アルバトロスでの凱旋
ガーちゃんに山を削ったことを謝られたが、正直男爵は気にしないと思う。村を壊され、住人を殺されるのに比べたら山がちょっと削れたくらいは気にならないと思う。
一応ベスに聞いてみようと、ベスがまだお礼を言われているか確認すると、お礼は言われてないが話はしているようだ。俺が様子を見にきたのをベスが気づいたのか声をかけてきた。
「エド、どうしましたの?」
「いや、邪魔したら悪いから後でいいよ」
「重要な話は終わりましたから問題ありませんわ。それより紹介しますわ」
ベスから紹介されたのは男爵だった。ベスにお礼を言っていたのはやはり、男爵だったようだ。男爵がいるなら俺からも山を削ったことを謝っておこうと、魔法で山が削れたことを話すと、初めて気づいた様子だった。
「山が?」
「あそこの山です」
俺が山を指差すと、男爵も理解したのか驚いている。男爵は山が削れたくらい気にしないが、どうやって山を削ったのかが気になると聞いてきた。俺がドラゴンの魔法で削れたと説明すると、驚いた後に納得した様子だ。
「ドラゴンにむしろお礼を言うことは可能ですか?」
「ベス、どうする?」
「構いませんわ」
男爵をガーちゃんの元に連れて行って、フレッドを経由して男爵とガーちゃんが会話をする。男爵がお礼を言って、山が削れたことは気にしないと言う。そうガーちゃんに伝えると、ガーちゃんは安心した様子だとフレッドが教えてくれた。
「ガーちゃんは苦労しているようですな」
「大変そうだよね」
群れの長というのも楽では無さそうだ。
男爵がガーちゃん、メガロケロス、にお礼を再びして移動していった。ベスも男爵と一緒に移動して行ったが、すぐに戻ってきた。
「男爵は、この村をどうするか話し合いに行きましたわ。男爵はこれから本当に大変ですわ」
「村が三つも壊されたら立て直すのが大変そうだ」
「メガロケロス家としても支援しますが、王族として王家も動くように王宮に伝えると約束しましたわ」
「それであんなにお礼を言っていたのか」
俺はガーちゃんから先ほど聞いた、メスのドラゴンが機嫌が良くなったという話をベスにすると、ベスは帰りも騎士たちにブラシで綺麗にするように伝えておくと言う。
「言わなくとも勝手にやりそうですが、騎士たちに伝えておきますわ」
「確かに勝手にやりそうだよね。ついてきた獣医も一緒になって楽しんでるし」
「ええ。本当に楽しそうですわ」
ドラゴンやメガロケロスを触る機会なんて普通はないので、獣医が喜ぶのも分かる。ベスの話にガーちゃんも喜んでいるようなので、お互いに得のある話で良いことだろう。
「ベス、ところでドラゴンの山を削った魔法なんだけどさ」
「それがどうかしましたの?」
「人間でも使えるらしいんだよね」
「使えるんですの?」
魔力量が凄い必要な事や、覚えるのが結構難しそうな事をベスに伝え、最後にドリーが魔法を覚えようとしている事を伝える。
「ドリーがあの魔法を使うんですの?」
「そうみたい。ドリーなら使えるとは思う」
「ドリーは何を目指しているんですの?」
確かに空を飛んで光線を打ち出すって、何を目指しているんだろうか。ガーちゃんの魔法を見た限りは、かなり遠距離まで魔法が継続して威力があるようだし、ドリーが使えるようになればかなり強そうだ。
「強くなるのは良いですが、使い所がありますの?」
「ダンジョンでイフリートに打ち込むとか?」
「確かに、それは良さそうですわ」
ベスが今後のダンジョンを進むためにも覚えようと言う。魔力を大量に使うが覚えることは可能なので、皆で覚える事になった。皆で練習をするが、覚えるのは難しい。
ガーちゃんの魔法を真似して魔法を使うが光っている線が出るだけで、魔力が減っていないので失敗していると分かる。
「難しいですわ」
「理解できているとは言えないからな。覚えるのは時間がかかりそうだ」
「行きと同じように帰るのも時間がかかりますし、覚えながら帰りますわ」
サイクロプスの素材が運び出されるまで魔法の練習をしていたが、誰も成功することは無かった。ベスの言うように帰りながら覚える事にしよう。
サイクロプスも片付け終わったところで、ベスが撤収の合図をして一旦クリスさんと合流した街まで戻る事になった。クリスさんはまだ街でやる事があると、別れる事になった。
