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カレンの日記  作者: ROM太郎
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4月7日、木曜日。初登校。

 スマホで漢字変換を使って、漢字を調べながら書いているこの日記。初投稿、初登校、意味が全然違う。初投稿は家に居なければできないが、初登校は家に居てはできない。学校にもよるけれど。これは大きな違いだ。そういう意味では、日記はどこでも書ける。日記さえあれば。この日記は机の引き出しに鍵をかけて保管しているので家でしか書けない。さらに、原稿ではないけれど、何かを書くという意味で使うとすれば、今、私がやっている行為は初投稿でもあるのかも。小さな問題は〝初〟じゃないというところくらいだ。よく考えたら〝投〟げてもいないから、重大な問題かな。そうかもしれない。丸めて投げてやろうか。


 上記の文章に全く意味がないことに唖然としている。日記ってこうでいいのかな。まぁ私の好きにすればいいだろう。誰かに見せるものでもないし。他人の日記を勝手にのぞくようなモラルの欠片も無い知り合いは、私にはいない。よって、変にルールを作って、それを守る必要もないのだ。

 それでも、できれば意味のあることを書きたい。私が学校というものを忘れたころにこの日記を読み返しているとすれば、徒歩15分、個人経営のコンビニ『タイマー』、西校舎三階、階段を登って、左手、手前から三つ目の教室、一番左の一番後ろの席。どうだ!懐かしいか!

 奇妙なことに、出席番号はアルファベットが一番後ろらしい。普通は一番前だろうに。こういうところが遅れているのだ。席は所謂当たり席だから、役得ではあるけど。ちなみに、割り当てられた番号は40。中学校は30人で一クラスだったので、この教室にはどことなく窮屈な感じがある。監獄の中に入れられたような気分になった。昨日と同じように感じる視線が、受刑者たちが新入りに向ける視線みたいで、私はリタ=ヘイワースになった気分だった。背中の辺りが妙に涼しく寂しく、すきま風が吹いているように感じられた。それにしては妙に苦しいけれど。

 客観的に見れば、私だってただの新入生だ。言うなれば少女A。きっともっと気楽でいいのだろう。しかし、なんだか妙にプレッシャーを感じてしまう。ハーフなのに綺麗じゃないね、なんて囁かれているような気になってくる……少し痩せようかな。一クラス40人が一学年10クラス。1から3学年までで合計1200人いる生徒、毎日一人とすれ違っても、三年間で全員とは会えない。つまり、毎日こんな感じの視線に耐えなければいけないのだ。肌の色も顔立ちも変えられないけど、せめて髪が、みんなみたいに艶のある黒だったら、ちょっとは目立たなかったかもしれない。黒に塗るのは禁止なんだろうか。先生方はほとんど全員やっているようだし、別にいいと思うけれど、きっとダメなんだろうな。

 そういえば、入学式で一つ驚きがあった。ハーフらしい女の子が私以外に一人いた。彼女はアフリカ系で、髪は日本的な艶のある黒髪だったが、肌の色で私より目立っているようだった。私の心は、そんな彼女を見て助けられた部分もあったかもしれない。気丈にふるまっていたが、同じ立場の私には分かった。彼女も視線に怯えている。恐らく、私と同じような境遇だろう。話せることもある。そして、こういう場合、学校側が気を遣って同じクラスにするんだろうと思ったが、どうやら違うクラスらしい。彼女は私と逆で、名字が漢字で名前がアルファベット。ハンナと呼ばれていた。きっと席も端っこじゃない。共通の話題があって、いかにも友達になれそうな彼女と話すのを楽しみにしていたのだが、学校側は何を考えているんだろう。10クラスもあるし、離れたクラスになれば階が違うということもありうる。この先、顔見知りぐらいにはなれるかもしれないが、頻繁には会えないし、居ても居なくてもそんなに変わらない。というほどでもないけれど、とりあえず話せる友達を作ることが、私には急務だった。いつまでも視線に怯えていたくはないし、せめて気をそらせる何かが欲しい。それが友達との会話なら、なお良い。


 校内探検のようなことをした私たちは、すぐに帰りの時間になった。放課後のクラスでの私は、女の子にはそれなりに話しかけられた。それが今日だけであることは、その時でも分かった。ミーハーとか、流行り廃りのようなものだろう。髪のことや、どこの国とのハーフなのかとか、英語はできるのか。なんていう話をした。というか、引き出された。試しにお母さん譲りのアイリッシュ英語を披露したら、みんな驚いてくれた。生まれた時からネイティブの家庭教師がいるようなものだから、話せて当然ではあるのだが、持て囃されるとなんだか嬉しい。

 ずっとこれが続けば、私はクラスの人気者でいられるだろう。しかし、明日にはネタも尽きる。やっぱり、ダイエットしてみようかな。久しぶりに、洗面所で体重をはかってみたら平均体重を少し超えていて、頭の中の私は膝から崩れ落ちた。実際にはドライヤーに髪が絡まったという程度だった。一応書いておこうかな。162cm、60.3kg。これで、この日記を誰にも見せることができなくなった。しかし、これがダイエットのモチベーションになればいい。日々の成長を綴るのも、日記の立派な役目だろう。

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