと、動きが読みづらく攻撃が当てづらい。魔法を奪い取って機動力を減らすとフレッドがユキヒョウを抑え込んだ。その瞬間ベスが槍をユキヒョウに刺した。
「ベス殿、明らかに力が落ちましたぞ」
「止めを刺しますわ」
ベスが槍を急所に突き刺すとユキヒョウの動きが止まった。
「ユキヒョウを倒すのが楽だと言っていた、洞窟でこれなのか」
「そうですな。拙者は魔法を使われると動きが読めませんが、魔法を奪えば動きを読めるかもしれませぬ。」
「分かった。次は最初から魔法を奪ってみるよ」
もう一度ユキヒョウを探して倒し方を確認すると、フレッドの言った通りに魔法を奪えばかなり簡単に倒せるようだ。だが、ユキヒョウがどのような魔法を使うか予想するのが難しいため、魔法を奪うのに魔力量がそこそこ必要になる。
「洞窟内だと三種類くらいの魔法だと思うんだけど、予想が難しいな」
「いっその事、ドラゴンの魔法で無理やり倒してしまいますかな?」
「最悪そうするけど、魔法を使った先に誰かが居たら怖いんだよね」
「確かにそれは怖いですぞ。魔法が当たれば人は死にますな」
ガーちゃんたちが使っていた光線の魔法は一応完成した。だが威力がありすぎて、使い所が非常に難しい魔法になってしまった。ダンジョンの壁を削るのだからどれだけ威力があるのか分かる。
「人がいないのを確認できれば使ってもいいかな。ダンジョンの壁に向かって打つ事ができる場合とかさ」
「この階層は人が多そうなので使い所が難しそうですな」
「そうなんだよね」
一度だけユキヒョウの向こう側にダンジョンの壁があったので、光線を使ってみたが一撃でユキヒョウを倒せた。
「分かってたけど余裕だな」
「威力がありすぎですな。魔法が当たった部分が消滅しておりますぞ」
「ユキヒョウでこれなんだから、人間には絶対当てたくないな」
ユキヒョウの倒し方を模索しつつも進んでいくと、階段を見つける。一度雪山がどのような物か確認をするために階段を降りていく。階段を降り切ったところにあったのは、かなりの高さの山だ。
「たか……」
「聞いていた以上ですわ」
これは飛んで頂上に行くのも厳しいかもしれないと感じるほどの山だ。だが普通に登るなら何泊かしないと登りきれない気もする。これは冒険者たちが進めなくなるのも分かる。
久しぶりにダンジョンの中なのかと疑問に思うような景色を眺め続ける。皆が驚きから回復して動けるようになったらユキヒョウの階層へと戻る。
「飛んで行くのも難しそうだけど、歩くのはもっと難しい気がするな」
「明日で山頂まで行くのは無理だと思いますの」
「そうだな。明日は山の調査になりそうだ」
「その方が良さそうですわ」
明日どうするか決まったところで、ダンジョンを出てアルバトロスに帰還する事にする。
「アルバトロスに帰ってから、皆でお父様とお母様に報告をしますわ」
「分かった。報告するのはやっぱり雪山が特殊だから?」
「それもありますが、私が知らない事を知っている可能性がありますわ」
「確かにレオン様なら報告を受けていそうだし、過去の記録を持ってそうだ」
明日も調査をする事になったので、レオン様から色々と話を聞きたいと、採取はしないでダンジョンを真っ直ぐ出る事にした。出会ったユキヒョウやクマを倒しながら進み、ダンジョンの外に出る。解体場で解体をお願いして屋敷へと戻る。
ベスが俺たちを連れてレオン様の部屋へと向かう。
「ベス、どうした?」
「お父様、雪山まで辿り着きましたわ」
「もうそこまでたどり着いたのか。随分と早いな」
「お父様が知っている事を教えて欲しいですの」
レオン様は説明する前に、トリス様やルーシー様を呼ぶと言うので、俺たちは待つことに。トリス様とルーシー様が部屋に入ってくると、トリス様がレオン様に尋ねている。
「レオン、どうしました?」
「ベスたちが雪山まで到達したようだ」
「想像以上に早かったですね」
「ああ」
ルーシー様は雪山がどのような場所か知らない様子なので、レオン様が雪山がどのような場所かをルーシー様に説明している。話している内容は俺たちが聞いたような内容で新しい情報はなかった。
「お父様、雪山について他に何か知りませんの?」
「これ以上だと山の裾野は全て調査しているので山頂が次の入り口がある有力候補になっている」
「山頂に入り口があるとは聞きましたが、全ての裾野を調べたんですの?」
「そのようだ。山頂に行くよりは簡単だし、楽な道がないかと随分と調べたようだ。結局どこから登ってもそう変わらないとなったようだが」
確かにあの山を山頂まで登るのに楽な道を探すのは当然か。そもそも裾野に入り口があれば山頂まで登る必要はないのだし、全て回って最初に入り口を探しそうだな。
「それと雪山のために装備が色々と開発されている。協会で聞いてみると良い」
「ジョーに聞いておきますわ」
「そうすると良い。申し訳ないが、雪山について話せるのはこのくらいだ」
「あまり情報はないんですのね」
アルバトロスとしては雪山を踏破するのは重要事項なので、ギルドと連携をしており、ほぼ同じことしか知らないとレオン様が説明してくれた。
「後は雪山についてではないのだが、その先の話ならある」
「雪山を踏破した者はいないのではないんでしたの?」
「踏破した者はメガロケロス家が知る限りは居ない。だが、予想はできる」
「予想ですの?」
「雪山で閉じ込めないといけないような魔獣が次の階層にはいると言うことだ」
カクヨムで新作を12/1投稿し始めました。新作の題名は『妖魔の宴 警視庁妖魔局陰陽課』です。12/1の活動報告に新作のリンクを用意しました。
カクヨムでもPNは Ruqu Shimosaka で活動します。読みにきて貰えたら嬉しいです。
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