サイクロプスの解体
俺とベスはクリスさんの案内でサイクロプスまで近づく。上空で見たサイクロプスは大きさが正確には分からなかったが、近づいてみると大きい。
「想像以上に大きいな」
「上空からだとそこまで大きく見えませんでしたが、地上で見ると大きく見えますわ」
「そうだね」
クリスさんがこれから総出でサイクロプスを部位ごとに解体して、運び出してしまう予定だと言う。
「解体をこれからやるんですか?」
「はい、サイクロプスが腐ってしまいますから。サイクロプスは素材としても重要ですが、腐れば土地を汚染しますし、魔獣が寄って来ます。サイクロプスを倒したのはドラゴンですので、ドラゴンが必要な量はお渡しする予定です」
腐る前に収納の魔道具に何故入れないのかと思ったが、ここはダンジョンではないので魔道具の中に入れれないのか。そうなるとサイクロプスを解体したとしても、かなりの重量を移動させる必要があるのか。
「ガーちゃんたちドラゴンに必要量を聞くとして、余った物はどこに運び出すんですか?」
「メガロケロス領と男爵領どちらにも運ぶ予定です。どちらにも一番近い街へと急ぎ騎士を走らせました。街から荷馬車がこちらに向かってくるかと」
「なるほど。サイクロプスの大きさからすると荷馬車が大量に必要だから、近い街全てに運び込むんですね」
クリスさんに解体の指示を任せて、俺たちはガーちゃんにサイクロプスがどれだけ必要かを尋ねに行くことにする。ガーちゃんの話をちゃんと聞きたいので、まずはフレッドを探し出すのだが、ドリーとリオにも手伝って貰って四人で探すが、簡単には見つけられない。
「フレッドどこだろ?」
「見つかりませんわね?」
「サイクロプスが邪魔で人が隠れて見えないな」
「エド、飛んでフレッドを探しますわ」
「それが良いかも」
ベスと一緒に飛んでフレッドを探すと、フレッドの装備は特徴的なため、すぐに見つかった。
「フレッド」
「おお、エド殿。ガーちゃんたちは凄かったですな」
「うん。そのガーちゃんに話がしたくて」
「拙者が必要という訳ですな」
「そういうこと、お願いできる?」
「了解致した」
ドラゴンがいる場所は分かるのだが、ガーちゃんが何処にいるか分からないので、ドラゴンが集まっている場所へと向かう。ガーちゃんのいる場所をドラゴンに尋ねると案内してくれた。
「ガーちゃん」
やはり一番最初にドリーがガーちゃんに気づいて、いつものように抱きついている。フレッドを通じてガーちゃんと話すと、ガーちゃんはサイクロプスは要らない様子だったが、周囲のドラゴンに聞いたところ、一体は食べるとの事だった。
「もっと持っていって良いけどな」
「お腹を膨らませるのに食べますが、苔の方が美味しいと言っていますな」
「好みの問題か」
「そのようですな」
ガーちゃんたちが消費するのが一体だとすると、残りは十四体で運ぶのは大変そうだ。怪我人がどうなっているか確認したら、解体を手伝った方が良さそうだ。ベスにまず怪我人を確認したいと伝える。
「魔法使いがこれだけいるので問題はないと思いますが、確かに確認をしておきたいですわ」
「次は怪我人探しかな?」
「怪我人は集められていると思いますから、騎士に聞いた方が早いですわ」
ベスはドラゴンやメガロケロスをブラシで綺麗にしていた騎士に、怪我人の場所を聞いた。ベスの予想通りに怪我人は集められているようで、騎士から場所を教えて貰えた。
ガーちゃんたちに、また落ち着いたらお礼を言いにくるとフレッドを通して言っておいた。俺たちは怪我人がどうなっているか確認しに行く。
「元気そうですわね」
「魔法使いだから自分で怪我を治せたみたいだね」
「そのようですわ」
ベスが騎士に怪我人がどうなっているか聞くと、一番怪我が酷いもので馬に本気で蹴り飛ばされて骨折だったようだ。後は打撲がほとんどだと言う。
「馬に蹴られてよく無事だったね」
「当たりどころが悪ければ死んでいましたわね」
ツヴィ王国の魔法使いであれば馬に蹴られても魔法格闘術で問題なさそうだが、リング王国の魔法使いは普通に死ぬ可能性がある。俺たちが驚いている事に気づいたのか、騎士が教えてくれたが、馬に蹴られた人は防具に当たったようで、運良く骨が何本か折れただけで済んだようだ。
