姉の家に居候することになりましたが、姉がVtuber だと知らずにゲーム生配信で無双するという放送事故が起こったら、Vtuber になりました
初のVtuber小説です。好評であれば連載します。
僕、鳳城 麟はこの春から高校生になる。
とある理由で、僕の通う高校は県外になってしまい、実家から通うと馬鹿みたいに金がかかるため、2年前に就職し、高校の近くに住んでいる姉の家に居候することとなった。僕はもう1つ理由があると思うが。
で、現在姉が住んでいる町に来ているのだが、
「でかい…」
そこは5階以上の建物が多く並ぶ町だった。
僕が住んでいた地元にも5階建ての建物はあったが、ここは数も高さもその比ではない。
「姉さんもここに住んでいるのか…早く行こ」
僕は姉からきた連絡を頼りに急いで姉の住むマンションに向かった。
多分ここが姉の住んでいると思われるマンションなのだが、
「でかい…」
僕は、本日二度目の『でかい』を呟いた。
それもそのはず、そこは20階もありそうなマンションだった。呆然と僕はその建物を見上げていた。
本当に住んでいるのか?
一応、姉からの情報ではこのマンションのエレベーターで19階に上がり、エレベーターを出て4番目の部屋らしい。
僕はエレベーターに乗ろうとした…………だが、なぜかエレベーターは故障中で使えなかった。
「…………」
19階まで階段を登らないといけない状況に僕は絶句した。サッカー部の友人が部の練習で行われている神社の階段の登り降りを「地獄だぁ」と嘆いていた事が思いだされ、それを僕も体験する事となる。
やっと19階に上がれて、地獄から解放された。
そして、姉がいるだろう一室の前に来て、インターホンを押した。室内からも『ピンポーン』とインターホンの音が聞こえ、直後『ガッシャーン』と何かが倒れた音が聞こえた。
確実に姉さんが住んでいるな
僕は先程の音に驚きもせず、ただ待った。
30秒後、ドアが開き、ピンク髪の女性が出てきた。
この人が僕の5歳年上の姉、鳳城 薫である。
「麟、久しぶり〜〜!!」
「久しぶりだね、姉さん、お邪魔するね」
「ちょっと待って!後、ちょっとで片付くからーー」
僕は姉の言葉を無視して気にせず中に入る。
「ちょ、ちょっと〜〜」
姉の部屋は凄く汚かった。
化粧品や調味料は使って戻さずテーブルにそのまま、脱いだ服も床にそのまま、キッチンの流し台もカップ麺の残骸に埋め尽くされてる。しかも、パンの空き袋等もゴミ箱に捨ててない。
これが、僕が来た理由2つ目、姉は家事全般が苦手だ。そんな姉を心配した母が僕を姉の家に寄越したのである。
しかし、ここまで酷いとは。
僕は姉の顔を覗き込んだが、姉はサッと顔を背けた。
「…………」
「…………」
「さて、頑張りましょうか」
「………はい」
4月2日、午後1時、春の大掃除が始まった。
大掃除の最中僕は、ふと思い出し姉に聞いた。
「姉さん?デザイナーの仕事大丈夫?」
「え?仕事?」
「うん、姉さん普通に頭弱いし、色々不器用だし、ポンコツだし、デザイナー大丈夫かなぁって」
「ちょっと辛辣すぎない?」
「姉さんって得意なものが本当にないんじゃないかと思うくらい、いろいろダメだったよね、料理とかなぜか火柱立って僕がなんとか鎮火したし」
「うっ…」
あの時は、火事になるかと思って本当に焦った。ただ卵焼き作るだけなのにいつのまにか火柱立ってたから。
僕はそんな記憶を思い返しながら、リビングの奥の部屋に入ろうとした。
「そこはダメ!!!」
「えっ?」
今までの姉からは考えられないほどの大きな声で止められ、僕は思わず振り返ってしまった。
