不運転生
1話5000文字以上で投稿を予定しています。
エドワードと名付けられた俺はターブ村に次男として生まれた。生まれた時は普通の子供だったと思う。
だが俺は成長して行くと、徐々に生まれる前に神らしきものに会って、何らかの会話をした記憶と、地球に生きて居たという記憶を、少しずつ思い出してきた。だが神が転生をしくじったからなのか何なのか、一気に記憶を思い出さずエドワードに地球の知識が入ったような状態となり、地球で生きていた事は別人の知識を見てるように感じてしまっている。
成長して地球の記憶がそこそこ読み取れるようになり、地球と比べると村は随分と古臭い農村で、地球とは違う異世界だと思い始めた。
いつからか俺は両親から育児放棄に近い状態で、地球の記憶が戻ってきた頃には放置されまともにご飯が出てこなかった。なので地球の知識と村人の善意で食べれる物を教えて貰い、野山を駆け巡って食料を調達して生きている。
そんな事をしてどうにか生きていると、妹ができて女の子なら両親もちゃんと育てるかと思ったら、ある程度育ったところで自分と同じように放置されるようになって、俺は妹を連れて食料を集めるようになった。
俺は一四歳になったある日、家に戻ると一歳上の長男が俺に命令口調で一方的に話しかけてくる。
「結婚が決まったから家に戻ってくるな、出ていけ」
「は?いきなりなんだ?」
長男は俺の質問に答える事なく、家に入って扉を閉めてしまう。
「にーちゃ」
八歳になった妹のドロシーが不安そうに自分を見つめてくる、両親に育児放棄されたからか年齢の割に口調は少し幼い。俺は愛称のドリーと呼び、俺と同じようなシルバーブロンドの髪を撫で安心させる。
「ドリー大丈夫だ、皆のところに相談しに行こう」
「うん…」
両親に可愛がられた長男は、気に入らないことがあると暴力を振るってきたし、話がまともに続いたことがなく、いつかはこうなると思っていた。
俺だけなら追い出されても野晒しで良いが、せめて妹は屋根の下で寝れる状態にしたい。
村の知り合いを回ることにして、一番近い猟師のケネスおじさんに会いに行く。
「ケネスおじさん、居る?」
家をノックすると中から大柄な男が出てくる。
「どうした、エド」
「長男に家を追い出された。結婚するからって」
「そいつは不味いな…」
ケネスおじさんは少し考えた様子の後に、ケネスおじさんは家の中に声をかけ話をした。話が終わると俺に声をかけてくる。
「エド、薬師のオジジのところに行くぞ」
「分かった」
薬師の家に向かいながらケネスおじさんは、ターブ村の事情を話してくれる。
「何を考えているんだか。エドとドリーはターブ村の役に立っていたというのに追い出すとは」
「ケネスおじさんにそう言って貰えると嬉しい」
「エドは知らんだろうがターブ村には掟が有ってな、村を広げられないんだ」
「そうなの?」
「広げると魔獣どもが村を襲ってくるようになるらしい」
魔獣は地球では絶対居なかったもので、此処が地球ではないと思った理由だ。
俺が知っている村の周辺で強いのは、ゴブリンやオークだ。それ以外にも動物も魔獣化するので、雑食性のイノシシや肉食性のオオカミも強い。俺は普通の動物、弱い鳥の魔獣、小動物の魔獣しか狩れて居なかった。
「広げられないから、家を継ぐ長男だけを優遇してるの?」
「いや、エドの家は普通じゃない。普通は働き先を探したり、最低でも街までの駄賃は出すもんだ」
「そうなんだ」
「そもそもエドとドリーは村に残れたはずなんだ。狩猟の腕と薬師としての腕は十分だし、村の人数が多すぎたとしても、近隣の村に話を通せば欲しがられる人材だ」
ケネスおじさんは俺とドリーを褒めてくれるが、そこまでの自信はない。
「ケネスおじさんほど狩猟上手くできないし、薬師としてもオジジほど上手く薬を作れないよ」
「それはそうだろ、生きてる年数が違うのだから。だが狩猟は基礎はできている。後は経験と武装があれば村の周辺ならどうにかなる」
生きるために必死に行動していたことが、評価されていたことが嬉しくなる。
「それなら村に残れるの?」
「いや村長から外に出す許可を貰っているんだろう。ワシとオジジから村長に聞いてみるが、村長が判断したとなると村に置いておけん」
「そんな…」
「ワシも困るしオジジも困る。薬草やら魔物への対応やら頭が痛い問題だ」
そんな話をしていると薬師の家に辿り着き、猟師のケネスおじさんが呼びかけると、オジジが出てくる。
「こんな時間にどうした」
「エドとドリーが家を追い出されたらしい。オジジはなにか聞いてませんか」
ケネスおじさんが事情を説明してくれると、オジジは怒り出す。
「なんじゃと! 村長には残すようにと以前言っておいたぞ。何でそうなるんじゃ!」
「ワシも二人の両親があんなのだから、オジジと同じように残すか行き先を決めるように言っておいた。だが今日急に追い出されたと来た」
「村長に聞きに行かねばならんが、今日二人が泊まる場所が必要じゃな」
「ワシらが泊めると不味い。どこか当てはあるか?」
