帰還の報告2
エレンさんがメアリー様に頭を下げて、エマ師匠の事をお願いしている。
「エレン、気にする必要はないよ。私がする事はそうないし、それに子供が一人増えるだけさ」
メアリー様の言い方からメアリー様に子供が多くいるように聞こえるが、レオン様しか知らないと思って、メアリー様に尋ねると、嫁いでいたり、前辺境伯と一緒に王都で仕事していると教えてくれた。
「私の子供の事は良いのさ。エドとドリーはメイオラニア辺境伯の養子になったのだね」
「はい。そうは言っても特に変わりはないですけど」
「二人は協会にこのまま住むつもりなのかい?」
「そのつもりですけど、まずいですかね?」
「いや、問題はないよ。必要なら広い部屋も用意できるし、アルバトロス内に屋敷を持っておくべきかもしれないが、今アルバトロスで空いている物件があるかが問題だね」
貧民街の住民を一斉に移動させた問題で、空き家が無くなってしまった。高級な住宅は関係が無いように思えるが、空き家を持っていた人たちがお金を手に入れて、元々お金を持っていた人の引越しも多くなった結果、アルバトロスの高級な住宅も空き家がほぼ無くなってしまった。
「協会に部屋があるのだから、屋敷を持つのはゆっくりでも良いだろね」
「はい。俺の兄に当たるピーターもアルバトロスに来ているので、相談しておきます」
「それが良いね」
俺は協会の部屋だけで十分なのだが、フィル師匠やピートがどう考えるか分からないので、後で聞いておいた方が良いだろう。フレッドも一度はピートと会っておいた方が良いかもしれない、時間がある時に紹介しよう。
「しかし、ダンジョンの話をしに行くのが一番重要な話だったはずが、随分と大変な話になったもんだね」
「はい。エマ師匠の事も大変でしたが、最後の最後で船に襲撃されたのは驚きました」
「襲撃した国に対する警告と報復は、レオンや国王陛下がどうするか考えるよ。エドたちは気にする必要はないさ」
それよりもダンジョンの事を優先して欲しいとメアリー様が言う。
「ギルドで新しい階層の地図を貰っておくんだよ」
「地図と言えば、前回は荒野の階層を抜けた後に報告をしたけど、砂漠の階層を抜けたことをギルドに報告してないな」
「拙者がエド殿たちが居ない間に報告しておきましたぞ。と言ってもギルドもイフリートを解体してますので、把握はしていましたがな」
レオン様にはイフリートを倒した後の事も説明をしたので、レオン様からギルドにも詳しい話が伝わっているのかもしれない。フレッドは地図に関しては説明を聞きながらが良いだろうと、地図を貰ってきてはいないと言う。フレッドにギルドに伝えてくれたお礼を言って、今度皆で地図を貰いに行く事にする。
「エド、詳しくメイオラニアでの事を教えてくれて助かったよ」
「いえ。メアリー様、俺からもエマ師匠の事をお願いします」
「もちろんだよ。私もエマの事は気になっているから安心をおし」
メアリー様はエマ師匠の歌はどうだったかと聞かれたので、メイオラニアでは聞けなかったが、船員が覚えてきたのでアルバトロスでも聞くことができると伝えると、後で聞いてみるとメアリー様は言う。メアリー様にエレンさんが一緒に聞きたいと言っている。
「ワシはエマが可哀想じゃから歌を聞くのは辞めとくんじゃ」
「アルバトロスで有名にならないと良いんだけどね」
「それに関しては無理じゃないかの?」
話が終わり雑談をしていると、エレンさんがもう一度家に戻って事情を説明してくると言って部屋を出て行った。
「丁度良いから終わりにするかね。ベスとリオは帰った方が良い時間だからね」
「確かに。メアリー様また来ます」
「楽しみにしてるよ」
ベスとリオを送り届けてから協会に戻ろうと思ったら、もう一泊して行くようにとレオン様の伝言をメイドさんから貰って、もう一泊する事になった。レオン様たちと夕食を食べながら今日メアリー様にも説明をした事を伝えた。
「エド、母には説明をするつもりではあったが、説明をしてくれたか。助かった。ところで、ダンジョンには行けそうだったか?」
「はい。アンが完全に魔法を覚えるのはもう少しだと言われました」
「そうか。前回ダンジョンに行く事を急かしてしまったが、久しぶりのダンジョンだから注意をするのだぞ」