「姉…さん?」
「あ…いや…そこは私の仕事場で重要な書類とか、機材とかがあるから入らないでほしいなぁと思って…」
「なんだそういうことか、じゃあ姉さんはここやってね、僕はキッチンとかリビングをやるから何かあったら呼んで、あと、捨てて良いものはリビングに出しといて」
「わかった」
そして、午後9時、春の大掃除が終わった。
「はあ〜、やっと終わった〜」
「麟!ありがとう!」
「なんで2年もこの状態で生活できたか謎だけど、それよりもここってめっちゃ広かったんだな」
「そうね、私も最初の頃以来だよ」
来た時にはゴミなどが散らかっていたせいでわかりづらかったが意外と広い。
アパート等は大体6畳が普通だと思うけど、ここは8畳ぐらいある。
「あっ!もうそろそろ仕事の時間だから部屋戻るね!あと、集中したいからドア開けないでね!麟の部屋は空いてるそこ使っていいから!」
「わかった、夕飯作ってドアの前に置くから、食べ終わったらドアの前に置いといて」
「オ〜ケ〜」
姉は部屋に戻ると同時に僕は夕飯の支度を始めた。
冷蔵庫の中に残ってた僅かな材料と、じゃがいもがあったので、肉じゃがを作った。
作った肉じゃがを姉の部屋の前に置き、僕はテレビを見ながら一人で食べた。
11時半頃、そろそろ姉も食べ終わってる頃だと思い、姉の部屋の前を見た。
しかし、肉じゃがはそのままで、手を付けた様子もなく、僕はちょっと心配になってきた。
姉さんにドアを開けないでと言われたけど、様子を見るだけで邪魔しないからと、僕はドアノブを回して中に入った。
部屋の中は、真っ暗だが、パソコンなのか僅かな光があり、その前で誰かがうつ伏せになっているのが見えた。
あまりにも暗いので、あかりを付ける。
部屋が明るくなり、部屋の光景を見た僕はどの部屋よりも汚ねえと思った。
床はゴミや道具で散らばりまくり、いろいろなものが積まれてバランスがとれて塔ができてる。
叱ろうかな?と思ったけど肝心の本人は机にうつ伏せで眠っていた。
しかし、さらに衝撃なものを目にした。なんとインクで塗り合う人気ゲーム『スピラトゥーン』のゲーム中なのだ。しかも、対戦中の様だ。
4対4のゲームは1人居ないだけで、相当なアドバンテージを相手に与えることになる。
僕は急いで姉を起こす。
「姉さん起きて、ゲーム中」
「もうたべられないよ〜」
やばい、完全に寝てしまっている。
姉のチームが青で相手がオレンジだが、ざっと見た感じオレンジが多い。しかも、姉が寝たせいで人数差もある。
仕方ない、僕がやろう。
イスは姉に取られてる。そのため、立ってやるしかない。
僕は姉からゲーム用ヘッドホンを取って装着し、コントローラーを持ちキャラを操作する。
「雪菜!雪菜!」
女の声が聞こえる。おそらく、ボイスチャットだろう。元気そうな声をしている。
雪菜とは、おそらく姉のゲーム中の名前だろう。
「すみません、姉が寝ちゃってて…」
「えっ?誰?」
「雪菜の弟です」
「あっそうなの?どうしようかなぁ…」
ボイスチャットから聞こえる声は悩んでいた。
すると、
「よし、わかった、こんなことはしたくないけど、雪菜の代わりにやってくれない?」
「おいおい!大丈夫なのかこんなことをして…」
男の人の声が聞こえた。かなりのイケボだ。
「まあ、今回ばかりはしょうがないということで」
「でも、後で怒られませんかにゃ?」
今度はかなり可愛い女の子の声が聞こえてきた。「にゃ」と聞こえたけど、こういう人もいるか。
何か心配しているけど何に心配しているんだろう?