オジジとおじさんは考え込んでいると、オジジが思いついたようで。
「そうじゃ、協会ならどうじゃ」
「確かにあそこなら、すぐに手出しはできんな」
「エド、今日は協会に泊まらせて貰うんじゃ」
読み書きを教わったウォルター協会長は優しい人で、俺が行くことで面倒なことにならないか心配になる。
「オジジ、俺が行って問題ないの?」
「協会は村の外から来ておってターブ村の掟に従う必要はない。それに一人しかいない協会長を追い出せば困るのは村の方じゃ」
困るのは村の方といっても、村長なら追い出してしまうのではと心配になる。
「一人しかいない協会長だったら、俺たちと一緒に追い出されてしまうんじゃ」
「一人でも村に居るだけで違うのじゃ、エドは協会が何の協会か知っておるかの?」
オジジに改めて聞かれて、俺は協会が何か知らない事に気づく。
「そう言えば知らない、読み書き教わったり計算教わったけど何の協会なの?」
「魔法協会じゃ。正式名は魔法協会ターブ村支部、魔法使いしか入れないんじゃ」
俺は驚く、今まで魔法を使って居た人は居なかったし、そんな物があることを初めて知った。
「じゃ、協会長は魔法使いってこと?」
「そうじゃ。村で唯一の魔法使いで、村一番の戦力であり、魔法での治療を可能とする魔法使いなのじゃ」
「知らなかった」
驚いている俺に、オジジが説明してくれる。
「一日で使える魔法の量が決まっておるらしいし。普段は使わないようにしとると聞いた。魔法は子供にせがまれるから隠しておるらしいの」
「そうなんだ。でも見てみたいな」
「そうなるから、隠しておるのじゃろうな」
今の危機的状態を忘れそうになるくらい魔法があることに興奮してしまう。
そんな俺を猟師のおじさんが苦笑しながら止め、協会に行こうと言う。
「協会に向かって二人を預けたらワシとオジジは村長に話を聞きに行く」
「分かった」
皆で移動して協会に着くとオジジは協会長を呼び出した。
「ウォルター協会長いるか?」
「はい」
出てきたウォルター協会長にオジジは俺とドリーの事情を説明すると、ウォルター協会長はすごく驚きオジジに聞き返す。
「村から出て行く人が多いとは思って居ましたが、そんな風習聞いて居ませんよ!」
「教えなかったのは村長の判断だと思う。それに普通こんな追い出し方しないんじゃ」
「それなら村人が引き取れば助けられるのでは?」
協会長の質問に、オジジが続けて答えてくれる。
「村長が許可しないと追い出しはできんし、村長が許可したものを助けると助けた一家ごと追い出されるんじゃ」
「そこまでしますか…」
「二人の家がまともに子育てをしとらんのは村の皆が知っている。じゃから協会に一時的に数日匿うくらいなら、村長や村人も文句は言わんと思うんじゃ」
オジジの説明に、協会長は強気に追い出されても問題ないと言う。
「更に言えば、任期で来ている私は村を追い出されたところで困りはしませんからね」
「じゃろうな。困るのは村の方じゃ。ケネスと共に村長に許可を出したか聞きに行くから、その間でも匿っとくれ」
「分かりました」
協会長が俺とドリーを匿うことに同意したとこで、オジジとおじさんは村長の家に向かって行く。
「ウォルター協会長ありがとう」
「良いんです。気にしないでください」
「でも、村からどう対応されるか分からないから」
「村八分にされたら私は出て行くだけですよ。任期期間中に魔法使いが急に帰ってきて、協会が次の担当を派遣するかは分かりませんが」
ウォルター協会長の強気なところを見るに、村と協会は明らかに協会の方が立場が上なのだろう。ウォルター協会長は続けて話しかけてくる。
「それにエドとドリーには、私の次か更に次あたりで協会長をやって貰うつもりでしたし」
「俺が協会長って、魔法使いしかなれないんじゃ?」
「村長と両親には説明していたのですが、二人にはしていませんでしたね。良い機会でしょう。二人は魔法が使えます」
「「え!」」
俺と、俺の服を掴んで不安そうにしていたドリーも驚いて声を出す。
「魔法は初歩的な物ですら危険が付きまといます。使っても問題ないと思われるまで精神が成長しないと教えないのです」
「それで俺とドリーには教えなかったのですか」
「無意識に魔法を使ってしまわないように言わないのです。精神的に魔法を使えると判断するのが最初に両親と村長、その後に私が判断して魔法を教える予定だったのですが、今まで私に判断が回ってくることは無かったですね。普通は精神的に未熟で有っても一回か二回位は聞いてくる物なのですが」
協会長の説明で納得してしまう。俺とドリーの親は俺たちに興味がないのだ。
「両親は俺たちに興味がないから」
「私のミスです。申し訳ない。普通は魔法が使える子供を切り捨てる事はないので、慎重なだけだと思っていました」
協会長は申し訳なさそうに俺とドリーに謝ってくる。協会長の話を聞くに、才能はそうある物ではなく本来なら喜ばれる物だったのだろう。村を出ることが決定している俺とドリーは魔法を覚えられるのだろうか?