「死者が出なくて良かったですわ」
「確かに」
俺は治療を担当しているであろう騎士に、魔力は余っているので怪我人がいたら魔法を使うので言って欲しいと伝えた。俺たちは、その場を離れてクリスさんの元に向かうことにする。
「クリス。ドラゴンからの要望を聞いてきましたわ」
「エリザベスお嬢様。ありがとうございます」
ベスがガーちゃんから聞いたサイクロプスは一体で良いという事をクリスさんに伝えると、クリスさんは一体で良いのかとやはり聞き返してきた。
「味が好みではないようですわ」
「そうですか…」
「一緒に行動しているドラゴンは雑食ですが、どちらかと言えば草食ですわ」
「なるほど」
クリスさんがガーちゃんたちの生態に納得したところで、俺たちもサイクロプスの解体を手伝うことにする。解体を手伝うのをクリスさんに最初は断られたが、俺たちが持っている剣の切れ味を見ると、早く終わらせられそうだと、俺たちも参加することになった。
最初は無言でやっていたが、慣れてくると喋って解体をやるのが可能になってくる。近くで同じような作業をしているフレッドと話しながら作業を進める。
「ダンジョンより剣が活躍してる気がする」
「そうですな」
「ところでフレッドってサイクロプスと戦ったの?」
「サイクロプスの前に立って、足止めはしましたが、盾を使う前にメガロケロスが来ましたな。サイクロプスはメガロケロスに遊ばれていましたぞ」
俺、フレッド、ベスで部位ごとに大きく切り分けて、魔法格闘術を使って運んでいく。運んだ部位を、ドリー、リオ、アンや騎士たちが普通に運べる大きさにまで切り分けていく。
「思ったより体の構造がわかりやすいですな」
「二足歩行だから人間と基本同じで、体の作りが分かりやすいね」
「そうですな。違うと言えば頭部くらいですかな?」
「頭部か。単眼なのは知ってたけど、大きな牙が生えてたんだな気づかなかったよ。上空だと髭か何かだと思ってた」
サイクロプスの頭部にはゾウの象牙と同じような牙が生えており、牙が邪魔そうなのだが、どうやって生活していたのだろうか。というか牙は使い道が無さそうだが、何のために大きな牙が生えているのだろうか。
フレッドと牙の使い道を意味もなく予想していると、クリスさんから荷馬車が到着したと伝えられた。
「これで一気に片付きますね」
「はい。今日中に終わらせてしまいたいですが、難しいかもしれません」
早朝に出たのでまだ昼過ぎだが、サイクロプスから出る素材の量を考えると、確かにクリスさんの言うとおり、今日中に終わらせるのは難しいかもしれない。今日はここで野宿をすることになりそうだ。
「とりあえず、解体だけして運び出せるようにまでしましょう」
「お願いします」
俺たちは解体をしている間にも、次から次に来る荷馬車にサイクロプスの肉や骨を乗せて運び出しているようだ。俺がやっている、部位毎に切り分ける解体が終わった頃には夕方で、今日中に運び出すのは間に合わないようだ。
「エド、今日はここで野営しますわ」
「やっぱりそうなったんだ」
「少し前に街に戻るのは諦めましたわ」
俺が解体を頑張っている間にベスが方針を決めていたようだ。サイクロプスを放置できないようだし、泊まることになるのは仕方ないだろう。俺たちが泊まる場所は準備されているとベスが言うので、俺は日没まで肉を切り分けることにする。
「エド、肉をある程度集めたので、魔法で凍らせて欲しいですわ」
「なるほど。やっておくよ」
「それが終わったら、体を洗うことをお勧めしますわ」
「確かに身体中が汚れてすごい事になってる」
肉を凍らせるために移動すると、ドリーとリオが先に作業をしており、一緒に肉を凍らせていく。それが終わったら体を洗うために作られた場所で、リオと共にお湯を作り出し体と服を洗っていく。体を洗うのと一緒に、解体に使った剣やナイフも綺麗に手入れする。
「さっぱりした」
「僕と違って、エドは一番汚れる作業でしたから大変そうでした」
「やってる時は気にならなかったんだけど、すごい状態だったみたいだね」
「ええ。僕はそこまで汚れていると思っていませんでしたが、体を洗うと綺麗になったので結構汚れていたようです」