「あの僕迷惑ですか?」
「大丈夫だから、参加して問題ないよ」
「わかりました、それよりあなたは?連携とるために名前で呼び合わないと…」
「私はアリサ!気軽にアリサでいいよ」
「はあ…もういいや、俺はリュウト」
「私はニャーミュですにゃ」
「わかりました、アリサさん、リュウトさん、ニャーミュさん」
「自己紹介は終わったね!ちなみに、雪菜の弟はこのゲームやったことある?」
「いえ、初心者です、ちょっとかじった程度です」
「えっ!大丈夫?操作方法わかる?」
「はい、さっき練習して大体わかりました」
自己紹介している間にある程度の操作方法は把握した。
「OK!じゃあ雪菜の弟はスナイパーで、初心者には難しいから、戦闘は出来るだけしないで敵に塗られたのを塗り返してほしい」
「わかりました」
僕はアリサさんに言われた通り、戦闘せず、ただ塗りまくった。
だが、僕が塗りだけしかしないため、戦闘では3対4で人数不利に変わりはない。
「うわっ!」
「まじか!」
「ごめんなさい、やられましたにゃ」
僕以外やられてしまい、1対4で僕が必死に青に塗ったところが一気にオレンジに塗り変えられる。この状況であと1分
このままじゃ、僕のせいで負ける。
折角やらせてもらえるのだ。迷惑をかけるわけにいかない。
だから……
僕は自分のキャラを操作し、塗るのをやめて3人のやられた場所に向かう。
「すみません、みなさん、ちょっと戦います!」
「待って弟くん!君初心者でしょ!だから、私たちが復帰するまでーー」
僕はすぐに敵を見つけ、エイムを合わせ撃つ。すると、僕のインクに当たった敵は青インクを周りにぶちまけながら死んだ。
「「「はっ?」」」
キルを確認したら、次の敵を見つけ、またエイムを合わせて撃つ。当たったて死んだため、これで2キル。
すぐ、次の敵に撃ったが、なんと同じところに2人いたため2人同時キル。
これで4人キルしたため、オールキル。
「ふぅ〜、こんなもんかな」
「「「いやいやいや」」」
「あれ、どうしました?」
「どうしましたじゃないよ!めっちゃ上手いじゃん、初心者は嘘なの?」
「本当ですよ」
「いや、スナイパーってめっちゃ難しいブキだぞ、狙っても当たらないし」
「ただ、敵を真ん中に合わせて撃つだけですから意外と簡単でした」
「まず、真ん中に合わせるだけでも難しいからにゃ!」
「ていうかみなさん早く塗りましょう、早くしないと復帰してきますよ」
「「「はっ!」」」
みなさんはすぐに塗りに戻った。ちなみに僕は塗りながら周りを見て、みなさんに今の現状を知らせる。
「アリサさん、頭上に敵来てます」
「えっ!マジ?」
「リュウトさん、左に1人来そうですからそこで潜伏してて下さい」
「お…おう……」
「ニャーミュさん、右には敵いないのでそのまま進んでいいですよ」
「わかったにゃ」
「ぎゃあああ!!死ぬうううう!!」
アリサさんの悲鳴が聞こえ、アリサさんのところを見ると敵が3人いる。
「カバー入ります」
僕はすぐに3人倒す。
「え…え…ええっ!」
「大丈夫ですか?」
「あ…ありがとう………」
そこからというもの、僕たちの勢いは止まらなかった。
僕が状況を知らせ、3人が敵を倒す。やられることもあったが、そこは僕がカバーする。
これの繰り返しで、立場は逆転し、いよいよ相手は初期位置から動けなくなってしまい、そのまま終了。
結果は青が92%、オレンジが8%で圧勝。
試合後の結果は、10キル8デス。
ちなみに、僕は一度もデスをしていない。ということは…
「雪菜、対戦中に寝たのか」
「いや〜、突然止まってしまったからなんだろうと思ったけど、寝てるとは思わなかったにゃ」
「申し訳ございません」
これが現実で会っていたら、土下座していただろう。
そういう勢いで必死に謝罪をした。
「いやいいよ、弟くん強かったし」
「なあ、本当に初心者?」
「はい、初心者ですが」
「まじか、これが本当だったら俺の千時間なんだったんだ」
リュウトさんは落ち込んでいるようだ。