「村を出てしまったら魔法は覚えられないのですか?」
「協会の支部か本部がある場所なら覚えられます。私が手紙を書いておくので、才能を確認して貰えればエドとドリーなら確実に魔法を覚えられますよ」
「それなら、協会がある場所に行こうかな」
俺の考えに協会長も同意して、行き先を提案してくれる。
「そうですね。二人なら港町のアルバトロスが良いかと。ダンジョンもありますし」
「ダンジョンですか?」
「ええ。ダンジョンは魔獣がでてきたり、特殊な生態系をしている場所です。危険もありますが魔法使いなら稼ぎやすい場所ですよ」
地球の知識にあるゲームと同じような場所なら危険も多そうだが興味がある。ドリーが居るのでそこまで冒険はできないだろうが、行ってみたいと気持ちが揺れる。
「危なそうな場所だけど面白そう」
「そう思うならエドは向いてるかもしれません。ただ魔法を覚えてから行くことをお勧めします。ダンジョンによりますが、浅い場所ならターブ村とそう変わらない強さの魔獣しか出て来ません。しかも植物だったり魔獣が一定数は絶対有ったり居たりするので、生きて行く分には浅い場所を探索してればお金は稼げますね」
「なら、俺とドリーには向いてるかも」
「そうなのですか?」
協会長は俺とドリーが普段どういう生活をしていたか知らなかったようで、野山を駆け回って猟師のような事をして、食べられる物だったり、薬草を集めて居たことを話すと驚いた。
「そんな事をしていたのですか。村の協会には私しか居ませんから、仕事と研究で二人のことは二の次になって居ました。申し訳ありません」
「いえ、協会長には読み書きと計算を教わりましたし」
「それは仕事であって、望めば全ての村人に教えています。二人は私の魔法使いの弟子になる予定だったのですし、読み書きを教えた時に詳しく話を聞くべきでした…」
協会長は俺とドリーの境遇を知ったことで落ち込んでしまった。
「協会長気にしないで。協会長が悪いわけじゃない」
「しかし…」
「それなら魔法について教えてよ」
「残念ながら魔法については、最初の数ヶ月は付きっきりにならないと暴走する危険があります。なので今は教えられません」
俺の希望に協会長は危険だと言う。俺は諦めきれずにそんなに危険なのかと聞いてみる。
「そんなに危ないの?」
「覚えたては魔法が暴走して、暴走を止めないと死ぬ可能性があります。隣で魔法を止めれる人がいないと、死んでしまう可能性が高いです」
「それは危ない、実践じゃなくて座学とかの知識もダメなの?」
「流派で基礎が違うので、先に座学を教えるのは後々混乱することになります」
協会長の丁寧な説明に、今魔法を覚えるのは無理そうだと感じた。なら協会長の言った流派について聞いてみる。
「協会長はどういう流派に所属してるの?」
「私は属性流派で、魔法を分類して属性を作り出して発動しています」
ゲームぽいなと思う。火とか水とか弱点とか有るんだろうか。
「火とか水とかって事?」
「大雑把に言うとそうですね。細かく分類することで発動速度が上がったり威力が上がって行きます」
「魔法同士で火は水に弱いとかもあるの?」
「それはないです。魔法は魔法であって法則は別物です。ただ実際の火に、魔法の水を掛ければ消えるし、火を元にして火魔法を使えば火力が上がったりします」
「不思議だ」
「魔法ですから」
地球の知識から言うと不思議で仕方ない。だが協会長の言うように、魔法は魔法であって法則の外側にある物なのだろう。
協会長が所属している以外の流派が気になる。
「他に流派はどう言うのがあるの?」
「代表的なのは治癒流派、自然流派、錬金流派ですね」
「治癒は何となく分かるけど、他のはどういう事をしてるの」
「自然流派は、土や木などを使って大規模な都市設計や建設が得意な流派です。錬金流派は、物から物に変化させる流派で、代表的な物は魔道具と魔法薬を作り出しています」