「はい」
ジョーに新しい装備の説明をして貰う必要もあるし、装備が変わったら多少の慣らしが必要だろう。だが、サソリやコカトリスと戦えるか分からないので、進んで様子を見る事になるかもしれない。食事を終えたところで、俺とドリーは用意された部屋で休憩した後に眠る事にする。
起きるとレオン様の屋敷にもう一泊した事を思い出す。部屋を移動して朝食を食べながら今日どうするか話し合う。
「今日も帰還の挨拶に色々と回るべきだろけど、まずはエリザベス商会でセオさんに会った方が良いかな?」
「そうですわね。セオのところに行くならエドの屋敷も相談した方が良いかもしれませんわ」
「忘れてた」
一緒に朝食を食べていたピートに、アルバトロスにも屋敷が必要かと尋ねると、メイオラニア辺境伯名義でアルバトロスに屋敷があったはずだと言う。
「屋敷があると言ってもメイオラニア辺境伯としては、あまり活用はされていないとは思います。どちらかと言うと、メイオラニアからの船員の寄り合い所となっていて、人の出入りが多い場所であったかと」
「メイオラニアにあるメガロケロス辺境伯の屋敷も似たような状態だな。メイオラニアにある船舶の管理をしていたりする。リング王国としての大使館は別にあるので、同盟国とはいえ他国なのもあって、しっかりした屋敷は用意していない」
レオン様に同意したピートは、エマ師匠の事もあるのでアルバトロスに屋敷を持っておくのは賛成だという。レオン様も同意する。
レオン様が空いている屋敷を探しておくが、セオさんにも尋ねておいて欲しいと言うので、俺たちの今日の目的地が決まった。
「エド、セオドアと会うのならエマの事も話しておいて下さい。贈り物をするのにエリザベス商会の物を送ることが多そうです」
「トリス様、分かりました」
朝食を終えて、俺たちはエリザベス商会へと向かう。エリザベス商会の中に入ると、セオさんが使っている部屋へと向かう。
「セオさん」
「エドさん、お久しぶりですね」
「ええ。帰ってきました」
メイオラニアの話をすると長くなるので、先にレオン様、トリス様の伝言を伝えるとセオさんは了解する。説明をする前に伝言を伝えたので、セオさんは不思議そうにしているのでメイオラニアでの事を説明すると、驚いている。
「エドさんはメイオラニア辺境伯の養子になったのですか!」
「はい。特に変わりはないので以前と同じように接してもらって問題ありません」
「良いんですか? いや、しかし…」
「正式な場所であれば注意した方が良いとは思いますが、俺が表に出ることはそうそうないと思います。それに俺たちが今優先することはダンジョンの踏破ですから」
ベスと結婚するために養子になっただけだとセオさんに説明すると、セオさんはドリーとリオを見た後に頷いた。どうやらセオさんは事情を察したようだ。
「分かりました。しかし、本当に大変だったようですね」
「楽だったとは言えませんね」
セオさんに説明するのに、メイオラニアでの話をレオン様にするより省略したとはいえ、結構な時間になってしまった。昼食をセオさんから誘われて受ける事にした。馬車に乗って試作をしているという店に向かう。
「ラーメンはいくつか種類ができて、ハンバーガーに関してはアルバトロスは牧畜をして普通のウシを飼っているととはいえ、ダンジョンのウシ以外も高級品ですから、代わりにダンジョンで簡単に手に入る動物の肉を使って作っています」
「思いつきで作った物ですから仕方ないですね」
ハンバーガーと言うよりサンドイッチと言っておいた方が良かったかもしれない。作った時の切っ掛けがハンバーガーが由来だったから仕方ないか。それにハンバーガーは牛肉でないとダメだと言う気はないし、ハンバーガーが高級品というのも違和感があるので、セオさんに任せる事にする。
「それと炭酸水の井戸が見つかりましたよ」
「変わった井戸があったと言っていましたね。飲めそうだったんですか?」
「はい。飲めるようなので、すでに売り物として販売を始めました」
すでに売っているのか、セオさんは流石だ。馬車の中でセオさんから説明を聞いていると、店に着いたのでセオさんが新作の料理を順番に持ってきてくれた。どれも美味しく出来上がっていて感心する。