「ていうか、この後どうするにゃ?雪菜は寝たままだし、このままじゃ3人で戦うことににゃるんだが…」
「そのまま弟くんにやらせておけばいいんじゃない?弟くん強いし」
「はあ、アリサはまたそんなこと言って、だから、いつも上に怒られてるだろ」
「別にいいんじゃない?面白ければ別に構わないし…大丈夫でしょ?」
「しゃーないな」
「私は別にいいにゃ」
「ということで、しばらくお願いね、弟くん」
「わかりました」
それからしばらくやっていたんだが、初めて組んだとは思えないほどのチームワークで勝利を掴みまくり、全勝だった。
夜3時をまわった頃、
「あ〜楽しかった!もうちょっとやりたいけど私そろそろ終わるね」
「俺も終わるわ」
「私もにゃ」
「あ、そうそう、弟くん明日すごいことになってると思うから詳しいことは君のお姉さんに聞いてね」
「?………わかりました」
みんなのボイスチャットが切れていく。
僕はアリサさんの言葉に疑問を持ちながら、姉を見る。
姉は気持ちよさそうに寝ていた。
本当だったら叩き起こして掃除させたいけど、姉さんも姉さんで大変な一日だったから今日はいいか。
僕は自分の部屋に向かい寝る準備し、毛布にくるまると掃除の疲れが溜まっていたからなのか、すぐに意識が夢の中へ落ちていった。
「ちょっと麟!!来て!!!」
「う〜ん…何姉さん?」
突然、姉に起こされ時計を見る。
午後1時。
寝たのが夜の3時だからかなり寝たな。
僕は眠気がまだ覚めていない目を擦りながら、リビングに向かったがリビングに姉は居なかったため、リビングの奥にある姉の部屋に向かう。
案の定、姉は自分の部屋に居た。
姉はパソコンの前でじっと画面を見ている。
「姉さん何?」
「これ見て!」
それは、とある動画の切り抜き、青みがかった銀髪で純白のドレスを身に纏った女の人の切り抜きだった。
名前は銀鏡 雪菜と言って、どうやら、Vtuber らしい。
Vtuber の存在は知っていたけど、見ていないからよくわからないがどうやら、顔出しせずに描かれた架空の人を動かし、実況みたいなことをするYouTuberらしい。
切り抜きの内容は4つの大きなVtuber の会社の代表がスピラトゥーンでコラボしてると言うもの。
よくありそうなコラボである。
「まさか、こんなことのために僕をーー」
「いいから黙って見てて!」
小さい頃はめっちゃ僕に頭が上がらなかった姉が真剣な表情を見せていたため、僕は何も言えなくなってしまう。
雪菜はゲームが下手だった。めちゃくちゃチームの足を引っ張っていた。
スナイパーの使い方がめちゃくちゃで敵にわざと当てにいっていないと思う程、操作が下手だった。プレッシャーも与えにいってない。
「ぎゃあああああああ!!!!」
「大丈夫、雪菜?」
えっ…この声…アリサさん?
「雪菜!お前、大人しく塗ってろ!」
リュウトさんの声
「やばいにゃ、すぐ塗り返すにゃ!」
ニャーミュさんの声
しかも、雪奈が操作しているキャラは昨日操作したキャラそのものだった。
「姉さん……まさか……」
「うん、私が銀鏡 雪菜」
「えっ!」
「驚くのはまだ早いわ」
姉の言ったことはすぐわかった。
切り抜きは面白いところを切り抜くと聞く。
となると……
「姉さん起きて、ゲーム中」
その場面がきた。雪菜もとい姉が対戦中に寝て代わりに僕がやることになり無双するという放送事故とも受け取れる場面。
その時のコメントが流れていたけど、僕のスーパープレイに賞賛するコメントばっかだった。
「あ〜もう!」
「ごめんなさい、姉さん」
「なんでトレンド入りしてるの!?数時間で100万回再生されて…私の切り抜きなんて100個以上あるのに100万回再生されたのなんて一個もないのよ!」
「姉さん、多分怒るとこ違う」
「あっそういえば、一緒に来てもらうわよ!」
「どこに?」
「私の会社だよ、Vtuber の会社!社長があんたを指名してるの!」
「それ先に言ってくれない」
僕はまさかあんなことになるとは思わなかった。