俺は流派の説明を聞いているだけで面白いと感じる。
「どれも面白そうですね」
「そうですね。最初に教わった流派から変える人も居ますし、複数所属してる人も居ます。各流派は魔法が使えるのであれば、門外不出というわけではないのです」
「そうなんですか?」
「魔法を極めるための流派であって、全ての魔法は流派に所属しなくても使えます。代わりに効率的に運用できないので威力が落ちたり、発動速度が遅かったりするだけですね」
聞いた感じは、流派同士は割と緩い感じでまとまってそうだ。
「分かりました。魔法が使えるようになるのを楽しみにしておきます」
「私も紹介状を書いておきます」
「お願いします」
協会長と話をしていると、ケネスおじさんとオジジが戻って来た。オジジが怒っている。
「あの馬鹿村長は、薬師としての助言を完全に忘れておったわ!」
「ワシの猟師としての助言もな」
「しかも村長としての決定は覆せないとまで言いおった!」
俺は此処まで怒っているオジジを見るのは初めてで驚き固まっていると、協会長がなだめ始めた。
「薬師殿落ち着いてください、二人が驚いて固まっております」
「だがな、ウォルター協会長!」
オジジを協会長がなんとか落ち着かせた後に協会長は。
「しかし困りました。忘れて居た上に覆せないとは、ちなみに村長は協会のことについて何か言って居ましたか?」
「協会に数日置く許可は貰ったが、他はなんも言っとらんかったの」
ウォルター協会長は魔法の事まで忘れていると思わなかったのか、唖然とした後に。
「村長は二人が魔法を使える才能があることまで忘れているんですか…」
「「は?」」
ケネスおじさんとオジジは驚き固まる。
「二人の両親と村長には言ってあったんですが、二人には魔法の才能があるので、精神的に成長したところで魔法を教えて、将来協会を任せたいと」
「オジジ、そんな話を村長はしなかったよな?」
「ケネス、そんな話は聞かんかったの」
皆、時が止まったように止まった後に協会長が言った。
「このままターブ村に残ってもエドとドリーには不幸です。村長と両親が魔法の才能があることを思い出す前にターブ村を出た方が良いでしょう」
「ワシからすると二人にはターブ村に居て欲しいが、二人の幸せを考えるならそうだな」
「そうじゃの」
オジジとケネスおじさんが同意したところで、協会長が俺とドリーを何処に行けばいいか話し出す。
「思い出される前に村を出た方が良いので、目的地を決めるべきです」
「それについてだが、ワシが送って行くことを村長から許可を貰った」
「なら近場ではなく大きい協会がある場所に向かう方が良いでしょう」
猟師のケネスおじさんが、俺とドリーを送ってくれると言い出して驚く。
「ケネスおじさん、良いの? 村の事も有るのに」
「気にするな。今まで世話になっていたんだ、ワシが抜けても村はしばらく問題あるまい」
「助けて貰ってたのは俺の方なのに」
ケネスおじさんは、俺の頭を撫でてきて泣きそうになる。
協会長は俺を暫く見た後に、ケネスおじさんに話しかける。
「先ほどエドとドリーにも言いましたが、アルバトロスに行くのがいいと思います」
「港町のアルバトロスか。ダンジョンも有るからか」
「そうです。アルバトロスは地方の重要都市で、地方を統括する協会があります」
協会長の説明にケネスおじさんも納得した様子で。
「協会もあって、二人なら現状でもダンジョンの浅いところなら余裕で生きていけるだろうし、良いかもしれんな」
「少々遠いのが気になりますが」
「いやそれは川下りをすれば意外と近い。逆にアルバトロスからターブ村に戻るのは時間がかかるが、下手な場所に行くよりは良い考えだと思う」
「では準備ができたら二人を連れて向かうということで」
行き先が決まったことでケネスおじさんと、オジジは準備があると帰って行った。俺とドリーは協会に泊まることになった。
ブックマーク、評価、感想がありましたらお願いします。