「クリス、あとは頼みましたわ」
「はい、エリザベスお嬢様」
俺にもクリスさんから挨拶があって、更にクリスさんからジョー宛の手紙を預かり、ジョーによろしくとクリスさんに言われた。
クリスさんと街に残る騎士たちと別れ、俺たちはアルバトロスへ帰還する事になった。道中は行きと違って余裕を持って行動をするので、魔法を練習するのにも丁度良い。大気をプラズマ化させても危ないし、すぐに威力が減衰してしまうようだ。光を束ねたりと色々と試した結果、ガーちゃんとは違うがそれっぽい魔法はできた。
「うーん。空に向かって使ってるから、威力が分からないから成功しているのか分からない」
「エド、試しに何かに使ってはダメですわよ?」
「分かってるよ。山とか削りたくないし」
ガーちゃんが使っていた魔法を模倣するのは難しく、知識を色々と合わせって魔法を作った結果、レールガンに近い物ができた。ただ見た目は光線にはなっているのでレールガンとも言い切れず、イフリートが使った光線に近いかもしれない。知識を色々と使って作り出した魔法なので、不思議な出来になっている。
それに作る過程で全然違う魔法までできた。
「エド、それは結局なんですの?」
「花火なんだけどさ。見て楽しむ物かな?」
「綺麗ですが、魔力の無駄ですわね」
「そうだね」
火薬を考えて作り出したのだが、弾丸と銃の構造を魔法で再現すると非常に面倒な事に気づいた。銃を作れば良いのかもしれないが、イフリートに銃を使うとなれば相当な口径が必要で、だったらレールガンの方が調整が簡単そうだと切り替えた。
魔法で火薬を考えて放置するのも勿体無かったので、花火の魔法を考えたのだが、使い所はほとんど無さそうだと思っていた。
「でも何故かメガロケロスが気に入ったんだよな」
「騎士たちが機嫌取りに覚えてしまいましたわ」
「ベスも覚えてみる?」
「時間もありますし覚えてみますわ」
騎士に火薬の説明をする時に知ったのだが、実は火薬はあるようで、割とすぐに理解された。火薬は使われていないのかと聞いたところ、やはり威力が足りないとあまり使われないらしい。
上空に光を打ち出したり、花火を打っていれば目立つので、当然注目を浴びながらアルバトロスまで帰還する事になる。アルバトロスが目の前になると、テレサさんが馬に乗って近づいて来たのが見える。
「エリザベスお嬢様」
「テレサ、久しぶりですわね」
「エリザベスお嬢様、このような遠征時には、形だけでも護衛として私を連れて行くのが普通ですよ」
「……忘れていましたわ。ごめんなさい、テレサ」
テレサさんの話は出発前にした気がするのだが、ベスは忘れていたようだ。というかレオン様も忘れた可能性が高そうだな。こういう時はテレサさんを護衛に連れて行くんだな。覚えておこう。
「それと目立ちすぎです。アルバトロスでも騒ぎになっています」
「調子に乗って魔法を使いすぎましたか」
「このままアルバトロスの中を通って、エリザベスお嬢様が屋敷の前で帰還の挨拶をして、森に帰還するようにとの事です」
「分かりましたわ」
このまま森へガーちゃんたちとメガロケロスを連れて行くつもりだったが、そうは行かないようだ。移動していた皆が身なりを整えて、ドラゴンとメガロケロスを中心に隊列を組んで進み出す。
「このまま魔法を使って進みますわ」
「良いの?」
「ここで魔法を止めても手遅れですの」
「それもそうか」
俺たちが魔法の花火を打ち上げながら進むと、アルバトロスの街中から人が出てきているのか、凄い人だ。ドラゴンとメガロケロスに乗っている俺たちは目立っている。
「本当に爵位は要らないと、皆の前で辞退しておかねば不味いかもしれませんわ」
「ここまで目立つとね…」
「こんなつもりではありませんでしたわ」
屋敷の前まで進むと、屋敷の前で待っていたレオン様にベスが帰還の挨拶を大声で始めた。
「災害級魔獣の討伐完了致しました」
「ご苦労」
俺はベスの近くにいるので、ベスとレオン様が挨拶をした後の会話も聞こえる。
「ベス、後で話がある」
「分かっていますわ」