そういえば同じように作業をしていたフレッドはどうしているだろうと思ったら、まだ汚れた姿のままだったので、体を洗うように進めてお湯を作り出しておくと、フレッドから感謝された。
「エド、食事ができたようですわ」
「助かるけど、もしかしてサイクロプス?」
「その通りですわ」
「食べてみたいような、どんな味か怖いような」
「食べてみれば分かりますわ」
サイクロプスを食べると、以前に荒野で倒したゾウに似た味がする。美味しいは美味しいのだが、サイクロプスはゾウに似た味なのか。サイクロプスの見た目を思い出すと食欲がなくなるので、無心で食べ終わる。食べ終わった後は用意されたテントで眠りにつく。
騎士たちが動き回る音で起きた。随分と早い時間だが騎士たちは活動を始めたようだ。起きてしまったので俺もテントから出て準備を始める。
「クリスさん、おはようございます」
「おはようございます。朝食は食べましたか?」
「まだです」
「用意されていますよ」
「またサイクロプスですか?」
「ええ。やはり苦手ですか? 騎士たちも喜んでは食べないようですね」
クリスさんの言い方からすると、俺以外もサイクロプスを食べるのは抵抗があるのか。二足歩行で巨大だが、人間に似ているからどうしても食べるのに抵抗がある。不味いわけではないので、朝食として食べるのだが、もし選べるならサイクロプスを食べないだろう。
「私のような移動が多い騎士はなんでも食べるので、気にならなくなるんですが、普通の騎士には辛いようですね」
「そうなんですね」
朝食を食べながらクリスさんが食べてきた、珍味と言っていいのかも分からない食べ物の味や評価を聞いた。クリスさんに話のお礼を言って別れた。クリスさんと別れた俺は、サイクロプスの肉を切り分ける作業をする。
「切り分けるのは終わったかな」
「終わったようですな」
「後は積み込みか」
「それは任せて良さそうですぞ」
起きてきたフレッドと一緒に肉を切り分ける作業をしていたが、全ての肉を切り分け終わったようだ。フレッドの言う通り、積み込み作業は任せて良さそうなので、俺とフレッドは体を洗ってくる事にする。
「さっぱりしましたな」
「脂なのかな、お湯で洗うとさっぱりしていいね」
「ですな」
時間ができたので、ベスがどうしているか探すと、男爵の親戚だと言う人ともう一人にベスが頭を下げられている。もしかしたら男爵かその関係者だろうか。邪魔しないように後で声をかける事にする。
「邪魔になりそうだ、ガーちゃんにお礼でもしようか」
「そうですな」
ガーちゃんにフレッドを通してお礼を言うと、逆に助かったと言われた。メスのドラゴンたちは機嫌が良くなったようで、ガーちゃんは大変喜んでいるようだ。ガーちゃんと話をしていると、ドリーがやってきた。
「にーちゃ」
「ドリー、どうした?」
「ドリーもガーちゃんみたいに、光ってた魔法打ちたいの」
「あー、いや。あれは人間にできるのかな?」
「ガーちゃんに聞いてみる」
ドリーはやる気になっており、ガーちゃんに説明をしている。ドリーもガーちゃんの細かい説明はわからないので、フレッドを通して話を聞くと、どうも人間でも光線が打てそうだと分かる。ただ一回の魔力量が多く、俺、ドリー、リオくらいしかダンジョンで魔法を使って戦うのは難しいようだ。
「あれって人間でもできるの?」
「みたいですな」
「ドリー、覚える気なの?」
「覚える!」
ドリーはすでにやる気になっているようだ。フレッドを通してガーちゃんから詳しい話を聞いて、理解しようとしているのが分かる。ドリーがやる気のようなので、俺もドリーに地球の知識を教えていく。
「ドリーできそう?」
「んー、難しそう」
「だよね。使ってみるなら方向は考えてね」
「分かった!」
そんな話をドリーとしていると、ガーちゃんが謝っているとフレッドが教えてくれた。何故謝っているのか不思議に思ってガーちゃんに聞くと、山を削ってしまった事を気にしていたようだ。ガーちゃんが光線を打つのを止めるようにと止めた時には、すでに山は削られていたようだ。
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