「どれも美味しいですね」
「それは良かったです。店の数も随分と増えまして、貧民街から住居を移動する人も増えてきています」
「移動するって住む家はあるんですか?」
「店で知り合い仲良くなった人から、事情があって手放したくなかった家を借りたり、買い取ったりしているようです」
転生者が暴れた事件が有ったのもあるが、貧民街はエリザベス商会を始めた時と違って、かなり規模が小さくなったとセオさんが言う。
「貧民街が完全に無くなるのは難しいですが、食事に困った人が大幅に減ったというのは炊き出しをしていても分かります。以前に比べて炊き出しに来る人数が減っていますし、見た目が以前よりも健康的です」
「それは良かった」
「短期間で貧民街が随分と良くなったので、貧民街や周辺の人からエリザベス商会は感謝されているようです」
セオさんはエリザベス商会だけではなく、アルバトロス全体の景気が良いので、貧民街以外でも治安がかなり良くなっていると教えてくれた。
食事を終えた後に、セオさんから服の事も報告を受ける。順調に売れているが、そろそろ上着が必要ない時期が近く、来年の予約を受けたり、夏用の服を作り始めたようだ。
「エドさんが考えた服も順番に作っています」
「ベス用に考えた服ですか」
「ええ。合わせてボタンなども作っています」
ベスの服はベスと相談して新しい物を作っており、その服を元に新作を作っている。ボタンについてはメイオラニアでボタンを作ることをセオさんに伝える。
「以前にエドさんとも話しましたが、他国に輸出すれば模倣されてるのは分かりきっていましたから問題ありません」
「綺麗な貝で作ったボタンなので高級品に使うと良いと思います」
「では仕入れられるようにしておきます」
セオさんにピートから貰った貝殻をボタンの試作をして貰うために渡しておく。それなりの量を貰ったので、全ては持って来れていないが、手元にあるのはセオさんに見せようと思って用意した物だ。
「これはメイオラニアで有名な真珠と同じ物ですか?」
「流石セオさんよく知っていますね。セオさんは商品として扱ったことがありますか?」
「私も取り扱ったことがないですね。そもそも緑色の真珠はリング王国に入ってくる事が滅多にないですね」
真珠は滅多に手に入らないが、貝殻なら手に入るとセオさんに伝える。加工すればアルバトロスでも喜んで買う人は多そうだとセオさんが言う。セオさんから真珠の作り方は知らないのかと尋ねられて、俺は実は知っていると返した。
「作れるのですか?」
「原理は知っています。貝の中に真珠の元になる核を入れるんですが、入れる核の材料は、貝の殻を削って球状にした物が良いです。作った核を貝が貝殻を作っている臓器である外套膜に入れ込みます。何年かすると核を覆うように真珠が育ちます」
「数年がかかりですか。それでも作ってみたいですね」
「言うのは簡単ですが実際に作るとなると難しいので、漁業に詳しい人がいた方がいいと思います」
成果が分かるまで年単位必要なので、ゆっくりやるようにセオさんに言う。実はピートから真珠貝を見せられた時には養殖の方法を思いついたが、あの時はフィル師匠の養子ではなかったので言わなかったが、今は養子だしどうするべきだろうか。セオさんやベスに相談すると、トリス様に相談してみれば良いと言われる。
「真珠が作れるか分かりませんし、最悪技術が完成してからでも遅くありませんわ。辺境伯同士の約束事にすれば問題ありませんの」
「真珠って高そうだけど、辺境伯同士の約束をしたところで、教えて良いのかな?」
「本来教えるのは良くないとは思いますが、エドとドリーの事もありますから問題ありませんわ。それに私も緑色の真珠が欲しいですわ」
そういえばベスも緑色の真珠が綺麗だと言っていたな。真珠は流石にすぐに作れる物ではないので、しばらく待って貰う事になりそうだ。セオさんに知っている限りの情報を伝えておく。
感想欄でも予想されていましたが、真珠の養殖やります。
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