ベスとレオン様の短い会話が終わり、ベスが騎乗したところで再び隊列が進み始める。凄い量の人に見送られながらアルバトロスの街を抜ける。
「無事街から出れて安心しましたわ」
「そうだね。前を塞がれたらどうしようかと思ったよ」
森の手前まで来ると、騎士たちは全員が森に入るのが無理な事もあり、ここで待つ事になる。ドラゴンとメガロケロスも随分と皆と慣れたようで、別れを惜しんでいるように見える。
「ここまでドラゴンとメガロケロスが人に慣れると思わなかったな」
「あそこまで丁重に世話を焼いて貰えば、慣れもする気はしますの」
「そう言われるとそうか」
騎士たちを森の外に残して、ドラゴン、メガロケロス、俺たちで森の中まで進む。俺たちは普段ガーちゃんがたちが暮らしている場所まで戻って来れた。
「終わったね」
「終わりましたわ」
ようやく災害級魔獣の討伐が終わったと実感できる。改めてガーちゃんたちにお礼を言って、何か欲しい物があれば言って欲しいと伝えると、ドラゴンとメガロケロスのメスたちから定期的に綺麗にして欲しいと言われる。
「森の中に入る許可か、森の外に出てくれば、ブラシで綺麗にするようにと騎士たちに命令をしておきますわ」
ガーちゃんが今回の騎士たちなら森の中に入る許可を出すと、ドラゴンとメガロケロスのメスたちは喜んでいるようだ。
「もっと何か言って貰って良いのですが、すぐには欲しいものは見つかりませんわね。フレッド、ガーちゃんに後からでも良いので言って欲しいと、伝えて欲しいですわ」
「了解致した」
フレッドを通してガーちゃんに伝えて貰って、俺たちは森を出ることに。森を出る間に、フレッドにガーちゃんたちとの通訳のお礼を言っておく。
「拙者もドラゴンを知れて楽しかったので、気にする必要はありませんぞ」
「俺も知らないことが色々あったよ。あんな魔法使えるの知らなかったし」
「拙者も、あの魔法は知りませんでしたな」
森の外まで来ると、帰りの馬車がない事に気づく。テレサさんから馬車を呼ぶのは無理だったと言われ、どうしようかと思っていると、騎士たちの後ろに乗って移動するようにと言われて、俺たちは別れて騎士の馬に乗ってアルバトロスへと戻る。
「やはりまだ街中は人が多いようですね」
「テレサさんどうするんです?」
「なんとか通るしかないでしょう」
「大変そうだな」
騎乗しているのが騎士なのと、馬に踏みつけられたくないと、アルバトロスの住人は退いてくれるのだが、進みは遅い。なんとか屋敷までたどり着いたが、随分と時間がかかった。
「テレサ、助かりましたわ」
「いえ。エリザベスお嬢様、今日のアルバトロスの街中はこのような状態でしょうから、皆さんを屋敷に泊めた方が良さそうです」
「そうですわね」
ベスがメイドさんに部屋を用意するようにと言っている。俺としてももう一度あの道を通りたいとは思わないので助かる。
俺たちはメイドさんによって、レオン様の執務室へと通される。
「皆、助かった。あのように帰還するとは思わなかったがな」
「帰還に関しては失敗しましたわ。ですが、サイクロプスの討伐は成功しましたわ」
「それは良かった。どのような戦いだったのだ?」
俺たちはレオン様にどのようにサイクロプスとガーちゃんたちが戦ったかを伝えた。俺たちの活躍はほぼないので省略した。
「サイクロプスとドラゴンはそこまでの差か…」
「私たちは正直言えば要りませんでしたわ」
「皆が居なければドラゴンとメガロケロスは動こうとは思わなかっただろう。なので要らないという事はないが、ドラゴンの強さは想像以上だな」
俺もあのような結果になるとは思っていなかったので、ついて行った意味は考えてしまう。だが、レオン様が言ったように、少なくともガーちゃんと友達のドリーと、通訳ができるフレッドは一緒に行った方が良さそうだ。
「それで被害は?」
「男爵領の村が三つですわ。当家の騎士が死ぬような事も避けられましたわ」
「そうか。遺族には…ん? 当家の騎士は誰も死ななかったのか?」
「魔法で治せる怪我人だけですわ」
「驚きだな」
怪我人もサイクロプスが原因での怪我はないと伝えると、レオン様は再び驚いている。
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